美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
「……はい、枠閉じたよ。お疲れさま」
配信が終了したことを確認してからみんなに声を掛ける。
「お疲れさまでした!」
「おつしたー」
「……かれぇす」
時間で言えば配信は二時間ちょっと。
しかし回答者である四期生たちは常にコントのように喋り続けていたから、返って来た声色は配信中のそれよりもだいぶクタクタの様子だった。……まあ若干一名、配信前から変わらずに声のトーンが一定のヤバい人もいるけど。
何はともあれ、これでここ数日わたしの頭を悩ませていた後輩との初コラボは終了した。
後は面倒だけど、ここで軽く反省会というか感想会的なノリで今日の振り返りをすれば、ようやく肩の荷を降ろせる。
まあ、案件でもない個人間の配信だから別にこれといって話し合うことなんてないんだけど。
「いちおう先輩だから今日の配信とかVTuber活動について質問とかあれば聞きます。なんかあればどうぞ」
「あ、じゃあ質問なんですけど」
「はい、ましろさんどうぞ」
こういうときに率先して手を上げるのはやはりましろさんだった。
彼女はこほんっと咳払いを一つすると、いつにも増して真面目な様子で、
「暴走気味な同期のコントロールのコツってありますか?」
「あー。それ、はぁ……」
よりにもよって黒猫燦であるわたしにそれを聞くか。
自分で言うのもなんだが、わたしは二期生でも筆頭の暴走VTuberだ。
その本人にコントロールのコツを尋ねるとは……。
「えーっと、わたしとしては暴走というかテンションが急に上がっちゃうのは生来のものだから、本人がいくら自制しても抑えが効かないと思うんだよね。だから強いていうなら最初から興奮させないように立ち回るとか? あとアメとムチで気を逸らすとか?」
うぅ、自分で自分の欠点と対策を語らせられてるようで恥ずかしい……。
いや、まあ、分かってるならやられる前に自分でどうにかしろって話なんだけど、自分で自分の性格や特性をコントロールできるなら、そもそもこの陰キャ気質を陽キャにしてるわけで……。
人間、成長はしてもそんな器用に自分を律するなんて無理なんだよなぁ……。
「なるほど。パートナーによる調教が大事ということですね」
「ちょ、調教!? ま、まあそうとも言えるかな」
「ウマじゃないんだから……」
横から亜彩さんの冷静なツッコミが入る。
ましろさんの口から調教って言われると、同人音声的なあれを想像しちゃうな……。
「でも、ましろさんは充分上手くやってる方じゃないかな? わたしたちがデビューしたときはもっと全員グダグダだったし」
黒猫燦が暴走VTuberの筆頭とはいえ、二期生には他にも独自言語で人の話を聞かないやつとか、特定の物事になるとアホになる変質者とか、そもそも何を考えてるか分からないマイペースなやつとか。わたし以外にも厄介なやつは多い。
だからコラボをするたびにそれぞれが自分勝手に配信をするから終始グダグダで、まとめ役の夏波結はいつも苦労してた。
その点、四期生はましろさんが締めるところはちゃんと締めているから凄いと思う。
「うん。ましろは充分やってくれてると思うよ」
「あはは、シアちゃんがそれ言うんだ」
「ましろがいるからうちは好き勝手出来てるし。いなかったら多分ライン超えて今頃謹慎してるよ」
「シアちゃん、寝起きでも平気で適当に喋るもんね」
「ましろが見てると思って配信してるからね」
「その言い方はずるいなぁ……」
わたしがよく見る四期生は旭くんと亜彩さんが口喧嘩をする光景だけど、このふたりだけで会話するときはなんというか普通に落ち着いた同期の会話という感じだった。
うんうん、やっぱり同期は持ちつ持たれつの関係だよね。
四期生には四期生同士の絆がちゃんとあるみたいで先輩として一安心だ。……我々やらかす側が一方的に寄りかかってるように見えるのは気のせい気のせい。
それはそうと、亜彩さんとましろさんが同期の絆を再確認しているというのに、同じく同期の旭くんの気配が先ほどから感じられない。
最初の返事のときはいたと思うんだけど……。
「旭くん寝落ちした?」
「……ぁー、いるっす」
どうやら起きているようだ。
しかし声からは配信中のような覇気は一切感じられず、聞いているこっちが心配になるくらい怠そうだった。
「あ、そのバカのことは気にしないで大丈夫です。配信終わるとだいたいいつもこうなってるんで」
「えぇ……」
配信活動って何千、時には何万という人間を前に喋り続けるわけだから、配信中はアドレナリンで気にならない疲労感も、終わると同時に一気に溢れ出すことはよくある。
わたしも最初の頃は一時間喋るだけで疲れ果てて、その日はぐっすり寝てたな……。
まあ、こればっかりは慣れていくしかない。旭くんの目下の課題だろう。
「この状態だと何言っても適当に返事するから話しかけるだけ無駄ですよ。魂の抜けた置物だと思って放置してください」
「りょ、了解」
「あ、連絡事項はチャットに残しとくと次の日の昼には返ってくると思います」
亜彩さんが慣れた様子で旭くんの扱い方を教えてくれる。
ましろさんからの補足が入らない辺り、彼女たちにとってこれは何度か繰り返されてきたやり取りなんだろう。
寝不足や疲労でベロベロになった過去があるわたしでも、流石にそこまで頻繁に周りに迷惑はかけたことないぞ。……たぶん。
とりあえず、これ以上は質問もないだろうし配信後の反省会はこれくらいで充分だろう。
わたしから伝えることも特にこれといってないし、今日は解散だ。
「じゃあ、数日間の付き合いだったけどありがとね。また機会があればコラボとか出来たらいいなーって思います」
「はい! マイク磨いて待ってますね!」
VTuberのコラボしようねーってだいたい口だけでしないのが殆どだけど、ましろさんの圧を見るとなんか近いうちにアクションがありそうだな……。
まあ、内容次第で適当にのらりくらりと躱せばいいか。
「ま、そんなわけで終わりでーす。またね」
「お疲れさまでした!」
「おつしたー」
「ぁー……、おつでした」