美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
帰る頃には流石に朝から続いていたお誕生日おめでとうムードは鳴りを潜め、クラスメイトたちは早くもこれからのクリスマスイブの計画遂行に勤しんでいた。
年に一度しかないクリスマスを一人寂しく過ごしたくない、というのは大人も子供も関係なく誰もが抱く当然の欲求みたいで、この機会を逃すまいと気になる異性がいる子は勇気を振り絞って相手の予定を聞きに行ったり、はたまた単純に仲の良いグループで過ごしたい友達思いな子はカラオケだボーリングだと店の予約の確認に大忙しだった。
まあ、わたしはこの前誘われたときに予定があると伝えたらそれきり、他の誰からも誘われることはなくなったんだけど。
いや、別に、決して仲間はずれにされているわけではない。クラスメイトの誘いを断ったから、アイツは卒業まで徹底的に無視しようぜーみたいな有りがちで陰湿なイジメを受けているわけではない、断じて。……ね?
それにたとえ遊びに誘われたとしても、クリスマスイブは誰とも遊ぶ気にはやはりなれなかった。
この日は静々と、一人で大人しくしている方がわたしの性に合う。
駅前に出ればやはりと言うべきか、学生や大人も関係なくカップル連れのリア充でごった返していた。
ちょうど学校終わり、仕事終わりの男や女が何人も駅前の目立つシンボルの周辺にポツポツと立っている。
中には待ち合わせの女性を狙ってナンパを仕掛けている見るからに頭の軽そうな男がいるけど、高確率で男待ちの女が捕まるわけ無いだろ……。
まあ、そういう一見おバカな行動でもなんとなくのノリでやってしまうのがクリスマス、というイベントの魔力なんだと思う。
ハメを外したくなる気持ち、とても分かる。
誕生日になるとネガティブになってしまうわたしでも、つい駅前とか人の多いところに行くとその陽気さに充てられて普段からは考えられないような行動に出てしまいそうになる。
と、言っても人の多いところが元々好きじゃないからすぐに退散するんだけどね。
今日の目的は予約している誕生日ケーキを受け取ることだけだ。
あわよくばケンタッキーとか買えたらいいなーとか思うけど、流石にこの時期に予約もなしにチキンを買うのは難しいか。
うっ、人混みを見ているだけで若干酔ってきた。
さっさとやることやって帰ろう。
極力足元だけを見てそそくさと目的の道を突き進む。
途中、ナンパと思わしき男性が話しかけてきたけどずっと俯いて早足で歩いていたらすぐに諦めてどこかへ消えていった。
あぁ、彼らは目当ての女性を根気よく集中的に口説き落とすんじゃなくて、あくまでワンナイトを楽しむために下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとばかりに話しかけまくって反応が鈍い女性はすぐに切り捨てているのか。
ナンパって一口に言ってもその状況で色んなタイプが居るんだなぁ、とか一生役に立たないであろう知識が身についた。
ようやくケーキ屋にたどり着いたけど、やはり案の定というべきかそこは人でごった返していた。
いくら捌くのが他の店より早いと言っても、この時間帯は恐らくケーキ屋のピーク時だから受け取りにちょっと時間がかかりそうだ。
その間、暇つぶしにツイッターでも眺めようかなぁとスマホを取り出して、そこで気づいた。
「あれ、電源切れてる」
今日はお腹が空いていたり情緒不安定でそんなにスマホを触っていなかったから充電がなくなっていることに気付かなかった。
そういえば、と記憶を辿ると昨日は枕元に投げてそのまま寝てしまったから充電を忘れていた。朝の時点で電源は付いたけど、遅刻に気を取られて残量までしっかり見ていなかったな。
まあ、別に今日は予定があるとマネージャーさんにも伝えているからよっぽど緊急の用事でもない限り問題ないだろう。
普段は四六時中スマホをいじってるんだから、こういう誕生日ぐらい気にしないのもありかもしれない。
と、そうこうしているうちにケーキの順番が回ってきた。
今年は豪華なチョコケーキだ。
一人で食べ切るのは確実に無理なぐらい大きくて、だからこそ逆に一人で食べる寂しさを際立たせる。一人の誕生日ケーキは慣れてるけどね。
それにしてもチョコケーキだ。
もし朝にチョココロネを食べていたらチョコとチョコで被っていたところだ。
別に被ったところで問題はないけど、やっぱり誕生日ケーキを一番美味しく頂くコツはその日は類似した味を口にしないことだと思う。
だから朝にチョココロネを食べなかったのはある意味正解だった。
お昼の限定メニューを食べれなかったから友達のお弁当を味わえたし、チョココロネを食べなかったからチョコケーキが一番美味しく食べられる。
意外と今年の誕生日はツイてるのかもしれない。