Fate/Kindergarten   作:皇緋那

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開戦──トゥ・ザ・ビギニング(後)

 突如現れた敵を前にして、セイバーは主が退避する猶予を作るために大きく踏み込み、打撃を受け止めんとした。

 斬り上げと振り下ろしが激突し、火花が散る。英雄譚に語られる剣と、少女の体格に似つかわしくない大振りの杖が交差する。

 

 明らかに少女の一撃は重かった。少年と化しているセイバーとて戦場を駆け抜けた騎士、力の逃がし方は心得ている。だが、そのうえで刃を通してビリビリと衝撃が伝わってくる。そのまま押しきろうとする力も、小柄な体格に似合わず異常に強い。

 

 このまま受け止めていては競り負ける。そう判断し、セイバーは後方へ跳んだ。それを追って少女もまた地面を蹴り、勢いを乗せて横薙ぎに杖を振り抜く。

 セイバーは再び受け流し、カウンターに斬撃を放った。少女は体を逸らして対応し、髪の先が切れ飛んだ。ダメージは与えられていない。

 

 続く攻撃でも二振りの武器が激突する。やはり衝撃は重い。少女が軽々と振るうには、重すぎる武器だ。だが技量はセイバーが上。セイバーは彼女の本来の武器はこの杖ではないと睨んでいた。

 

 そのまま四度目、五度目と打撃を剣が弾いていき、木々が倒れ、草花が巻き上げられていった。

 しかしまだ互いに有効打を与えられず、少女には切られた髪先以上の傷はない。

 

「へぇ。あなた、頑張り屋さんだね」

 

「そっちはずいぶん力持ちだな。だが、闇雲に振り回してちゃただの自然破壊だぜ」

 

「あなたこそ。その真っ黒な魔力のままに暴走したら、悪い子になっちゃうよ」

 

 セイバーは軽口をたたきながら、目の前のサーヴァントへと彼の持つ人間観察スキルを行使する。

 曲者揃いのシャルルマーニュ十二勇士において培われたそのスキルは、マスターに与えられる特権と同等の力を持つ。即ち、ステータスの閲覧が可能なのだ。

 

 クラスはアーチャー。先程ベルチェを襲った矢の主が恐らく彼女なのだろう。身体能力はセイバーとほぼ互角、筋力についてはそれ以上。A+という数値は人の身の限界だ。

 少なくとも、彼女は強敵とみて間違いない。

 

「そろそろ、いい?」

 

 やがて、アーチャーは退屈そうに首をかしげ、セイバーが肯定するより先に踏み出していた。思考を戦闘に引き戻し、全力で跳躍する。

 セイバーは振り下ろされる鈍器を飛び越え、上空から剣を振るった。アーチャーは魔力の矢を編み、投げつけてそれを迎撃する。

 

 鏃が炸裂し、魔剣から放たれる魔力の奔流とぶつかりあった。衝撃は相殺され爆風が吹き荒れる。その内側からセイバーが飛び出し、アーチャーへと剣を叩きつける。

 

 杖の柄が刃を止めるが、セイバーは再び跳んで距離を取ると同時に魔剣を振るった。剣に嵌め込まれた宝石が輝き、その魔力が斬撃に変換され、アーチャーを切り裂かんと飛来する。

 彼女が杖を以て迎撃し、斬撃は霧散してしまうものの、杖の被弾箇所にはわずかに傷がついている。

 

 それでも、アーチャーはセイバーの着地を狙いすぐさま動き出していた。セイバーは強力な一撃との激突を避けるため受け流す姿勢をとり、アーチャーの攻撃を最低限の接触で逸らす。

 だが、今度のアーチャーは杖での攻撃が逸らされることを計算に入れていたらしい。本命として、彼女は手元に作り出した矢を投げつけたのだ。

 

「──マスターッ!」

 

 それがベルチェを狙ったものだと悟り、セイバーは飛び込んだ。矢は既に先端が異常に膨張しており、まさに炸裂しようとしている。

 

 刃での撃墜は間に合わないと判断し、魔力の放出で相殺するために剣を構えた。

 そして、ほぼ同時にセイバーの背中に衝撃が走る。アーチャーの持つ杖だ。

 不意の一撃を喰らい体勢が崩れる。踏みとどまるための一歩で攻撃が遅れ、炸裂した断末魔が周囲の木々を破壊し、隠れていたベルチェに迫っていく。

 

 彼女は魔術により大量の鎖を召喚し壁を作ったが、相手はサーヴァントの武具である。防ぎきれずに壁ごと吹き飛ばされた。セイバーは彼女を受け止め、片手で剣をアーチャーに向けたまま語りかける。

 

「助かった。ありがとう、セイバー」

 

「おい、大丈夫かよ」

 

「正直めっちゃ痛かった。サーヴァントってすごい」

 

 炸裂の威力を殺しきれずに受けてしまったベルチェは、涼しげな顔で治癒魔術を行使している。

 だがセイバーは彼女の異常を見逃さなかった。呼吸が乱れ、額には冷や汗が滲んでいたうえ、治癒魔術もうまく作用していないようだ。

 

 考えられるのは、あの爆発に呪いの類が込められていた、という可能性。仮にそうでなくても、マスターの危機だ。今すぐに撤退すべきだろう。敵サーヴァントがそれを許してくれるとは、到底思えないが。

 

 アーチャーの投擲する矢、そして彼女の繰り出す打撃が襲ってくる中、セイバーは回避と逃亡を繰り返し、ベルチェを守ることに徹した。

 攻撃に切れ目は見えず、戦闘から離脱できるほどの隙はありそうにない。

 それに、恐らく魔力の供給が阻害されている。セイバーのステータスが低下しているのだ。

 

 ベルチェを抱えたまま、魔力も十全でない状態で、このアーチャーから逃亡しなければならない。そんな芸当ができる英霊は限られてくるだろう。

 

「ごめん、セイバー。私の体、変になってるかも。たぶん、しばらくまともに魔力供給できない」

 

「あぁ、オレも本調子が出ねえ。このままだとジリ貧だ」

 

「……うん。だから、今から令呪を使う。セイバー、一発で決めて」

 

 令呪──マスターに与えられる絶対命令権。サーヴァントを縛り付けるだけでなく、時には彼らの力を補助する役目も担う。その使用はたった三度のみ。ここでひとつ使えば残りは二つ、それしか奇跡を起こせない。

 そのことを踏まえると、セイバーには快い返事はできなかった。まだ相手は手の内をほとんど見せておらず、こっちの切り札を出すには早すぎる。

 

 しかし、セイバーが決めあぐねているうちにもアーチャーの攻撃は続く。

 

「あはっ、追いかけっこ? 負けないよ!」

 

 なにも知らぬ幼子が戯れるように、後退するセイバーを追うアーチャー。サーヴァントによる高速の追走劇は初め戦っていた森を抜け、住宅街へとさしかかろうとしている。

 そのうちに距離は詰められ、大質量の鈍器がセイバーを叩き潰そうと振り上げられ──その時、ベルチェの声が響き渡る。

 

「令呪を以て我が剣に命ず! アイツをぶっ飛ばせ!」

 

  ベルチェの右手の聖痕がひとつ解け、魔力の塊となってセイバーへと流れ込む。彼の低下したステータスを補って余りあるその燃料は、彼にアーチャーの打撃と打ち合うことを可能にさせた。

 魔剣は大杖と火花を散らし、それを押さえ込んだ。更に使い手の何十倍もあろうかという重量を制すべく輝きを増し、清廉なる魔力を溢れさせる。

 

「……そうだよな。ここで終わったらカッコ悪いって、王様に怒られちまうっての!

 高潔を謳い、我が敵を押し流せ!

 ──『無毀なる清廉(オートクレール)』ッ!」

 

 セイバーの持つ剣、オートクレール。真名解放により聖剣としての力を示すこの宝具は、決して砕けぬ刃に魔力を注ぎ込み、光の斬撃として解き放つ。

 セイバーはアーチャーの杖を押さえ込んだまま振り抜き、今までの黒く染められた呪いではなく清き奔流を迸らせた。

 

 アーチャーが杖を手放し、回避行動をとるころには既に遅かった。手放された杖は光に呑まれ、跡形もなく崩壊し、しかし三日月型の斬撃は止まらない。跳躍による退避を試みるアーチャーへと迫り、その細腕を切り飛ばす。

 

 霊核の破壊には至らずとも、この場で戦い続けるのなら致命的な傷だ。そのうえ得物を失っている。アーチャーは驚きの目を見せ、そのすぐ後には笑っていた。

 

「へぇ、さすがは十二勇士。剣からそんなの出せるんだ」

 

 オートクレールと名を聞けば、聖杯に知識を与えられたサーヴァントたちはそれが聖騎士オリヴィエの剣だと即座に認識するだろう。窮地はひとまず脱したものの、令呪を消費したうえ、真名を見抜かれている。

 

 だが、アーチャーはセイバーには思いもよらぬことを口にする。

 

「オリヴィエお兄ちゃん、せっかくだから教えてあげるね。私の名前は『イリヤ』。今度会う時は、もっと本気で遊ぼうね」

 

 そう言ってアーチャーは大きく跳躍し、視界から消えていった。

 

 一方セイバーは、弱体化させられている身で追うわけにもいかず、すぐさまその場からの撤退を余儀なくされる。他のサーヴァントに勘づかれれば、今度こそベルチェを守りきれないかもしれない。

 

 セイバーはベルチェが親指を立てたのを見るとともに、その場からすぐさま離れるべく動き出す。

 

「ありがとう、セイバー」

 

「舌、噛むぞ」

 

「噛み慣れてる。それに、謝らなくちゃいけない。私があんなところで立ち止まってたから」

 

「そういう話はナシにしようぜ。今はゆっくり休めよ、マスター」

 

「……うん。観光はあとにする」

 

 幸いサーヴァントの気配はない。高く昇った太陽のもとを駆け抜けて、戦いを終えたベルチェとセイバーはホテルに帰りつく。

 ──帰りついてから、セイバーのために買った衣服を置いてきてしまったことに気がつくのであった。

 

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