カジュアルに殺される   作:くろはすみ

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 五百手、九十秒程度で大凡劣勢と相成ったレミリアは胴が泣き別れし、即時の再生が難しい程に繰り返し損傷していた。早苗は舌打ちをした。結果的にはレミリアの言う通り彼女一人で事に臨むのが最善だったかもしれないと考えたからだ。レミリアは早苗に飛ぶ攻撃を九割方封じ込めながら戦っていた。連帯行動に慣れていない早苗が劣等感を抱くのも無理はないが、実際の処このタッグはパーティとして十全に機能しており、レミリアは相当に助かっていた為この勘繰りは的外れであると彼女の名誉の為に記述しておく。

 

「まいったな、しかし…瞬殺が不可能なら泥仕合に持ち込むまでだ」

 

 ぼやいたレミリアが「ふん」と体に力を入れると新しい下半身が生えてくる。槍と爪と放出による派手な攻撃が鳴りを潜め、代わりに鎖と蝙蝠と魔法陣を駆使し牛歩を始めたレミリアを見て、早苗は状況と取るべき戦術が変わった事を理解した。早苗が投げ込んだ「結ばれた紙」が吉を示し黄色い爆発として烏賊に炸裂した。一瞬怯んだ隙を突いて鎖で三匹を捕縛したレミリアは早苗の同射程まで離脱した。

 

「君の継戦能力を聞きたい」

 

「あれらの力を吸い取りながら戦っているので、気力や集中力の面を除けば無尽蔵です」

 

「結構、撤退はない」

 

「どうするつもりですか?」

 

「運命を操る程度の能力を使う。ただ演算が完了するまで時間がかかる。奴は強大な上に何故か運命が視えん」

 

「絶望的状況に聞こえてなりませんが」

 

「なぁに、我がメイドとかを筆頭に、運命が視えない相手にはなれっこだ。相性が悪いからと言って嘆いていても始まらないの。視えないと判ればそれならそれで幾らでもやりようはあるさ」

 

 烏賊が自らの戒めを破壊した折を見て、またレミリアが前線へ向かった。暫くの間、早苗は此れまでの術と合わせて、おみくじ爆弾で牽制を繰り返したりしていたが、程なく苛立ちが隠しきれなくなって、終いにはレミリアの更に前に出た。

 

「オイ、何をしてる?死にたいのか」

 

「向いてないんですよこういうの」

 

 吐き捨てるようにそう言って、早苗は烏賊の目玉にサッカーボールキックを食らわせた。無様としか形容のしようがなく、烏賊の目玉は勢いよく欠損した。更に、体全体に風を纏って掘削機の様に烏賊の体躯を削り始めた。全ての術式は依然、並行して作用していた。レミリアは閉口した。烏賊も閉口した。尚も戦いは続いた。

 

 

 

***

 

 

 

 奇跡を起こす程度の能力は単なる詠唱の他に、自分にできる最大限の努力と、自分の幻想性に対する一点の曇りもない信仰の末に発動する。早苗は最近調子が悪かった。スランプだった。イップスですらあった。彼女を取り巻く最近の事象は彼女を大いに動揺させていた。幻想入りしてくる討伐対象の正体に覚えがあったからだ。あの烏賊は早苗の友達が昔創作サイトでバズらせたモンスターだった。

 

 よくある話ではある。チープで最強の化け物。パブリックワールド黎明期のアイドル。膨れ上がる人工。そしてしょうもないトラブルを繰り返して気付けば衰退。早苗が中学に上がろうかという頃には公式とされていたサイトは潰れた。野良wikiサイトに転載された記事を見返しては友達と笑っていた。ちょっとした青春時代の懐郷。現在進行形で踏み躙られているもの。少し前にはコープス体で構成されたインビジブルかつ不可視の異常増殖する毒キノコが魔法の森の実に五分の一を侵し大きな騒ぎになったが、早苗は収束後にその話を聞いて「ああ、あれか」と思った。似たような事が他に二度程あった。

 

 関係してしまっている罪悪感で脳みそが潰れそうになる。新天地に厄災を持ち込むなど。しかし、早苗は全然関係なかった。早苗が何かをした訳ではなかった。ただ知っているだけだ。この件に関して早苗は傍観者だ。それに、もし早苗がそれらの作者だったとしても、だったら人は物語を紡いではならないのか?想像力を形にしてはならないのか?そんなものは命題としても下らな過ぎて一考にすら値しない。そもそも幻想郷のシステムの見境の無さにこそ問題がある。真に早苗が恥じているのは、普段はそんな事歯牙にもかけない彼女が、何故か今回に限って不当に石を投げられる事を忌避し情報を開示しなかった事だ。これによって早苗は早苗自身にとって本物の罪人と化してしまった。

 

 常識の名の下に緩やかな排斥を受けようとも鼻で笑っていた。但し、今回担保にしているのは「楽しかった過去と友人の名誉」だった。残念ながら人生経験にそんなアーカイブはなかった。うじうじしている内に十代特有の全能感に任せて適当に振るっていた奇跡は打ち砕かれた。

 

 結局、それらが打破の気配を見たのは友達の河童の腹が食い千切られてしまった時だった。うじうじする原因が友人ならカリカリする原因も友人だった。何処まで行った処で交友関係に支配される一般的な少女だった。それでもまだ吹っ切り切れてない彼女の精神を統一させたのは、「向いてない」の言葉通り溜まったフラストレーションの開放と、無限大な破壊と、共闘の快感と、命の危機。

 

 後に残ったのは奇跡を起こす尊大千万な風祝のみだった。

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