Fate/Kindergarten   作:皇緋那

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大嵐──ドリーム・トゥ・ジ・エンド

 ドロレスの仕掛けた作戦は成功し、明日菜が所持している礼装はルーラーが破壊した。これで、フォーリナーを縛る令呪は、明日菜の手の内からこぼれ出たと言える。

 

 残るはルーラー。最大の強敵だ。まだ作戦は完了していない。彼女を打ち倒すことこそが、こうして強引に瀬古邸に襲撃をかけた目的なのだから。

 

「遥かなる夢の都より扉を越え……空夢の指し示す道に従え……」

 

 フォーリナーは数節ほどの短い詠唱を繰り返し、全身真っ黒で顔のない悪魔や、体を鱗に覆われた馬面の鳥をいくつもルーラーへと向かわせる。しかし、そのいずれもが彼女の前では一撃で絶命し、霧散していった。

 使い魔だけでは時間稼ぎにならないとみて、ワンピースの裾を触手に変じさせて攻撃とする。しかし同時に襲いかかった三本をすべてくぐり抜けられ、飛来するルーラーは蹴りを放った。

 対するフォーリナーが咄嗟に紡ぐ詠唱はその場に食屍鬼(グール)を喚び、肉盾として耐え凌ごうとするものの、ルーラーの脚は容易く彼を破壊する。

 

「なんと出鱈目な……あっ、やば……っ!?」

 

 使い魔が破壊されてゆく光景に目を丸くしながら、バックステップによる退避を試みるフォーリナー。

 ルーラーはそんな彼女を逃がさない。竜の爪がしっかりとフォーリナーのワンピースを掴み、力尽くで引き戻し、そのうえで腹部に拳が叩き込まれる。

 

 少女の小さな体は大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられると、脱力したまま地面に落ちる。フォーリナーは口から血を吐いて、己の内臓が傷つけられたことを確かに認識する。

 

「げほっ、げほっ……これは、いくつか破裂してるやつですね。さすがに直接戦闘では敵いませんか……!」

 

 霊基を作り直しても、キャロル自体は神秘を宿していない普通の人間だ。フォーリナーの肉体のステータスランクはいずれも最低クラスであり、真っ向からルーラーの攻撃を受けて無事ですむわけがない。

 消滅を免れただけ幸運だったと言えよう。

 

 目の前には迫り来るルーラー。彼女の靴がこつこつと音を立てる。フォーリナーは内臓の損傷が激しく、思うように動けない。

 まるでアーチャーを失ったあの時のような状況に、フォーリナーは奥歯を強く噛んだ。そして悔しげに二度、自分の寄りかかっている壁を拳で叩いた。

 

 それを合図に、物陰から2つの人影が動き出す。

 

「高潔を謳い、我が敵を押し流せ! 『無毀なる清廉(オートクレール)』ッ!」

 

「回る回る、炎は回る── 『陽炎の幻想(フレイム・ナイトメア)』」

 

 放たれるのは光り輝く魔力の刃と、炎にて形作られた深紅の剣だ。

 セイバーとアヴェンジャーによる宝具の解放に対し、ルーラーは接近を察知して振り向き、大穴の宝具『天雷届かぬ凪の洞(コーリュキオン・アントロン)』の行使によって対処する。

 刃も炎も吸い込まれ、展開された穴の内部に爆音を響かせつつも、ルーラーは表情ひとつ変えようとしなかった。

 

 しかし、2騎の宝具とて負けてはいない。やがて空間に大口を開けたルーラーの宝具は、過負荷により維持できなくなっていく。

 淵が歪み、魔力を殺しきれずに煙を吐くようになり、最後には急激に縮小されていく。吸い込めなかった炎と刃がルーラーを襲い、着弾とともに爆炎と爆風を起こし、周囲の家具を破壊する。

 

 ルーラーはその勢いでキッチンまで飛ばされていったが、平然と着地し、再びフォーリナーたちの前に姿を見せる。

 2騎ぶんの宝具を同時に受けたものの、コーリュキオン洞窟がその威力を大きく減衰させたがゆえに、彼女はいまだ健在だ。

 

 そんな彼女の四肢に、今度は忍び寄っていた影が襲いかかる。フォーリナーの差し向けた触手たちだ。両腕に絡みつき、動きを封じようと試みる。手首を縛りあげ、次は足首だと蠢き、その時既に手首の拘束は力ずくで引きちぎられていた。

 そのまま足首へと向かっていた者も踏み潰され、フォーリナーによる拘束は失敗に終わる。

 

 続けて戦いを挑むのはセイバーだ。触手を踏み殺したルーラーに剣を構えて斬りかかり、振り下ろし、回避されても攻撃の手を緩めない。

 

「んの……優雅に避けやがって! なんとか言ったらどうだよッ!」

 

「戦闘中に饒舌になれとは、命令されておりません」

 

 聖剣を振りかざし、自分に身体能力で勝るルーラーへと食らいつく

 セイバーの斬撃を回避し、時に龍鱗に覆われた表皮で受け流していくルーラー。

 

 それが繰り返されること十数度目。跳んでセイバーの攻撃を避けたルーラーへ、今度は何発もの火球が飛来する。アヴェンジャーの仕業だろう。

 

 それらはただ多量に放たれたのみで、威力はさして強くなかった。ルーラーがかき消そうとすれば、簡単に掻き消える。事実、尾を一度振り抜いただけで消えてなくなった。

 

 しかし、本命はそんな弱い火の玉ではない。それを囮にしている隙にフォーリナーが立ち上がり、セイバーに思いっきり背中を蹴ってもらい、ルーラーのほうへ飛んでいく。

 

 退避の間に合わなかったルーラーの体には触手が絡みついた。そのうえでフォーリナーが彼女を押し倒し、握りしめていたなにかをその口にねじ込んだ。

 

「……!? むぐっ、いっ、たい何を……!?」

 

「今のは私特別製の毒リンゴです。君のために用意したんですから、味わってください」

 

 咄嗟のことにフォーリナーを振り払うことを優先したせいか、ルーラーはそれを飲み込んでしまう。それを見届けると、フォーリナーはさらに1枚の羊皮紙を取り出し、手をかざして魔術式を起動させる。魔力を通した瞬間、緻密に綴られた大量の文字が詠唱となり、彼女の手に雷を作り上げる。

 

「……君の力、少しばかり借りますよ。

 喰らいなさい、雷神模倣術式『イリヤ』──ッ!」

 

 フォーリナーがその手から雷を解放し、圧縮された雷霆がルーラーの胸を貫いた。一瞬、周囲は雷霆から放たれる光に眩しく包まれた。

 

 ──フォーリナーは、ルーラーを正攻法で倒すのは難しいと判断し、その生前の死因をなぞろうと考えた。

 

 女神に匹敵する強大さ、竜の姿、そして『コーリュキオン洞窟(アントロン)』。

 フォーリナーがそこから導き出した真名は、ギリシャ神話最大の怪物『テュポン』。

 母は大地母神ガイア。父は奈落そのものであるタルタロス。天を衝くほどの巨体で、蛇体を持つといわれる怪物。

 最高神ゼウスと激しい戦いを繰り広げ、一度は彼を倒しコーリュキオン洞窟に監禁したほどの強大な存在だ。

 

 そんなテュポンは騙されて願いの叶わなくなる『無常の果実』を食べた後、ゼウスの雷霆によって敗北したという。

 フォーリナーはそれをなぞり、果実と雷霆という手段を選んだのだった。

 

 光が晴れた後、フォーリナーの目には、焼け焦げた布と、自分の下で倒れているルーラーの姿が映る。

 それを目の前には勝利を確信し、フォーリナーの触手たちは脱力し、彼女自身は胸を撫で下ろそうとしていた。

 

「これで……やっと……」

 

「──いいえ。残念ですが、私はまだ死んでいませんよ」

 

 フォーリナーの腕を掴む竜の爪。その力は強く、簡単には振り払えない。すぐに尺骨と橈骨が破砕され、彼女の手はぶらんと垂れ下がる。

 

「ひっ、わ、私の手がっ……と、というか、な、なんで……!?」

 

「答えは簡単ですよ。私は、貴女が殺そうとした怪物(テュポン)ではないからです」

 

 根本的に読み間違えていたのだ。それで果実と雷霆が意味を成すわけがない。

 

「ならば……君は、一体……?」

 

(テュポン)は私をこう呼びました。

『デルピュネー』、と。

 女神(ヘラ)は私をこう呼びました。

 『ピュートーン』、と。

 貴女たちも好きに呼ぶといい。私はそのいずれでもあるのですから」

 

 デルピュネー。先程語ったテュポンがゼウスを監禁した際に、コーリュキオン洞窟の番人となった半人半竜の女怪。

 ピュートーン。アポロンとアルテミスの母レトを襲った大蛇であり、テュポンの乳母だったともされる雌蛇。

 その2つは同一の存在であり、それがルーラーの正体だという。

 

 つまらところ──フォーリナーは、賭けに負けたのだ。

 それを理解した彼女は、呆然とするしかなかった。ピュートーンを殺した太陽神の矢など、ここにあるはずがないのだから。正攻法を使おうとしても、フォーリナーの詠唱が終わるより前に首を折られて終わりだ。

 

「あ、はは……ごめんなさい、アーチャー。私は……」

 

「──駄目よ。作者が諦めたら、誰が物語を完結させるの?」

 

 その言葉と共に、炎がルーラーに降り注ぐ。彼女はフォーリナーを炎に向かって投げ飛ばし、着弾点から離脱する。炎の中に放り込まれたフォーリナーは熱さに包まれるが、不思議と霊体は損傷せず、暖炉にあたっているようにさえ感じられた。

 

 顔を上げると、立っているのはアヴェンジャーだ。

 

お父様(マスター)のこと、信用しきったわけじゃないわ。だけど、こんなところでお話を放り投げるなんて、童話(ナーサリー・ライム)一部(ひとり)として放っておけないんだもの」

 

 目を合わせようとはしないアヴェンジャーに、フォーリナーが吃って言葉を返せないうちに、セイバーも傍らに立ち、手を差し伸べてくれる。

 

「オレだって叶えたい夢がある。そいつを掴むために、今はアンタの手が必要だ。

 アンタにもあるんだろ? 夢ってやつがさ」

 

 フォーリナーは少しだけ躊躇って、その後にセイバーの手を掴んだ。全ての子供たちを、笑顔にするために。

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