美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
チャンネル登録者数 862人
段々と増えていく同接とチャンネル登録者数に比例するように、わたしの胸中には後悔の念が積み重なっていた。
とりあえず時間になったから配信を開始したはいいものの、未だに勇気が出ないせいでマイクのミュートは解除できていない。
さすがに数分間も無言だと視聴者も異常を感じ取ったのか、チャット欄では心配する書き込みと急かすような書き込みが増えている。
うぅ、なんでこんなことになったんだろう……。
最初はただちやほやされたかっただけなのに。
わたしは現実逃避をするかのように、過去に思いを巡らせた──。
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#1 サンタさんはとんでもないものを盗んでいきました
夢にサンタさんが出てきたから「美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!」って願ってみた。別に変態ではない、誰だってそんな願望はあるだろう。あるって言ってくれ、言ってください。
そんな訳で、気がついたらオレはわたしになっていた。自分でも唐突だと思う。
◆
今生の名前は
転生した当初はTS転生なんて状況についていけなかったが流石に4年もすると受け入れられるもので、今では可愛いぬいぐるみ片手に女の子と遊べるまでになった。創作でよくある精神年齢がー性別がーなんて特に抵抗はない。
そう、わたしは流水のような心ですべてを受け入れ受け流すのだ、あるがままに。
「こよいちゃん、うさちゃんはライダーさんとたたかわないよぉ」
「ん、大丈夫。最後はうさぎが勝つから」
「なにもだいじょうぶじゃないよぉー」
なに、おままごとは人形を戦わせるものではないのか!?
心に従うまま遊んでいると次第にわたしの周囲からは友達が1人、また1人と減っていった。
どうやらうさぎのぬいぐるみとライダーの決闘でライダーが勝たないのが問題らしい。知らんけど。
別におままごとなんだからどっちが勝ってもいいじゃないか!
そんな幼少期を経てわたしは早々に小学校へ入学、そして特に何もなく問題無く卒業した。
ここで問題が一つ。
わたしは「美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!」と願って転生してきた。しかし現状はちやほやどころか友達ゼロ人ボッチ生活である。
どうしてこうなった。どうしてこうなった!?
人生2周目ならチート状態で無双できると思っていた。
例えば2周目なのを活かして子役デビューとか、あらゆる芸事に精通してるとか。
しかし現実はどうだ。
習い事をするわけでもなく毎日をダラダラと生きて、かと言って特に特技があるわけでも才能に恵まれているわけでもない。友達100人どころか1人だって怪しいところだ。
中学校入学を目前にしてわたしは気づいた、気づいてしまった。
もしかして今生も無駄に時が過ぎていくだけでは……?
このままではいけない、良くないなさ過ぎる。
わたしは、中学デビューしてちやほや生きる……!
そう決意して、3年が、過ぎたッ!
「明日は入学式」
中学3年、なんの成果も得られずッ!
中学デビューなんて決意しておきながら、いつかきっと何かが起きると毎日期待して。そんな期待だけ胸にわたしは遂に高校入学を迎えようとしていた。
そう、心構えだけは一人前。
無為に生きないために変わろうと危機感をビンビンに察知しながら、しかし何も実行せず
何時だって人は心の中でごちゃごちゃ思う癖に、いざ実行はせずご立派に焦燥感だけ募らせる。
都合良く生きたいと転生しても、性根も、どこまでも残酷に無慈悲な世界のシステムも変わらず。
わたしは、高校入学を迎えたのだった!
◆
「黒音 今宵、です。えっと、趣味は読書で、特技は……特にないです。よろしくおねがいします……」
この女は学ばない。
どこまでも愚かしくも学ばない!
頭の中ではごちゃごちゃと思考を巡らせる癖に口を開けば声が出ず。そしてトーク力皆無。
絶望的、コミュ障……ッ!
またしても高校デビューならず。
周囲から疎らな拍手が虚しくて胃に痛い。
「じゃあ次は僕だね。小林晴人、中学ではサッカーしてました。好きなことは友達と遊びに行くこととカラオケかな。この学校、うちの中学から来てる人少ないから友達たくさん作りたいなって思ってます。LINEとか大歓迎だから、よろしくね」
「はるとくーん、私と交換しよー」「えー私もー」「今度サッカー部見に行こうぜ!」
つ、つぇえええええ。
後ろの席の小林くんがあまりにもコミュ強過ぎて眩しい。
わたしの自己紹介なんて前座にもならない、本当のカーストトップってものを見せつけられた気分だ。
キャーキャー喧しい女子と同じに思われるのが嫌で、頑なに後ろを振り向かないが分かる。
ヤツはそのサラサラの茶髪に甘いマスクをニコニコとさせながらクラスでの立ち位置を既に確立しているのだ。オマケにどこの有名人だよってばかりに周囲に手を振っていることだろう。教室で手を振る意味がわからん、全く理解できない。
劣等感と重圧に押しつぶされそうになりながらも、自己紹介はその後も恙無く行われていく。結局クラスで一番印象の薄い自己紹介をしたのはわたしだろう、自分でもそう思う。
そして教師から細かい説明がされて、本日は解散。
わたしは教科書で随分と重くなった鞄を抱えるようにして持った。
「あ、黒音さんだったよね。この後みんなでカラオケでも行こうかって話してるんだけど良かったらどうかな?」
声を掛けてきたのは、小林くんだ。
「え、あ、その」
「ああ、もしかしてこのあと用事でもあったのかな。引き止めちゃったりしてごめんね」
「いや、大丈夫です……」
同級生相手に吃って気を遣われて最後は敬語ではいサヨウナラ。
あまりにも惨めじゃありゃせんか?
ここで間違っても小林くんに逆ギレしないようにしましょう。
彼は徹頭徹尾こちらを気遣ってくれていますし、返事を返せないでいるとわざわざ逃げ道を作って帰してくれるのですから。
こんな非の打ち所がないツヨツヨコミュ強なかなかいませんよ。強いて彼の落ち度を言えばわたしのようなザコザココミュ障に声を掛けたという点でしょうか。
まあ、そんなこんなでわたしの入学式は呆気なく幕を閉じた。
一生に一度、転生して二度。今後を大きく左右する入学式はやはりまたしても気持ちとは裏腹に何も出来ずに、終わった。
◆
「ただいま」
って言っても返事はないんですけどね。
帰ってきたらまずパソコンを起動させる。そしてその間に着替えを済ませて、わたしは日課のネットサーフィンに勤しむ。
学校で喋らずに家じゃ四六時中パソコンカタカタカチカチ。ははっ最高の青春。
日中のネットニュースを適当に流し見して、そんなにフォロワーのいないSNSに「きたくった」とだけ呟いておく。
リアルの友達いなくてもネットにはたくさんいるもん! なんて都合のいい話があるわけでもなく、やはりこちらでも友人と呼べるような相手はいない。せいぜいたまにゲームについて一言二言リプライを飛ばし合う程度の浅い関係だ。
ある程度のルーティンを終えると次はソシャゲのログインボーナスやスタミナを消費しながら、片手間に適当なまとめサイトをこれまた適当にタイトルだけ見てリンクを何度も飛んでいく。
気になったタイトルの記事を斜め読みしながら、そして幾つ目かのサイトでひときわ目を引くタイトルを見つけた。
「あぁ、もうそんな時期か」
最近忘れがちだがわたしは転生者である。
そしてこの世界は流行り異世界でもなければラノベチックな現代異能世界でもない、ごくごく普通な世界である。
とはいえ前世と何から何まで同じというわけではなく、聞き慣れた有名人に混じって知らない有名人がいたり、逆に超大御所の存在が消えていたりするので、ここは前世の並行世界とわたしは解釈している。
で、大事なのはここから。
現在は2017年である。
そしてわたしの前世は2020年までカウントされていた。
つまりわたしの転生はTS転生はTS転生でも、その中の一ジャンル『逆行TS転生』だったわけだ。
いや、逆行したなら未来知識でもっと上手く立ち回れよって気持ちは分かる。わたしもweb小説とか見る時今でもツッコむもん。けどさ、この世界は類似した並行世界なんだ。ライダーはいても戦隊はいないしFFはあるのにDQがない、何ならマジで信長は女で信姫と呼ばれていた世界だ。
そんな世界で未来知識使ってわたしTUEEEE!!とか出来っこないって。4歳の頃にそういうのは卒業しましたよ。
──閑話休題。
2017年といえばオタクにとっては忘れられないVtuber黎明期だ。
今まで日の目を見なかったVtuberは年末のとある出来事をキッカケに爆発的な勢いで普及していった。
そして今生に於いてもVtuberは問題なく存在している。
ただし親分と呼ばれた彼女の姿はなく、その位置には代わりのVtuberがいて現在も第一線で戦い続けている。
もしも年末のアレが起きなくても今までの経験則から言って、歴史は大なり小なり似たような道筋を辿るように出来ているのでVtuberは多分ここから一気に流行っていくと思う。
今のうちに先行投資でもして後方古参ファン面する準備でもしようかなぁ……。
まあ、まだ4月なのでしばらくは放置でもいいだろう。
そんなことを考えながらわたしはまた別のまとめサイトに目を通すのだった。
【美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!】から本物のVtuberを見始めたり、むしろVtuberデビューしましたって人どれくらいいる?
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Vtuber見始めました
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Vtuberになりました
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元から見てました
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元からVtuberでした
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見てないしなってない