ドクターが記憶喪失になったので攻略します!   作:雨あられ

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File4.スワイヤー

「スワイヤー、君は今日来ているロドスの……そう、“ドクター”のことをどう思っている?」

 

「へ!?」

 

久しぶりに上司への報告を終え、去り際に不意打ちを受けたのはツインドリルにサラサラの髪、見え隠れする八重歯と縞々の尻尾が特徴的な龍門近衛局の上級警司、ベアトリクス・スワイヤー……。

 

「ど、どう思うとは?」

 

「そのままの意味だ。深く考えずに、君の感じているままを話してくれればいい」

 

「それは……」

 

隠し事をするなと暗に言っているのではないか。

緊張で強張るスワイヤーを眺めたまま、ウェイ長官は煙管の炭を灰皿に落とし、自身の顎髭を撫でている。

 

「……ウェイ長官、ドクターは傑物です。あれだけのオペレーターを束ねる指揮力には目を見張るものがあります。今後の対レユニオン・ムーブメントにおいても、“龍門としても”協力するべき相手かと」

 

「……」

 

ウェイ長官はその答えを聞いていないかのように、スワイヤーのことをまっすぐには見ずに、煙管を吹いた。

 

「……君がロドスに深く干渉しているとの報告が上がっている。訓練顧問以外にも、商務部の仕事まで引き受けているという報告もある」

 

「……」

 

「ロドスと協力しろとは言っているが、こちらからの過度な干渉は黙認できない」

 

現状、ロドスと龍門は協力関係にある……。

しかし、それはあくまで敵の敵は味方であるというだけの、利害関係の一致によるものだ。だから、もしもの時、ロドスの出方によって、ロドスは龍門の敵になることも十分にあり得る。スワイヤー自身、その現状が理解できていないわけではなかった。

 

「君の「やり方」は理解している。尊重すべきものだとも思っている。だが、今回は些か踏み込みが過ぎる。君がロドスのドクターと夕食に行ったという話も「うぇ、ウェイ長官!!」」

 

上官の言葉を遮ったスワイヤーを見て、ウェイは思わずその重い瞼を見張った。

そこに居たのは、優秀な警官としての彼女ではなく、尻尾を伸ばし、顔を真っ赤にした一人の……

 

「……あぁ、そうか。ふふふ、そうかそうか……いや、なに……そういうことか。

済まなかった。もう行ってくれ。スワイヤー」

 

「………………失礼します!!」

 

バタンと、強めに閉まった執務室の扉を眺め、ウェイは腰を深く降ろし、再び顎髭を撫でた。

 

「……ふふ、虎威将軍も色を知る、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

File4 スワイヤー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マゼランさんには……騙されましたよ。

 

調査や研究が第一と見せかけて、ドクターに対してあんなあからさまな態度をとるだなんて。このアーミヤの目をもってしても見抜けませんでした。

この前なんて、嬉しそうにドクターと一緒にスケートに行ったと報告を受けました……!なんて羨まs……いえ……ドクターが転んで怪我をする可能性だってありました。とても危険な行動だったかと思われます!

 

「ですが、今日は……」

 

大丈夫でしょう。私とドクターがやってきたのは龍門上城区……協力関係にある龍門近衛局の本拠地です。未だ、ロドスとの関係は良好とは言えませんが、それでも脅威に立ち向かう仲間であることに変わりはありません。少なくとも、里帰りのように一緒にやってきたチェンさんやホシグマさん、スワイヤーさんたちはとても信頼できる方々です。それに

 

「今日の面会はこれで終わりですね。ドクター」

 

そうだなと相槌を打ちながら伸びをするドクター……!

そう、今日はこちらでの仕事も終わり、スカジさんたちの姿もなく、ドクターと……二人きり……!!

 

「ど、ドクター入るわよ?……あ、アーミヤもいたのね」

 

に、なれません……!?

噂をすればと客室に入ってきたのは龍門近衛局からの協力者、スワイヤーさん。

普段の頼もしい姿はどこへやら、もじもじと、恥ずかしそうに内股を擦りつけながら、ドクターの方を上目遣い気味に見ていますが……ちょっと待ってください、なんですか?その表情は。

 

ま、まさか……!?

 

「ね、ねぇドクター。少し“二人で”龍門の街中を歩いてみない?た、タダでってわけじゃないわよ?美味しい万頭の店を知っていて……」

 

二人で?……すみません、そんなこと……

 

 

許されるわけないですよね?

 

 

「美味しい万頭のお店ですか~。私も興味があります、スワイヤーさん」

 

ニコリと笑顔を向けるとスワイヤーさんは予想外だったのか、うっと、少し狼狽えました。

 

「え?ああ、そうよね。け、けれどアーミヤは万頭が嫌いじゃなかったかしら!?」

 

「あまり食べる機会はありませんでしたが、嫌いではないですよ」

 

「そう…………うん…………な……ら3人で……」「……失礼。アーミヤ代表、少しお話したいことがあるのですが、よろしいですか」

 

「……え?」

 

のそりとスワイヤーさんの後ろから現れたホシグマさんの言葉を聞き、私の耳がぴくぴくと震え始めます。

 

「……すみません。どのようなお話かわかりませんが、後にしてもらうことはできませんか?今から、少し外出を……」

 

「申し訳ないですが、大変火急な用事でして、是非、アーミヤ代表にお力添えいただきたく……」

 

「でしたらドクターと一緒に」

 

「……いえ、ドクターの力は不要です」

 

「あ、そうです。実は私、アーミヤの双子の妹のイーミヤで……」

 

「代表、お願いします」

 

「うぅぅ……」

 

チラと、後ろを見ると、目に映ったのは目の前に転がり込んできた好機に目を輝かせて尻尾をふるスワイヤーさんと、片手を上げて気さくな笑顔を見せるドクター。

い、いけません。お腹を空かせた雌虎に、そんな……!?

 

「……さぞ、美味しいのでしょうね。その…………万頭は……」

 

私は顔を背けてぷくっと頬っぺたを膨らませると精一杯の反抗の意志を見せる。しかし、ドクターはポンポンと頭を撫でて、お土産なら買ってくるとそう言うばかり……。

 

そうではなくて、私は……っ!!

 

「アーミヤ代表。急いでください」

 

「……ホシグマさん、案内を……お願いします」

 

私の耳は、がっくりと垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一攫千金のチャンスが来たっ!?

 

ドクターと二人、近衛局の廊下を歩く。普段歩いているこの道も、まるでレッドカーペットの上の様だ!

 

ホシグマが空気を読んでくれたおかげで、ドクターと二人で外出する機会が得られた。あれだけ純粋に楽しみにしていたアーミヤを仲間外れにしたのは申し訳ないけれど……

 

アタシは、このチャンスを絶対にものにして見せる!

 

「じゃ、じゃあ、い、行きましょうかドクター!そうね、まず、手始めに……「む、ドクター。それに…………スワイヤー。こんなところで何をしている」」

 

ピタリと、足が止まった。

聞き間違えようのないこの剛健な声、スラリとした体躯にいつも眉間に皺を寄せて険しい表情。血のような紅の瞳に、赤霄(セキショウ)を腰に帯びた……忌々しい相手。

 

「……あなたには関係がないことよ。チェン」

 

「関係がないかは私が決めることではないか?少なくとも、私の目にはドクター……龍門の客人を連れ出そうとしているように見えるが?」

 

「ええ、そうよ?だってこれからドクターと二人で出かけるんだから!」

 

「何?ドクターと……二人?……ふむ」

 

いかに恋愛ごとに疎く、浮いた話の一つもないチェンでもアタシの言っている言葉の意味くらい分かるだろう。

そう思い、勝ち誇るように腰に手を当てていると、少し悩み顔だったチェンが顔を上げて頷いた。

 

「わかった、ならば私も同行しよう」

 

「そうね。アンタも同行……………はぁぁぁあああああッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつの頭の中には本当に鉄アレイでも詰まってるんじゃないかしら!?

ドクターと二人並んで歩いていると、その数歩後ろからついてくるチェン。一度は気にしないとばかりに無視しようと思ったが、じっとこちらを見張るように見つめるチェンを無視できるはずもなく……。

 

「ちょっと!アンタ本当についてくる気なの!?」

 

「当たり前だ。それとも不測の事態が起こった時、お前だけで対処できるのか?」

 

「…………出来るわよ」

 

「ふん。少し悩む時点で問題外だな」

 

「出来るって言ってるでしょ!?……アンタはいっつもそうよ、独断と偏見ってやつかしら?自分の判断基準を押し付けて!!」

 

「そういうお前は楽観的にすぎるな。……ドクターはつい先日もオペレーターの警護が手薄な時に襲撃を受けている。この龍門での滞在中に襲われたとあっては近衛局の恥だ」

 

それくらいわかっているはずだが?

そう嫌味ったらしく口にするチェンを見て奥歯の方がキシキシと軋んだ。

確かにチェンの言うことも……一理あるかもしれないけれど……それでも、せっかくの二人きりだったのに!

 

……少しくらい、空気を読んでくれても……!!

 

「ドクター。こんな無愛想な仕事人間が近くに居たら、せっかくの外出なのに肩がこっちゃうわよね!?」

 

「それを言うなら、お前のようなキーキーとうるさいお嬢様に引っ付かれた方が耳障りに決まっている」

 

「な!なんですって~ッ!?“龍門スラング”!!」「“龍門スラング!?”“龍門スラング!”」

 

二人とも、そこまでだ。

 

というドクターの言葉を聞いて、我に返る。いつの間にか出来ているのは人だかり。チッと舌打ちをすると顔を背けるチェンに、こちらもフンと鼻を鳴らして眼を逸らす。こいつと居ると……アタシが口汚い女だと思われてしまうわ!!そう今日は、こんな言い争いをしている場合ではないのだ。

 

「ふぅ、もう行きましょ。ドクター!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、スワイヤー。どうして万頭屋ではなく服屋に居るんだ……?」

 

「し、仕方ないじゃない!新しく出来ていて、気になったんだから!」

 

「さっさと目的地に行けば良いだろう……なぁドクター?」

 

別に構わない。スワイヤーの新しい装いも見てみたいし。

そういってくれる優しいドクターをみてチェンに向かって勝ち誇った顔を見せつけてやる。が、チェンは全く気にしていないかのように、そうか。とだけ言って服屋の中を見回していた。

 

「ドクター!せっかくだし、アタシの服を選んでちょうだい!」

 

「服なんぞ機能性が良ければどれでも良いだろう」

 

「アンタには聞いてないわよ」

 

任せてくれ。というドクターの声を聴いて心が弾んだ。折角だし、似合っていると言われるような服を着たい。何パターンかの色とコーデを用意すると、早速試着室へと潜り込む。

 

「ふぅ、奴の買い物は長いぞ、ドクター。……ん?よく一緒に買い物に行くのかって?……たまたまよく行く店が同じだっただけだ」

 

「お待たせドクター!どうかしら?」

 

一番自信のあるコーデとして出したのは赤いドレスにミンクのコート。最上級な素材を使ったセレブリティな服である。きっとこれならドクターも……

 

「派手過ぎる。お前は街に大道芸でもしに行くつもりか?」

 

「は、はぁ!?……んん、ねぇ、ドクターはどう思う?」

 

スワイヤーにとても似合っている。

 

ドクターから返ってきたのはチェンとは違って好反応!

だけど……うーん、あともう一声ほしいわよね?

 

「……じゃ、じゃあとりあえずこれはキープして、次は……」

 

「早くしろ。どれもどうせ馬子にも衣装だろう」

 

「な!!……ふーん?そういう自分はどうなのよ?」

 

「……なんだと?」

 

「いつも同じ制服ばかり着て、どうせ大したファッションセンスがないからひがんでるんでしょう?」

 

「何を言い出すかと思えば……」

 

アタシを一睨みすると、チェンは辺りの服を暫く吟味した後、ズカズカと隣の更衣室へと入っていった。

安っぽい挑発だったけれど、これで自身とアタシの絶望的なファッションセンスの差を自覚できるというものよ。

 

「……よし!ね!ドクター!見て!こっちはどう?」

 

スリットの入ったセクシーな黒いチャイナ服を見てグッと親指を立てるドクターに、そう?そう!?と段々と嬉しさのボルテージが上がっていく。それにしても…

 

「チェン、遅いわね。あんなデカい口叩いたんだから、さっさと出て来なさい……よ?」

 

シャっと開いたカーテンから姿を現したのは赤いチャイナドレスに身を包み、髪を結い上げたチェン……。眩しいほどに美しい太ももが、普段見ることのないうなじ姿がどこか色気を纏っている。

 

「あ……あまり見るな。ドクター……」

 

か、かわ!?

 

「ど……ドクター!あんまり見ちゃダメ!親指?……グッド?!じゃなくて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、今日はこんなはずじゃなかったのに」

 

服屋ではその後も、お互い給仕服を着たり、水着姿を披露したり、なんだか対抗心で凄い格好もしてしまった気がするけれど、その後ドクターを着せ替え人形にして遊んだりして結構面白かった。

 

市場に出ていた屋台をめぐって、目的の万頭屋に着くころにはすっかり夕方になってしまっていた。

 

「え?あ、買ってきてくれたの?ドクター。……ありがとう!」

 

差し出された万頭を受け取ると、粗野なベンチに腰掛ける。

ムワリとした蒸したての万頭を齧ると、ふわふわな触感なのに、びっくりするほど密度の詰まった甘い生地!どこでも食べられるような龍門の下町の味だけれど、アタシが生まれて初めて食べて感動した味だから……ドクターにも、食べてみてほしいとそう思ったのだ。

 

「おいしい?ドクター?……ふふ、良かったわ!」

 

こういうものが好きなのか?と聞かれて、少し悩む。

 

「そうね。好きよ?でも、これを食べたのは特別な日だったから……」

 

……思い出すのは、あのクリスマスの夜のことだ。

とある事件に巻き込まれ、何も食べておらず、どうしようもなくお腹が空いていた時に、アタシのことを抱えて助けてくれた龍門の警官がこの万頭を買ってくれて……アタシに食べさせてくれたのだ。

 

「そして、今日も特別な日を作ってしまったわ!何がって?……もう!……わからない?」

 

うーんと頭を悩ませるドクターにはぁと、ため息が漏れてしまう。

やっぱり……好意って伝えないと、伝わらないのかしら。で、でもそれは、流石に、恥ずかしい…………で、でももたもたしていたら、他の子たちに!!

 

「……うぅぅ……!ドクター!」

 

 

 

 

「がおーっ!」

 

 

 

 

手でポーズをとって、体を大きく見せるとドクターに飛びつき覆いかぶさった!

 

椅子の上で素直に倒れ込んだドクターの顔が、ドクターの吐息とアタシの吐息が混ざり合うほど、近くに……!

 

「ど、ドクター……その」

 

ドクターの手が、アタシ髪に触れる。そして、優しく名前を読んで、その目は、アタシのことを捕えて離さなくて……!

 

「…………な、な、なんちゃって!?びっくりした?」

 

ババっと距離をとると、火照った顔を手で仰ぐ。

む、無理よ無理!無理無理無理!

だ、だって、やっぱりこういうのは勢いじゃなくて、ちゃんと好き同士だって確認してから清いお付き合いをしてから……で、でもこれくらいすれば。ドクターもアタシの気持ちに……

 

「え?ドクターの分の万頭も食べたかったのかって?………………はぁ~」

 

笑いながらそういうドクター……!

どんな防衛拠点よりも鉄壁過ぎるそのガード。

こうなれば、一服盛って既成事実でも……って

 

「……あれ?そういえばチェンは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐええええ!?」

 

「……ふん。その程度の腕で、私と対峙しようというその自信は、どこから湧いて出たのだ?」

 

路地の裏。チェンは剣先についた血を払い、懐紙でそれを拭うとパチパチパチと小さな拍手の音が響いてくる。

影の奥からのそりとその巨躯を現したのは緑色の長髪に、般若の大盾を持つ片目の隠れた鬼人……。

 

「……お見事です。チェン隊長。やはり、気付いておいでだったのですね」

 

「当たり前だ。私を“ツケる”ならば、もう少し護衛の数を減らせ。ホシグマ」

 

「やれやれ……これでも龍門きっての精鋭部隊を揃えたのですが……」

 

「連中(レユニオン)は今ので最後か?」

 

「はい。恐らくは」

 

「わかった……私はドクターたちの元へと戻る。何かあれば通信機で知らせろ」

 

「……そのことですが、チェン隊長。……別に、ドクターたちと行動を共にしなくても良いのではないですか?」

 

「……どういうことだ?」

 

「いえ、レユニオンを炙り出し、殲滅する分には隊長もこうして裏手で働かれた方が動きやすいかと思いますが……」

 

「……」

 

ホシグマからの言葉を受け、顎に手を当て、考える仕草をするチェンであったが……

 

「わからん」

 

「は?」

 

「……私もそう理解はしている。だが、奴が、スワイヤーがドクターと二人きりで出かけるという状況に……ドクターが奴の隣で笑っているというその状況に、なぜか、腹の奥がムカムカとした。だから、私も同行することにした」

 

「…………」

 

「だから、わからんという他ない……ん?どうかしたか?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」

 

「そう、ですね……正直なところとても驚いていますよ。ですが、そうなると小官が言えることは一つだけとなりますが」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

「今度、小官と機能性の悪い服を買いに行きましょう」

 

 

 

 

File4 〇〇〇

 

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