カジュアルに殺される   作:くろはすみ

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 前述の二人が興じているのは異変解決というよりはバウンティ・ハンティングに近い。幻想郷の機構には山程の欠陥がある。「幻想郷は全てを受け入れる」もその一つ(尤も賢者達の中に、これを欠陥と一言で切り捨てられるような者は居ない)。これによって受け入れられた中で、既存の住人に到底共存不可と断定された存在は即時討伐の対象となる。そしてこれは博麗の巫女一人に務まる責務ではない。故に何らかの報酬によって討伐を各陣営に打診している。これら陣営の中で、紅魔と守矢に共通しているのは「降りかかる火の粉は払う」というスタンスくらいのものだった。

 

 その日レミリアの機嫌が良かったのは妹の誕生日を祝うという名目にかこつけて彼女と接する機会に恵まれるからだった。レミリアは身内に対して妙な照れを発揮する事で、通常の好意の表明も出来ないようなポンコツ女だった。誕生日を祝うという提案すら、(半ば呆れ調で)咲夜がしたものであり、レミリアはそれに渋々了承したに過ぎない。誕生日プレゼントも用意していた。投げ遣りに何でも買い与えていたような、これまでのいい加減なあれやこれやではなくて、薔薇の花弁一枚挟んだだけの只の栞と共に、今日こそは姉として歩み寄るのだと考えていた。レミリアはそわそわのうきうきだった。

 

 クソみてーに長い廊下の真ん中で、少し頬の紅い、愛らしい愛おしい妹を前にして、さあ何を言おうかと言った処で、ガラスの破片と共にその姉妹の間にぶっ飛んできたのは門番だった。直ちに血溜まりが辺りを支配した。風を切る白い触手に、呆気にとられた妹の首が飛ばされそうになるのをレミリアは跳ね除けた。駆けつけてきた咲夜には右腕が無かった。不死力をばちゃりと飛ばして怪我塗れの二人を即座に全快させた。

 

「お姉様」

 

「少し待っているように」

 

 無論限度はあるが、ある程度なら致命傷を修復した処で眷属になるような事はない。レミリアは運命を操るが、咲夜の運命は視えない。美鈴の運命は広大すぎて観測しきれない。フランドールには近づいただけで周りの運命諸共幕に覆われたようになる。身内でまともに視れるのはパチュリーくらいのものだった。司書の運命は視ても意味がない。魔界の悪魔だから。美鈴は申し訳ない、と横になったまま言った。レミリアはブチ切れていた。静かな怒りとかそういうのではなくて、只々分かりやすく普通に怒っていた。

 

 勿論、大事なメイドと門番をアレされた怒りも多分にあるが、何より漸く踏ん切りの付いた自分の決心に冷水を浴びせられたのが一番気に入らなかった。しかしこれは自分の歩みから出た錆びでもあるよなと、彼女は思った。何でこんな時に限って、ではない。普段から素直になっておけばこんな気持ちになる事もなかったのだから。そうすれば今、彼女は純粋に部下を痛めつけられた義憤と報復という目的によってのみ行動できたはずだ。「私は紅魔の主なのだから」。今の自身は不純だ。しかし如何に自分の人格が理想とは掛け離れていたとしても、それを顧みている時間はない。誰も不安にさせる事のない立ち振る舞いのみが常に要求されている。要求しているのは誰だ?それはレミリア自身だ。他の誰も、レミリアにそこまでの完璧を求めちゃいない。それでも彼女は自分を許すことはない。決して。

 

「お姉様!私ちゃんと待ってるから!」

 

 妹が叫ぶのが背中に届いて、やっぱりレミリアは少しだけ全能感を味わった。何を置いてもレミリアにはフランドールが全てだった。ある意味これはレミリアにそれを自覚させるイベントとして機能した。レミリアからすれば、妹と話そうとしていただけなのに手負いの下僕二人と触手が躍り出てきた格好だ。唐突かつ意味不明。何の伸展性も脈絡もない。案外、紅魔館を飛び出した時点で既に、レミリアは怒りとは別の位置に居た。そして、大凡自己の中で渦巻く感情に対しては冷静な質であり、ほぼ自覚的だった。

 

 あっけらかんと、かくもあっさりと、まだ何も乗り越えてもいないのに彼女は精神的に成長した。人間が人生の間でひり出す全ての糞の量よりも断然多く、下らない自己分析に時間を使ってきた彼女なりの半生の成果だった。

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