Fate/Kindergarten   作:皇緋那

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休日──アイディール・ロリータ・ピクニック

「えぇ……これならいいでしょう。これにてようやく我々の計画を作動させられる」

 

「ってことは?」

 

「外出を許可します。ただし、他のサーヴァントに遭遇した場合は逃亡すること」

 

「終わっ……たぁー!」

 

 ドロレスたちの魔術工房に響き渡る声。それはキャスターの歓喜の叫びである。

 彼女はある魔術式を完成させるまで外出禁止を言いつけられていたのだが、何度も戦闘に駆り出され、作業が進んでいなかった。

 その作業がやっと終わったのだ。召喚されてから散歩すらさせてもらえなかったキャスターにとって、この機会はまたとないチャンスだった。

 

 術式である詩文を書き記した紙はドロレスに預け、キャスターはスキップしながら己の書斎へ駆け込んだ。

 書き物机に用はない。今用があるのは秘密のクローゼットである。通販でこっそり取り寄せておいたかわいい服を詰め込んだ代物だ。

 

 勢いよくその扉を開き、新品の匂いに包まれつつ、キャスターはいろんな衣装を引っ張り出す。

 カメラのレンズは新調し、姿見の準備もオーケーだ。いつもの服装を脱ぎ捨てて、小さなファッションショーの開幕である。

 

 まず選んだのは情熱的な赤と黒のドレスだ。少し大人っぽすぎるが、それも背伸びしている感じがして愛らしい。写真を撮っておく。

 

 続けてキャスターが着替えるのはセーラー服である。うん、可愛い。まさに王道。細いおみ足とニーソックスのコントラストが完璧だ。これも欠かさず自撮りしないと。

 

 その後も、メイド服、着ぐるみパジャマ、スクール水着などなど、取っかえ引っ変えで袖を通し、ひたすらパシャリとレンズに収め、一通り試し終わるとお出かけ衣装の決断を迫られた。

 

「さすがは金髪美少女! なんでも似合ってしまいます!

 しかし、そうなると何を着て街に繰り出すか決まりませんね。

 うーん、ここはやはりトレンドを取り入れメスガキテイストに……いやいやそれは王道の幼女ではありません。やはり清楚に花柄ワンピを……ううむ……」

 

 その問題は悩み始めればキリがなく、キャスター的には最高峰の悩みどころだったが、早く決めなければせっかくの外出許可がもったいない。

 最終的にはフリル多めのワンピースという結論に達し、数多くのコスプレ衣装たちはまたクローゼットにしまい、あとは小さな肩掛け鞄といいカメラを持って出発だ。

 

「いざ! 名付けて『幼女が幼女を撮っても合法大作戦』開始ですよっ!」

 

 霜ヶ崎は不思議と子供が多い。最近はバーサーカーによる殺戮が目立ち犠牲者も多いと感じるが、生きているのはもっといる。素晴らしい。

 

 キャスターの目的は二つ。それは『男にちやほやされること』と『可愛い女の子を写真に収めまくること』だ。赴くのは人通りの多い場所と決まっている。

 

 軽やかな足取りで拠点を出発し、鼻歌まじりに住宅地を抜け、繁華街を目指した。井戸端会議中のマダムや、通りすがりの少年の視線が心地良い。キャスターもこれみよがしに髪をかきあげてみせたりして、常に得意げであった。

 

 やがて人気の通りにやってきて、多種多様なお店を見る。お金はドロレスたちから貰ったお小遣いがあるのだ。

 せっかくだし、ドロレスやアーチャーにも衣装を見繕っていってやろう。

 

「……ん? あれは」

 

 己のマスターと同盟相手のサーヴァントに似合う衣装を考えつつ歩いていると、ふとCDショップの手前で立ち止まっている男女三人が目に止まる。

 見るからにチャラそうな出で立ちの男二名、そして白髪で豊満な胸で露出の多い衣装の女の子が一名。

 彼女は気の強そうな顔立ちながら目は虚ろで、どこか放っておけない雰囲気を醸し出している。

 

「ねぇねぇキミ一人? この後俺ら遊びに行くんだけどさぁ」

 

 なんて定番の誘い文句で、男二人は白髪少女に言い寄っている。彼女は全く話を聞いていないらしく、垂れ流しになっているアイドルの新曲PVに釘付けだが、男たちが諦める気配もない。

 

 ──キャスターはその光景に腹を立て、頬をふくらませた。女性の価値がわかっていないような奴らに、あんな美少女を扱わせてなるものか。

 カメラの紐を握りしめ、意を決して彼女たちのもとに駆け寄る。

 

「あ、あ……あの。そ、そういうの、よくないと、思うんです」

 

「なんだ? このガキ」

 

 ただのガキではない。金髪美少女である。

 

「お子様はすっこんでな。オレたちはこの子と大人の遊びをするんだからよぉ」

 

「……さっ、さ、さっきから相手にされてないのに、よく言いますね。

 あはは、わ、笑っちゃいます」

 

「なんだとこのガキが! わからせてやる……!」

 

 見た目通り彼らは単純で、少しの挑発でも乗ってくる。すぐ暴力に訴えてくる。

 だが問題ない。キャスターの身体能力は普通の人間かそれ以下のレベルだが、それでもサーヴァントの端くれ。この程度のチャラ男に負けるわけがないのだ。

 キャスターは余裕の表情で金髪をかきあげ、風に靡かせ、そして思いっきり頬を殴られた。

 

「へぶっ!? なっ、なにするんですか! ありえません、こんな国宝級美少女の顔面を殴るとか!」

 

「お前が余計な口挟んだからだろうが!」

 

「したって顔面はないでしょう! 生意気幼女にしていいのはデコピンまでですよ!」

 

「生意気幼女はてめえだコラ!」

 

 なんて、チャラ男二人組とキャスターの言い争いがヒートアップしていると、今まで何もかも聞き流していた白髪少女が振り返り、光のない瞳で呟いた。

 

「折檻のやり方が違うわ……それじゃあ、ただの暴力よ。やるならもっと徹底的に……強く、甘く、痛々しく……」

 

 チャラ男たちはその言葉を聞くと怯んだ。もしかしなくてもこいつやばい奴じゃん、と。

 ここでキャスターは小柄な体格を利用し、二人の不意をつき傍らをすり抜けた。すかさず白髪少女の手を取って走り出す。

 

「行きましょうお姉さん! 私がエスコートいたしますので!」

 

 虚ろ目の彼女は抵抗することもなく手を引かれ、キャスターが疲れて立ち止まっても一言も話さなかった。

 さっきのチャラ男がもっと強引だったら危なかっただろう。だが今回は追ってくるほどの気概はなかったらしく、振り向いても美少女が二人で駆け抜けたことに驚く通行人くらいしかいない。

 

「ま、撒いた、みたいですね」

 

「……」

 

「お、お姉さんっ、ご無事ですか? あ! 私決して怪しい者ではございません! ただの一般金髪美少女ですので!」

 

「……血」

 

「へ? あ、ま、待ってくださいお姉さん、いきなり接吻はさすがに──!」

 

 一瞬にして目前に迫っていた白髪少女の唇に、焦り饒舌となるキャスター。しかし唇が重なることはなかった。その代わり、少女の舌が殴られた際に滲んでいた血液を舐めとってくる。

 

 その感覚はまったくの未知であり、新しい世界を垣間見てしまったキャスターはそのまま呆然とするしかなく、しばし沈黙が流れた。それから慌てて話題を作ろうと、再びキャスターから話しかける。

 

「……あ! えっと、お姉さん、アイドル、好きなんですか!?」

 

「アイドル……」

 

 どこを見ているかわからない瞳のまま、彼女は続ける。

 

「……わからないの。何か思い出せそうなのに。ねぇ、お願い、教えて欲しいの。アイドルって、なんなのかしら」

 

 返ってきた言葉はキャスターの予想だにしないものであった。その縋り付くような言葉を拒むことも出来ず、キャスターは言葉を返した。

 

「あくまでも私の個人的な意見ですが。

 美しく、愛されるもの。誰よりも研鑽を詰み、その努力さえも隠し通して作り上げられる至上の幻想。

 それが美少女(アイドル)だと、私は思います」

 

 キャスターが答え終えると、それを聞いた少女の瞳には少し光が戻ったように見えた。まるで、霧に隠された思い出を見つけたかのように。

 

「えぇ、そうよね。そう。だって、私は──ッ!?」

 

 だがしかし、直後に突然として彼女は頭を押さえた。光は再び消え失せ、ぎりぎりと奥歯を鳴らし、痛みに呻き、なにかに怯えるように縮こまる。

 

「い、いや、やめて……お願いっ、そこへ戻るのだけはいや……!」

 

「あ、あの、大丈夫──」

 

「触らないで……私の、私のエリザベート(・・・・・・・・)に触らないで(・・・・・・・)ッ!」

 

 いつの間にか握られていた鞭が振るわれ、手を伸ばそうとしたキャスターはまともに食らって吹き飛ばされた。その直後、白髪の少女は靄のように霧散して消えてしまう。

 その時初めて、キャスターは彼女がサーヴァントだったのだと理解した。

 

「エリザベート……ですか」

 

 衣装についた砂を払いながら、キャスターは少し後悔した。あの麗しい姿は写真に収めておきたかったのに。

 

 ◇

 

 レイラズは拠点に定めた民家にこもり、難航する礼装の構築に何度も挑んでいた。材料がうまく組み上げられず、何度目かのやり直しになる。

 

「……あ、エリザベート。お帰りなさい」

 

 どこへ行っていたのやら、姿の見えなかったレイラズのサーヴァントが実体化して現れた。いつもの通り、ぼんやりと佇むばかりで、返答はない。

 

「ま、待っててね。わ、私、必ずあなたの役に立ってみせるから」

 

 この言葉も聴こえていないだろうけれど、レイラズは心に決めたことを口に出し、薄気味悪くにたりと笑うのだった。

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