Fate/Kindergarten   作:皇緋那

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残歌──リバイバル・ライヴズ

 レイラズの死によって、ルーラーとアサシンの戦闘は幕を下ろした。彼女は自分のサーヴァントをかばい、さらにはあろうことか令呪を使ってまでアサシンに自分を殺させた。

 明日菜には、意味がわからなかった。

 

 聖杯は手に入らず、プレストーンの血脈は断絶した。マスターを失ったアサシンはこのまま消滅するだろう。

 それなのに、アサシンの腕の中で脱力するレイラズの遺骸は、とても幸せそうな表情をしている。

 

 ──思い出すのは、兄のことだ。彼は自分が殺されようとしているのに、明日菜のことばかりを案じ、バーサーカーを譲り渡した。

 彼らが何を考え、何を思いながら死んでいったのか。不思議でならなかった。

 

「馬鹿はお兄ちゃんだけじゃなかったってこと……?」

 

 首を傾げるしかなく、誰かが答えを教えてくれるわけでもない。晴れないもやが心の中に住み着くのを感じながら、明日菜はルーラーを呼び戻す。

 

「ルーラー。もう、このまま消えるサーヴァントの相手なんかしなくたって……」

 

 だが、明日菜が言い終わらないうち、ルーラーは再び身構えた。理由は単純。アサシンが再び立ち上がったからだ。

 彼女の瞳は虚ろだった。けれど、確かにその眼孔はルーラーに向けられている。闘志は潰えていない。

 

「ふん……悪あがきなんて、見苦しい。止めを刺してあげて」

 

「命令を了解しました」

 

 明日菜の言う通り、ルーラーはアサシンへと飛びかかる。

 相手はマスターを失ったサーヴァント。ルーラーが一撃を加えれば、それで終わりだ。危険視する必要はどこにもない。

 ルーラーの振り抜く拳はアサシンを砕く──その、はずだった。

 

 そこにあるのはエリザベートが発明したといわれる処刑道具、アイアン・メイデン。彼女はそれを盾として、攻撃を受け止めていた。一撃ごとに鉄板が凹んでいき、しかし彼女へは拳は届いていない。

 

「……迷い込んだ少女には、罠を」

 

 アサシンが呟いた。

 

「行き過ぎた幻想には、罪を」

 

 どくん、と。アサシンの心臓が脈打つのが、明日菜にも聴こえたような気がした。

 彼女の呟く言葉の意味はわからない。だが、それはまるで、何かの詠唱のようで。

 

「朽ち果てた吸血鬼には──痛くて、冷たい罰を。

かわいそうな死妖姫(パニッシュメント・フォー・カーミラ)』」

 

 真名が告げられるとともに、今までルーラーを押しとどめていたアイアン・メイデンが動き出す。扉が開かれ、錆びた釘たちが飛び出し、金属は流動する。そうして、いくつかのパーツが作り上げられていく。

 

 竜の角、翼、尾、そして大きな爪。それらはアサシンを取り囲み、やがて装着されてはじめる。機械部品を取り付けるように、鉄釘が飛来し突き刺さり、それぞれのパーツを固定していくのだ。

 側頭部。肩甲骨。尾骶骨。両腕。変形したアイアン・メイデンを纏い、少女は吸血鬼へと変貌してゆく。

 

「──サーヴァント界最大のヒットナンバー……聞かせてあげる……!」

 

 爪を振りかざし、アサシンはルーラーへ飛びかかっていく。起動した宝具の影響によってステータスが上昇しているとしても、元より二騎の差は圧倒的だ。ルーラーが受け止めるのは造作もなく、鉄の爪は掴まれ、彼女はアサシンを投げ飛ばそうと力をこめる。

 

 だがアサシンの戦力もそれだけではない。周囲に無数の釘を生成し、ルーラー目掛けて降り注がせ、彼女に回避を強いた。そして跳躍するルーラーを追い、再び爪を振り下ろす。

 ハイキックに押し返され、それでももう一方の腕で迫り、それも躱された先に釘の群れを射出し、ついにそのうちの1本がルーラーの頬を傷つけた。

 

「なるほど……ではこうしましょうか!」

 

 回避の勢いのまま距離をとろうとする体に急ブレーキをかけ、ルーラーは体を回転させた。ロングスカートがめくれ上がり、純白の下着よりもさらに奥より伸びた、蒼い竜の尾による打撃が繰り出される。

 

「恥ずかしいけど、乗ってあげるわ……!」

 

 対するアサシンもくるりと回って、横縞の下着を露わにしながらも、迫り来る相手に吸血鬼の金属の尾を激突させた。

 

 鞭のようにしなる互いの尾は、双方共に主の意のままに操られ、何度もぶつかりあった。神秘に勝る竜の鱗を前に、鉄の処女は傷ついていく。

 そして、大きく振りかぶった渾身の一撃を前に、衝撃をくらったアサシンの体は吹き飛ばされた。反撃に再び釘を放つが、ルーラーの尾の一薙ぎに叩き落とされてしまった。

 

「先程よりも基礎的な身体能力が向上しているようですが……それだけでしょうか」

 

 目の前の敵をルーラーがそう評すると、アサシンは吹き飛ばされながらも地面に爪を突き刺し、強引に体を止める。そしてもう一方の腕で地を叩いて砕き、反動で宙に飛び上がった。

 そこから放つのは、彼女に殺された被害者たちの悲鳴。刃となって降り注ぐ、断末魔の嵐。

 

「『鮮血棺獄魔嬢(バートリ・アルドザット・エルジェーベト)』っ!」

 

 展開する範囲を絞り込んだ真名解放により、いくつもの凶器たちがルーラー目掛けて射出されてゆく。その中を縫うように走るルーラーは、自らを追尾してくるものは打撃で叩き壊し、一気にアサシンとの距離を詰めていく。

 

 そして最後に大きく地面を蹴って、飛来するナイフを踏みつけ足場としながら、彼女は一気に飛び込んでくる。拳を振りかぶって、そのままアサシンの顔面に叩き込もうとする。

 

 その瞬間に1本の釘が射出され、ルーラーの頬を狙った。それはほとんど当たるはずのない軌道であったが、ルーラーの気を一瞬でも逸らすことには成功していた。

 次の瞬間、ストレートパンチを放とうとするルーラーを、アサシンの両腕の巨大な鉄爪が襲う。

 

「……この程度」

 

 ルーラーは構えを解かず、そのまま拳を打ち込んだ。両爪の同時攻撃と衝撃は相殺され、続けて懐へ踏み込んでくるルーラーに対しアサシンは無防備になる。退避も間に合わないまま、ルーラーのハイキックが腹部へ突き刺さった。

 

 少女の体は簡単に破壊された。

 腹に詰まっていた消化管が、開放された背中側から溢れ出る。逆流した血液は口から吐き出され、皮膚も肉も失った風穴からもまた体液が流れ出る。

 

 ルーラーはそれで、勝負は決したと判断した。奇しくもマスターと同じように、ルーラーの攻撃によって腹部を破壊されたアサシン。主の死んだ今、ここまで足掻いただけでも十分だろう。

 鉄処女の鎧を纏ったまま膝から崩れ落ちる彼女を見届けて、ルーラーは背を向けた。

 

「想像以上に手こずりましたが……そうですね。きっとこれほど孤独でなかったなら、貴女は私を下せたことでしょう」

 

 明日菜の元へ戻るため、歩き出すルーラー。

 

 ──しかし、その耳に、まだかすかな音が響く。それは心臓が脈打つような音。そして、金属が擦れ、アサシンが動き出そうとする音だった。

 

「──ッ!?」

 

 想定外の復帰。それは吸血鬼の在り方によるものだった。いくら肉体を破壊されようと、彼らは不死者。人間を殺すつもりでは殺せない。

 振り下ろされた爪を、ルーラーは咄嗟に受け止めた。そして、驚きに見開いた目を平常に戻し、むしろ微笑んでみせた。

 

「なるほど。貴女はそういう存在だったというわけですか。

 不死者など、私の時代に現れた覚えはありませんが……そうですね、焼き尽くせば死ぬでしょうか」

 

 ルーラーは明日菜の魔力を吸い上げ、集束させてゆく。そうして解放されるのは彼女の第二宝具。すべてを焼き尽くす黒き炎は、少女の無機質な通告により、アサシン目掛けて放たれる。

 

「第二宝具、限定展開。真名封鎖、目標固定、終着削除──!」

 

 吸血鬼を飲み込んだ炎は鉄を融かし、肉を灼き骨を焦がし、慈悲なく炭化させてゆく。たった少しの間にサーヴァントの肉体さえも破壊し尽くし、ここにルーラーとアサシンの戦いは決着を迎えた。

 

 ルーラーは肩で息をしつつ、明日菜の元へ戻ってくる。

 

「申し訳ありません。呆気なくという命令、果たせませんでした」

 

「……そ、そのくらい、気にしないよ。でも……これで残りのサーヴァントは6騎、かぁ」

 

 明日菜は己の体内に、魔力を吸い上げられて蠢く刻印蟲たちの存在を確かに感じながら、レイラズのいた拠点を後にする。

 

 ◇

 

 ──肉を焼き尽くされてなお、アサシンは生き延びていた。常人なら何度でも痛みだけでショック死しているような激痛を味わわされながらも、彼女の意識は保たれていた。

 

 宝具『かわいそうな死妖姫(パニッシュメント・フォー・カーミラ)』が与える不死性は、即ちエリザベートへの()だった。

 ゆえに、痛覚を鋭敏化し、その死を許さない。彼女が手にかけてきた被害者たちの幻霊が、エリザベートを許すまで、罰は終わらない。

 

 やがて、時間をかけて少しずつ、エリザベートの霊核は作り直され、鉄の処女を纏ったままの彼女が、打ち捨てられた死体のそばに現れる。

 

「……アンコール、ね。

 いいわ。アナタたちが望んでるんだもの。(アタシ)、また歌うわよ」

 

 少女は宛もなく歩き出した。

 かつて自分が、命と心を奪った観客達に応えるために。

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