美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
それから、少し早めの夕食を終えたわたしは旭くんと通話をすることにした。
打ち合わせ自体はわたしが代打で配信をすると決まった昼の時点で、マネージャーによってチャットで済ませている。学校で通話の出来ないわたしのために、読むだけで理解できる一方的な打ち合わせをしてくれた九条さんには感謝である。
じゃあ、なんで案件とはいえ配信まで結構時間があるのに旭くんと通話をするのかといえば……、やはり彼との間に感じる壁を少しでも取っ払いたいと思ったからだ。
先日のコラボ配信でも、他の四期生が集まるまで旭くんとは気まずい空気のまま無言で過ごした実績がある。
お互いに絡みの少ない先輩と後輩だから無言になるのは仕方がないけど、流石に二人だけの案件配信でこの空気感を引きずるのは相葉京介の代打を引き受けたわたしとしては彼に申し訳が立たないので、配信開始までに少しでも改善するべきだと考えた。
具体的にいえば天気の話題で盛り上がれる程度には仲良くなりたい。逆にハードル高くないか?
と、いうわけで。
「こ、こんにちはー」
「……どもっす」
「あ、今の時間はこんばんはのほうが良かったかな。こ、こんばんはー」
「ぁー、どっちでもいいんじゃないっすか?」
う、うぉお……。
め、めげないぞぉ。
「て、天気! 天気良かったね! 今日!」
「まあ……、そっすね」
「そ、そういえば! そろそろ雪降らないかなー。ほ、ほら、今年はまだ雪見てないし!」
「雪降ってもダルいだけっすよ」
「そ、そっか……。ま、まあ、雪って傘差すか迷うしね。うん……」
き、きまずっ!
これは会話が弾むとか弾まない以前に、そもそも会話というボールが行方不明になってしまっている。
一見すると旭くんが会話を拒否しているようにも見えるけど、これは正確にはわたしが旭くんを無理やりキャッチボールというマウンドに立たせて、一人盛り上がりながらド下手くそな大暴投を繰り返している状況だ。
そして彼はあんまり乗り気じゃないのに渋々わたしの暴投を拾いに行ってくれている。なんて律儀!
でも拾うだけで乗り気じゃないからちゃんとボールは返してくれないんだよね! そもそも付き合わせるわたしが悪い!
ま、まあ、天気の話でそこで話題が終わっていた頃のわたしに比べれば、雪に話を広げられただけ成長したんじゃないだろうか。
これ以上の話の広げ方は今のわたしにはスキルポイントが足りないということで、今後に期待しよう。ほら、わたしって大器晩成型だから。
とはいえ、これに関してはやっぱり何度もチャレンジをするのが一番いいんじゃないかと思う。
以前四期生について軽く調べたとき、彼が人見知りだと言っていたリスナーがちらほらいた気がする。
その情報が正しいのなら、今の彼とわたしはまだ関係値がないに等しいから余所余所しいだけに違いない。
ある程度仲良くなることが出来れば、それこそ他の四期生みたいなフランクな関係性が築けると思うんだけど……、流石に配信開始までにそこまで仲良くなるのは不可能だろう。
うーんどうしよう。
今まで仲良くなってきた人って、だいたいが向こうからわたしに興味を持って近づいてきたパターンがほとんどなんだよね。
だからこういうタイプを相手にするのは慣れてないんだけど……。
「そういえば」
うんうん心のなかで唸っていると、なんと旭くんから話しかけてきてくれた。
このキッカケを逃す手はない。喰らいつけ!
「は、はい! 何でも聞いて下さい! スリーサイズ、身長、体重なんでもいけます!」
隠さなくても自信あるからね!
「先輩ってFPS苦手なのになんで代打引き受けたんすか」
わたしのジョークを華麗にスルーした旭くんはそんなことを言ってきた。
「なんでって……」
まあ、相葉京介の頼みなら仕方ないから? 奴に貸しを作ったままにすると、なんかムズムズするんだよね。
いや、でもこれが他の誰かの代打だったとしても、わたしは多分引き受けただろうな。
「ぶっちゃけ急な代打なんだから拒否しても誰も怒らなかったと思うんすけど。なんでわざわざ苦手なもんなのに引き受けたんだと思って」
「うーん」
当事者である旭くんからすれば、たしかに疑問に思っても仕方ないか。
わたしだって案件配信のペアが高熱で倒れて、代打に箱庭にわがやって来たら絶対に裏があると疑うね。あの人案件とか面倒なことやらないし。
とはいえ、わたしの答えは決まっている。
「第一に、相葉京介には前にお世話になったから今回はわたしがお返しする番だと思った」
「あの人すぐ世話焼いて来るっすよね」
存在がラノベ主人公だからね。今頃きっと幼馴染とかに看病されてるよ。
「第二に、わたしがお人好しで超いい人間だから」
「あ、はい」
なんだ、文句あんのか。
「んで最後。第三に、黒猫燦がVTuberだから、だよ」
「はぁ?」
「おい心底理解できない生物に会ったみたいな声やめろ」
チャットなら兎も角、肉声は泣くぞ。
「いやさ、わたしが考える黒猫燦なら、きっと箱の誰かが困ってたらやれやれ仕方ないなぁって顔しながらドヤ顔で助けると思うんだよね」
「そのドヤ顔失敗しそう」
「ま、まあ、助けるだけで結果がどう転ぶかはそのとき次第なんで……」
黒猫燦は黒音今宵だけど、その行動理念が必ずしも黒音今宵と結びついているとは限らない。
その根拠は
前に学力王決定戦で他箱のVTuberから、「そんなに美少女ならVTuberをするよりアイドルとか顔出しをしたほうがよくない?」と言われたことがあるけど、それは見当違いの意見だと今でも思う。
素の黒音今宵ならそもそも配信活動なんてものは絶対に出来なかったし、或いは何を間違えたか承認欲求をこじらせにこじらせて裏垢女子になっていた可能性もある。
そんな黒音今宵がまともな人生を送りながら黒猫燦として活動できているのは、偏にVTuberというバーチャル体があるからに他ならない。
自分でありながら成りたい自分に成れる。それがバーチャルの強みであり、黒猫燦が黒音今宵にないものを持つ理由であり、その影響を受けて
そんなわたしが思う黒猫燦は箱の誰かが困っているなら助ける、と思うからたとえ苦手なジャンルでも気にせず代打を引き受けた。多分これから先も他に人がいないならなんだかんだ引き受けると思う。
まあ、それもこれも今までみんなが黒猫燦を助けてくれたからこそだよね。
助けたくないような連中が集まる箱だったら早々に引退してたぞ、絶対。
そんなわたしの考えを最後まで聞いた旭くんは「なるほど」と一つ頷いた。
どうやらずっと引っかかっていた疑問が解消されたらしい。よかった、箱庭にわみたいな胡散臭い人間と一緒にされなくて。
「だからさ、何が言いたいかって言うとね」
そしてわたしは最後を締めくくるために言葉を続けた。
「FPSド下手だからキャリーしてくださいお願いします」
これも助け合いだよね。