美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい! 作:紅葉煉瓦
「どもー会場の皆さん、お元気してますかー? あるてま所属三期生の九天溢でーす。そしてそしてー? 以下略の皆さんでお送りします」
「ちょっとちょっとー!? 僕らにも自己紹介させてよ!?」
「えー? 今日は人が多いですから挨拶で間延びしません? ほら、みんな三期生なのに同じ口上なのも味気ないですしー。あ、そうだ、試しにあーちゃんが可愛いお手本を見せてくださいよー」
「えぇ、無茶振り!? うぅ、じゃあ……こほんっ。やっほやっほー、あるてま三期生可愛い担当みんなのアイドル元気をお届け、シエル・アドミラルだよー! ぴすぴーす」
「うわ」
「ガチトーンのドン引きやめて!?」
「はい、そんなこんなで他数名とゲストは黒猫燦先輩ことくーちゃんでお送りしまーすぱちぱちー」
急に名前を呼ばれて肩がビクッと跳ね上がる。
さっきまで三期生の挨拶の流れだったのになんでこっち来るの!?
「世界一雑な振りじゃん……」
「あれあれ、世界一だなんて褒められてます?」
「頭ハッピーセットか???」
そんなくだりの後、ちゃんと三期生のみんなが自己紹介をしてトークイベントが始まった。
相変わらず九天溢は場をかき乱すと言うか、空気を作るのがうまいと思う。
「いやー、今回は配信じゃなくてトークイベントですからねー。いつもは見えないリスナーさんたちの顔が、なんと今はちゃんと見えてるんですよ。ほら、メインモニターの前にいるそこのあなた! 冴えない顔してるなーってくーちゃん先輩が見てますよ!」
「だから雑に振るなぁ!?」
「おっと、炎上回避講座が危うく炎上講座になるところでしたね。テヘペロり」
そう言って九天はこつん、と頭に拳を当てて謝ってきた。
う、うぜ~~~。
目の前に本人がいるせいで、普段は見えない一挙手一投足が見えて心が掻き乱される。通話するときもこうやって煽られてんのかな……。
「でも普段私達ってリスナーさんの顔を見ずに配信してるわけじゃないですか? こうやって目の前に皆さんがいるのって新鮮でなんだかいいですねー」
「ぷるぷる、流石に緊張しちゃうよ」
「とか言いながら全然緊張してないんでしょう?」
「リーゼちゃん!? そんなこと無いよ!?」
「三期生で一番肝が据わってるのはシエルよ」
「ベアちゃんまで!?」
「私もリーゼの意見に同意です」
ゲストの私を置いて盛り上がる三期生たち。
打ち合わせの時は素の状態で何をするかとかコーナーの流れを確認するだけだったから、配信モードのみんなを実際に目にするのは今回が初めてだった。
でもこうやって見てみると三期生には三期生の絆というか、そういうものがちゃんとあるんだなぁと実感できる。
う、すごいアウェー感。
会場のみんなも黒猫喋らねーなとか思ってないかな……。
「あ、くーちゃんがぼっちになってますね」
「言うなよ!?」
「自分以外仲の良い人達が集まってワイワイしてると、どうやって会話に入ったらいいかタイミングが分からなくなるタイプですかー?」
「言うな! いいしいいし別にいいし! おっさんと仲良くしてるから! ねーおっさん? ……オイ、目を逸らすな」
お前も仲間だろ?
「今日のパパは娘たちが仲良くするのを見守るポジションなんですよ」
「え、同期からパパって呼ばれてんの……やば」
「私達は呼んでないわよ!?」
流石に危ない匂いがする。
「炎上ですか!?」
「オイ、なんで目をキラキラさせる。やめろ、期待する目で見るなぁ!?」
「あの、そろそろ本題に入らないと時間が」
「そうだよ、タダでさえ時間押してるのに!」
「くーちゃんのせいで」
「ウッ」
と、ここで私達の立ち絵が表示されている画面にパワーポイントのような画像が追加された。
「はい、というわけでですねー。今回は題して『黒猫燦から学ぶ炎上回避講座』をテーマにお喋りしようと思いまーすぱちぱちー」
「いぇーい」
「でも、どうして炎上回避講座なの?」
「我々VTuberは何かと燃えやすい体質ですからねー。リスナーの皆さんも日頃炎上しそうになることありませんか? 例えばコンビニのアイスケースに入ったりとか」
「一時期毎日炎上してたわね」
「くーちゃんがアイスケースに入った時はどうやって炎上を切り抜けましたか?」
「私入ってないよ!?」
「あ、これ言っちゃいけないやつだ……」
「世に出回ってないやつね」
後輩が積極的にわたしを炎上させようとする!?
会場もちょっとざわついてるしやめとけ!?
「まあ冗談は置いといて。今回はこんな感じで自分が炎上したとき、どうする? みたいなシミュレートをしながらやっていこーと思います」
「ちなみに黒猫さんはアイスケースで炎上したらどうするのかな?」
「う、うーん、もう手遅れでは?」
「それはそう」
「まあ、取り敢えずアカウント消す、かなぁ……」
「一番ダメなパターン来たわね」
てかアイスケースとか入ったらお腹壊しそうだし……。
「そもそもさ、インターネットに自撮りとか自分の身体一部でも載せる人ってヤバくない? 一生残るんだよ?」
「確かに、最近はインスタグラムなどで顔出しに抵抗が減っている人も多いですが、少し前はそういった風潮がありましたね」
「いやぁーホントにネットで顔出したり喋ってる人はネットリテラシーないよ。もっと気をつけたほうがいいね」
「くーちゃんくーちゃん、我々現在顔を出してお喋りしている件についてどう思います?」
「あ」
よくよく考えるとVTuberとして配信をしている以上、わたしは黒猫燦なんだからこれも顔出しと一緒だった。
しかも生声でアーカイブを残しながら日々配信しているわけで……え、こわ。
「さすが猫ちゃん。身を持って私達に失言の怖さを教えてくれてる……」
「推しの前だからって全肯定過ぎない?」
「べ、別に推しとかじゃないし!?」
「あ、うん。そうですね」
「つまりくーちゃんはそもそもネットに顔は出さない、声も出さない、特定されないようにした上で炎上したら逃亡。ってことですねー」
「それだけ聞くとクズじゃん!」
「口は災いのもとも教訓ですね」
うぐぅ、言われ放題だ。
けど要点だけまとめたら何も間違ってないからなんとも言えない……!
「じゃあ仮に逃亡できない状態、我々のような配信者やリスナーの皆さんが日常で炎上した場合はどうしたらいいと思います?」
「うーん、まず謝罪じゃない? ほら、謝ればみんな許してくれるし」
「本音漏れてるよ!?」
「あ、誠心誠意謝って気持ちを伝えるのって大事だよね!」
「誠意の欠片も無いことさっき言ってた気がするのだけど……」
「とはいえ謝罪は大事ですね。その上で問題が解決していないのなら迅速な対応が誠意に繋がると思います」
うんうん、わたしも初配信でやらかしたときとか、深夜テンションでやらかしたときとか、遅刻したときはちゃんと謝罪したからね。
やっぱり謝罪は大事だよ。
あれ、わたしのVTuber活動謝ってばっかだな?????
「では、企業案件でうっかり口を滑らして炎上してしまった黒猫燦。後日謝罪配信をするときの謝罪文とは?」
急に大喜利みたいなのが始まったんだが。
そもそもそれ前に似たことあったし! そのときはTwitterで謝罪しただけだけど!
まあ、せっかくのシミュレーションだし本気で取り組んでみよう。
こほんっ、と喉のチューニングをして……、
「えー、っと。今日の配信は雑談とかじゃなくて、その、タイトル通り謝罪っていうか。この前の案件についてというか。最近まとめサイトとかでよく言われてる件についてのお話、です」
「うんうん」
「企業様から頂いた案件にも関わらず、その、クソゲーとか、課金はゴミとか、うまく行かないからって何の関係もないユーザーにあたったりとか。その、良くないって反省、してます。すみませんでした」
「あやまれてえらい」
「今後は企業案件はもちろん、個人配信でも、ちゃんと企業所属としての自覚をもって、うぅ、節度ある行動を、ぐすっ……」
「なかないで」
「しばらくの間、黒猫燦は活動を謹慎させて……頂き、ます」
「いかないで」
「復帰の際も変わらず応援してくれると、うれしいです」
「応援してる。早く帰ってきて」
ふぅ、とため息を吐く。
ついつい感情が乗って本番さながらの演技をしてしまった。
なんか会場にひえっひえの空気が流れている気がするけど気のせいだな!
「うーん、取り敢えずしーちゃんは常連さんかなにかですか?」
「え、別に!? 全然そんなことないけど!?」
「返しがやけにリアルだったわね」
「は、はぁ!?」
「あれ、ベアちゃんよく見たら涙目じゃない?」
「それだけ感情が乗ったということでしょう」
確かにベア子は見ると目元がキラキラと光っていた。
じーっと見ているとこちらの視線に気づいたのか、慌てた様子で手で顔を隠してしまった。白い肌は耳まで真っ赤に染まっている。
可愛いなコイツ。
「でもくーちゃんの演技が予想以上に上手で驚いちゃいましたよー。実は演技派ですか?」
「えへへ」
褒められると照れるな。
まあ、黒音今宵と黒猫燦で気持ちは切り替えながら配信してるし似たようなものかな。
「しかしそうなるとあれですねー。あそこまで真に迫った謝罪を演技で出来るということは、今後くーちゃんが謝罪配信をしても全部演技の可能性が……」
「やめろ!?」
「そもそも謝罪をしない立ち回りをするという選択はないのかしら……」
「まあ燃えてこそ黒猫さんだよね!」
なんかめっちゃ不名誉なこと言われてるんだが???
「さてー、ではくーちゃんの今までのやらかしを一部振り返って、私達が今後炎上しないためにはどこに気をつけるか。反面教師になってもらいましょーか」
「そういうの晒し上げっていうんだよ」
モニターの画面がまた切り替わる。
そこにはわたしの初配信のやらかし、ホラゲのやらかし、徹夜のやらかし、他にもTwitterの些細なツイートや悪意ある切り抜きで炎上した件とか、色々羅列されていた。
え、こんなにわたしって炎上してたの???
「うわぁ……」
「これは……」
「うーん……」
「なるほど……」
「流石猫ちゃん」
三期生のみんながドン引いた表情でわたしを見てくる。
や、やめろ、対人会話で他の全員から視線が集中するのはコミュ障には効くぞ!
「これで一部なんですけどー、多いですね」
「ここに今日の遅刻も追加されるわけだから、あはは……」
「でも些細なツイートや切り抜きで炎上するのはどうしようもない気がするわね」
「アンチが悪いのよアンチが」
「恐らく一番驚いているのは先輩本人でしょうね。目が点になっています」
「いや、え、えー……。黒猫燦って奴ヤバくない?」
最近は減ってるにしても、多い月は4回ぐらい燃えてるけどコレ。
しかもわたしが把握してない炎上もあるし……。Twitterで深夜に晩ごはんの画像載せて炎上は流石におバカ過ぎない???
「どう思います? くーちゃんは」
「配信せずにTwitterもしないのが一番じゃない?」
「極論来ましたねー。でも私達VTuberですよ?」
「じゃあベントー様みたいにTwitterは公式告知か半額弁当だけ載せよっかな……」
「それでも叩く人がいそうね」
まあ、叩きたい奴ってのは本当に些細なことで叩くからね……。
他の人が深夜に夜食をツイートしても何も言われないのに、わたしがツイートしたらお気持ちしてくる捨て垢っぽい人が何人かいるし。
月の体調不良で少しの間配信しないだけで5chのスレでは引退とかクビとか言われてるし。
そうそう、ソシャゲのイケメンキャラを引けなくて愚痴っただけでそのキャラの女性ファンからマシュマロに長文のお気持ちが届いたりもしたなぁ。
え、VTuberどうやっても炎上とかお気持ちされるくない???
「でもこうやって見ると、やっぱり発言に気をつけるのは大事ね。うっかり口が滑って切り抜かれて、が多い気がするわ」
「先輩の口は川辺の岩場ぐらい滑りやすいので」
「クリス、口が滑ったわね。はい炎上」
「すみませーん、同期に単推しのために仲間を燃やそうと悪意ある切り抜きをする子がいるんですけどー!」
「これ後日イベントに来られなかった人たちのために公式で切り抜き上がるんだけど、ちゃんと分かってるわよね……?」
「ここ絶対切り抜かれますよ」
切り抜きあるの!?
「くーちゃんが露骨に目を泳がせてますねー」
「これは説明を聞いてなかった顔ですね」
「口を滑らせない、お気持ちツイートはしない、加えて運営からのお知らせは読む、も追加かな?」
「でも忙しいとつい全体チャット見逃しちゃう猫ちゃんの気持ちも分かるわ」
「そう言うしーちゃんはすぐにお返事をする真面目さんなんですからー」
「先輩のことになると本当に全肯定なんだから」
「べ、別に猫ちゃん好きじゃないし!?」
ベア子がこっちを見て大げさに手をワチャワチャさせながら否定してくる。
そこまで否定しなくても……。
「ここまでのまとめとしてはVTuberはどうやっても炎上するからあまり真に受けず気にし過ぎないぐらいが丁度いい、ってところかしら?」
「ですねー。現に私達炎上したことないですしー?」
「わ、私は別に猫ちゃんと一緒なら炎上しても……」
「こらこら、推しと一緒に燃えたがるとか限界オタクだぞー?」
「出来れば私も燃えたくないよ!?」
「三期生はいつも通り活動するのが一番、なのかもしれませんね」
そう言って次のコーナーの準備をする後輩たち。
進行が書かれている台本にはたくさんメモ書きがされていて、なんだかわたしより頼りになるというかなんというか……。
これ、また『黒猫燦後輩におんぶにだっこ』とかタイトルでまとめサイトに取り上げられないよね……?
うぅ、エゴサのことを思うと今から胃が痛いなぁ。
でも、まあ、やっぱりわたしは昔から変わらず、全肯定してくれる意見だけじゃなくて、ちゃんと否定的なものも見て心のバランスを保ちたいなぁと思った。