美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
「はぁ………」
配信が終了したことを確認してから大きくため息を吐く。同時に今の今まで緊張で張っていた気が弛緩していくのを感じた。ぐぅ、ようやく姿勢を崩して指を休められる……。
案件、不得意ジャンル、急な代打と配信者にとってかなり神経を使う条件が三つも揃って、よく無事に配信を終えることが出来たと我ながら感心する。これが一年前の黒猫燦だったらもっとひどいことになっていただろう。
「旭くんもお疲れさま。なんとか案件終わってよかったね」
「っす。今日は助かりました」
「いやいや。可愛い後輩のためならいくらでも協力するよ!」
配信では苦手なFPSということもあってプレイでは役に立てなかったけど、いるだけでいいならいつでも頼ってほしい。ほら、後輩に手を貸す先輩ってやっぱりカッコいいじゃん。
「っと。そんな話をしてたら相葉京介からメッセージが」
どうせ不安と責任感からロクに睡眠も取れずに配信を見ていたんだろう。
Discordに届いた文章には長々と今日の感謝と配信について褒めるようなことが書かれていた。いや、そんな元気あるなら配信出来ただろ。
「あ、俺にもメッセージが」
どうやら旭くんの方にも今日の案件についてのメッセージが来たようだ。
おそらく内容はある程度似通っているんだろうけど、異なる文章をこの短時間でこの文量送ってくるって本当に病人かよ。でも相葉京介ならそれくらいやってのけるんだろうなぁ……。ほら、主人公キャラって風邪に都合よく耐性あるし。
「それにしても旭くんはやっぱりFPS上手だね。普段からやってるんだっけ」
「別にそこまで上手いってわけじゃねぇっすけど。配信は、まあ、リスナーが結構やってくれって言うんでよくやってます」
「たぶんその上手いの基準って相葉京介になってない? アイツ普通にプロレベルだよ」
普段から遊ぶ相手がやたら上手だと自己評価も下がり気味になるよね。わたしも祭さんとカラオケ行くとよく感じるよ。
「今回は漁夫が多くて負けが込んだけど、ファイト自体は実質二対一でも必ず勝ってたんだから上手だと思うよ。いや後ろでワチャワチャしてた奴が何を上から目線で言ってんだって話だけど」
「いや、先輩が後ろで支援してくれたからスムーズに勝てただけなんで。ソロだと味方が多少うまくても、あそこまでうまく立ち回れないこと多いし」
「そう言ってもらえるなら下手なりに頑張った甲斐あるなぁ」
配信前はあんなに微妙な空気だった会話も、案件という苦境を一緒に乗り越えたおかげで今はある程度弾むようになった気がする。
ここは同じ企業所属の先輩後輩として、更に一歩踏み込んでみても良いかもしれない。
「そういえばさ! 配信してるときは結構砕けた感じで喋ってくれてたよね! あれが楽なら全然敬語じゃなくてもいいよ!」
あるてまは先輩後輩で敬語を使う人が多いけど、わたしからすればいちおう全員年上なんだから敬語で話されてもむず痒いだけだ。
たしかに敬語を使ったほうが良い関係性や場面というものはあるけど、仲良くなっていくならもっと砕けていきたいというか……。
わたしの提案に旭くんは少し考えた様子で、
「ぁー、あれは配信中でテンション上がっただけなんで。普段からああいう感じはちょっと」
「あ、そ、そうだよね。先輩後輩だもんね。敬語のほうがいっか!」
気まずそうに断りを入れる旭くんに、思わずこっちも気を遣ってしまう。
今の御時世、あまり無理にアットホームな職場の雰囲気を強要するとパワハラと言われかねないし、ここは素直に引き下がったほうが良いだろう。
でもなぁ、四期生同士で絡んでいる素の旭くんを見ると、無理な敬語で話しかけられる方が違和感すごくてムズムズするんだよなぁ。
それから、マネージャーに案件の終了と連絡事項を共有してからわたしたちは解散することとなった。
「えーっと、じゃあ、今日はお疲れ様!」
「おつかれっす……」
先ほどまではそこそこ元気だった旭くんは、マネージャーに連絡を終えると一気に抜け殻になってしまった。
前回一緒に配信したとき、亜彩さんが配信終わりの旭くんは抜け殻になると言っていたけど、どうやらマネージャーに案件の終了を伝えるまではなんとか気を張っていたみたいだ。……わたしなんて配信終了ボタン押したら早々に気を抜いたのにな。
「またなんかあったら遠慮なく頼ってね! わたしじゃなくても気の良い先輩がほとんどだから」
「ぅす」
だめだこりゃ。返事が上の空だ。
我王や相葉京介が何かと面倒を見るのも納得の様子である。
とはいえ、いつまでも通話しているわけにはいかない。
「じゃあ落ちるから! バイバイ!」
こういうとき、他のVTuberならどっちが先に落ちるかとか空気読みしたり、ダラダラ会話を引き伸ばしてなかなか落ちなかったりするんだけど、今回はそういうなぁなぁの雰囲気ではない。
わたしは先に通話の切断ボタンを押そうとして、
「……もう、やめようかな」
落ちる寸前。おそらく無意識だろう。
旭くんの、小さな呟きが聞こえた。