美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
分かっていたことだけどチキンは買えなかった。
駅ナカの百貨店なら並べば買えそうな雰囲気はあったけど、流石にあの行列に並んでまでチキンが食べたいとは思えなくて泣く泣く素直に帰ってきた。
家に帰ってきてからコンビニとかなら普通に買えるんじゃ……? とか思ったりもしたけど、流石に一度帰ってからもう一度お外に出る気力も湧かなかったし今日はあきらめムードである。
クリスマスだし誕生日だし、なにか特別なもの食べたいよなぁという気持ちはあるんだけど、家には何もないし仮に材料の買い置きがあったとしても料理は出来ないので詰みである。
せいぜいがやたらと多いカップヌードルぐらいだろうか。
いや、好きだけどでもこれってクリスマスでも誕生日でもないよなぁ……。
そろそろ夜もいい時間でさて、どうしようかと悩みまくる。
今日はあんまり食べていないから空腹のお腹が早く美味しいものを寄越せ寄越せと七色の音色で唸っていた。
「あ、ピザとかいいじゃん」
そうだよ、ピザだったら注文一つで家まで届けてくれるじゃん。それにめっちゃクリスマスっぽいし。
何よりネット注文できるのが最高だよね。電話だと喋らなきゃいけないけど、ネットならボタンポチポチするだけで終わりだし。
商品受け取るときだけ「あ、はい」「あ、ありがとござます……」って言えば済むし。それぐらい流石のわたしでも出来る。
そうと決まれば早速、とパソコンから注文画面を開くと本日は予約でいっぱいの文字が。
「は?」
目を擦ってページをリロードする。見間違いかな?
「ちゅうもんうけつけしゅうりょう」
なんで?
いやいや、他にも同じ考えの人がたくさんいるのは分かる。でも、えぇ……。
他のチェーン店のページを見てみても、お届け予定時間が今から2時間後とかそんな感じでどこもマトモに注文できる状態ではない。
チキンに引き続いてピザもか! クリスマスっぽいの全滅じゃん!
「はぁ……」
まあ、こうなってしまっては諦めるほかない。
ちゃんと食べたいものを予約しておかなかった自分が悪いのだ。季節イベント系のときはちゃんと予約が必須と学べただけ良しとしよう。
でもやっぱりクリスマスで誕生日にカップヌードルはいくらわたしが毎日カップヌードル食べられる人間でも、流石に心理的にちょっと避けたいところがある。
こうなったらいっそのこと、ご飯は食べずにケーキでお腹を満たしてしまおうか。
幸い、ケーキは一人では食べ切れないほど大きいし満腹になるだろう。甘みが過ぎるかもしれないけど、買い置きのお菓子が幾つかあったはずだからそれで塩っ気を調整して……うん、どうにかなりそうな気がしてきた!
そうと決まれば早速準備しよう、と冷蔵庫からケーキを取り出して、キッチンの引き出しからポテチとかなんか色々持ってきてテーブルの上に並べる。
一面に並ぶそれを見るとご飯も食べずに不健康そうな雰囲気が漂っているけど、意外と乙女の欲望を忠実に具現化した感じがしていて実に誕生日って感じの贅沢だ。
「よーし、ケーキだケーキだ」
一人なんだから敢えて切り分けずにフォークをグサッと一突きして、そのまま削り取るように食べる。
誕生日だから許される贅沢……!
「うま、うま」
チョコレートの甘さとほんのり苦いココアパウダーが絶妙なバランスでなんかいい感じのいい感じだ。
一口目を終えて二口目に突入して、そろそろポテチでも食べようかと袋を空けて──、
「……むなしい」
ぽろぽろと、涙がこぼれ落ちた。
今まで一人ぼっちの誕生日なんて何回も経験してきた。
お母さんが忙しそうにしていることに、いないことに不満を覚えたことはない。
だからそれが当たり前だと思って今まで受け入れて来れた、わたしは普通でいられた。
でも、今年は違う。
わたしは色んな人と出会いすぎた。
黒猫燦としてあるてまの皆やリスナー、黒音今宵としてクラスメイトの皆と、わたしは仲良くなりすぎた。人の温かみを知りすぎた。誰かが側にいる大切さを知ってしまった。
今まで耐えられたことが、今では耐えられない。
情緒不安定な感情はついに決壊して大粒の涙となって流れ出てしまった。
一度泣くと、もう止まらない。