美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!   作:紅葉煉瓦

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#142 深まる誤解

「でも、黒音さんに悪い虫がつく前に私たちでクリスマスの予定を埋めるのは悪くないわね」

「へ?」

 

 いつも女の子に優しくし過ぎだとか気のある台詞を言いすぎだとか、目の前で繰り広げられる痴話喧嘩という名の惚気からしばらく。

 言いたいことを言ってどこかスッキリした表情のスズちゃんがわたしに向かって言った。

 

「えーっと、それはもしかしてクリスマスデートにわたしも参加しろって話?」

「デートじゃなくてパーティね」

 

 いや、さっきまで散々見たくもないイチャイチャを目の前で見せつけられたのに、その上でふたりきりのクリスマスパーティに誘ってくるとかどんな神経してるんだよ。

 

「いいね! マイは誘っても来ないから毎年二人だけだし、今年は三人で楽しく過ごそうよ!」

 

 うわ、こっちも乗り気じゃん。

 まあ、意外と嫉妬深いスズちゃんから誘ってきたわけだし、楽しいこと好きのトモちゃんからすれば彼女からのお許しが出れば人数が増えるのを断るわけ無いか。

 でもこれで参加するなんて言えば、どう見てもわたしは百合の間に挟まるおじゃま虫になって気まずい思いをするのは確定だ。

 どうせスズちゃんも本気で誘ったわけじゃなくて、友だちだから気を遣っただけだろうし、ここは適当に断って──、

 

「………」

「………」

 

 いや、二人の期待に満ちた目を見ればこのお誘いが気を遣った社交辞令ではなく、純粋に友だちと一緒にクリスマスを過ごしたいという想いなのは明白だ。

 だったらわたしも変に遠慮なんかせずにクリスマスパーティに参加……、したいのは山々なんだけど既に予定が入ってるんだよなぁ。

 

「ゴメン、実はもう予定入ってるんだ。だから一緒に遊べない」

「そっかぁ~。残念だけどもう決まってるなら仕方ないね」

 

 思えば、いつもイベントシーズンに遊びに誘われても、毎回配信やレッスンでスケジュールが埋まっているからほとんど断っている気がするな……。

 ほら、VTuberってイベントシーズンはなにかしないといけない風潮あるし。

 いちおう、九条さんはわたしが学生だからある程度融通を効かせてスケジュールを組んでくれてはいるけど、どうしても案件先やスタジオの関係でズラせないことも多々ある。

 そのせいでクラスメイトから遊びに誘ってもいつも断るノリの悪いやつ認定されてなかったら良いけど……。べ、別にクラスメイトからの評価なんてどうでもいいけど、それが原因でイジメられるとかは嫌だから気にしてるだけだしっ。

 

「クリスマスに予定が入っている……、つまりケンタッキーのアルバイトね」

「あー、ケンタってバイトの面接でクリスマス空けられるか絶対聞かれるんでしょ? じゃあ仕方ないよ」

「そうね、ケンタッキーじゃ仕方ないわ。クリスマスのケンタッキーは戦場だもの」

 

 わたしの心配を他所に謎の自己解釈によってうんうん、と腕を組みながら何度も頷くトモちゃんとスズちゃん。

 え、もしかしてクリスマスに予定が入ってるって言ったせいでケンタッキーのアルバイトと勘違いされてる?

 普通、クリスマスに予定があるって言ったら他の友だちと遊ぶ約束してるとか彼氏彼女とデートの可能性を先に疑わないか?

 なのに真っ先にアルバイトって断言される辺り、わたしにそんな相手は一切いないと思われてる?

 

「んむむむ……」

 

 訂正したい。

 訂正したいけど勘違いはむしろ利用しろと言っていた天猫にゃんの言葉を思い出して踏み止まる。

 毎回遊びに誘っても断るのはアルバイトが忙しいと思われている方が都合がいいし、クリスマスはどうしてもスケジュールがズラせないと思ってくれているなら思い込ませるほうが都合がいい。

 むしろ誤解だと言ったところでVTuber活動を隠して忙しい理由を説明するのは至難の業だ。だってアルバイトもしてないぼっちの何が忙しいんだって話になるんだから。

 

 そして色々考え抜いたわたしは、

 

「ケンタッキー早割予約、まもなく終了でーす……お早めにー……」

 

 力なく流れに身を任せることにした。

 

 ◆

 

「はぁ、疲れた……」

 

 妙な誤解をされたせいで無駄な心労を抱えることになったわたしは、帰宅するとすぐに制服をその辺に脱ぎ散らしながら部屋着に着替え、思い切りベッドの上に寝転がった。

 ばふっとちょうど良い弾力で全身を受け止めてくれるマットレスの上で、意味もなく二度三度と弾みながら仕事用のスマホをチェックする。

 

「あ、提出物の催促来てた」

 

 常に仕事用のスマホを持ち歩いているから学校でもある程度は業務連絡やチャットに目を通しているけど、やっぱり帰宅して落ち着いてから再度目を通すと見落としに気づくことがよくある。

 こういうマネージャーからのリマインドは気づいてよかった反面、どうせなら一生気づかないほうがよかったなと複雑な気持ちになる。

 とはいえ提出物の期限が間近に迫ると九条さんは家にやって来て、ずっと背後で提出物が完成するまで仕事をしながら監視してくるので遅れる訳にはいかない。

 

 九条さんは今日中に提出しろと言ってきているけど、流石に急すぎるから一先ず来週中には必ず……、と遠めの期限で返事を返しておく。

 そして今週中……、週末には……、と段階的な攻防戦を繰り広げて、なんとか明日までの期限を勝ち取った。やったぜ。

 ……いや、冷静に考えたら来週と今日中の提示から最終的に明日って、まんまと九条さんにしてやられてないか?

 

「ま、まあいいや。それよりチャットの返事しなきゃ」

 

 昨日の夜から溜まっていた瑠璃さん(神夜姫咲夜)の愛猫画像に可愛いですねと適当に返して、相変わらずうるさい(十六夜)のラブポエムをスルーして、定期的に届く山田さん(リーゼロッテ)からのオススメWeb小説にいいねスタンプを付ける。

 最後にあるてまサーバーで相葉京介の名前を見かけたので「やーいハーレム野郎~」と雑な煽りをしてチャットのチェックは終了。

 他のチャットは学校で返事を返していたから、残っていたのは敢えてスルーしていた重要度の低いものだけだ。

 

 さて、帰宅してからやることは終わったので、次は明日の提出物でもまとめるかと考えていると新しいチャットの通知が来た。

 

旭≫同期に確認しました。コラボ大丈夫みたいです

 

 4期生の旭くんだ。

 恐らくタイミング的にわたしがあるてまサーバーに書き込むのを見て、チャットを送ってきたんだろう。

 

 彼には今朝のうちに我王に取り次ぎをしてもらって、4期生とコラボ出来ないか確認をしてもらっていた。

 正直、急にコラボしようぜ! なんて誘っても気味悪がられるかと思っていたのだが、どうやら我王と旭くんは男同士そこそこ交流があったようで、話自体はスムーズに進んだ。たまにはアイツも役に立つもんだな。

 

 いやぁ、それにしても旭くんは我王がいたから問題なかったけど、同期の子たちから「炎上してばっかりで頼りにならない黒猫燦とコラボなんてしたくない!」と手酷くフラレたらどうしようかと思っていたから、これで一安心だ。

 しかし我王のやつ、自分で4期生とコラボしてみないか? と提案しておいて、自分は取り次ぎだけで後は当人同士でよしなにとはなんてやつだ。

 あの流れで4期生コラボを提案されたら、たとえ当人がいなくても雰囲気的に断れないのは絶対に分かってただろ。

 まあ、アイツなりの「そろそろお前も4期生と絡んだらどうだ?」という気遣いなのかもしれないけど、それならそれで最後まで面倒みろよって感じだ。

 

 そう、わたしと4期生には直接的な絡みはこれと言って未だに無い。

 彼らがデビューしたのは夏の終わり頃だったから、タイミング的にはわたしは案件のためにベア子とコラボを増やしたり、その後謹慎したりで絡む機会がなかった。

 たまーにスタジオの入れ替わりで挨拶をしたり、事務所ですれ違ったりするぐらいで、会話らしい会話の記憶はほとんどない。

 そもそもわたしからキッカケもなく後輩に絡みに行くなんてハードルが高すぎるし、そのせいで向こうも炎上してばかりの先輩相手にどうやって絡んだら良いのか距離感を掴めないでいる。

 だからこそ今回のコラボは、ようやく4期生と交流が出来るキッカケとしてこれ以上ない機会なのかもしれない。

 

 ほら、わたしって今年に入ってから謹慎が多かったり、特定の人物とコラボばっかりしてるせいで鎖国気味というか、他のライバーと比べて目新しい交流がなかったからね。

 よーし、ここらでいっちょ先輩としてグイグイ後輩を引っ張って頼れるところ見せちゃおっかなー。

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