Fate/Kindergarten   作:皇緋那

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決意──メイク・アップ・チェインズ・マインド

 暗い雰囲気になってしまったのをなんとかするため、ベルチェはボケを捻出しながら小夜の全身を洗っていった。

 

 動画で得た知識から日本の美容院ごっこをしてみたり、体の色んな部位を褒め倒してみたり、駄洒落でスベったのをくすぐってごまかしたり。

 特にくすぐりの効果は絶大だった。と思う。ベルチェ渾身のギャグには気がついてくれない小夜だが、くすぐりには弱いらしく、出会ってから初めての大笑いを引き出すことができた。

 

 なんて女の子同時の戯れを交えつつ、ベルチェが小夜の背中を流していた時、彼女はふと口を開いた。

 

「あの。私の、体のことなんですけど」

 

 ベルチェの手が止まった。

 

「アヴェンジャーさんには、伝えないでもらってもいいですか……?」

 

「……それはどうして?」

 

「これ以上心配をかけたくないんです。ただでさえ、たくさん頑張ってもらってるのに」

 

 それは小夜なりの優しさなんだろう。彼女がそういうのなら、ベルチェが下手に口を出すことじゃない。

 

「わかった。このことは、私と小夜だけの秘密だ」

 

 彼女の背中では水滴がきらきら輝いている。それはとても綺麗な光景で、だけど、同時に目の前の少女が儚く消えてしまいそうな、そんな心地にさせるものでもあった。

 

 ◇

 

 シャワーを終え、じゃらじゃらしたアクセサリーも全部付け直して、ベルチェは小夜とともにサーヴァントたちのところに戻った。

 こっちのふたりは結構仲がいいみたいで、聞き上手なアヴェンジャーはセイバーの苦労話を楽しそうに聞いていたようだ。

 ふたりはこちらに気がつくと、話を中断して結果を尋ねる。

 

お姉様(シスターさん)、大丈夫そうかしら……?」

 

「あぁ、そこも交えて今からいろいろ話そうと思う。小夜も、それでいい?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 ベルチェとセイバーの方針は、シャルルマーニュのおかげで改めて決まった。けれど、新たに出てきたのは小夜の問題だ。彼女のことも含めて、もう一度これからについて確認すべきだろう。

 

「まず第一に小夜の体だが──」

 

 小夜に言われた通り、詳細までは話さない。ソラナンの爺にやられた魔術的なダメージが残っている、なんて嘘をついた。

 それを聞くアヴェンジャーは本当に心配そうで、小夜が申し訳なくなるのもわかる気がした。

 

「あ、そういえば、私たちの同盟って、ベルチェさんがアーチャーの呪いを受けてたからですよね」

 

「そうだな」

 

「じゃあ、アーチャーが倒された今、同盟解消になるんじゃ……?」

 

 小夜は恐る恐る言い出した。確かにそう言ったような気もする。ベルチェはすっかり忘れていた。

 とはいえ、アーチャーの件が解決したとしても、問題はまだまだ山積みである。

 

「同盟は継続しよう。小夜の体のこともあるし……特大の不安要素はバーサーカーとルーラーだ。特に強力なこの2騎が健在である以上、一緒に行動しなければ危険極まりない」

 

「よかった……あ、いえ、なにもよくありませんけど、ベルチェさんたちとは戦いたくないなって……」

 

 胸を撫で下ろしてすぐに取り繕う小夜。ベルチェも同じ気持ちである。彼女は大切な友人だ。できることならば、戦いたくなどない。

 

「同盟といや、ランサーとマスターの坊主の姿を見てねえな。聖杯から脱出できたのか?」

 

「わからない。捜索はすべきだろう。彼らも友人だからな」

 

 ベルチェとセイバーはあの騎士のおかげで脱出できたものの、同じく聖杯に呑まれたランサー陣営及びアサシン陣営については消息が不明なままだ。

 難敵がまだまだ控えているのだから、どうにか再び接触、できることなら助力を得たいところだ。

 

お姉様(シスターさん)はどう?」

 

「えと、私ですか? その……生き物係くんたちのことは放っておけませんし、手遅れになる前に合流したいですけど……」

 

「では、他の陣営との接触を優先事項としよう。セイバー、アヴェンジャー、異論は?」

 

「ないぜ」

 

「ないわ」

 

「うむ。では、そのようにいこう。

 そうだ、せっかくだから、ひとつ気合いを入れないか?」

 

 これで方針は決まった、というところで、ひとつ提案をした。

 それから、ベルチェの小さな手と、小夜の綺麗な手と、セイバーの鎧に包まれた手に、アヴェンジャーのとっても熱い手──みんなを重ねて、掛け声とともに気合いをいれる。

 掛け声は特に意味を持たないただの大声だったが、それでいい。沈んでいた気分を持ち直させるには十分だ。

 

 考えなければならないことはたくさんある。心が苦しくなる現実が目の前にある。

 だけど、それがかえって、ベルチェに生きている実感をもたらしているようにも思える。なにも考えずにふらふらしていた時計塔時代とは大違いだ。

 

 この数日で、譲れないものがいくつもできた。戦友も友人も、誰かを助けたい思いも。

 例え聖杯戦争の中でベルチェが倒れ、この異国の地で死したとしても、それはきっと確かなことなのだ。

 

 ベルチェはひとりで不思議と感慨を抱き、それから一旦息抜きのためベッドに腰掛けた。

 

「……なあ、ベルチェ」

 

 さりげなくその隣にやってくるセイバー。立ったまま話しかける彼の顔を見上げると、なにやら少し照れているようだ。

 

「どうした、セイバー?」

 

「は、話があるんだよ」

 

「なるほど。では、隣に座るといい」

 

「……いいのか、オレが乙女のベッドに座って」

 

「ホテルだからノーカン」

 

「そういうもんなのか……?」

 

 遠慮がちに座るセイバー。さて、彼が照れるほどの話とは、一体なんのことだろうか。もしかして恋バナだろうか。

 

「あのさ……これ、なんだけどよ」

 

 そう言って差し出されたのは、きらびやかに装飾がされた角笛だ。本体は美しい象牙色をしており──手に取ってみると、実際に象の牙で作られているようだった。角笛ではなく、牙笛が正しかったらしい。

 

「なんだ、このとてもカッコイイ代物は?」

 

「そいつはオレの第3宝具だ。本当はローランの奴の所持品なんだが」

 

 ローランの持つ象牙の笛といえば、それは彼らの最期の戦いにおいて、援軍を頼むために使われた代物に違いない。なるほど、宝具に昇華されていても疑問は抱かない。

 だけど、それをベルチェに渡してしまってもいいのだろうか。

 

「なぜこれを私に?」

 

「そいつは、オレには真名解放できないんだ。そりゃそうだ、元々オレの持ち物じゃないからな。

 だけど、ローラン──つまり、オレの戦友なら話は別だ」

 

 なるほど。この笛はセイバーが戦友と認めた相手が持たなければ真価を発揮できない宝具だということか。

 

「そういうことなら私に任せろ」

 

 精一杯、胸を張って答えた。それを見て彼は珍しく、柔らかな安堵の表情を浮かべ、ベルチェに見られていることに気がつくとすぐさま頬を赤らめ顔を逸らした。耳まで紅潮している。

 

 それもそのはず。この宝具を渡すということは、彼がベルチェを戦友として認めたということ。照れくさくなるのも当然か。

 それに──ベルチェがどこか落ち込んだ気分でいたところに、気を使ってくれたのかも。

 

「……ありがとう、セイバー。大事に使わせてもらうよ」

 

「お、おう」

 

 改めて礼を言った。返事は顔を逸らしたままだったが、それもそれでまた、彼らしいのかもしれない。

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