──決戦の火蓋は切って落とされた。
セイバーとアーチャーが対峙するその傍らで、ランサーとキャスターもまた、戦いの火花を散らし始める。
ランサーが大きく踏み込む。彼女と相対するトランプの兵隊たちが一斉に散開し、槍や槌を振りかぶった。しかし彼らは武器を振り下ろす前に枝に貫かれ、魔力の塵となって霧散する。
その塵の内側から現れるのは猛獣と幻獣だ。ライオンが牙を剥き、ユニコーンは角を突き立ててくる。
襲い来る牙と角。身を逸らしてくぐり抜け、蹴りと同時に脚から植物を伸ばす。ライオンの腹を貫き、ユニコーンの首を吹き飛ばし、キャスターへと迫る勢いを殺さず踏み込んでいく。
キャスターは己の身体能力では対応しきれない速度の突撃に対し、防御に回るしかない。ランサーによる一撃が迫る瞬間、空中に卵が現出し、ランサーの攻撃により割れると同時に爆発を起こす。
予想外の衝撃を喰らいランサーは後方へ吹き飛ばされ、キャスターもまたそれに巻き込まれるが、彼女は飛ばされた先に大きな猫を召喚し、それをクッションとして着地。すぐさまランサーの元へトランプ兵を向かわせ、起き上がるより前に攻撃させる。
だがランサーにとってその対処は容易である。体から枝を伸ばせばいいだけだ。己を取り囲んだ数体のトランプ兵を一気に刺し貫き、胸の風穴から伸ばす幹で体を支え、ランサーは平然と立ち上がった。
その光景にキャスターは嘆息する。
「あぁまったく、性愛の呪いの忌々しいこと。君を傷つけるのが嫌で嫌でたまらない」
「そういうサーヴァントなら仕方のないことよ。この聖杯戦争と相性が悪かっただけ」
「はいそうですかと割り切れないのが私です。主の笑顔のため、私も働かなくてはならない」
「じゃあ、手加減してあげないわ」
ランサーから伸びる植物たちは恐るべき速度で蠢き、キャスターを取り囲むように迫っていく。グリフォンの召喚による離脱が試みられ、しかし枝を腕のように用いて己を引っ張りこんだランサーが一気に距離を詰めたことで彼女の蹴りが届き、獅子である後半身は破壊される。
勢いは止まっていない。残った鷲の部分をひっ掴んだキャスターは毟った羽根を目くらましとし、さらにトランプ兵を一体生成、蹴って足場とする。枝がトランプに描かれたハートの中央を貫く頃には、そこにキャスターはいない。
「やりづらいわね」
今度はランサーが嘆きを漏らした。二騎の距離は振り出しに戻っており、互いにダメージらしいダメージはない。
決着にはまだ時間がかかるだろう。ランサーもキャスターも、そう考えていた。
◇
一方、セイバーとアーチャーの激突もまた膠着状態にあった。
既にいくつもの矢が放たれ、セイバーはその全ての破壊あるいは回避に成功している。だが、一方でアーチャーの負った傷もない。攻勢に出られていないのだ。
再び矢を向かわせ、アーチャーは同時に自らも飛び出していく。一発目は上段、二発目は下段。そしてアーチャーの攻撃は手にした鏃を振り下ろすものだ。
セイバーの剣が一発目を斬り、二発目は踏みつけて止め、アーチャー自身へは剣を振り上げる。激突により鏃は砕けるが、直後踏みつけた矢が炸裂し、セイバーは飛び退かざるを得なくなる。
アーチャーの放つ矢は爆発する矢。そして、彼女の繰り出す近接攻撃は一撃が重い。
セイバーにとってその双方が厄介だ。矢を叩き落とし、迫り来るアーチャー本人を警戒しつつ、その上で相手を斬らなければならない。
魔力の供給が十全でなく、宝具の使用だけでなく、剣からの魔力放出も制限される以上、飛び込むにはリスクがありすぎた。
そんな状況の中、アーチャーは攻めの手を緩めなかった。
投擲される矢は時に不規則な軌道を描き、眼前で溜め込んだ魔力による爆発を引き起こす。さらにその煙の内側から現れ、首めがけて鋭いハイキックを放ってくる。
だがセイバーが首を逸らしたことにより蹴りは髪に掠るのみに終わり、反撃にこちらも首を狙う黒い魔力の斬撃波を放つ。アーチャーは回避を強いられ、倒れ込むように躱すと、地面を蹴って再び間合いをとった。
セイバーは宝剣の柄を握り締め、アーチャーは手元に新たな矢を生成し、次の瞬間には更なる激突が行われている。
手にした武器がぶつかり合い、火花が散り、まるで鍔迫り合いのような押し合いとなる。
そんな中、アーチャーは力をこめたままセイバーに語りかけた。
「騎士のお兄ちゃん。貴方は何を願ってここにいるの?」
「オレは──」
それはこの決戦において、セイバーが思考を避けていた領域へと触れる問いだった。
セイバーだって、聖杯戦争に勝ち残り、願いを叶えるために現界している。そのために剣を振るっている。
だが、肝心の聖杯は文字通り犠牲者の塊だ。あのような忌々しいものに願いを託すなど、聖騎士の記憶が許さない。では、セイバーはなんのために戦っているのか。
それを考えてしまった瞬間、アーチャーの鏃はセイバーの剣を押し退け、鎧を砕きながら左肩に深々と突き刺さる。
すぐさまアーチャーの腕ごと蹴り飛ばしたことで、突き刺さったまま爆発されるという最悪の展開にはならなかった。しかし傷は決して浅くない。魔力で見た目を繕い、どうにか剣を握り直す。
「クソ、これじゃあアイツらの思うツボじゃねえか……ッ!」
恐らくソラナンの狙いもここにあったのだろう。聖杯の正体を知り、それゆえに判断が鈍ればそれが命取りになる。
こんな時、ローランやシャルルマーニュ王であったなら義憤に駆られていただろうに、オリヴィエは己の欲望と天秤にかけ、その隙を突かれている。
セイバーは歯を食いしばり、揺さぶられた思考を停止させ、剣を構え直し、アーチャーに意識を集中する。
だが──その瞬間、突如視界が暗転する。壁に取り付けられた松明は点っていたが、戦場に突如、現れた影があったのだ。
アーチャーが振り向き、彼女だけでなく、交戦中であったランサーとキャスターもその手を止めた。
現れたのは此処にいるはずのないまた別のサーヴァント。虚ろな瞳で白髪を揺らす殺人者。
「──あぁ、なんて大きな肉のかたまりかしら。あれだけあれば何回お風呂に入れるかしら」
「アサシン……ッ!?」
彼女は巨大な建造物を具現化させ、その上に立っている。突然の乱入者に驚くサーヴァントたちのことなど眼中に無い様子で、ただ一点聖杯のことだけを見つめ、魔力を集積し加速させていく。
「さあ、特別サービスよ。
暗くて冷たい私の
──『