Fate/Kindergarten   作:皇緋那

35 / 74
決着──アッシュ・トゥ・アッシュ

 ──アーチャーは決して誰かに命じられた訳ではなかった。

 しかし、望まない令呪に縛られるキャスターを目にして、動かずにはいられない。セイバーとの戦いに決着をつけるよりも、彼女を守りたいと思ってしまった。

 それゆえに、アーチャーはキャスターを抱えて立っている。かつての主は死んだが、魔力のパスはキャスターにつなげている。出力は落とさない。

 

 ロングスカートを翻し、竜の少女が動き出す。構えた拳と鋭い視線が狙うはアーチャーの頸、その一点である。

 対するアーチャーも、右腕にキャスターを抱えたまま対応に出る。迫る拳を躱し、手にした矢を振るい、同時にキャスターのトランプ兵が上空から棍棒を振り下ろした。

 

 しかし矢と棍棒はルーラーの手によって軌道を修正され、互いに激突し、敗けたトランプ兵は消滅してしまった。さらにすぐさまキャスターを狙った膝蹴りが放たれ、咄嗟に召喚したウミガメの甲羅を盾とするが、甲羅は割れ、衝撃は殺しきれず伝わってくる。

 それでもアーチャーはすぐさま体勢を立て直す。地面を踏みしめ矢を投げ捨て、反撃のアッパーカットを放つのだ。

 

 拳がルーラーの顎を捉えんと迫る。しかし掌に受け止められ届かない。受け止めた相手を掌に包んだまま、もう一方の腕を振りかぶる。

 対するアーチャーがとったのは地面を勢いよく踏みつけることだ。それにより先程投げ捨てた矢が刺激され、内包していた呪いを爆発させる。

 ルーラーは攻撃を中断して回避、爆風に乗じてアーチャーもまた距離をとる。

 

 そしてその瞬間に生じる隙を逃さず、アーチャーは多量の矢を展開、一斉に射出する。ルーラーが接近を選ぶ中、対するアーチャーが真名を解放する。

 

「我が手の下に響き渡れ──『引き劈くは叫喚の聲(ソロヴェイ・クリチャーチ)』ッ!」

 

 ソロヴェイの怨嗟が引き起こす連鎖爆発。呪いが吹き荒れ、爆風が踊る。その中をルーラーは駆け抜け、一気に目標のサーヴァントたち目掛けて飛びかかる。抜けた先に待ち受けていた獅子と一角獣をむしろ蹴り飛ばして勢いを増し、次の瞬間には抱えられていたキャスターが腹を蹴りあげられ、上空へ放り出されていた。

 

 令呪の束縛は残っている。身動きを取れないまま、内臓が傷ついたことによる血を吐くキャスター。ルーラーは止めを刺すべく飛び出し、アーチャーはそれを阻止しようと矢の雨を放つ。それが躱されたとみると、すぐさまルーラーの脚に取り付き引きずり下ろそうとする。

 

「そいつから離れなさい、トカゲ!」

 

「すでに入力された命令を阻害する命令はお受けできません。それに私はトカゲではなく、ヘビです」

 

「そんなのどうだっていいわ。元より力ずくでやるつもりなんだから!」

 

 鱗に覆われた脚を掴んで振り回し、思いっきり投げ飛ばした。そうして地面にルーラーを叩きつけると、宙を舞っていた少女を受け止める。

 

「救出感謝します……ですが、このままだと恐らく私たち」

 

「アレを止めきるのは無理ね」

 

「はい……ですので、そろそろ一気に畳み掛けるべきかなぁ、と」

 

 アーチャーは頷いた。そして、着地の瞬間を狙い向かってくるルーラーのハイキックを片腕で受け止める。骨が軋むのが伝わってくるが、関係ない。腕が折れようとも戦うのが英霊だ。

 続く連撃をどうにか防ぎつつ、静かに始まるキャスターの詠唱を待つ。

 

「此処は歪曲の庭。ゆえに科学は戯言(ざれごと)、魔術は寝言。幻想こそが理にして、この目に映るものこそが真実なり。

 なればこそ『幻視者(アリス)』の名のもとに、其は影を喰らいて這い(いづ)る!

 さあおいで、『燻り狂える水蜥蜴(Frumious Bandersnatch)』!」

 

 キャスターの体に多大なる負荷をかけつつ、魔力によって構成されていく影。3メートルを越す体躯を持ち、鱗は金属のような光沢で、その黄緑の瞳はルーラーを敵として捉えていた。

 

 キャスターの宝具『虚を語る歪曲の匣(アリス・イン・ワンダーランド)』は、彼女の脳裏に広がる世界より、幻想の住人を呼び寄せる宝具である。正確にはそのものではなく複製品に過ぎないが、それでもそのランクが高いならば詠唱による励起を必要とし、彼女の負担も高くなる。

 バンダースナッチとして現れるそれ(・・)は、幻獣や神獣といったランクで測ることのできない存在だ。ゆえに、ルーラーに対抗出来る可能性を持つ。

 

 彼はルーラーを獲物とみなし、サーヴァントたち以上のスピードで動き出す。アーチャーの攻撃が避けられた瞬間、ルーラーが攻撃に移る直前に乱入し、その燻り狂う顎にて彼女の腕に食らいつく。

 さらにアーチャーはそこへ矢を投擲し、炸裂させた。ルーラーはバンダースナッチを盾にするが、彼は平たい尾を勢いよく叩きつけ、ルーラーの体勢を崩す。

 

 さらにそれを好機とみたキャスターにより、馬に乗った騎士がどこからともなく現れ、突撃を行った。正面から食らったルーラーはバンダースナッチごと跳ね飛ばされ、後方に背中から着地した。

 

 すかさずバンダースナッチは牙を離し、今度は喉に首を伸ばす。対するルーラーはその頭部を掴んで阻止し、脚力のみで起き上がると同時に追ってきていた騎士に叩きつけた。

 騎士は消えるが、バンダースナッチはまだ生きている。頭を掴まれた状態から首を伸ばし、全身を鞭のように使ってルーラーを狙う。対するルーラーも二度同じことをやられるようなサーヴァントではなく、胴を踏みつけて動きを封じる。

 

 そこを狙うのはアーチャーの『引き劈くは叫喚の聲(ソロヴェイ・クリチャーチ)』だ。ルーラーに回避を強い、回避した先にはキャスターの呼び出した幻想種グリフォンが待っている。高速の突貫を両腕でガードするルーラーだが、ソロヴェイの矢じりとバンダースナッチの牙も背後から迫っている。ルーラーは対処するばかりで攻撃に転じられていない。

 

 隙は十分。畳み掛けるなら絶好の機会である。キャスターから受け取った魔力を充填し、アーチャーは飛び上がった。

 

「頼みますよ、アーチャー!」

 

「ええ、これで決めるわ。

 我が名の下に荒れ狂え!

 ──『黄金を堕とすは天の雷霆(ピィエルン・グロザー)』ッ!」

 

 投擲された1本の矢が炸裂し、雷の雨となって降り注ぐ。範囲をルーラーのただ一点に絞り、大量の雷撃が一斉に飛来する。

 バンダースナッチとグリフォンは発動の直前にキャスターの指示を受け退いている。ルーラーにはすでに逃げ切るだけの猶予は残されていない。逃げる姿勢も見せていない。雷撃は眩く光を放ちながら、少女の眼前へとたどり着く。

 

 ──その瞬間、空間に突如『()』が現れた。

 

「第一宝具解放。

 『天雷届かぬ凪の洞(コーリュキオン・アントロン)』」

 

 孔は雷を飲み込んだ。激しい魔力の奔流は、暗闇の中に吸い込まれ、そして帰ってくることはない。

 呆然とするアーチャーとキャスターを前に、ルーラーは立ち上がった。

 

「どうやら、運が悪かったみたいですね。雷神の一撃にも迫る宝具なんて、私でなければ貫かれていたと思います。

 あくまでも、私でなければ、ですが」

 

 ダメージを受けている様子などまったくなく、彼女は柔らかな声色で語った。

 

「あなたの全力に敬意を表し、私も全力で参ります。

 ──第二宝具、限定解放。星間飛行装置、駆動」

 

 神代の気配とともに、ルーラーの頭上には黒い光が集積してゆく。やがてひとつの球になろうとするそれは、規格外の宝具に違いない。

 

 先の言葉は称賛だったのか、それとも侮辱だったのか。それをアーチャーが判断しきる前に、本能が危険信号を鳴らしていた。咄嗟にキャスターを放り投げ、驚く彼女に一瞥することもなく、アーチャーはルーラーに飛びかかる。

 

「終着削除。目標固定──」

 

「っ、させる、ものですか──!」

 

「──神託を下します」

 

 黒い光が迸る。鏃を手にした少女は飲み込まれ、光の中に消えていく。

 

 ◇

 

 ──光が晴れた後、そこにアーチャーはいなかった。呆然とするキャスターと、彼女を見下ろすルーラーがいるだけだ。聖杯は祝福するように脈動しており、たった今最初の脱落者が現れたことは想像に難くなかった。

 その様を見ていたドロレスは唖然とする他になかった。予測を超えた事象が多すぎる。アサシンが現れてから、すべてが計算外の連続だ。

 

 一方の明日菜は、激しい魔力消費による眩暈と疲労に襲われつつも、笑いを抑えられずにいる。

 兄への報復でも狙っているのだろうか。ドロレスには測りかねた。

 

 その明日菜は振り向き、にやついたままで話しかけてくる。

 

「令呪でキャスターを逃がしたらどうですか? このままだとやられちゃいますよ、私のルーラーに」

 

 ルーラーの性能は規格外だということを知り、キャスター程度が生き残っても障害にならないとの判断か。

 

 しかしこのままルーラーに襲われればキャスターとてひとたまりもないのは事実である。せめて彼女を脱出させなければ、ドロレスの師の夢は叶わない。

 このわずかな好機は、なによりもキャスターのために使うべきだ。

 

「令呪を以て命ずる。キャスター、ここから脱出せよ」

 

 令呪の魔力が彼女を突き動かし、グリフォンとともに上空へ飛翔、天井を破り外界へと離脱してゆく。

 ルーラーは追おうともせず、ただその光景を眺めているばかりであった。

 

「ちゃんと逃げられましたね。おめでとうございます。

 ああ、でも、ドロレスさんは動けないんでしたっけ。あーあ、残念」

 

 明日菜の言う通りだ。問題は、レイラズの作り上げたあの礼装だ。あれがある限り、明日菜はドロレスを支配下に置き、令呪を強制的に使わせることさえ可能なのだ。

 その状況が変わらない限り、聖杯は手に入らない。

 

 ドロレスは師のため、じっと耐え忍ぶと心に決めるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。