Fate/Kindergarten   作:皇緋那

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対峙──チルドレン・アートグラフ(後)

「さあ、特別サービスよ。

 暗くて冷たい私の牢獄(ステージ)に、とっておきの悲鳴(ナンバー)を響かせなさい。

 

 ──『鮮血棺獄魔嬢(バートリ・アルドザット・エルジェーベト)』」

 

 アサシン──エリザベート・バートリーが君臨するは棺の城。数多の少女が命を落とした監獄だ。

 開かれる扉より死せる者どもの怨嗟が溢れ出し、呪われた断末魔の波はサーヴァントたちの体を硬直させてゆく。

 対魔力スキルにより抵抗力が与えられているセイバーたちに対してもその効力は絶大だった。脚は完全に硬直し、手にする武器は重く、不快な叫びがこびりつく。

 

 そこへ降り注ぐのは鉈、剃刀、杭や斧の雨。刃を突き立て襲い来る凶器の数々に、サーヴァントたちは体が言うことを聞かない状態のまま対処を強いられた。

 セイバーは剣を傘にして腕や脚に刃を受けつつも凌ぎ、ランサーは己の頭上に植物の盾を何層にも渡って形成して食い止める。キャスターの召喚する肉壁は同時にアーチャーの頭上にも展開され、どうにか被害は最小限に食い止めている。

 

 ──だがそうはいかないものも存在していた。聖杯だ。

 それは刃の雨を防ぎきるには巨大すぎ、そして『幼かった』。エリザベートの犠牲者となった少女たちの恐怖を植え付けられたことで、ドロレスたちが仕掛けたはずの防御術式さえ発動しなかったのである。

 刃の雨に表皮が切り裂かれ、体液が噴出している。拍動は速くなり、逃げ場を求めて腕が蠢いた。

 

 宝具の範囲から外れて見守っていたドロレスは、すぐさまキャスターへの令呪を行使しようと動く。だが右腕を掲げた瞬間に全身が硬直してしまった。ドロレス同士で繋がっている脳波ネットワークが、不明な信号により強制停止させられたのだ。

 

 その正体はすぐさま判明する。ドロレスの目の前に姿を現したのは、墨色の長髪に、白を基調とする軍服めいた衣装の少女。アサシンのマスター、レイラズだ。

 彼女はくつくつと笑い、動けないドロレスの頬に指を滑らせた。

 

「う、うまく、いった。貴女達ドロレスを同期させている魔術式に割り込む礼装……ね、す、すごいでしょう、明日菜ちゃん」

 

 レイラズの傍らに立っていた瀬古明日菜は、突然問いかけられると渋々頷いた。彼女は恐らく無理やり従わされているだけだ。

 それよりも、レイラズが手にしている白いハーモニカの方を注意すべきだ。幼子の骨や歯で組み上げられたそれは、捕獲・解剖された五百三号の成れの果てだろう。ドロレスの動きを止めた礼装とはあの楽器で間違いないはず。

 

 ドロレスは自分が警戒を怠っていたことを後悔する。彼女の父がいくら色位の魔術師だとしても、ユグドミレニアなど零落した取るに足らぬ弱小一派だと侮っていたがゆえの想定外だ。

 

 だがドロレス側のマスターも1人ではない。すぐさまソラナンが魔術具の短剣より風の魔術を以てレイラズを狙い撃つ。対する彼女はすぐさま人骨製の蛇腹剣を抜き放ち、大きく振り抜いて相殺する。

 

「……おいたが過ぎるぜ、プレストーンの嬢ちゃん。よく考えな。

 聖杯がぶっ壊れれば、ユグドミレニアの再興も叶わない」

 

「っふふ、ふ、ふふふふふ……そんなことどうでもいいわ。私のアサシンが壊したいのなら、壊れてしまえばいいだけのこと」

 

「あぁそうかい。そう来られちゃこっちもお嬢ちゃんを消すしかないな。折角の美人を手にかけるのは心が痛むんだか」

 

「で、できるものなら、やってみせてよ、お爺さん」

 

 ソラナンが詠唱を開始する。儀礼のための短剣に嵌められたエメラルドが輝き、周囲の大気を巻き上げていく。

 

 そうして発動する嵐の魔術に対し、蛇腹剣を鞭のように振るい、激突させる。並んだ脊椎のうちひとつに書き込まれた風の術式を起動させ、逆位相の流れにより威力を一気に弱めていく。

 

 レイラズは弱まった嵐の中を己が傷つくのも構わずに駆け抜け、一気にソラナンとの距離を詰め始めた。その間にも武器を振り回し、刀身を暴れさせる。

 対するソラナンは短剣から放つ突風と魔術障壁による防御を繰り返し、猛攻をものともしない。

 

 やがて間合いは詰められ続け、二者間の距離は数十センチにまで迫った。渾身の一撃のため彼女は剣を振り上げ、ソラナンは障壁を展開すべく構える。

 

 だが次なる攻撃は刃ではなかった。

 いつの間にか、レイラズの手には楽器型の礼装ではなく拳銃が握られ、既に引き金は引かれている。ソラナンの障壁とぶつかるのは銃弾だった。

 

「ハッ、なにかと思えば戦争屋の玩具か! その程度で儂の魔術を破れるとでも思ったか!」

 

「ふふ……ど、どう、だろうね」

 

 簡易的な結界魔術を用いて構築された壁は当然銃弾を防ぎ、弾丸は四散する。しかしレイラズの本命はその中身だ。結界、さらには魔術回路を通して、ソラナン自身へと覚醒(・・)する。

 そして次にレイラズが剣を振り抜いた時──ソラナンは無抵抗のまま刃に切り裂かれた。

 脊椎の棘突起を利用した刃は肉食獣の如く皮膚を削り、肉を抉る。

 

「なっ、なぜだ──!?」

 

 魔術による防御は行われたはずだった。ソラナンの脳は確かに魔術回路へと命令を下した。しかし、現実にはなにも起こらず、斬撃をもろに食らっている。

 この現象をソラナンは理解できなかった。しかしレイラズは知っている。全て、彼女の放った魔弾の仕業なのだから。

 

 起源弾。それは悪名高き『魔術師殺し』の扱ったという礼装。存在の根底である『起源』を浴びた相手に発現させる魔弾。発現する起源によっては、一撃必殺となりうる代物だ。

 レイラズの扱うものはとある傭兵の作り上げたそれの模倣品(デッドコピー)に過ぎない。しかし、死霊術師である彼女はその魔弾を何人もの他人の死体から生成し、撃ち分けることを可能としていた。

 

 ソラナンの魔術回路を機能不全へと追い込んだのは『静止』の弾丸だった。彼は状況を理解出来ぬまま蛇腹剣に切り裂かれ、首が地に落ちると共にその生を終える。

 

「ふふふ……こ、これで、邪魔者はいなくなったね」

 

 レイラズの視線がドロレスへと向いた。ソラナンが死んだことにより、アーチャーへの令呪も不可能だ。キャスターはアサシンへの対応に追われている。状況はドロレスにとっての最悪の事態になろうとしていた。

 

 それもそのはず。

 わざわざベルチェたち一行をここへ呼び込んだのは、聖杯を見せ動揺を誘うためでもあるが、ドロレスの持つ奥の手を使うためでもあった。

 それは──聖杯に干渉し、魔力を利用するための術式。キャスターに(したた)めさせた詩文である。ドロレスたちのネットワークへと侵入したレイラズには、その存在も知られていよう。

 

 しかし、ドロレスは動けない。笑みを浮かべたレイラズが、ゆらゆらと歩み寄るのを見ている他にない。

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