美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
あれから、そしてこれから。或いは事の顛末。
あの後、ソファでだらけ始めた神代姫穣を置いてわたしたちは本社ビルを走り回って四期生の担当マネージャーを探した。
こういうとき、誰に話をすればいいのか迷ったのだが、なにはともあれ順番に筋を通すのが礼儀だろうということでまずは担当マネージャーに相談した。
最初は難航するかと思われた話し合いだったが、まるでそうなると予想していたかのように話がトントン拍子で進んで、ものの一時間もしないうちに旭くんの今後についての会議は終了した。
いきなり無茶振りをされた担当マネージャーは終始憔悴しきった顔をしていたのに、その表情とは裏腹にテキパキと資料を見せながら作業をこなしていたのが印象的だった。まるで、こういうときのためのマニュアルがあるのかと疑うほどの円滑さだった。
内容としては、アバターは当面歩合制のリース契約として貸し出して将来的に譲渡するとか、来年度以降に予定している個人VTuberへの支援プログラムのテストケースとして運用するとか。
他にもなんか難しい大人の話が延々と繰り広げられていたけど、首を突っ込んだ手前引くに引けず見守っていただけのわたしにはチンプンカンプンだった。というかリース契約とか支援プログラムとかあの場で初めて聞いたぞ。
まあ、そんな感じでこの数日間、わたしの頭を延々と悩ませていた旭くんの問題は、たったの小一時間で運営の手によりいとも簡単に解決したというわけだ。
我王との深夜の作戦会議とか旭くんとの本音のぶつかり合いとか、わたしの大立ち回りはなんだったんだろう……と虚しくなるほどのスピーディさである。
とりあえずやってみよう、と語っていた神代姫穣の言葉はこれ以上ないほど真実だった。
とはいえ、会議室を後にした旭くんには心底感謝された。
先輩の説得がなかったら誰に相談することもなく辞めてただとか、同期に合わせる顔がないから音信不通になってたかもとか、こんな前向きな気持ちで運営に相談することも出来なかったとか、流石先輩の言葉は経験に富んでいるとか、なんかそんな感じの言われてるほうがこそばゆくなる言葉を散々浴びせられた。
いや、わたしって基本空回りするタイプだからこういうストレートな言葉に慣れてないというか……。
ともかく、これ以上の件は運営に任せれば大丈夫だろう。と、わたしと我王は二人で判断した。
ここから先のリスナーへの説明だとか、お金や契約の問題とか、それは旭くんが一人で責任を持って解決しなければならない話だ。
きっとこれから先何度もリスナーとの衝突とか、個人への転向で活動に迷うこともあるだろう。
でも、それも含めて一歩前へ踏み出すと、自分で出した答えなんだから向き合っていかなきゃいけない。
人の顔色を伺うだけだった旭くんならいずれ限界が来ただろうけど、運営の楔から解き放たれて本音をぶつけ合える仲間を得た今の旭くんなら大丈夫だ。
先輩としてのお節介はここまで、明日からはまた『あるてま二期生の黒猫燦』として平常運転だ。
わたしはここ数日の疲れを解すように、自室でゲーミングチェアに深く腰を沈めて目を瞑り……、
「ん、通知だ」
DiscordがDMを伝える音で目を開いた。
以前だったら疲れていたら後回しにする連絡も、ここ最近は早く確認するクセがついたなと思いながら差出人を確認する。
「結からだ」
最近はお互いに忙しくてあまり顔を合わせることもなかったが、こうしてふとした拍子に連絡を取ることはよくある。
今日はいったいなんの用事だろうな、と思いながらメッセージを確認すると、
『来週のクリスマスイブからやるって言ってたゆいくろウィーク。なんの連絡もないけど詳細決まった? そろそろ共有してくれないと不安なんだけど。まさかとは思うけど……忘れてないよね?』
やばい、忘れてた。