美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
#60 冬
「さむ……」
いよいよ真冬到来といった感じに毎日の平均気温は一桁台をキープして、外出するときにはマフラーとか手袋が必需品になってきた。
それでもほっぺたとか耳は保冷剤のようにひんやりと冷たくなるし、スカートを穿いた足なんてガラスのように砕け散りそうなぐらい冷たくなっている。
よく、女性のファッションは気合とか言ってミニスカートで生足を晒している女がいるけど、あれは正真正銘のおバカかファッションスターだと思う。
かくいうわたしも数年前に生足ミニスカートで学校に行ったら見事に真っ赤に腫れ上がって、それ以来タイツを履くようにしている。
気合ではどうにもならないお洒落ってのが世の中には、あるんだよ……!
しかしいくらタイツを履いても寒いものは寒いのが現実である。
周りを行く学生たちもタイツや生足を晒しながら手をポケットに突っ込んで、中のカイロをモミモミシャカシャカしながら「さむいさむい」とボヤいている。
ほんとになぁ、なんでこんなに寒いのに学校って行かなきゃダメなんだろうなぁ……。
あと数日で冬休みだと思うとやったーって開放感があるけど、同時にあと数日はこの道を歩かなきゃいけないのか……って気怠さも襲いかかってくる。
はぁ、早く暖かい家にこもりたい……。
そんな大型連休前の憂鬱な気分を抱えながら教室の扉を開く。
陽キャどものガヤガヤと騒がしい喋り声をBGMに自分の席へ鞄を下ろす。
どうやら彼らは休みを利用して旅行に行ったりオールで年越しをしたりするようだ。
まあ、わたしには関係な──
「あ、黒音さんもよかったら一緒に初詣とか行かない?」
「えっ……、え、っと」
彼女は最近そこそこお喋りするクラスメイトだ。
ベッタリと四六時中側にいるような間柄ではないけど、席が近いこともあって何かとふとした拍子に話を振られることがある。
で、いつものノリで話を振られたわけだが……初詣、か。
「人が多いところは、ちょっと……」
初詣って生まれてこの方一度も行ったことないけど、テレビで見るだけで目眩がするぐらい人で溢れ返っている印象がある。
それこそ単純な人口密度で言えばコミケのそれを超えるんじゃないだろうか。大きな会場で複数のサークルを回るコミケと違って、初詣って限られた幅で全員の目的地がほぼ一緒なわけだし、密度も凄そうだ。
「あ、黒音さん人混み苦手だっけ」
「う、うん。だから初詣は行けない、かな」
「そっか、なんかごめんね?」
そう言って申し訳無さそうにする彼女。
なんだか逆にこっちが申し訳なくてちょっと気まずいな……。
でも誘われてもいないのに何日なら遊べるよ! とか言いづらいし、年末は年末でVtuber活動が忙しかったりするから予定がなかなか噛み合わない。
まあ、趣味の活動じゃなくて一応お仕事としての活動だしその辺は仕方ないっって分かってるんだけど、ね。
「………」
「………」
う、うぅ。
椅子に座って机の上をじっと見つめるわたしと、側に立って同じく机を眺めている彼女。
周りはガヤガヤしているのにお互いに無言の状態が続く不思議空間。
最近、クラスメイトと話す機会が以前より多くなった。
たまに遊びに行くこともある。
でも、ふとした拍子に会話に詰まるとこういった感じに無言の時間が流れるときがある。
夏波結──暁湊と作業通話をするときに無言の時間が続いても気まずさはなく、むしろお互いに気負わなくてラク~って感じなんだけど、クラスメイトと無言の時間が続くとすごく気まずく感じるのはなんでだろう……。
「あー、っと、えと、いい天気、ですね?」
「え、曇ってる……」
「あ」
天気デッキ、失敗ッ!
なんで天気デッキ切るときに限っていつも曇ってるのかなぁ!
いやそりゃ冬の空って結構曇り気味だけど、たまには空気読んでくれてもいいじゃん!
「そういえば黒音さんの誕生日って12月だっけ?」
「あ、うん。24日」
「えー、クリスマスイブが誕生日ってなんか素敵だね!」
黒音今宵のお誕生日は12月24日である。
つまりあと数日後には誕生日を迎え、わたしは17歳になる。
この世界に生を受けて、17年目だ。
「ちょうど月曜日だし、放課後にカラオケかファミレスでお祝いしようよ!」
「ご、ごめん。もう予定入れてて……」
「そっか、お誕生日だから黒音さん忙しいよね。また別の日にご飯でも行こうね!」
「う、うん。空けとくね」
Vtuberは自分の生まれた日に誕生日配信をすることが多い。
企業所属ならそれは一つの一大イベントとして前々から告知をして、当日はリスナーに盛大に祝われながら配信をするのが通例となっている。
でも、わたしはその日、配信をしない。
12月24日、その日は黒猫燦に──黒音今宵に、予定はない。