美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!   作:紅葉煉瓦

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#あるてまフェス
#78 「君って早く行動するのは苦手なのにゆっくり時間かけるのは得意だよね笑笑」わたしは自嘲するように言った


 その日は一時間の間に60回もアラームをセットしていたおかげで、寝坊することなく若干の気怠さと共に起床することが出来た。

 未だに起き上がりたくない気持ちを必死に押し殺しながら、せめてもの抵抗でベッドに横になりながら残り51回のアラームをせっせと1つずつオフにしていく。誰だこんなバカみたいにセットしたおバカは……。

 途中、うつらうつらしていると、スマホがすっぽ抜けて顔面に落下してきた。ゴツン、と鼻っ面に奔る衝撃はわたしを夢現から引き戻すには充分すぎるアラームになった。

 うぅ、なんか少し前にも似たようなことがあったような気がする……。

 

 渋々身体を起こしてベッドの上で残りのアラームを解除する。

 それから寝ているうちに溜まっていたTwitterのリプライや早朝の連絡をチェックして、ようやくベッドから降りる決心をつけた。

 起きてから後はトントン拍子に身支度が進んでいつでも外に出る準備が整う、なんてことはあるはずもなく生来の面倒臭がり屋は先程の決心もどこへやら。寝起きにしては長めのシャワーを優雅に浴びた後は常備している菓子パンをもっそりもっそりとテレビを見ながら食べて、最近上達してきたお化粧をこれまたたっぷり時間を掛けて終わらせた。

 

 いやぁ、そろそろ家を出ないと集合時間に間に合わないというのに、わたしの身体はそれを拒むかのように何かと理由を付けて更にゆっくり行動しようとする。

 うんうん、朝から急ぐと一日の体力がなくなっちゃうからね。体力の温存は大事だよ。

 

 さて、次はTwitterでファンアートのRTでもしちゃおっかな~やっぱりファンとの交流って大事だよね~とか、そんな気持ちになっているとピロンっとスマホに通知が飛んできた。

 なんとなく嫌な予感を覚えながら、恐る恐る覗いてみるとそこにはマネージャーの名前が。

 

「ひぇっ」

 

 蘇るトラウマLINEの数々。さぁーっと血の気が引いていく。

 おはようございます、から始まる今回の文面は意訳してしまえばつまり、『準備が出来たならとっとと家を出ろ』というものだった。

 え、なんでこの人わたしがまだ家に居るって知ってるの!? え、監視カメラとか付いてる!? 実は昨日配信切り忘れてて全部見られてた!? お隣さんが実はマネージャーさん!?

 

 一抹の不安からパソコンをチェックしてみるけど、やっぱり配信はちゃんと切れてるし監視カメラなんてものはなくお隣さんは熱々の新婚さんだった。ホッと一安心。

 マネージャーさんと出会ってまだ一年も経っていないというのに、わたしの行動パターンが完全に把握されているのはひとえにマネージャーさんが凄いのか、はたまたわたしが単純なのか……。

 疑問は常々尽きないけど、流石にここまで予測されてるにも関わらず、嘘をついて逃げ回るほど厚顔無恥でもましてや度胸があるわけでもないので素直に身支度を済ませる。

 はぁ、行きたくないなぁ……。

 

 ──あるてまファーストアニバーサリーフェスティバル。

 

 今日は一期生のデビュー日であるてまが本格始動した記念すべき日だ。

 企画配信には大分慣れてきたし、あんまり関わりのないライバーともある程度は話せるようになってきたけど、それでもやっぱりリアルイベントは別格に緊張する。

 なんと言っても今回は夏コミのとき以来のリアルタイムでリスナーと会話するブースが設置されているし、他にも歌のライブステージやファン参加型のステージもある。

 この一ヶ月、わたしや他のライバーは今日のためにレッスンを頑張ってきたし、何度も打ち合わせをしてきた。

 だからリアイベの成功は信じているけど、それでもやっぱり不安なものは不安だ。夜も七時間しか寝れない程度には。

 

 まあ、このまま一生自宅でうだうだしていたら痺れを切らしたマネージャーさんがキレて凸しに来るかもしれないし、いい加減腹を括って出発しよう。

 

 昨日のうちに必要なものはポシェットに詰めておいたから準備はすぐに終わった。

 いつでもすぐに終わらせられる準備をここまで長引かせてきたわたしの往生際の悪さと手腕に惚れ惚れする。もっと他のところに活かせとかそんな意見は受け付けてません。

 

 夏コミのときは湊が車で迎えに来てくれたから移動も用意も楽だったけど、今日は早くから会場の手伝いをしなくちゃいけないとかで来てくれなかった。

 だから自分で電車に乗って複雑な乗り換えを経て会場に向かわないといけない訳なんだけど……、果たしてわたしは無事に会場にたどり着けるんだろうか。

 今更だけど現地集合せずに、誰かと駅で待ち合わせて一緒に行ったほうが良かったんじゃないか。

 後悔先に立たず、さっきまでとは違う不安がわたしに伸し掛かってきた。


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