美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
【初配信】初めまして、黒猫 燦にゃ【あるてま】
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「お、おえっ」
目の前の画面を埋め尽くす期待と興奮の文字群。
それは今生に於いてかつてない緊張と不安をわたしにもたらしていた。
具体的に言うと、開始時間はとうに過ぎているというのになかなか踏ん切りがつかずに始められないでいた。
「ま、まさかあの時のオーディションが合格するなんて……」
確かにあれは気の迷いだった。
しかし勢いで行動してあとになって後悔することは、思春期の男女にはよくあることだと思う。
その度に後悔や心配の割には結果は大したことが無くて、取り越し苦労だったりするのが大体だ。
だというのに。
今回、その思春期的行動がまさかの結果を引っ提げてしまった。
新進気鋭のバーチャルユーチューバーグループ『あるてま』の2期生、それもお披露目配信のトップバッターという大役に何故かわたしは合格、そして抜擢されてしまったのだ。
はじまらん
10分経過。
まあもちつけ。女の子は色々準備が大変だからな
↑はぇ~勉強なる
↑↑トップが男だったら大惨事やんけ!
ゆっくりでええんやで
段々とチャットが心配の言葉で埋まっていく。
そしてわたしは完全にグロッキー。青い顔でひゅーひゅーと過呼吸である。
バーチャルユーチューバーって素人お断りじゃないんですか!? ネットの有名人が殆どだって聞いてたんですけど!(前世で)
さっきから会社支給のスマホにはぴこんぴこんと事務所の人から鬼のようなLINEの連打が来ている。
ひぇえ、怖くて見れないよ……。
とはいえ、そろそろ腹を括らないといけない頃だろう。
このまま放置すればきっとわたしはネットの片隅でひっそり語られるような存在として、そして黒猫 燦は魂が宿ることなく誰に看取られることなく消えていくことだろう。
始まりは今の自分を変えたい、という気持ちからだった。
人生を灰色のまま終わらせたくないから、煌びやかなこの世界に足を踏み入れたのだ。
ならば、行くしかないだろう。
ちやほやされて人生イージーモードのためにっ!
意を決して、わたしはマイクのミュートを解除してアバターを画面に表示させた。
「こんばんにゃ~~~~!!!!!!」
キタ━(゚∀゚)━!
うるさっ!!!!!!!
こんばんにゃー
うるせぇ!!(腹パン)
マイク下げろマイク
これはポンの匂い
これが あ る て ま だ
「あ、あれ? 音おっきい?」
気合が入り過ぎた!
慌ててマイクの調整をする。
「ど、どうかな? 音大丈夫?」
小さすぎィ!
加減を知らない女、黒猫燦
胸も音も小さい…
早速新人がいじられとる
あ、あれれぇ~???
音量調整に手間取っているうちに、なんだかわたしのキャラが取り返しのつかない致命的なイメージを植え付けられたような気がする。
「え、えっと、これでいいはず。ど、どうですか」
おっええかんじ
ようやく始まったな
なおここまで20分経過
「あっあっあっ、すみませんすみません。ポンコツでごめんなさい」
ええんやで
新人やからしゃーない
むしろ慣れてない感じがいい
取り敢えず自己紹介しよ
視聴者があったけぇよ……。
次々と流れる励ましのチャットに思わず女になってから緩くなった涙腺が決壊寸前になっていた。
「ぐすっ、ありがとうございます。こんなわたしを励ましてくれて、視聴者さん大好きです」
ずびずびと鼻をかんでから、気を取り直して自己紹介へと移る。
自己紹介には色々と苦い思い出があるわたしだが今回はマネージャーさんと相談しながら予め自己紹介文を考えてきたので万全だ。
早速メモ帳をパソコンの画面に表示させた。
燦さんだと呼びづらいから燦ちゃんとか黒猫さんって呼んでくれると嬉しいにゃ♡
夢はお腹いっぱいのお菓子とたくさんの友達を作ることにゃので、みんな仲良くしてくれるとうれしいにゃ~。
少しでも私のことが気になったらチャンネル登録と高評価、Twitterのフォローよろしくにゃ!
それじゃあ早速あとが閊えてるのでタグ決めとか色々やっていくのにゃ!
【初配信】初めまして、黒猫 燦にゃ【あるてま】
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あ
あ
あ
カンペ見えちゃ
アカーン
期待の新人来たな
Vtuberの未来は明るい
明るすぎて何も見えないんですけどそれは
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ!!!!!!!!!」
うるせぇ!
美少女の声じゃない
キャラ固まったな
視聴者も遠慮がなくなっとる
もういい! もう終わる!! 配信終了!!!