美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
優勝が決まったからといって残りのクイズが消化試合になるわけではない。
リスナーと解答者にとっては最下位を決めて罰ゲームを執行するまでが今回の企画だ。
当然、ましろさんが優勝するからといってそれ以降のクイズに手を抜くなんてことはなく、むしろ優勝が決定したからこそ慎重に行動する必要がなくなって積極的に早押しボタンを押すようになった。
とはいえ反射神経でいえば旭くんが一番、次いで亜彩さん、そして最後にましろさんだから彼女が一番最初にボタンを押すことは少なかったのだが、それでも問題の全文を把握する前に解答をするようになったましろさんはふたりにとって脅威だった。
それがどれくらいかと言うと……、
「えー、最後の問題だけどここまでのポイントはましろさんが25ポイントで旭くんが10ポイント、そして亜彩さんも10ポイント。全部ましろさんが正解しちゃってるから順位に変動がないね!」
..ましろ無双
..オイ!この女強すぎるって!
..強すぎるっていうかバカふたりが弱すぎる;;
..最下位のふたりに合わせて問題が優しくなってるせいでましろちゃんが予想で解答できるようになったからね…しかも噛み合いが良いときは最初にボタン押してるし
..早押しなら旭くんが圧倒的なんだけど弱すぎw
..これは想像なんですけどこの2人ならあるてまの会社名あるてまって思ってそう
「どうする? ましろさんの解答は強制的に最後にして一旦ふたりで争う? 私はどっちでもいいけど」
流石に最終問題も早押しでましろさんにかっさらわれてしまうと、旭くんと亜彩さんが消化不良になりそうだから提案しておく。
するとわたしの意図を汲んでくれたましろさんが続けて、
「私は最後でも大丈夫だよ!」
..(どうせ間違えるから)最後でも大丈夫だよ!
..つよい
..リスナーとしては罰ゲームメインの企画だから最下位が大いに越したことはないぞ!
ましろさん本人とリスナーは特に不満がないようで、後はふたりに託された。
「はぁ? ここまで不正解連発して最後はお情けで先制もらうとかダサすぎんだろ!」
「あ、うちは別にプライドとかないから先に答えるわ」
「って思ったけど勝負の世界に綺麗事なんてねぇよな! 息吹は指くわえて待ってな!」
「だ、ダサい……」
「あはは……」
そんな感じで最終問題は旭くんと亜彩さんのタイマンになった。
ふたりが間違えたら解答権は自動的にましろさんに移ることになるが、これまでの流れから見ておそらく彼女なら確実に正解することだろう。
つまりチャンスは1度きり。
これまで一番最初にボタンを押していたのは旭くんだが、流石に最終問題、それもタイマンともなると慎重に行動せざるを得ないはず。
なにせましろさんがボタンを押さない以上は二番手の解答者は問題の全文を把握できることが確定しているので間違えた瞬間、それが即ち敗北に繋がりかねないからだ。
「じゃあ、最後の問題を読み上げるね」
両者の間に緊張が奔る中、わたしは最後の問題をチョイスした。
「こほんっ、『黒猫燦の──』」
ピンポンっ、音が響いた。
「え」
「は」
「わっ」
「マジかマジかやっちまったぁああああああ!」
解答者は、旭くんだった。
「手が! 手が、ボタン当たった! 俺押してねって!」
「いーや押したね! 音鳴ったから押したね! みんな聞いてたよ! ほら、答えなよ! 問題なんだっけ? 黒猫燦の? ほら、答えなに!? 黒猫燦のなに!?」
「て、てめぇ、こんなときだけイキイキしやがって……!」
「あーっはっはっは、ウケる! 絶対に正解しないじゃんこれ! うち、勝った!」
「く、くそぉ……」
..勝ったな!(フラグ)
..小学生レベルの争いやめなさい
..あー、緊張すると指先震えるもんね。早押しだから相手より先に押さなきゃって意識で集中しちゃうし。誤爆はしゃーない
..流石にやり直しでしょw
..押したもんはしょうがない、正解すれば解決や
..やり直したところで今度は慎重になって早押しできない可能性もあるが
「あー、流石に最初からやり直す? リスナーも結構やんや言ってるし」
不測の事態。でもこういった問題ごとは一年以上の活動で何度も経験して慣れているので、唯一チャットを見れるわたしはリスナーの様子を伺いながら対応を開始した。
もしこのまま続行しようものなら旭くんのファンは結果に不満が残り、配信が終わってからもお気持ちを続けかねない。
その矛先は司会であるわたしだけではなく、タイマン相手である亜彩さんにも向けられることだろう。
まさか、そんなボタンを押し間違えただけで炎上するわけが。と思うかも知れないが、VTuberとはこういった些細な出来事からすぐに炎上をする存在なのだ。
そんな心配を他所に、いつもはテンションが低めの亜彩さんは楽しそうに、
「旭、旭」
「あ?」
「勝負の世界に綺麗事なんてない、だよね」
..あ
..あ
..あ
..あーあ
「発言、気をつけなよ!」
「う、うぜぇぇええええええ!!」
そんなこんなで、過去の発言の責任を取るように旭くんは潔く適当な解答をして自分の番を終えた。
流石に『黒猫燦の』という問題文だけじゃ勘で答えようにも範囲が広すぎて、旭くんのやけに当たる勘も力を発揮できなかったようだ。
で、次は順番通り亜彩さんに解答権が移ったのだが……、
「問題読むから亜彩さんはちゃんと最後まで聞くようにね。えーっと、『黒猫燦の配信タグは黒猫さんの時間ですが、黒猫燦のファンネームはなんでしょう』っていう引っ掛け問題だったんだけど……、引っ掛けるまでもなかったね」
..ラストに相応しい引っ掛けだったけど相手が勝手に自爆してったぜ!
..本来なら~ですがに警戒して早押しができない、それでもワンチャンにかけて早押しするかっていう心理戦があったはずなんだけどね…
..想像を絶するバカを前にすると作戦や計画が全部意味を成さないって本当だったんだ…あ、黒猫さんも同類か
..で、ファンネームってなんだ?
..ノミ、ダニ、ゴミ
..4期生推しで今日初めて黒猫さんの配信見たけど変なファンネーム付きそうだから見るのやめます
..ファン名乗りづらいw
言いたい。リスナーにうちのファンネームはそんなんじゃないから! とすごく言いたい。
しかし下手に反応をしてしまうと不正解をいくつか潰しかねないので、もどかしいけどここはぐっと我慢するしかない。
「先輩のファンネーム……」
早押しクイズにも関わらずボタンを押さずにじっくり考えてこんでいた亜彩さんがようやく口を開いた。
「あ、いちおう最後だしピンポンって鳴らしてもらっていいかな。ほら、気持ちよく終わりたいから」
しかし、亜彩さんのマイクからボタンを押す音は聞こえなかった。
「亜彩さん? どうかした?」
もしかして機材トラブルでも発生したのだろうか?
そう思って声を掛けると、
「……先輩のファンネームって、なに?」
..あー
..やっぱそうなるよな
..知ってた速報
..うち勝った、とは
..GG
「ちょ、待って。聞いたことある。なんかの配信で見かけたもん。えっと、たしか……」
「………」
「あれだ! オタク!」
「それクリスマスのやつ! クリスマス配信でも似たようなクイズ出てたけど!」
「亜彩、バカ乙! やっぱおめーは浅いんだよ!」
..wwww
..デスヨネー
..ノミだとかダニだとかゴミだとかオタクだとか
..本人も面白がってファンネーム適当になってるからな…
..まあ最近はファンネーム文化自体が形骸化してるし
色々と風評被害が酷いのでこのまま正解を発表しようかと思ったが、その前に最後の解答者がいることを思い出した。
「じゃあ最後はましろさん。ビシッと決めてください」
「はい! 黒猫さんのファンネームはご主人、ですよ。最初はリスナーもこの名前を気に入っていたんですけど、黒猫さんの度重なる自由奔放な行動や別の呼び方が定着して、今ではすっかり聞かなくなったファンネームです!」
「ぐはっ、そこまで解説してとは言ってない……」
..自由奔放(オブラート)
..問題行動って言ってええんやで
..最初はリスナーが飼い主だったけど制御不能だから野生にリリースされたんだよね…そのせいでノミとかダニとかゴミとか自然界にあるもので呼ばれるようになって…
..黒猫さんってユニークな先輩なんですねw
..初見が信じそうな嘘吐いてるやつおるな…
「リスナー! さっきから黙って見てれば好き勝手言って! 別にリリースされてないしノミとかダニとかゴミとか言ってないからな!」
..本当でござるかぁ~?
..言ってたような記憶が…
..それより終わったら進行しろ
くっ、進行しろって言えばわたしが素直に引き下がると思って……!
「はぁ……、じゃあ最後の集計するよ。まずはましろさん! 26ポイントで優勝だね。おめでとう!」
「ありがとうございます!」
..888888888
..;おめー!
..なにはともあれ優勝に変わりはないおめでとう!
..最後まであるてまつよつよなところを見せつけてったな
正直、旭くんと亜彩さんが弱すぎてどうなることかも思ったけど、それでもチャット欄はましろさんを祝福する言葉で溢れていた。優しい世界だ。
「優勝したからって特に賞品はないけど、今度事務所で会ったらコンビニスイーツでも奢ってあげます」
「やった! 嬉しいです!」
「ふふん、先輩だからね。遠慮しなくていいよ」
..コンビニスイーツでドヤ顔先輩面する女
..安い女だ…
..これでも今までで一番先輩らしいことしてるんだよね…
「じゃあ次は最下位の発表です」
「優勝か最下位しか発表されないってこの大会どうなってんだ」
「バグだよバグ。やり直そう」
「はいはいバカふたりは黙って受け入れなさい。旭、亜彩コンビが最下位ね」
「ぜってぇ亜彩が最下位だって! 俺のほうが10ポイントだった期間なげーし!」
「それ言ったら繰り上がりと繰り下がりでアンタのほうが下じゃん!」
「はー!? 俺のほうがムズめの問題答えたし!」
「それならうちは早押し正解してるし! ましろに一回勝ってるからね!」
発表前から既に騒がしかったふたりだが、わたしが名前を告げると更に勢いが増してしまった。
ルールだから仕方ないとはいえ、やはりこのふたりはどちらが上でどちらが下かハッキリさせたかったようだ。
まあ、わたしからするとふたりが同着最下位になったことで、旭くんが間違えてボタンを押した件も水に流れたみたいだから安心してるんだけどね。
「ふたりとも、そろそろ静かにしようね? 先輩の前だよ?」
「あ、はい」
「うす」
流石に収集がつかなくなると思ったのか、ましろさんが止めに入った。
さっきまでいがみ合っていたふたりも彼女の言葉を受けて、すぐに大人しくなった。ここまでお馴染みの流れになってるね。