ドクターが記憶喪失になったので攻略します!   作:雨あられ

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File11.プラチナ

ひとーつ!足を止める。

 

 

「うおッ!?……な、なんだ!?パンクか!?」

 

「おいおい、冗談だろ。たしか、替えのタイヤが……」

 

 

ふたーつ!装甲を砕く。

 

 

「いや、違うぞこれは……!おい、お前たちすぐに車をッ……!」

 

「ぎゃッ!!」

 

「ガフッ!!」

 

 

みっつ……

 

 

「くそ!待ち伏せか!!…………!いた!窓の外に……うがっ!」

 

「お、おい!っち、窓の外だって?……!少なくとも、見えてる範囲にはそんなやつは……ま、まさかあの豆粒みたいな……そんなはずは」

 

ビィン!と白銀の矢は風に乗り、車からわずかに顔を覗かせた兵士の仮面を貫いた。

二つに割れた仮面の間から白い眼を剥いた顔が露になると同時にがくりと項垂れ卒倒する。

 

 

 

 

「……チェックメイト」

 

目を閉じて息をつくと、可変式の黒弓を膝で叩いて元に戻し、風でなびいた長い白髪を手の甲で軽く整えて立ち上がる少女……。

 

「すげぇ、流石はプラチナさんだ!視界が悪くて風も強いっていうのに、あれだけの距離を正確に射抜くなんて……」

 

「カジミエーシュ騎士の名は伊達じゃないってことか……ただ、俺は頼もしいと感じると同時に……怖いな」

 

「え?」

 

「……そこ、何してるの。さっさとあの伸びてる奴らと物資、回収してきて」

 

「は、はい!了解しました!…………恐ろしいって、プラチナさんの何が」

 

「いや……俺も噂で聞いただけなんだが、彼女は騎士の中でも元々暗殺部隊出身らしい。だから、今は味方かもしれないが、もしかすると時期を見て裏切る可能性だって……」

 

「……それは大丈夫じゃね?」

 

「……どうしてそう言い切れるんだ?俺達ロドスと協力しているのだって、一時的なものかもしれないのに」

 

「決まってるだろそれは。プラチナさんが……」

 

空を見上げたまま無表情に大きく欠伸をする少女であったが、クランタ族独特の白い尻尾は右へ左へ、ご機嫌に揺れる。

彼女の頭の中にはいつも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

File11 プラチナ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窓から差し込む夕焼けが、ロドスの広い廊下を赤く染め上げます。

最近は暑さのピークも過ぎて、少しずつ日が傾くのが早くなってきています。夏の終わりが近づいてきている証拠なのかもしれません。

 

この夏、それはもう大変でした……

 

ブレイズさんはドクターのことをただの仕事仲間だと……そう言っていましたが、ドクターと二人で飲みに行ったり、楽しそうにトレーニングしたりしている姿が度々目撃されています。おまけに、なんだか妙に甘酸っぱい雰囲気が流れていることが有ることも……。

 

他にもこの前やってきたヴィクトリア出身のリードさんが“診察をするならドクターじゃないと嫌だ事件“というものを引き起こしました。

 

ドクターにつきっきりで診察してもらえる。それは、とんでもない権利です。

スカジさんやシルバーアッシュさんなどもドクター以外の診察を拒否し始めて……一時はどうなることかと思いましたが、何とか極力ドクターに診てもらうというという形で何とか落ち着きました。

 

このように、オペレーターの皆さんのドクターへの信頼は日増しに厚くなる一方です。

 

それはとても喜ばしいことだと思うのですが……皆さん、ちょっと盲目的過ぎだと思うんです。

私のように、一歩引いたパートナーとしての余裕を持ってほしいですね。

 

しかし、余裕を持ちすぎて、カメとのレースでゴール前で眠ってしまうウサギになるわけにも……。

 

「……大丈夫。大丈夫です。まだ慌てるような時間ではありませんから……」

 

何度か大きな呼吸を繰り返してから、両手を胸の前でグっと構えて気持ちを引き締めます。

 

 

私は、ゴールするそのときまで全速力を出すと、そう決めています。

 

そういう意味では、今日は特別ついています。

エリートオペレーターの皆さんはケルシ―先生の特別任務で長期の出張に出ていますし、他のオペレーターの方々も大多数がお盆休みで実家に帰省しています。この間に、みなさんが入り込めないほどに私とドクターの仲を深めておけば……!

 

ふふ……時刻は既に夕方ですが、ドクターにはまだたくさんデスクワークが溜まっています。私はそのお手伝いしつつ、ドクターが休みたそうにしているときに、そっとこの膝を差し出すんです……おつかれのドクターに安心感を与えて……そして甘えたように抱き着いてきたドクターとそのまま……!!

 

「……えへ。ドクター。お疲れ様です。アフターファイブからもお仕事がんばりま……しょう?」

 

お疲れ様。アーミヤ。

 

……ど、ドクターッ!??

扉を開けると、そこにはトントンと書類をまとめて椅子から立ち上がり、大きく伸びをするドクターの姿が!?

この仕草をしているということは……

 

「ドクター?まさかもうお仕事が終わったんですか!?」

 

あぁ。ちょっと無理をしたが、何とか終わったよ。

 

コキコキと肩を鳴らして腕を回すドクター。

私は、未だに信じられなくて終わっている書類に全て目を通してみます……が、どれもきちんと処理されていて手を抜いた様子はありません。

 

「すごいです!ドクター!今日の分のお仕事が本当に全部終わっています!」

 

ああ。じゃあ、今日の仕事は終わりで。そろそろここを出ないと……。

 

「はい!お疲れ様で…………え、ちょっと待ってください。今からどこかへ出かけるんですか?」

 

もうほとんど夜のようなもの、出かけるにしては少々遅すぎるような気がします。

それに、ドクターがこんな時間に一人で出かけるとは思えませんが……。

 

言ってなかっただろうか?……実は今日「ドクター!お仕事終わったー!?」

 

バン!と、豪快に扉を開けて部屋に飛び込んできたのはアンジェリーナさん!?

っということは、ま、まさか……

 

「あ!」

 

アンジェリーナさんの服装がいつもと違います!

赤い金魚のあしらわれた白い反物に、腰回りには大きな赤い帯が後ろで結ばれていて、ヘアゴムで止めた髪を前に一つにまとめて垂らしているその姿は……いつも明るいアンジェリーナさんに女性らしい落ち着いた印象を加えています。

 

「アーミヤちゃん!どうかな?似合う?」

 

「は、はい。とてもよくお似合いです。えっと、それは……」

 

「ありがとう。これはね”浴衣”っていう極東の着物だよ!お母さんのお古なんだけど、綺麗でしょ~」

 

アンジェリーナさんがその場でふわりと一回転すると、ひらひらして涼しそうなだけでなく、細部まで模様が縫い込まれていて本当に美しい服です。

 

とてもよく似合っている。可愛いよアンジェリーナ。

 

「か、かわ!?……う、うん!ありがとぅ……ドクター」

 

……もじもじと恥ずかしそうに顔を赤くするアンジェリーナさん。

あれれ~……おかしいですね~。私の時と反応が違いすぎませんか~?

……こ、こうなったらドクターに今から大量のお仕事を用意してお二人のデートのじゃm「そうだ!」

 

「浴衣、アーミヤちゃんも着てみない?ちょうど着付けをやってくれる呉服店があるの。折角、”お祭り”に行くなら精一杯おめかししていこうよ~!」

 

「え?……わ、私がですか!?……あの、でも、お二人でどこかに出かけるんじゃ?」

 

え?とドクターたちの頭に疑問符が浮かびます。

 

「……ドクター。アーミヤちゃんに説明してないの?はぁ~しょうがないなぁ。

えっとね、今日は縁日っていう極東のお祭りがあるから、アーミヤちゃんも誘って一緒に行こうって、ドクターとそういう話になって」

 

おずおずとドクターの方を見ると、ドクターは頭を掻いてすまない、既に誘ったものとばかり……と、申し訳なさそうに頭を下げています。つ、つまり、ドクターは私とお祭りに行くのが楽しみでお仕事をあんなに頑張って……?それに、もしもアンジェリーナさんのような衣装を着れば、私もドクターに……

 

私は……私の耳がピコピコと動きだします!

 

「アンジェリーナさん!わ、私もその“浴衣“を着て見たいです!」

 

「……ふふ、オッケ~!そうと決まったら、さぁ二人とも急いだ急いだ!他のみんなはもう現地で待ってるんだから!」

 

「はい!……え?他のみんなって……アンジェリーナさん!!?」

 

アンジェリーナさんは私とドクター、二人の手を掴むと、開いた窓の縁に足をかけて、そのまま赤い空へと大きく跳びだしました!!?

 

沈みかけた夕日が、私たち3人の影を一直線に伸ばして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぁ~…………あ~、ドクター、遅いな。

 

暗闇の広がる神社の参道。

石畳みの並んだ道には、色とりどりの提灯に火が灯っている。

活発な屋台の客引きと、楽しそうな人々の声、美味しそうな匂いが並んだ屋台から夜風に乗せて運ばれてくる……。

 

ここ龍門で開かれているのは、“縁日”いう極東のお祭りだ。

一件、なぜと思うかもしれないが、ウェイ長官の奥方、極東出身のフミヅキが主催者らしく、店員たちは裏がありそうな強面の鬼や荒くれものが多いのもあって何となく事情も見えてくる。まぁ、私には関係ないけど……。

 

ぐ~……

 

「あ!今何か聞こえたよ!?」

 

「バカ、それはお前の腹の音だ!?」

 

キュルルル……

 

「また聞こえた!!」

 

「……今度は、オレサマの腹の音だ……」

 

隣で縁石に座ったまま足をブラブラさせているのは、青い甚平姿のイフリータ―と最近ドクターが拾ってきたという「ケオベ」とかいうペッローのオペレーター。

二人の精神年齢はほとんど同じらしく、目の前で大人たちが美味しそうに何かを口にしているのを見るたびに二人は涎を垂らしてツバを飲み込み、子供たちが面白そうなおもちゃ……水ヨーヨーや光るリングで遊んでいるのを見かけるたびに口を半開きにしたまま目を輝かせている。

 

「なぁサイレンス!ドクターはまだか!?」

 

「後もう少し、だと思うけど……」

 

緑色の落ち着いた色をした浴衣の裾を引っ張られて、改めて手首の時計を眺めるサイレンスさんに

 

「ヴァルカンお姉ちゃん、おいらもあれ!あれ欲しい~!」

 

「…………ドクターが来たら、見に行こう」

 

「うん!やった~!!」

 

困ったように苦笑する黒い浴衣のヴァルカンさん。

私は頬杖をついたままその様子を眺めて、はぁと深いため息をつく。

 

“プラチナ、暇なら一緒にお祭りに行かないか。”

 

……なんてこっちが勘違いしちゃうような誘い方されてホイホイついてきた私も馬鹿だったけどさ……これじゃ子守とそう変わらないじゃん。

折角、私も”浴衣”を着てみたのに…………一番見せたい相手が居ないんじゃ……意味ないよ。

 

「……あ!ドクターの臭いがする~!」「本当か!?どこだ!?」

 

ピクリと耳が反応する。

おーいと、手を振りながら人混みの中から走ってきた少女二人とフラフラした大きな黒い影。

 

「ドクター来た!ドクタ~!!」

 

「遅いぞドクター!それにお前たちも!!

 

「ごめんね!ちょっと寄り道してて……」

 

「みなさん、大変お待たせしました!」

 

すまない。遅くなった。

 

ドクターはいつも通りロドスの黒いパーカー姿で……隣に居るアーミヤが普段あまり見ない水色の浴衣を着ているところを見るに、彼女の着付けのために寄り道していたというところかな。

……文句の一つでも言ってやりたかったけど……う~ん、これは流石に言えないなぁ。

 

「ヒヒ……まぁ許してやるよ。なんたって、今日はオレサマ、すこぶる機嫌が良いからな!さっさと行こーぜ!ドクター!」

 

「ドクター早く~!早く行こ~!」

 

ドクター。子供に人気あるんだよね。

この調子じゃ二人の時間なんて…………あれ?

ドクター……こっちに来てる?

 

プラチナも、お待たせ。今日は来てくれてありがとう。

 

「あぁ…………うん……それだけ?」

 

わざわざ催促するなんて、らしくないけど……でもこうでも言わないとこの朴念仁は気が付かないのだから仕方がない。

結い上げたポニーテールに手を触れて、白い浴衣の袖元を持ったままアピールすると、ドクターは何度か頷いて、

 

似合っている。

 

と簡単な言葉をくれた。

……まぁ、それは嬉しいけど、そんなのきっと誰にでも……

 

いつも以上に綺麗だ。プラチナ。

 

~~~ッ!!??

 

「おい!みんな揃ったならさっさと行くぞ!あっちの良い感じの屋台がオレサマを呼んで……って、あん?なに顔赤くして突っ立ってんだ!置いてくぞッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う。

 

あ~。今のは違う。卑怯すぎ……。

 

「ドクター!見て!あそこすごい!あ、見てみて!あっちもすご、ふあぁぁぁッ!!?

あっちも!あれなにドクター!?」

 

「ケオベさん!そんなにドクターの腕を引っ張ると千切れてしまいま……ケオベさん!?む、胸を押しつけすぎです!」

 

……ちょっと不意打ちを食らっただけ。

なのに、どうして私こんな……あ~。ムカつく。

 

「イフリータ、また口についてる」

 

「もぐもぐ……んん!ん!」

 

「なに?」

 

「サイレンス!楽しいな!!お祭りって!」

 

「…………うん」

 

そもそも、不公平なんだよね。

 

私だけこんなに……で、私の頭の中をいっつも占拠してて、心臓まで破裂しそうなのに。向こうは涼しい顔しちゃって。

……よし、決めた。今日は絶対ドクターの慌てた顔をみてやろう……ん?

 

「あいつら…………感染者……邪魔……ね」

 

行列の向こう側で、僅かに殺気を感じて気配を辿る。

皆の話し声や周りのお客の声を遮断し、耳の神経を集中させると、ぼそぼそと話をする男たちの声が聞こえてくる。

 

「……あいつらみてーな感染者が、どうしてこんなところに居るんだぁ?ヒック」

 

「本当……せっかくの祭りだってのに酒がまずくなるぜ。……よぉ、なら、こういうのはどうだ?あの嬢ちゃんたちにワザとぶつかって、酒を自分の服に零すんだよ。それで難癖付けてよ……」

 

「うわ~悪の、天才!ひっく!面白そうじゃねぇか、へへへ」

 

……はぁ~、心底くだらない連中だ。

馬に蹴られて死ねばいいのに。

 

プラチナ?

 

「んんッ!?」

 

囁くように聞こえる優しい声が、集中していた耳元に吐息ごと直撃する。

私が変な声を出して、腰砕けになったのを見て、皆の目線も集中する。

 

とりあえずドクターを一発叩いておいて、何でもないからと、みんなにも声を張り上げる。

 

はぁはぁ、今の~~ッ!!

よし、決めた、さっきの奴ら全員”殺ろう”。

 

みんなが別のことに集中し始めた隙を見つけて、気配を消しながら列から外れると、私は悪だくみをしていた男たちの方へと足音を殺しながら流れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んじゃま、さっそくあの気弱そうな眼鏡辺りを狙ってみるか……」

 

「くくく、よく見りゃ結構いい顔してるし、遊んだ後売り飛ばしちまうってのも……」

 

……反吐が出るほどくだらない連中。

どうせこいつら弱いんだ。みんなまとめて……?

先客……私が出て行こうとしたその前に、誰かがその物騒な男の前へと立ちはだかった。

あの灰色の長髪は……

 

「失礼、少し良いだろうか?」

 

「あ~ん?なんだ~姉ちゃん。ひっく、逆ナンかぁ?」

 

「ぎゃは、無理もねぇよ。俺はこう見えても、”極東の種馬”と女たちを震えさせて……」

 

 

「……害虫が」

 

 

「「へ?うわらば!!」」

 

あ~あ。死なないと良いけど。いや、やっぱり死んでいいや。

私が踵を返して反対側に歩き始めると、すぐに背後で歓声が上がった。

野次馬が集まりぐるりと喧嘩が始まったところを取り囲むと、あるものは賭けを始め、あるものは喧嘩を肴に酒を飲み始める。

 

「やっぱり極東の祭りはこうでないとな!」

 

「あの姉ちゃん、つえーぞ!?」

 

「おいおい、男の方も根性見せろ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ドクター?」

 

皆のグループから離れた後も、私は私なりにその辺を散策していると息を切らしているドクターに腕を掴まれる……。

 

プラチナ。急にいなくなるから心配した。

 

「ああ…………ごめん」

 

見つかって良かった

 

そう言うドクターはどうやら一人で私のことを連れ戻しに来てくれたらしい。

ふ~ん、わざわざ私を探しに……。

 

端末を使ってアーミヤ達と合流しようとしているドクター、けれどこちらとしてはこんなチャンスをみすみす逃すつもりはない。

ドクターの端末をひょいと奪い取ると、ドクターはポカンと間抜けな顔をする。

 

「何でって……そんなことわざわざ聞いてくるなんて、相変わらず乙女心のわからない人だね……」

 

……他の良い子ちゃんたちがどういう手段を取ってるかは知らないけど、私は……

 

狙った獲物は逃がさない。

 

赤みがかった顔で挑発的な笑みを浮かべると、ドクターの腕に自らの腕を絡めて、ついでに、尻尾が勝手にドクターの腰に巻きつく。

 

「ねぇ、あそこの射的で勝負しようよ。……そうだね、負けた方が言うこと"なんでも聞く"っていうのはどう?それとも尻尾を巻いて逃げる?

……可愛いドクターさん」

 

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