美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
各々が自由に行動を始めたので、仕方なくわたしの方から小休憩にしようと提案した。
もし仮にマネージャーが同席する打ち合わせだったら小休憩なんて提案できなかったけど、ライバー同士の打ち合わせなんて半分馴れ合いも兼ねているのでここはコラボの発起人であり先輩でもあるわたしが先導した形だ。
タイミング的にも自己紹介が一段落して空気が弛緩していたので、さほど問題はない。
それからしばらく、旭くんがUberで注文した牛丼を食べ終わるまでのあいだ適当に過ごすことに。
といっても一人だけ先輩のわたしは後輩女子たちが仲良く駄弁っている中に飛び込む勇気もなく、YouTubeで猫動画を見て過ごしていたんだけど……。
「ごちそうさまでした。……じゃ、やるか」
「あんたのこと待ってたんだけどね」
「別に待ってくれなんて言ってねーだろ。別に俺は牛丼食いながら打ち合わせしてもよかったし」
「いやいや先輩に対して失礼すぎでしょそれ。てかふつう打ち合わせ前にUber頼む? せめて置き配にして終わってから受け取らない? なにバカ正直に受け取ってんの」
「置き配で注文したのに勝手にインターホン鳴らしてきたんだから仕方ないだろ。ってか寝坊してきたお前に文句言われたくねー。打ち合わせギリギリまで寝るかふつう」
「はいはい、ふたりとも黙って。どっちも悪いんだからこれ以上黒猫さんに迷惑かけないように」
「はい」
「ごめんなさい」
相変わらずましろさんの同期に対する圧が強い。
まるで夏波結が黒猫燦に有無を言わせないときを彷彿させて、思わずわたしまで背筋がぴんっと伸びた。
「じゃ、じゃあ改めて打ち合わせ再開しよっか」
「うす」
「りょーかいです」
「お願いします」
ずっといがみ合っている旭くんと亜彩さんの二人だけど、わたしが言葉を発するときは茶々を入れずにちゃんと聞く姿勢を取ってくれるから根はいい子たちだと思う。
その様子にとりあえずの安心感を覚えながら、今日の目的について話す。
「えー、本日は急な呼び出しにも関わらずお集まりいただき誠にありがとうございます。今日集まってもらったのは他でもない、今をときめく新進気鋭の後輩たちと親睦を深めたく思い──」
「おい、もしかして今日の打ち合わせって思ったよりガチのやつかもしれねぇぞ」
「ちょ、黙りなって。うちらが知んないだけであるてまの打ち合わせってホントは堅苦しいスタイルなのかもしんないじゃん」
「これが、あるてま……っ!」
「ごめん、もっとラフにやるわ」
絡みの少ない相手に自分からコラボ誘うのって中々ないから、ちょっと緊張して変な言葉遣いになってしまった。
みんながみんなこんなノリで打ち合わせしてるって勘違いされたら後が大変だ。
二度三度と深呼吸を繰り返して気持ちを切り替える。リラックス、リラックス。
「旭くんから聞いてるかもしれないけど今回のコラボ、実は間に我王が挟まってたんだよね。わたしがコラボに飢えてたら四期生とやったら? って感じで、そこの紹介で実現したって感じです」
今度は今度でざっくりとした説明になったけど、まあ伝わればいいだろう。
「いちおう、なんかそれっぽい話は聞きました。まあ寝てたんでチャット斜めにしか読んでないけど……」
「我王先輩はデビュー当時から何かと気にかけてくれていたので、今回も私たちのために黒猫さんを紹介してくれたんだと思います。四期生は三人の少人数デビューですし、旭くんとシアちゃんはこんななので……」
「こん!?」
「な!?」
「我王の心配も無用なぐらい息ピッタリじゃん」
つうと言えばかあじゃあるまいし、ふつう打ち合わせもなく一つの単語を二人で言えないよ。
「いやいや冗談よしてくださいよぉ~。亜彩と同じ空間にいるだけで気分悪くなるし、むしろ吐きそうだし、息とか合わねーし」
「なんかここ臭くない? え、もしかして誰か吐いた? 息臭いよ旭」
「てめぇ起きてから口ゆすいでないだけだろ」
「は? 桃の香りだが?」
「それでコラボの詳細は決まってるんでしょうか?」
後ろで旭くんと亜彩さんがぎゃーぎゃーと騒いでいるが、お構いなしにましろさんが話を進める。
どうやらいちいち注意していたらキリがないと判断したようだ。
「えっと、なにするかはまだ未定かな。我王も紹介するだけして後は自分たちでやれって消えたし」
面倒見が良いのか悪いのかよく分からないやつだ。
キャラの癖はあるてまでも随一のくせに、自由奔放なライバーの中では常識人の彼だから色々と思うところがあるのだろう。
「ってことで今日はコラボでなにがしたいか、その辺も含めて話し合えればなーって思います。はい、意見のある人ー」
紹介とはいえ自分で誘っておいてどういう形式か何も決めてないのかよ、といったツッコミが入りそうだけどそこは仕方がない。
こういうのは持ち企画に呼ぶなら兎も角、初コラボで勝手に色々と決めてしまうと後で不満が残ったりするから参加者の意見を最初に伺うのはすごく大事なことだと思う。
急なコラボに誘われる回数で言えばVTuber界隈全体で見てもトップクラスのわたしだからこそ、その辺りの急に誘われた側のノウハウというのは豊富に理解しているつもりだ。
っていうか急なコラボという点だけで言えばわたしも我王経由だから四期生と立場的には変わらなかったり。
だからここはみんなでじっくり話し合おうよ。
「やっぱゲーム対戦とかいんじゃないすか? 最近はパーティ系のゲームも種類が豊富なんで」
「はい出た、ゲームウマ男アピール。あれでしょ、先輩ボコって俺つえーしたいだけでしょ。そんで先輩のリスナーに見せつけたいだけでしょ、だっさ」
「はー? 俺は初めましてでもゲームなら馴染めると思ってだな」
「はいはい、ゲームがないとコミュニケーション取れない現代人乙」
「キレそう」
「シアちゃんも現代っ子だよね」
いや、しれっと言ってるけどわたしが負けること前提で話が進んでるのどういうことだ?
普通に対戦ゲームで後輩ボコってわたしが格の違い見せつけるが?
というかゲームがいないとコミュニケーション取れないって全方向に刺さるからやめてくれ……。
「うーん、ゲームコラボは定番だけどいきなり初コラボでゲームっていうのも味気なくないかな? ほら、黒猫さんの枠にお邪魔するならきっと私たちを知らない人もたくさんいるだろうし、ゼロの関係性のままでいきなりゲーム配信よーいどんっはリスナーも困惑すると思うよ」
ここで四期生の良心、息吹ましろの発言だ。
彼女の的を射た言葉に先程まで言い争っていたクソガキズもなるほど、と納得した様子を見せる。
これが多人数のゲームコラボではなくタイマンのゲームコラボならリスナーも相手のことを徐々に受け入れてくれるだろうけど、流石に初見の顔が三人もいると名前を覚えるだけでも一苦労だろう。
基本的にコラボ配信というのはチャット欄を置いてけぼりにして相手と盛り上がることがほとんどな上、ゲーム中はたとえソロ配信でもチャットを見る暇がなかったりする。
そういう意味ではやはりリスナーの様子を伺いながら出来る、トークをメインにゆったりとした配信が初コラボに相応しいだろう。
どうやら先日天猫にゃんを相手に行った質問形式のコラボ経験が早速活きる予感だ。まあ、あれはドッキリのせいで不発に終わったけどね。
「だからここは黒猫さんクイズで私たちが如何に先輩のことを理解しているか、それをリスナーに見せつけるコラボが良いと思います!」
ん?
「やっぱり先輩後輩の上下関係は企業所属として大事だし、となると後輩がどれだけ先輩を理解しているか試されるクイズコラボは需要が高いと思うの。それにほら、黒猫さんの枠で黒猫さんをメインに添えた企画はリスナーも安心して楽しめると思う!」
「なるほど、たしかにご尤もじゃん」
「うん、さすがましろだね」
「いやいや、どこが!? ツッコミどころしかないが!?」
暴走するましろさんを止めるかと思いきや感心した様子の二人を前に、流石に口が出る。キミたちがノッちゃダメでしょそれは。
「なんで四期生招いときながら初コラボの場で黒猫クイズすんの!? しかも自分の枠で自分のクイズって、どんだけ自己顕示欲とマウント思考に溢れてんのわたし!?」
コラボが終わる頃にはリスナーからの黒猫燦評価は「後輩を自枠に呼んで自分のクイズを出しながら忠誠心を試す、自意識過剰ナルシスト野郎」に下落することだろう。
「いやいや、やっぱ後輩は先輩を立ててこそじゃないっすかぁ~。任せてくださいよぉ~バッチリ最高のクイズ考えてきますんで」
「わたしが回答側!? そっちが出題すんの!?」
理解が試されるって出題側の気持ちだったんだ。まあ問題作るのってけっこう大変だもんね。
って、その企画なんの意味がある!?
いや、でも一年前のサムネ覚えてるかクイズとか結構需要あるし、企画としては別に問題ないのか……。
だとしても初コラボでするような内容じゃないけどね!
流石に亜彩旭ペアは冗談だったのか、ひとしきりからかってきた後はすんなりと引き下がってくれた。
逆に今まで常識人だと思っていたましろさんは最後まで名残惜しそうにしていて、四期生のブレーキ役だと思っていた評価を下方修正する必要が出てきた。
こいつ、ベア子とかと同じ推しを前にしたら暴走する厄介なタイプだ。
ベア子はわたし個人に対してだけ感情が向けられているから分かりやすいけど、ましろさんはまだどこに地雷が潜んでいるか分からないから要注意だな。
「ま、まあ先輩クイズって発想は悪くないと思うよ。後輩だからこそ出来るネタだと思うし、うちのリスナーって単推しと箱推しでハッキリ別れてるから需要あると思う」
黒猫オンリークイズはわたしの評判が下がるから断固拒否だけど、あるてま理解度クイズならリスナーも含めて楽しめるだろう。
「じゃあ先輩が出題して俺たちが回答って感じっすか?」
「そうなるね」
問題を考えたりとか色々と準備が大変だけど、可愛い後輩の為ならこれくらいの苦労は受け入れよう。
準備にかかる時間から逆算してコラボの日程を考えていると、なにか閃いた様子の亜彩さんが口を開いた。
「どうせなら罰ゲームありでやろーよ。どうせ旭がやることになると思うけど」
「は? 今の提案後悔しても遅いからな? 事務所来るたびに焼きそばパン買いに行かせるからマジで」
「罰ゲームしょぼ」
どうやらクイズに罰ゲーム要素を加えるらしい。
まあ、こういう企画では罰ゲームは定番だし、出題者のわたしには関係のない話だから勝手にさせよう。
この二人は競争心を煽る方が燃えるタイプみたいだしね。
「後に引っ張ると面倒だしその場で出来ることにしない? 一番得点が低かった人は黒歴史公開とかどう?」
「黒歴史ぃ~? 別に構わねーけどそれってテキトーなこと言えば誤魔化し効かね? ダメージも個人によるしあんまフェアじゃねーよな」
「じゃあリスナーからもらった恥ずかしい台詞を全力で読み上げるとかどうかな? 黒歴史を公開するんじゃなくて新しく作る方向で」
「ましろそれ名案。はい決定、旭の全力黒歴史ボイス待ってまーす」
「上等だよ。負ける気とか全然しねーし。お前の黒歴史ボイス録音して一年間弄り倒してやるから覚悟しろよ」
というわけで、罰ゲームは満場一致で台詞の読み上げに決まったようだ。
これ、声の仕事に興味があるって言ってたましろさんからすれば罰ゲームじゃない気が……。
ま、まさかそこまで考えてさり気なく提案したとか?
息吹ましろ、恐ろしい後輩……ッ!