Fate/Kindergarten   作:皇緋那

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残香──リード・アス・ロード・オブ・ライト

 一羽の鳥に誘導され、某所のホテルにたどり着いた小夜。

 そこは外国人向けのホテルで、滅多に来ないが観光客はたいていここに宿泊する。訪れたことこそなかったが、ご飯が美味しいという評判は耳にしたことがある場所だった。

 つまり、特に怪しい雰囲気はない。

 

 ホテルのエントランスからは鳥ではなく、あの少年騎士──セイバーがその役割を受け継いだ。彼は丁寧にエスコートしてくれて、少し緊張はほぐれるが、まだ怯えながら扉をくぐる。

 いったいどんな怪しい人間と出会すことになるのかと思っていると、ぴょこんとピンク髪の小さい女の子が姿を現す。

 

 他のサーヴァントたちと同年代だろうか。その幼げな顔立ちには表情がなく、少しだけ近寄り難い印象を受ける。

 

「はじめまして、そしてようこそ私の城へ。私がセイバーのマスターことベルチェ・プラドラムだ」

 

「え、えと、雪村小夜です。アヴェンジャーのマスター? です……」

 

「うん、とりあえずそのへんに座って。鳥だけに」

 

 小夜はベルチェの言う通り、縮こまるように床に座った。見た目は幼い子供でも、彼女も炎とか雷が出るかもしれない。そう思うと怖くて逆らえなかった。

 するとセイバーが気を使って座布団を出してくれて、慌てて座り直すことになる。

 

「こほん。では、そこの布団をご覧ください」

 

「えっ……あ、アヴェンジャーさん!」

 

 ぼろぼろのアヴェンジャーがソファに寝かされている。満身創痍で炎が制御できていないのか、ところどころソファまで焦げていたが、呼吸は規則正しい。

 やがて彼女はぱちりと目を覚ました。無事だったみたいだ。

 

「あら、ここは? お父様は?」

 

「おはよう、お嬢さん。アーチャーとキャスターには逃げられてしまった」

 

 ベルチェの言葉を聞き、いまだ燃えていたアヴェンジャーの瞳の中の復讐の炎が収まっていく。キャスターと相対した時の苛烈な彼女ではなく、いつもの少女に戻るサインだ。

 小夜は胸を撫で下ろした。

 

「あの……それで、ベルチェさんの頼みたい事って?」

 

「ん。実のところ、私は今アーチャーによって呪われている。今も吐きそうで仕方がない」

 

 相変わらず無表情のままではあるが、顔色が悪く、はあはあと苦しそうな呼吸をしている。相当な疲労状態だ。

 それがアーチャーによるものなら、ベルチェにとって差し迫っている問題であることに間違いは無さそうだ。

 

「私はアーチャーを倒したいが、生憎と彼女とキャスターが手を組んでいる。二対一では勿論分が悪い。

 そこで、あなた達に協力を頼みたい。そちらもキャスターを狙ううえで、アーチャーが障害になるはずだ」

 

 アヴェンジャーにとって、キャスターは殺さなくてはならない相手だと言っていた。アーチャーをセイバーが引き受け、アヴェンジャーはキャスターと戦う。利害は一致している。

 それに、小夜には断る理由などなかった。

 セイバーとベルチェは、どう考えても今までぼんやりと生きてきた小夜とは違う世界の住人だ。そういった相手と一緒なら、アヴェンジャーも今より安全だろう。

 

 数秒間の思考ののち、小夜は頷いた。

 

「……わかりました。一緒に戦わせてください」

 

「嬉しい返事をありがとう。えーと、小夜でいい?」

 

「は、はい」

 

「では……小夜。ともにベストを尽くそう」

 

 小夜の名を噛み締めるように呟いたベルチェが見せたのは、それまでの真顔ではなく、嬉しそうな笑顔だった。そうやって笑うと、やっぱり年相応の幼い女の子だ。

 

「これで晴れて同盟相手。早速対アーチャー&キャスター用の作戦を……といいたいところだけど、もう夜も遅い。セイバー、送ってあげてくれる?」

 

「あぁ。レディの警護は騎士の務めだからな」

 

 時計を見ると、もう日付が変わっている。外は真っ暗で、女性が出歩くような時間ではない。

 アヴェンジャーの炎があれば、暗い道も歩けるだろうが、彼女は傷ついている。

 かといって、帰らないわけにもいかない。教会から無断で失踪したら、先輩からなんて言われるかわからないからだ。

 

「お願い……します」

 

「ふふ、騎士さんが一緒にいてくれるのね。これなら幽霊も怖くないわね」

 

 何から何までセイバーとベルチェには世話になりっぱなしだ。いつか相応のお返しをしないと。

 小夜は来た時の怯えではなく、使命感を胸に、来た道を戻っていく。

 

 ◇

 

 バーサーカーとの決裂の後、アーチャーは己のマスターのいる高層ビルへと戻っていた。

 報告するまでもなく、彼はアーチャーたちが撤退するしか無かったことを知っている。おかげで居心地が悪く、そわそわしていた。

 

 一方、相変わらず少女の写真ばかりを眺めていたソラナンは、最後のページまでたどり着くとそれを机の上に放り、アーチャーのことをまじまじと見つめはじめる。

 

「うむ……やはり、あまり幼いと興奮しないな。アーチャー、君の顔は好みなんだが……もっと成長した姿で現界できなかったのかい?」

 

「……私、これでも三十代の体なんだけどな」

 

「おっとそうだったか、こいつはデリカシーのない質問をしてしまったな。すまないね」

 

 何を言われるかと思いきや、女の好みだった。アーチャーは元々そういうふうに設計されたのだから、仕方がないことだ。別に、大人の姿がなかったとしても、なにも気にならない。そう、なにも。

 

 そんなことよりも、聖杯戦争について話すべきことはたくさんあるだろう。アーチャーは話題を変えようと、次の命令を求めた。

 

「マスター。私、次はなにをすればいいかな」

 

「そうだな……バーサーカーはもういい。放っておけ。あれは強力だが、瀬古のマスターはそこまで魔力の濃い人間ではない。いずれ自滅するだろうよ」

 

 そう言って捨て置いたセイバーは、ドロレスによればあの後アヴェンジャーを助け出したらしい。噛みつかれる可能性はまだあるはず。

 それを口に出そうとしたアーチャーを、ソラナンが制止した。

 

「あぁ、わかっているとも。あの貧乳鎖娘が粘るとは儂も予想外だった。

 だが儂らにはそれよりも優先すべき事項がある。この聖杯戦争を運営するためにな」

 

 ソラナンはドロレスたちとともに聖杯戦争を主催する側だ。聖杯そのものは手中にあり、あとは起動するための舞台を整えるのみだ。

 その整える上で必要なことなんかは、サーヴァントでしかないアーチャーにはよくわからない。いや、昔からそうだ。できることは目の前の相手をずたずたにすることくらいだった。

 それは今も変わらない。やるべきことは、立ちはだかるサーヴァントを打ちのめすことなのだから。

 

「さて。そろそろ儂も動くとするか」

 

 ソラナンは椅子から立ち上がり、机の下に設置された冷蔵庫から酒を取り出すと、アーチャーに投げ渡した。アーチャーは栓を手刀で切り落とし、中身はひといきで飲み干す。

 

「……ぷはぁ。やっぱり、アルコールは私を裏切らない」

 

 ただの酒ではほとんど酔えない体だが、美味しいものは美味しい。

 エレベーターの中へ去っていくソラナンの後ろ姿を眺めながら、アーチャーは考えることをやめ、二本目の酒瓶を引っ張り出すのだった。

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