美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
「Vertexの新モード『DUO』は2人30チーム、合計60人でチャンピオンを目指す新モードだ。従来の3人1チームから1人減ったことによりパートナーとの連携が取りやすくなった他、個人の力だけでも敵チームを殲滅しやすくなったぞ。更にゲーム中のチーム数が20チームから30チームに増えたことにより、更にファイトが激しく、より楽しく進化!」
「わーすごーい。私にもできるかなー」
「あぁ、もちろん! 友達と通話をしながらやるも良し。1人でファイト練習をするも良し。プレイスタイルの多様化を見せるVertex Legendsは概要欄からダウンロードが出来る。君も今すぐチェックだ!」
「今ならDUO記念スキン貰える!」
..なにこれ
..怪しい海外通販みたいな会話やめて
..黒猫は出来なかったやろがい
..台本乙。ふたりともキャラがちげぇ
..初戦から初動落ちしたからせめて案件らしくしないとね…
本来なら相葉京介がいい感じにアレンジしてくれただろう台本を読み上げる。
生憎とわたしたち二人では彼のような気の利いた言い回しが出来ないので、ただ棒読みで用意された文章をそのまま読み上げることしか出来ないのだ。不器用ですまない……。
そんな
今度は失敗しないようにバトルシップの画面に移行しても下手にマウスやキーボードを触らず、画面に書かれた文字をしっかり注視する。どうやら今回は旭くんがジャンプマスターのようだ。
「ふぅ……」
ドキドキした
降下すらしてないのになんだこの緊張感
とりあえずようやくまともに試合ができるんだなって
「落下地点は極力人が少なそうなところに降りるんで、降りたらまずは適当に物資漁ってください。んで一通り漁ったらピン立てるんでそこ集合って感じで」
「りょ、了解」
..付かず離れずだよ
..カルガモのお引越しを思い出せ
..DUOは敵対チーム多いから気をつけてー
旭くんはなかなか降下しようとせずに、バトルシップ内に他のチームがいなくなった頃ようやく降下ボタンを押した。そして降下中の他チームの軌道を確認しながら、
「そこの建物降りますよ」
「は、はい」
最後まで同伴飛行はせずに途中で単独飛行へと切り替える。
何度か他の配信者がゲームをやっていたのを見ているので、流石にこういうマナー的なものは知っている。一緒の場所に降りると物資の取り合いになるからね。
周囲に他のチームがいないことを確認しながら小さな建物の入口に着地する。
どうやらここはマップの外れにある、小さな建物がいくつかあるだけの拠点のようだ。物資も必要最低限で、周囲に人がいないのも頷ける人気の無さだ。
「えーっと、武器を拾って弾も拾って……、回復も必要であとは投げ物も」
「………」
..旭くん漁りはやーい
..黒猫の画面ないのが惜しいな。いや逆によかったのか
..黒猫さんのバッグ絶対に散らかってる。ライト武器なのにヘビー弾持ってそう。あといらない白アタッチメント
..黒猫の画面見てたらやっちゃダメなのに絶対指示したくなるから今回は上手い人の画面で助かった…
..チラチラ黒猫さんのほう確認してるの優しいね
「俺の方は準備できたんですけど、先輩はどんな感じっすか?」
「ちょっと待って! 今バッグからなに捨てるか迷ってるから!」
「ぅーす」
弾っていくつ持てばいいんだ? 回復は多めがいいかな? というかバッグが小さすぎて回復と弾入れたら投げ物入らないんだけど?
わたしがあれこれと考えているうちにゲーム画面からはマップの収縮を知らせるアナウンスが響いてきた。
「ここだいぶリングの外なんでそろそろ走らないと間に合わねーっすね。第一円なんでそんな痛くないんですけど、先輩の移動速度じゃちょっと……」
「うぐ」
..のろまですまん…
..背負って運んでくれんか。俵担ぎでいいから
..黒猫とデート行ったら移動大変そう
..おそいおそいおそい
急かされる形でなんとか最初の拠点を離れる。物資はバッグが小さいせいで少し心許ないけど、まあなんとかなるだろう。
それから、旭くんを先頭にしてわたしたちは移動を開始した。
スライディング移動が出来ないわたしのために旭くんは少し先に進み、その都度こちらを振り返ってわたしのキャラクターが追いつくのを待ってくれる。これはなんというか……、
..親子の散歩……?
..親戚の子どもの面倒見てるお兄さんみたい
..そのうち黒猫が駄々こねて座り込むんだよね
..このゲームってこんなほのぼのしてたっけ
「ぁー、っと。そうだ! なんか喋ろっか!」
流石にお互いに無言で移動を繰り返していると配信的に気まずさが半端ない。初動落ちによる気まずさとはまた違う事故だ。
「あんま喋ってっと足音聞き逃しますよ」
..このゲーム黙ってても聞き逃すよ
..人見知り発動?
..さっき初動落ちしたときは結構砕けて喋ってたよね
..この機会に仲良くなろうよw
「ぁー、じゃあ先輩はこのゲーム何回か触ったって聞いたんスけど。気に入った武器とかあるんすか? 持ってないなら探しますけど」
「そこまでこれ! って武器はないかなぁ。なんかどれ触っても当たんないし」
「っすか」
そして、再び無言。
こういうとき、逆に「旭くんはどんな武器が好き?」とか聞けたら、きっとそれが上手な会話術なんだろう。ここで相手のそっけない返答に臆して思わず黙り込んでしまう辺りに、わたしの会話下手さがにじみ出ている。
というか、こういうリアルタイムな操作が重要になるゲームで暇つぶしに雑談するのって難しくないか? 脳のリソース何個必要なんだよ。
そんな感じで悩んでいると、マップの境界線近くでついに敵と遭遇してしまった。
「っ。物陰から相手に向かって適当に撃って! 無理せず被弾はしないように! 俺はちょっと前から攻めるから!」
「う、うん!」
..初ファイトだー
..がんばれー
..DUOで安置入らずにリング端って珍しいな。向こうも初心者か?
..漁夫なかったら旭は勝てるはず
照準もロクに定めずに銃を相手に向かって乱射する。エイムを合わせているうちに被弾するのを避けるための、あくまでも威嚇射撃だ。
そのうちに少しずつ前に詰めていった旭くんが近距離から相手に銃弾を浴びせ、逆に相手の弾はほとんど避けて一方的に勝利を収めた。
「おっしゃぃ! とりあえず初キルゲット!」
「ぱちぱちー」
..おめでとう!!!
..つよーい!
..88888
..チャンピオン取ったみたいな勢いだな
「このまま一気に安置内入り込んで、どっかいいポジションを──」
言い終わる直前、旭くんのキャラクターがダウンした。
「はぁ!? ちょ、くそっ。漁夫かよ! んで安置際で漁夫構えてんだよ!」
「あわわわ」
..黒猫さんにげてー
..もうだめだ
..どんまい
..GG
背後から忍び寄っていた第三部隊によって、旭くんを欠いたわたしは一気にダウンさせられてしまった。そして画面いっぱいにゲームオーバーの文字。一瞬の出来事だった。
「ご、ごめん……」
「いや、今のは俺がちゃんと漁夫警戒してれば……。それに回復まだ巻いてなかったんで、まあ、仕方ないっつーか」
..今のはしゃーない
..てか足音しなかったくね
..最初から旭にフォーカスしてたし相手チムがお上手だったネィー
..部隊数の多さと一人欠けによる壊滅はDUOの洗礼だねぇ
負けてしまったとはいえ、それでも初戦闘では勝利を収めている。
良くも悪くもこのスピード感がDUOモードの醍醐味なんだろう。プレイヤーとしては負けるとストレスが溜まるが、見ている方はテンポが良くていいのかもしれない。