ドクターが記憶喪失になったので攻略します!   作:雨あられ

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File5.イフリータ

「急いで……!イフリータ!」

 

「ま、待ってくれよ。サイレンス!そんなに急いで……いったいどこに行くんだよ……!?」

 

サイレンスに手を引かれて、雨の激しい闇夜の街を歩く。

その繋がれた手はいつも以上に冷たくて、歩く速度もうんと早くて、どこか遠くでは雷まで鳴っていて……いつもと様子の違うサイレンスが、怖いと感じた。

 

「もしかして、あそこにサイレンスの気に入らない奴がいるのか!?それなら、オレサマが全部焼き尽くしてやるのに!」

 

「……」

 

サイレンスは、何も答えない。

黙って水たまりを蹴って、歩みを進めるだけで……

 

「なぁ、サイレンス!……ゴホゴホッ!」

 

暫く歩いた後、サイレンスは軒下で突然立ち止まると、大きく息を吸って、オレサマの方へと向き直った。その顔は、いつも以上に……真剣だ。

 

「…………ロドスに行く。そこに行けば、今よりも落ち着いて暮らせるから……」

 

「ロドス……?どうしてわざわざ……あ!もしかして、そこにサリアがいるのか!?」

 

サイレンスは、一瞬怒った時の顔をしたけど、すぐに目を閉じて息を吐き首を振った。

 

「…………彼女のこと……もう忘れて。それより、イフリータ。これからアナタに“大切なお願い”がある」

 

「サイレンスがオレサマにお願い……!?お、おう!わかった!オレサマなんでも聞くぜ!」

 

シャンと背筋を正すと、サイレンスはオレサマの肩に手を乗せて、その橙色の瞳でまっすぐにオレサマを見上げる……ごくッと息を呑むと遠くの方でまた、雷が鳴った。

 

 

 

「イフリータ。もう2度と……その力を使わないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

File5 イフリータ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそロドスへ。私たちはあなたたちを歓迎します。サイレンスさん。イフリータさん」

 

嵐の山を越えて、波の高い海を越えて、脚が棒きれになるまで歩いて……オレサマ達は途轍もなくでっかい建物へとやってきた。

昔いたところの方がもっともっとデカかったけれど、あっちよりも少しカッコいい建物な気がする。サイレンスたちが難しい話をしている間、椅子に座ったまま机に乗ったお菓子をぱくつく。暫くすると、話もひと段落したのか

 

ここに来るまで疲れたろう。今日は、ゆっくり休んでくれ。

 

そういって立ち上がり、終わりっぽい空気になった。

にしても……こんな暑い日だってのにフードを被った怪しい奴だ。

それから……さっきからオレサマ達を見て笑顔を浮かべる耳長の少女……。

 

……どうも“うさんくせぇ”

 

こいつらから、オレサマが大嫌いな……白衣の奴らと「同じ匂い」がする。いや、そのものなのだろう。サイレンスも……さっきから強張ってて不安そうだ。

 

どうして、そんな顔してるんだ?

何が不安なんだ?

オレサマはどうすればいい?

……とりあえず、軽く焼いておくか?

 

「イフリータ…………お願い、やめて」

 

「……わかってる。わかってるよ……!」

 

駄目だ。約束した。サイレンスと。ゴォっと、いつの間にか発火し始めていた手を振るって火を消す。

……何を見てやがる。目を見開いて、そんなに面白いか?クソっ!イラつく!こいつらオレサマのことを、舐めてんのか?

 

「イフリータさん……?」

 

その目……オレサマが怖いか?オレサマがおかしいか?

 

「イフリータッ!!」

 

不意に、サイレンスがオレサマの手を握った。

すると、自分の内側から込みあがってきていたマグマみたいな燃える感情が一気に冷え込んで沈下していくのを感じる!

 

駄目だ!ヤメロ!

 

少し焼けたような音がする。そして、皮膚が焦げたようなニオイが、嫌でも鼻の中へと入ってくる。それは、当然オレサマの近くにあったモノで、その近くにあった者ってのは……

 

「……ぁサイレンス」

 

「ごめんなさい。イフリータはまだ……」

 

「……」

 

 

……やっちまった。

 

 

サイレンスは、また何時もみたいな暗い表情を浮かべている。手は、痛々しいほど赤くなり火傷している。オレサマがこうなると、いつもサイレンスが謝ることになる。どうして、そうなっちまうのかわからないけれど、オレサマのせいで、サイレンスは悲しそうな顔をする。

 

そんな顔、オレサマは見たくないのに!

 

「…………オレサマ……ケホケホッ」

 

胸の中が、嫌な感じになっている。

居心地は最悪で、いつもみたいに頭のあたりがきゅっと締め付けられる。歯を食いしばって、下を向いていると……

 

「……ドクターッ!?」「あ!?」

 

な、なんだッ!?

ガシッと、突然サイレンスの握っていない、もう片方の手が強く握られた。

 

火は大分収まっているけれど、今のオレサマに触れたら卵は一瞬で目玉焼きになっちまうくらいには熱を持ってるんだぞッ!?

 

「お、おい、オマエッ!?」

 

これからよろしく、イフリータ。

 

「……ッ!?」

 

「ドクター……」

 

なんだよコイツ!?

オレサマのことを正面から、じっと見つめて……まるで、まるで、サリアやサイレンスと同じで……!

 

さて、部屋に案内しよう。その前に、彼女の火傷の治療を。

 

そういってオレサマから手を離すと、近くに居た白衣に声を掛ける……。すぐに、サイレンスには保冷パックなどが用意されたが、あいつは、治療拒否してポケットに手を突っ込んでいた。オレサマと目が合うと、にっと笑った。

 

「ドクター……」

 

サイレンスがポツリと呟く。

ドクター?……ってことは、コイツ!

 

白衣の奴らの親玉じゃねぇか!!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイレンス。アイツは信用しちゃ駄目だ!アイツは……きっと悪い奴だ!」

 

部屋につくと、サイレンスと二人きりになったタイミングで声を掛ける。

色々と親切にしてくれちゃいるが、どうにも裏があるような気がしてならない。ああやって、良い奴ぶって、悪いことをするのが“ああいう奴ら“の手口なんだ。

 

オレサマを利用して、手足を縛って暗い部屋に閉じ込めて……そして、そして……ッ!!!

 

「良い悪いなんて関係ない。今、私たちには“ここ“しかない。だから……」

 

「……だからって、アイツらにヘコヘコして暮らすのか?それくらいなら、オレサマが……!」

 

「……イフリータ」

 

ジトーっとオレサマを見る、サイレンス。

こうなると、オレサマはサイレンスに敵わない……。

 

「……わかった、わかった。だから、その目で見ないでくれ。サイレンス……」

 

「…………ん」

 

オレサマの返事を聞いて満足げに頷くと、サイレンスはその場で服を脱ぎ捨て初め……いくつかの道具を整理すると昔ライン生命で着ていた白衣に着替えて部屋を出ていこうとする。

 

「て、おい!サイレンス!どこ行くんだ!?」

 

「ドクターのところ。私に出来る仕事を回してもらう」

 

「はぁ?……今日は休めってアイツも言ってただろ!?だったら」

 

「今は実績が必要。特に私には……」

 

そう言ってオレサマを一目見てから部屋を出ていくサイレンス……。

見慣れない部屋に残ったのは、オレサマだけで……急に、部屋の温度も下がったような気がする。

 

じっと、両手を見つめると、さっきあったことを思い出す。

あんな奴とオレサマたちはこれから……

 

「チッ!……ゴホゴホッ!」

 

全部全部、燃やし尽くしてしまいたいようなイライラした気持ちでベッドに飛び込むと、思いのほか弾んで身体が跳ね返ってきた。

何回か同じように倒れ込んで弾むのを確認してから、その日はいつの間にか眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、サイレンスはよく働きに出るようになった。

事務仕事だとか、戦地医療だとか、そんなことを言っていた気がする。

オレサマと会うことはほとんどなくて。暇だと言っても、まるで構いやしない。部屋に帰ってきたら、シャワーを浴びて、オレサマの容態を見て、そしてさっさと眠ってしまう。帰ってきたのすら、気付かない日すらある。

 

一人で何もない部屋に押し込められた時よりも、この生活自体は確かに穏やかかもしれねぇけど……

 

「なぁ、サイレンス。明日は休みなんだろう?どこに……」

 

「……ごめん。明日の休みはなくなった」

 

「はぁ?……なんでだよ」

 

「ごめん」

 

「や、約束しただろ!次の休みは一緒に出かけるって……」

 

「……ごめん。次こそは……」

 

「おい、サイレンス!」

 

サイレンスは、話をしながらそのままベットに倒れ込んだ!

慌てて駆け寄ると、規則正しい寝息が聞こえてきたので、ホッとして布団を掛けてやる。

 

実績っていうのが、どうして必要なんだ?

それって、こんなになるまで働いてまで、必要なものなのか?

サイレンスの言うことは難しくてイマイチわからない。けど、サイレンスがこんなになるまで働かせるのは……きっと悪い奴に違いないッ!!!

 

 

サイレンスにそんなことをさせてるのは……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレサマは部屋を飛び出すと、廊下を練り歩き、ようやく食堂でお目当ての人物を見つけた。のんきにコーヒーなんて飲んでいて、夜も更けていたからか辺りにはほとんど人影が居なかった。

 

「おい、オマエ」

 

やぁ、イフリータ。

 

気さくに手を上げるこいつの態度にイラつきを覚える。オマエのせいで、サイレンスは……!

ドンと対面に座ると、机に足を乗せて腕を組む。目の前のこいつは、カップを机に戻すと、オレサマが何か話すのを待っているようだった。

 

「…………いいか?オレサマは強いッ!!」

 

バンと机を叩いて相手に詰め寄る。

 

「オレサマは“力”を持ってる。だから、気に食わねぇ奴がいたら、すぐにだって消し炭に出来ちまう。瞬きすらせず、一瞬だぜ?」

 

ニヤリと笑って見せると、ゴォっと、あいつの目の前で、手の平に炎を宿して握りつぶす。熱風でわずかに被っていたフードが揺らいだ。

 

「だから……そうなりたくなかったら、オマエはオレサマの言うことを聞け!わかったか!?」

 

そうか。それでイフリータの望みは?

 

「……望み?オレサマの望み…………もちろん、決まってる!サイレンスを……もっと喜ばせろ!だからまず、サイレンスの仕事をもっと減らせ!休みも増やして、それから美味いもの食べさせて……わかったかッ!!?」

 

なるほど。わかった。

 

「でなきゃ……ん?お、おぉ……中々モノワカリがいいじゃねぇか」

 

……反発がなくて、正直、肩透かしを食らった気分だった。てっきり、なんだかんだ言ってくると思ったのに……いや、オレサマの力についビビっちまったのか?ヒヒ。

 

ちなみに、他にどういうことをすると、サイレンスは喜ぶ?

 

「他?他…………」

 

サイレンスはどんな時に、笑ったりする?

 

「…………サイレンスが笑う……?」

 

サイレンスは最近……笑わない。

硬い表情で……いつも同じ顔だ……!?

オレサマと話すときも、叱ったり、不安そうにしていることの方が多くて……

 

「……」

 

サイレンスを笑わせたくないか?

 

「んなの当たり前だろッ!?……オマエ、何か知ってるのか?」

 

こいつはコクリと頷くと、いい方法があると、カップに入っていたコーヒーを飲み干して勢いよく立ち上がった。カップを返却口に返した後、そのまま食堂を出ようとしたので、オレサマもその後に続く。

 

……いや、でも待てよ?

廊下を歩きながら、ハッとする。

 

オレサマが知らないのに、どうしてこいつなんかが知ってる?

 

いや、下らねぇ!

嘘に決まってる!?

どうして気が付かなかったッ!!!

コイツもオレサマを実験台にしようとしてるに決まっている!

ならその前に、コイツのことを今すぐ燃やして……!

 

「ヒッ!!?」

 

一瞬で、背筋が凍った。

今、コイツの影から何かがッ!?

 

どうした、イフリータ。

 

振り返ったコイツは、いつもと変わらない隙だらけの態度である……にも拘わらず、コイツの影には無数の何かが潜んでいるような気がした。いくつもの殺気が、オレサマに纏わりついて、一瞬で心臓を握られて……!?

 

「ほ、ほら、いくぞ?……っチ、わかってるよ」

 

また、“アイツ“が出たのか?それとも……

……わかんねーけど。とりあえず、保留だ。こいつを燃やすのは。

……そういう気分でも、なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んだよ、ここ。……オマエの執務室?んで、そんなとこに……」

 

やってきたのは、こいつの執務室だった。目の前には、良く燃えそうな本棚とか、バカでかい金庫だとか、普段お目にかかれないものがたくさん目に入ってくる。

……オレサマが消火装置の無い部屋に入ったら……いつの間にか焼け落ちちまうからな。

 

「ここに何が……?うお!?」

 

手渡されたのは、なんだこれ?何かの端末か?

 

「……テレビ……ゲーム?……んでそんなもんオレサマが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけ!そこだ!!おい!そっち行ったぞ!!!」

 

ボンボンボン!とオレサマたちの攻撃が当たると、敵を爆発音と一緒に撃墜した!!

 

「っし!おい、見たか!オレサマの力を!!」

 

凄いぞ、イフリータ。

そう言われて、悪い気はしない!

初めてやったが、結構簡単じゃんか、コレ!

 

「ハハ、おい!次のステージに……何?今日はもう終わり?」

 

そういって、コイツが親指で時計を指さす。

……いつの間に、こんな時間に……もうすぐ夜が明けちまう。

 

「……一回寝て起きたら飯食ってまた来い?…………わかったわかった。オマエがそこまで言うなら、オレサマの力を貸してやる」

 

欠伸をしながら立ち上がると、それからと付け加える。

 

「ゲームのことは秘密?特にアーミヤとかいう奴には?……へぇ、でも……人にものを頼む態度じゃねぇよなぁ?」

 

そう腕を組んで見下ろすと、コイツの本性を見てやろうと思ったが、頼む、イフリータ。これだけは没収されるわけには……そう手を合わせるこいつが、平気で嘘をつくような白衣の奴らとは、とても同じに思えなくて……

 

「ぷ、クフフ……良いぜ、オマエ……意外と良い奴だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠いけど、約束を思い出したらすぐに目が覚めた!

 

飯を掻き込むと、走ってあいつの執務室に飛び込んでいく。

すると、あいつはまだ布団の中で眠っているようだったので、ゆすり起こす。

 

「おい起きろ!オレサマが遊んでやる。仕事?眠い?まだ朝早い?……オレサマにあいつの在りかをバラされても良いのか?

……フフ、それで良いんだよ!」

 

その後、一緒に飯を食べたり、また別の遊びをしたりしながら、いつの間にか眠っていた。よくわからないが、あんなにも時間が早く過ぎるのは、絶対におかしいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日が経ち……

 

「何ッ!?今日は勉強!!?……嫌だ!オレサマ帰るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数カ月が経ち……

 

「よっ、今日も来てやったぜ。何?今日は“オリガミ?”を作る?

……よくわかんねーけど、やらせてみろ」

 

オレサマはコイツの部屋に行った。

 

コイツは、白衣の奴らの親玉だ。

 

だけど、サイレンスと同じで、悪い奴じゃない。

だから、オレサマが遊んでやる。仕方なくだ。

 

「なぁ、ドクター」

 

チマチマと、ドクターが紙を折る様子を真似しながら、声を掛ける。

 

「……オレサマ、もっとこの力を使いこなせるようになる。勉強だって……少しはする。だから……」

 

ポンポンとドクターに頭を撫でられる。

目を細めてそれを受けていると、思い出したのは昔のことだった。

 

サリアやサイレンス、マゼランたちも居ない日に、白衣の奴らがデータが必要だと言って、オレサマに力を使わせた。

オレサマは得意になって、力を使ってたけど、本当は苦しくて、アツクテ、つかレて…………

 

「……ドクター、オレサマが必要か?」

 

当たり前だ、と即答されて、目の奥がジンジンしてきて、変な粒が目の中から湧いてくる。

 

あの時と違う。

 

オレサマは自分の意志で、力を使いたい。

サイレンスも、サリアも、ドクターも……みんなを燃やさせねぇためにも!

 

 

 

 

 

その日、作った“ツル”とかいうオリガミをサイレンスにやったら、サイレンスは、穏やかに口元を緩めて笑った。

 

アイツは、“ドクター”は嘘をつかなかった。

 

ドクターの言う通りにしてただけで、サイレンスはよく笑うようになった。不満があるとすれば、サイレンスの休みが相変わらず増えなかったことだ。けど、最近のサイレンスは働いているときも楽しそうで……オレサマもサイレンスが幸せならそれで良いかと思い始めていた。

 

「イフリータ、最近、笑顔が増えたね」

 

そうサイレンスに言われて、オレサマは思わず自分の顔に触れる。

顔が、力を使ってないのに熱を持ったみたいに赤くなっていた。まだ、力を使いこなせていないのかもしれねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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イフリータさんたちも、随分このロドスに馴染んできたようでした。

昔は近寄りがたかったお二人ですが、今ではサイレンスさんは頼れる仕事仲間ですし、イフリータさんも、オペレーターとして力のコントロールが出来るようになってきました。それに、レッドさんを始めとしたお友達まで作っているようなのです!

 

同じ鉱石病に苦しむものとして、彼女が良い方向に向かっているのが、とても嬉しいです。それに……

 

「彼女たちは、“安全“ですから」

 

この前の龍門で散々な目にあった時のことを思いだします。

仕事を押し付けられて、ドクターたちが帰ってきたと思ったら、以前にもまして積極的になったスワイヤーさんに、どこかドクターとの距離が近くなったチェンさん……

 

十分な“警戒対象”だと思います。

龍門とは、仲良くなれると思っていたのですが……?

 

ドクターの執務室の前に行くと、何やら中から声が聞こえてきます。

 

「ドクター。昨日また、イフリータと遅くまで遊んでいた?」

 

サイレンスさんの声に、ドクターは目を逸らします。あれでは答えを言っているようなものです。

 

「最近、イフリータが夜型になってきてる。生活習慣の改善をしないと……え?私は大丈夫。うん、ありがとう、ドクター」

 

そういって、ドクターに気遣ってもらったのを嬉しそうにしているサイレンスさん……?その会話は、まるで子供の教育方針を話し合う夫婦の様で……あれ?

 

「見てこれ、イフリータが私にって……うん、ちょっとへしゃげてるけど、一生懸命作ったんだってわかる……うん、可愛いね。ふふ」

 

あれれ?

 

「あの……ドクター……改めて、ありがとうございます。イフリータが……彼女が幸せそうで……私……え?私も不自由してないかって……う、ううん、私のことは良いから……うん。あ、ありがとう」

 

……ええっと?

 

「ドクター。書類半分もらうね。……うん、気にしなくていいよ。……好きでやってることだし」

 

……サイレンスさん?

 

「ん?いっぺんに持つと危ない?大丈夫、これくらい……きゃ」

 

ああああッ!!?

後ろから、サイレンスさんを抱きとめるような形で支えるドクターッ!!?

な、なんだかサイレンスさんの頬がほんのり朱色に……

 

「あ、ありがとうドクt」「大丈夫ですか!!サイレンスさん!」

 

バンと部屋に入ってお二人に近づくと、パッとドクターと距離をとって眼鏡を直すサイレンスさん。何だか、その仕草まで色っぽく見えますし、危ないところでした。

 

「平気、じゃあ、ドクター。また……」

 

「…………ふぅ、サイレンスさんが“無事”で良かったです。さ、ドクター。お仕事に……」

 

「あ……そうだ」

 

クルリと振り返ると、ドアのところには書類を持ったサイレンスさんがこちらをみて微笑む。歯を出して笑うその笑顔は、今までのサイレンスさんからは想像できない……!?

 

 

 

「……これからも……私たちをよろしくお願いします。ドクター」

 

 

 

 

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