美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!   作:紅葉煉瓦

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#27 見られることを想定せず自分がどうしたいかが重要

「今宵、起きて──あれ、珍しい。もう起きてる」

「おはよ」

「もしかして緊張して寝れなかったとか? 可愛いとこあるじゃん」

 

 緊張して眠れなかったというより興奮して眠れなかった、が正解なのだが訂正する必要はないだろう。

 いつものように起こしに来てくれた結──改め湊にお礼を言ってからお風呂へ入る。

 いつもより入念に洗わないと……いや、特に意味はないけど。決戦の日だから気合を入れて身を清めているだけで、決してそれ以外の邪な感情はない。ないったらない。

 

 お風呂から出て、湊に髪をセットしてもらうためリビングへ。

 最近自分で髪を乾かすより湊にやってもらった方が艶が増している気がして、彼女がいる時はよく頼んでいる。

 

「かみー」

「ちょっと、ちゃんと身体拭いてせめて下着は穿きなさいって言ってるでしょ」

「あつい」

 

 夏の風呂上りは本当に暑い。

 ドライヤーで髪を乾かすと身体中汗だらけになるし、だったら全裸の方が効率的だ。

 ドレッサーの前に座ってブォーっと乾かしてもらう。

 そして湊持参のよく分からん液体を塗ってもらい、今日は髪を後ろで一本に編んでもらった。おぉ、これは夏向きで動きやすそう。

 

「ねえ、お化粧して?」

「いつもは絶対に断るのに珍しいね」

「ん、気合入れる」

「じゃあ気合入れてメイクしてあげる。その前に服着てきな」

 

 言われて衣装棚の前に。

 うーん、今日は何を着ようか。

 下着は──やっぱり勝負の日はイメージカラーの黒でえっちなやつがいいな。これを穿く(?)と気持ちが引き締まってキリッとする。

 服は──そうだ、少し前にネットで流行ったこれとかどうだろう。確か奥の方に……、

 

「きたー」

「じゃあ始めよっか──ってなにそれ!?」

「童貞を殺すセーター」

 

 背中がぱっくり開いていて可愛い。

 夏場のセーターは暑いけど大きめのサイズにしたおかげで丈が余りまくって、下を穿かなくてもワンピースみたいな着方ができるので意外と涼しい。

 めっちゃオシャレだ。

 

「ダメ! 絶対ダメ! それは服じゃない!」

「えー」

 

 着替えないとお化粧はしてくれないと言うので仕方なく、白色でノースリーブのミニワンピースにしておく。

 やっぱりワンピースは着やすくて涼しいな。

 

「まあ、これなら……」

 

 そして湊持参の化粧ポーチから色々出るわ出るわ化粧品の数々。名前もよく分からない何に使うかも不明な謎の液体や粉をされるがまま顔にちゃっちゃかぬりぬり。

 よく人の顔に化粧するのは自分の顔と違って難しいなんて聞くけど湊の手は迷いなく、そして速かった。

 

「で、最後はルージュとグロスで完成、っと。うん、やっぱり素材がいいから磨くともっと可愛い」

「おー」

 

 黒音今宵が美少女なのは自他認める事実なんだけど、鏡の向こうのわたしは美少女を超えた究極の美少女だった。

 お化粧すごい……。

 ともかく、これでデートの準備が整った。

 

 いざ行かん、有明ッ! 

 

 ◆

 

「ね、ねぇ。やっぱりやめない? すごいおなかいたいし欠席したい……」

「ここまで来てそれは無理でしょ。頑張るって約束したんだから、もうちょっとだけ頑張ろ?」

「ぅ、うぅ〜」

 

 湊の服の裾をギュッと掴み、控室の前に立つ。

 何の変哲もないドアが、今は魔王が待ち構えるラストダンジョンの荘厳な扉に見える。

 まあ、中にいるのは魔王すら恐れる変人奇人揃いのバーチャルミャーチューバーグループあるてま、その1期生のライバーなんだけども。

 

 あぁ、緊張で今にも吐きそうだ。

 オマケに手と谷間の汗がヤバい。ノースリーブじゃなかったら腋もヤバかったかも……。

 

「失礼しまーす」

「ぁう!?」

 

 こ、コイツ、わたしが覚悟を決める前に開けやがった! 

 そして何の躊躇もなく室内へ入っていく。

 咄嗟に掴んでいた指を離そうとするけど、指先は緊張から石のように固まっていて言うことを聞かない。

 当然、わたしは自分の意思に反して引っ張られる形で室内へと連れ込まれた。

 

「あ、結ちゃんいらっしゃーい」

「きりん先輩お疲れ様です!」

 

 うっ、この声はきりん先輩。

 思わず俯いてしまったせいで地面のコンクリしか見えない。

 それでも分かる、この部屋には今日の出演者が全員いる! 

 

「おー昨日はお疲れさん。今日も来るって全日参加だな」

「あはは、アルマ先輩も全日参加してるじゃないですか。あ、昨日は差し入れありがとうございました。すっごくおいしかったです!」

「え、差し入れって何のことですか!? ルカ知らないのですよ!?」

「残念でしたねー。1日目じゃなくて2日目に遊びに来てくれてたらアルマ先輩の絶品シュークリームが食べれたのに。いやぁ、本当に美味しかった」

 

 え、え、ちょっと待って。

 もしかしてわたし以外全員顔見知り状態なのか!? 

 なんで湊は全員と面識アリなの!? 

 これ友達の友達が遊びに来て自分をのけ者にして盛り上がる、完全にアウェーなあれじゃないか! 

 

 このまま消えていなくなりたい、と思った時。

 ちょんちょん、と肩を小さく叩かれた。

 

「?」

「ふぅ~」

「わひゃぁ!?」

 

 み、みみが、みみがふーってゾワゾワってぇ!? 

 腰が砕けた。その場にドサッと尻餅を付く。

 耳は敏感だって何度も言ってるじゃん、誰だ息吹きかけたおバカさんは! 

 キッと顔を上げて下手人を確かめる。

 

「はじめましてー」

「うっ」

 

 そこにいたのは思わず生唾を呑み込んでしまうような淫靡な空気を纏った美人だ。

 この甘くとろけるような声……間違いない神夜姫咲夜先輩だ。

 艶のある黒髪や豊満な胸、色気のある腰や安産型のお尻、そしてぷっくりした唇と全てがドエロイ! 

 歩く公然猥褻かッ!? 

 

「見えてますよ?」

「へ?」

「し、た、ぎ」

「ッ~!?」

 

 慌てて立ち上がって乱れた服装を整える。

 初対面の女性相手に下着モロ見せしちゃった! 

 

「黒猫ちゃんの好みに口出しはしないけど、流石に丈の短いワンピースでそういう下着はお姉さんどうかと思うの。それに白色だから上も下も透けちゃってるし……」

「え゛」

 

 み、湊!? 

 慌てて視線を向けると湊はバッと視線を逸らした。

 な、なんで!? 

 

「それにしても貴女が噂の黒猫ちゃん。はぁ、かわいい……」

 

 神夜姫先輩はうっとりした表情で頬に手を当てて浸っている。

 わたしが可愛いのは認めるけどそこはかとない危険な香りがして怖いんですけど。

 そうしていると部屋の奥にいた他の先輩たちがぞろぞろとこちらへ寄ってくる気配がした。

 

「わぁ、黒猫さん。すっごいかわいい……」

「なんだよ黒猫来てたのかよ、って胸でか!?」

「く、黒猫さんだけは貧乳仲間だと思ってたのに裏切られた気分なのです!?」

「はぁ、羨ましいわぁ」

「あっあっ、ちょ、やめ、うぐぅ」

 

 女4人に囲まれて揉みくちゃにされる。

 な、なんだこれなんだこれなんだこれ!? 

 あんっ、胸触ったの誰だ、ってお尻も触られた! 

 ちかん、チカンでーす!! 

 

「へ、へるぶ、みーちゃん!」

「はいはい先輩方、燦が困ってるのでその辺でやめてくださいね」

 

 それぞれ名残惜しそうな声を上げながら離れていく。

 しかし最後までラビリット先輩だけはガッチリとしがみ付いて中々離れず、湊が力ずくで剥がすことになった。

 

「あぁ、乳神様のご加護が!」

「オイオイ自重しろよ貧乳娘……」

「アルマさんみたいな可もなく不可もない人に言われたくないのです」

「んだとぉ!?」

 

 ラビリット先輩のアバターは豊満な胸だったが、リアルではそんなに大きくない。

 まあ黒猫燦のような悲しみを覚える完全なる壁ではないものの、僅かな膨らみしか感じられないそれは女性からすると色々思うところはあるのだろう。

 対するアルマ先輩はモデル体型であるが、胸は大きくもなく小さくもないバランス型。なんだかんだでリアルで一番好まれるのはあれぐらいの大きさだとネットで見たことがある。

 

 いがみ合っていた2人だが、最終的にわたしの方をキッと睨みつけ、胸に向かって「チッ」と舌打ちを一つ飛ばしてきた。

 ひ、ひぇ。

 これが今まで経験したことがなかった女性社会。胸の大きさだけでここまで嫉妬を向けられるのか。

 

「そこのポンコツコンビそろそろ自重しなよー。黒猫さんが右往左往して息切れしてるからさ」

「あーんもう、黒猫ちゃん可愛すぎよぉ。お持ち帰りしたいわぁ」

「だ、抱きつくなぁ……」

 

 なんでこの女撫でる手がこんなにいやらしいんだ!? 

 もっとこう、湊みたいなぽわーってする撫で方をだな、って違う! 

 

「な、撫でるな!」

「あら、残念」

 

 ババっと拘束を解いて湊を盾に隠れる。

 ちょうど先輩たち全員と対峙する形だ。

 ジリジリとした緊張感が漂う中、わたしは湊の服の裾をクイックイッと引っ張った。ほら、なんか喋れ。

 

「えっと、改めて自己紹介しましょうか!」

「さんせーい。じゃあ1番手は私! 来宮きりんだよ、よろしくねー。いやぁそれにしても黒猫さんがこんなに小柄でお胸は大きな女の子だったなんて……バーチャルって何があるかわからないものだねー」

「よ、よろしく、です……」

 

 大学生ぐらい、かな? 

 明るい髪をポニーテールにしている快活な女性は、確かにきりん先輩の印象通りだった。

 さっき囲まれた時もきりん先輩だけは一歩引いた位置から頭を撫でてきただけで、やっぱりパーソナルスペースの保ち方がずば抜けて上手い。

 

「で、あたしが朱音アルマ様だ。あまーいお菓子作ってきたから良かったら後で食べな」

「アルマ先輩は有名なパティシエさんなんだよ」

 

 こっそり湊が耳打ちしてくれた。

 黒のショートカットにモデル顔負けのスタイルをしたアルマ先輩は如何にも大人の女! って感じだ。

 パティシエって朝から夜まで忙しいイメージがあるんだけど、それに加えてVtuberも出来るって凄いな……。

 

「ルカはルカ・イングリッドなのです!」

「シャネルカな。シャネルカ・ラビリットだからな。自己紹介でいきなり本名言ってもややこしいだろ」

「そ、そうでした!」

 

 天然のブロンドヘアで天然なトークを繰り広げるのがラビリット先輩。

 外国人らしく身長は平均より少し高めだが、慎ましやかな胸といつものアホアホっぷりで学生なのか社会人なのか判断がつかない。

 ラビリット先輩ならもしかして、と期待していたのだがどうやらリアル高校生はわたしだけらしい。

 肩身が狭いなぁ……。

 

「最後に私が神夜姫咲夜よ。はー、黒猫ちゃん良い……」

「み、みーちゃんままぁ」

「あの、神夜姫先輩はじめまして、夏波結です。今日はよろしくお願いします」

「ふふっ、夏波さんは出番が終わったのに随分熱心なのねぇ」

「私は、これぐらいしか出来ませんから」

「出演者でもないのによろしくされることはないと思うけど、ヨロシク任せてちょーだい?」

「???」

 

 な、なんか不穏な空気を感じるぞ。

 バチバチと火花が散って室温が少し下がった気がする。

 何が起こった!? 

 

「はいはいふたりともストップ。程々にしなきゃ、きりんさん怒るぞー」

「すみませんでした……」

「ふふっ、ジョーダン、冗談よ。はぁ、黒猫ちゃんだけじゃなくて結ちゃんもかわいいわねぇ……」

「私この人苦手かも」

 

 そうボソッと零して一歩後ずさる湊。

 必然、後ろにいたわたしにゴツンとぶつかって不意な衝撃に踏ん張れず尻餅をついてしまった。

 

「ぁいたっ」

「ご、ごめんね。大丈夫? 怪我してない?」

「だ、大丈夫」

 

 お尻がヒリヒリしてちょっと涙出たけど軽症だ。

 と、先程まで姦しかったのにやけに静かになっていることに気づく。

 それに視線がわたしに集中して……いや、わたしじゃなくてこれは少し手前、下っぽいような? 

 

「黒猫さん意外と大胆だね……」

「マジか」

「ハデハデなのです」

「すみません黒猫ちゃんテイクアウトお願いします」

 

 も、もうやだぁ帰る……。


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