カジュアルに殺される   作:くろはすみ

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「お前の能力を、普段使っている魔法に置き換えて考えてみろ。破壊するを一、破壊しないを零、対象を変数とするんだ。そしてそれを全ての概念に当てはめる」

 

「ちょっと難しいかも」

 

「ここに我が親友に作ってもらった水流リングがある。これを腕に身に着けて、吸血鬼の弱点を克服するにはどの様に摂理を破壊すれば良いのか演算してみろ」

 

「えっ。入門編にしては荷が勝ちすぎているんじゃないかしら」

 

「入門編とは言っていない。これができればお前に出来ない事はこの世に存在しない。しかし同時に、これを努力する過程で大抵の事は出来るようになるはずだ」

 

「壊したものを直す事も?」

 

「壊したものによる。物理的修復は破壊の何乗も難易度が高い。対して摂理系修復はそもそも必要ないケースが多い。まず順番として、自分の魔力で手に負える範囲を正確に切り取って設定してから本演算を始めるからだ。時間が経てば多数派空間の摂理に合わせて補完される。修復が必要な程破壊された摂理をどうにかしようなどと言うのは神にでもやらせておけ。いずれにせよ並列に情報を処理できる頭と、単純な魔力量を永遠に研鑽し続ける必要がある」

 

「じゃあ私、神を目指すわお姉様」

 

「実に不敵で大変結構」

 

「えへへぇ」

 

 烏賊の件から数日が経った。紅魔館には天狗連中から警告的な書状が届いた。受け取った美鈴はそれに少しだけ目を通して直ぐに破いた。早苗が文に事情を問いただした処によると大体早苗の予想で合っていたが、更にその上「我々はあくまで対処の用意を急いでいたのであり、紅魔はその最中我々の領内で勝手な真似をした」という建前を作ろうとしていたようだった。主張がそこまで的外れでもない処がなんとも質が悪い。実際、レミリアが居なかった処で程なく天狗の部隊が烏賊を誅滅した事だろうし、そもそもレミリアが烏賊を斃したがったのは単に個人的な報復の為だったのだから。とはいえ無犠牲で事を収めたレミリアをそんな扱いとあっては早苗としても流石に忍びないということで、暗躍と暴力の末にそんな建前は握りつぶされた。それら全てを知る由も無く、レミリアは妹と至上の時を過ごしていた。力の使い方を教授するという口実で、妹の羽を磨きながらほぼ雑談に興じていた。ただのねんごろだった。程なく部屋の外から厚かましさに溢れた無粋な足音が聞こえてきて、扉が開け放たれた。仲睦まじい姉妹の語らいは中止の憂き目に遭った。顔を出した緑髪は(恐らく侵入を止めようとわちゃわちゃしている内にそうなったのであろうが)咲夜をおんぶしていた。レミリアは笑顔で侵入者を迎えた。

 

「悪いが今は忙しいんだ。というより、当面は妹及び下僕達へのアフターケアで忙しいので改めての挨拶についてはこちらから連絡すると言ってあった筈だが?出てけ」

 

「そんな事を言っている場合じゃないんです。幻想郷中の水が多発的に水晶化している件について調査を手伝って欲しいんですよ。知ってるでしょ?レミリアさん家の前の湖だって今ガチガチでしたよ。このままじゃ皆干からびて死んじゃうかも」

 

「私は勿論、君にだってそんな義理は無いだろう」

 

「それがですね、私が『埒外』に詳しいって知った八雲が私を専門の解决屋に任命しちゃったんですよ。しかも報酬が良くて」

 

「『埒外』?」

 

「そういう名前が付いたんです」

 

 烏賊で四件目であった事から、似たような事件が頻発する事は想像に固くなかった。何せそのパブリックワールドの題材は「人類に害為す汎ゆる存在との戦い」がテーマだったので、その厄介さも「たまたま幻想入りした怖い連中」どころの騒ぎではなかった。さながら土俵の上に放り込まれたクワガタとカブトムシのようで、早苗はそれらを好奇の目で見る巨大な人間の視線を思って止まなかったが、早苗自身もホラー映画でキャーキャー言うのが好きなタイプだったので、次のトゥルーマン・ショーの操り人形に自分が選ばれたからと言って文句を言ってはいけないなと思っていた。東風谷早苗の感性は乾いていた。

 

「ははあ。それで何故私を?」

 

「気持ちよかったじゃないですか。あの時私が奇跡で動かしたのはおみくじの結果だけです。それが烏賊に致命的に作用するか、レミリアさんにだけ都合よく当たらずに済むかは全部レミリアさんがやった事ですよ。私達、最強のコンビだと思いませんか?」

 

 幻想郷が全てを受け入れるのをやめた時、それは全ての優しさを失い衰退するだろう。故にこれを避ける事はできない。システムの欠陥を善性でカバー出来ると思っているなら只の馬鹿だが、善性で作られたルールは願いと同義で、それはつまり順番が逆で、必ずしも愚かさの産物とは言えなかった。黎明期共同創作のるつぼに混沌として生み出され続けた全てはいずれ陳腐化し、順番にこちらに流れてくる。人間が造物主の眷属であることの証左が幻想郷だ。思い、作り出し、忘れられ、それでも消えず、流れ着く。その結果誰が死ぬのか?殺されたのは烏賊か?それともこれからの幻想少女の誰かか?どういう経緯で生まれた何にせよこの世の全ては、

 

「気分が良かったという点については否定しない。我々の相性が良いという件についてもだ。だが、やだね。私は身内を構う以上に大事な時間が存在しない事を今回の件で痛感したのだ。白黒でも誘って勝手に何でも解決していろ」

 

「でも湖が固まってしまったのは悲しいわ。私お姉様と湖畔を散歩するのが好きだったのに」

 

「仕方ないな守谷の。報酬はきちんと折半しろよ、紅魔の財布事情も我らの隆盛に比例するという訳ではないのでね」

 

「東風谷早苗ですっ!」

 

 カジュアルに殺される。人も物も。現実も幻想も。

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