ドクターが記憶喪失になったので攻略します!   作:雨あられ

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File8.エイヤフィヤトラ

-任務完了-

 

そのアナウンスを聞いて、ドクターの元へと駆けだします。

 

「ドクター!お怪我はありませんか!?」

 

……いや、助かったよ。完璧なアーツだった。

 

そう言ってドクターは私の頭の前に片手を上げました。

こ、これは……私を撫でてくれる時の……!

ドクターの前で目を瞑ると、期待を胸にほんの少し頭を傾けます。

ふふふ、私も頑張りましたから、たまにはご褒美があっても……

 

「あれ?」

 

???

片目を開けてみると、ドクターは私を素通りして……別の方の頭を撫で始めています!?

 

「あ……えへへ、くすぐったいですよ”先輩!”」

 

ッ!!?

もこもこしたワンピースに、クルリとまかれた白い角、焦げ茶色の髪をドクターに撫でられて照れくさそうな笑みを浮かべているは私と同じくらいの背丈の少女……!?

 

素晴らしい活躍だった。これからも期待している。

 

「はい!先輩に褒めていただけるなんて、すごく嬉しいです!」

 

「……あの、ドクター……?」

 

裾をグイグイと引っ張ってドクターのことを呼んでみると、ドクターはこちらを見たにもかかわらず、気にせずに少女の頭を撫で続けます。

 

あぁ、居たのかアーミヤ。

 

「…………え?」

 

くるりと、ドクターがこちらへと向き直ると、今度は彼女の肩を抱き寄せます!?

 

「せ、先輩!?」

 

突然の行動に少女は驚いてはいるものの満更でもなさそうで……。

 

アーミヤ。今まで君には戦場でもオペレーターとして頑張ってもらっていたが、これから術師は彼女とイフリータが居れば十分だ。君は後方支援に徹してくれ。

 

「っ!?そ、そんな……!?ど、ドクター、突然何を言って……!」

 

「……アーミヤ代表もお疲れでしょうし、暫くは先輩と私にお任せください!」

 

胸を叩いてそういう少女を笑いもせず真顔で見返すと、少女は怯えてドクターの腕の後ろに隠れてしまいます。

 

「……どうか、考え直してくださいドクター。私はまだ戦えます……」

 

しかし、君は彼女のように戦場で戦えるのか?

君に出来て、彼女に出来ないことが何か有るのか?

 

「そ、それは……」

 

先ほどの戦場で見せた彼女のアーツ能力は……まるで火山そのもの。

“天災”と呼べるほどの圧倒的な力で戦場を支配していました。それは、私の能力を遥かに凌駕していて……

私が俯いて黙ってしまうと、ドクターの後ろに隠れていた少女はそのまま抱き着き、頬ずりまで始めました!!?

 

「あ……!?」「えへへ~、先輩~」

 

全く、可愛い奴だ……さぁ、一緒に執務室に行って本を読もうか。

 

「はい!もっとご指導をお願いします!先輩!」

 

……あぁ、ドクターと腕を組んだ”彼女”の背中がどんどんと遠のいていきます!

 

「待ってくださいドクター!ドクターが誤った選択をしないことを私は……ドクター!」

 

そう、必死に叫んでいるのに声は届かなくて、

歩き出したいのに、足が金縛りにあったかのようにまるで動きません!!

 

そんなことって、そんなことって……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクター!見捨てない……で?……きゃあ!?」

 

ドシンと、衝撃が走ります。

……頭の中が急激に覚醒していくと……目に映るのは静かな自室に、まだ暗いお空。

そして、ベッドから転げ落ちた…………パジャマ姿の自分自身。

 

「ゆ、夢……?」

 

汗だくになり。そっと目元に触れると濡れています……。

冷静に考えれば、ドクターがあんなことを言うはずがありません……なのに、どうしてこんな夢……

ごしごしと目元を拭って、ベッドへとよじ登ると、膝を抱えて再び布団に包まれる。

 

そう、これは悪い夢。

もう一度眠って起きれば、忘れてしまうような些細な事。

 

ですが、あの夢の少女は……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

File8 エイヤフィヤトラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……その後、上手く寝付けないままに朝を迎えました。いえ、朝と呼ぶには些か早すぎますが、太陽は丁度上り始めています。

身体を起こして身だしなみを整えると朝の空気を吸いに甲板へと向かいます。

 

いつもはこのままドクターに会える朝の時間を待ち焦がれていたはずなのに……今日は会えなければ良いのにとすら思えてしまいます。

 

「大丈夫ですよね、ドクター。私のことが必要だと……きっとそう言ってくれますよね……?」

 

垂れた耳を指で立たせながら、自分にそう言い聞かせて廊下を曲がると

 

「……え?」

 

目に飛び込んできたのは手を繋いで、歩くドクターと……

 

 

え、“エイヤフィヤトラ”さんっ!?

 

 

クラリと軽い眩暈を覚えます。

どうして彼女が、こんな時間にドクターと二人で手を繋いで?

 

そんなの、理由は一つしかありません。

ドクターたちが、私たちに言えない秘密の関係だからに違いがありません。

 

そうなると、そのうちに……ドクターは夢で起こったことのような……。

 

泣きそうな気持になっていると、エイヤさんが何かを感知したかのようにこちらを振り向いて、ドクターにも気づかれてしまいます。けれど、今更もう、どうだっていい気分です。

 

「ドクター。二人で手を繋いで何をしているんですか……?」

 

涙を拭って鼻水をすすりながらそう聞くと、

 

おはようアーミヤ。何、エイヤが補聴器をどこかになくしたらしくてね。

 

そう言いました。

 

 

 

 

 

 

…………そうですか。補聴器を失くして一緒に探していただけ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え、これですか、いいえ、心配は……

 

心配する?私をですか?頼りにしてるから、当たり前……ですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうですよね!!

 

ドクターが大事な私が泣いたりしてたら気になりますよねっ!!

ピコピコと耳が勝手に動いてしまいます。えへへ、そうですよね!ドクター!

 

「エイヤさん、補聴器をお探しでしたね。私も探すのをお手伝いしますよ」

 

エイヤフィヤトラさん、火山学者であり天災研究者。卓越したアーツ適正を持つ単体術師オペレーターの一人で、同時に、原石融合率が極めて高い鉱石病感染者の一人でもあります。

 

感染症状は原石の発現個所の痛みや呼吸の息苦しさ、頭痛などが主とされていますが、彼女の場合は特に聴覚神経への影響が大きく……今私が発言したことも補聴器がないからか上手く聞き取れていないようです。ぼんやりした表情をしていて、困ったような顔をしています。そこへ、ドクターが屈んでエイヤさんに伝えてあげるとぱっと喜びの色を示します。

 

「ありがとうございます!助かります!」

 

「いえいえ、当然ですよ。だって私は、“ドクターの””頼れる””パートナー”ですから!」

 

まぁエイヤさんもお困りの様ですし、一肌脱ぎましょう!

補聴器なんて、すぐに見つかるでしょうし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「アーミヤさん。とてもご機嫌でしたね。何かいいことがあったのでしょうか」

 

さぁ?と、ジェスチャーをする先輩と手を握りながらロドスの廊下を歩きます。

 

今朝は不思議なことばかりおきています。

何だか怖い夢を見たなと思ったら、いつも枕元に置いていた補聴器と、近くで寝ているはずの母の忘れ形見……黒い羊たち(ちびめーちゃんたち)が居なくなっていたんです。

 

ちびめーちゃんたちが居なくなることはままあれど、補聴器がなくては普通に会話をするのも大変困難です。早速、忘れていそうな場所に探しに出たらすぐそこの壁に気付かず廊下で頭をぶつけて、うずくまって困っているところをちょうど先輩が助けてくれて……。

 

ふふ、今もこうして、私が頭をぶつけないように誘導してくれています。

 

「先輩、ありがとうございます。私のためにこんな……」

 

なに、朝の運動にちょうどいいよ。

 

そう、先輩に耳元で声を出されると、くすぐったいような恥ずかしいような、そんな気持ちになります。

 

でも全然嫌じゃないです!

ドキドキしちゃいますけど、むしろ、この胸の痛みは心地良いというか……

 

「え?えっと、失くしたタイミング……思い当たる場所はないかですか?うーん……」

 

あるとすれば昨日行ったところ……食堂、事務室、製造所、宿舎に先輩の書斎……。

 

「……色々と思い浮かびはするのですが、昨日の時点では全て補聴器をしっかり持っていた気がします」

 

あれ、でも……

 

「……あ、あの、ですが、よくよく思い返してみると自信がなくなってきて……すみません」

 

気にしなくていい。では、何か落とし物が届いていないか総務に確認して、後は虱(しらみ)潰しに候補地を探してみよう。

 

「先輩……!はい!ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして手を繋いで歩いていると、私は両親のことを思い出す。

 

両親は二人とも、自慢の出来る素晴らしい人たちでした。

父はアーツ学部の教授であり研修生の指導教官、母は自然環境と生態系の研究者。

二人は同じ大学で働き、同じ志を持って惹かれ合い、私の両手を握って歩いてくれて……そして……私を置いて……同じ火山調査中に火砕流に巻き込まれて死んでしまった。

 

初めは、ただただ悲しかった。

あまりにショックで、寂しくて、不安で……

学校にいくのもやめてしまって塞ぎ込んでしまった。

 

 

 

 

 

そんなある日の事。

 

こんこんと、扉が叩かれたので、誰だろうとのぞき穴を除いてみると、外には誰も居なくて……不思議に思って扉を開けると。

 

「めぇ~」「めえ」「めぇえ」

 

「え?きゃあ!?」

 

たくさんのもこもこした黒い羊たちが突然家になだれ込んできて、私を部屋へと押し込んだかと思うと、あっという間に取り囲まれてしまいました。

 

「な、なに?」

 

「めぇ」

 

ベロン、と頬を舐められて、めぇめぇと、家の中に羊たちの声が響いて……

私は、わけがわからなくなって、けれど、久しぶりに大笑いした。

これは死ぬ前にお母さんが調査に連れていた羊たちだった。

 

「そっか、まだ、ちびめーちゃんたちが居たんだ!」

 

この子たちは、お母さんが調査の時に連れていたペットである。

私はめーめーと鳴くから、ちびめーちゃんたちと名付けていた……。

 

「めぇ~」「めぇ」「めぇ~~」

 

みんな私のことを、心配してくれてるように鳴いていて……。

私の流れる涙を拭ってくれて、その暖かいから身体でくっついてくれて……

 

「……えへへ、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たくさんのちびめーちゃんたち!

 

取り合いをしながら一緒に朝ご飯を食べる。

野菜もパンもなんでも食べるちびめーちゃんたちに負けじとご飯を詰め込んだ。

洋服を引っ張られるようにして外へと飛び出す。かけっこしたり、かくれんぼしたり……毎日一緒に野原を駆けずり回った。

 

そして、疲れたらそのふわふわの背中を借りてするお昼寝がすごく、気持ち良くて……。

 

 

 

 

私は……ようやく両親の死を受け入れることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し、休憩しようか。

 

そう先輩がメモ帳を使って筆談をするとダクト管の上へと腰を下ろした。

私もそれに習って隣に座る。体力が少ない私にとって、とてもありがたい申し出だ。

 

けれど……先輩に無理に気を使わせているようで……申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「先輩……あの」

 

そう言えば、この前のシエスタの件で、君が書いた論文を読んだよ。

 

「え!?本当ですか!?」

 

思わず立ち上がると、ドクターは再びサラサラとペンを走らせる。

 

とてもよく書けていて、勉強になったよ。

 

「そ、そんな、先輩に比べれば私になんてまだまだ……」

 

けれど、お世辞でも先輩にそう言ってもらえると……えへへ、嬉しいな。

 

「あの論文のもとになった理論はですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちびめーちゃんたちの次に、私に希望をくれたのは両親の遺した研究だった。

 

二人の部屋を掃除しているときに偶然見つけた、火山調査の研究記録。

 

「えっと……?」

 

初めて読んだときは内容が難しくてわからなかったけれど……。

 

源石鉱脈、天災、そして鉱石病……。

少しずつ読み進めると、そこに書かれているのは新聞やテレビで悪いニュースとして流れている単語ばかりで、両親の資料には、それらが火山と密接に関係していることを証明していた。

 

そして、改めて両親がどんなに危険な研究をしていたかを知る。

 

火山の研究は火山が噴火する前後でのフィールドワークが必要だった。

その期間中は火山地帯に長期的に滞在しなくてはならないし、火山地帯には源石の顆粒を含む煙や溶岩が冷やされる過程で湧き出す源石鉱脈などが多数分布していて……非常に"鉱石病"に感染しやすい環境であったから。

 

二人は、そんな危険を冒しながらも研究を続けていたのだ。

 

 

でも、一体、何のために……?

 

 

気が付くと私は、両親の足跡をなぞるように学府への門戸を叩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おーい、リ……ー!」

 

再びドクターと二人で歩いていると、今度は甲板へとやってくる。

すると、何かが聞こえたような気がして先輩の目線を追う。

走ってこちらへと向かってくるのは赤い影。あれは……人懐っこい笑顔に、そして、ラテラーノの……サンクタ族の特徴である頭の光輪に背中の翼。ペンギン急便のエクシアさんではないでしょうか。

 

「どうし…のさ、……どっ、ま……デ…ト?」

 

……友好的な笑顔を浮かべる彼女が何を言っているか、上手く聞き取ることができません。

先輩も何かを話しているようですが、こちらも聞き取れません。

 

エクシアさんは先輩からの回答に満足そうに大きく2回頷くと、ポンポンと私の肩を叩きます。

 

「ま…あたし…任…てよ!大船に乗っ…気でいてもらっていいよ~!!」

 

そう言って大きな声を出したあと、鼻歌交じりに走っていきます。

……えっと、探してくれるのでしょうか?

颯爽と去ってしまったためにお礼を言いそびえてしまいました。

 

いこうか

 

そう言って、再び先輩が私の手を包み込むようにして握って歩みを再開する。

眼は見えにくくなり、耳も遠くなったけれど、代わりに先輩の体温はとてもよく感じられる。

 

力強くも、暖かくて、私たちを包み込むような……そんな優しい温もり。

 

「先輩は……そうやっていつも私の道を照らしてくれます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の進む道がぱったりと見えなくなってしまった。

 

両親の研究していた内容を、全て調べつくしてしまったのだ。

それに、幾度となく火山へと赴いたのも良くなかった。

少しずつ、私の身体は鉱石病(オリパシー)の病魔に蝕まれ始め、学府からも、鉱石病の研究を進めているとなぜか、圧力をかけられ始めるようになった…………私は、自身の活動に限界を覚え始めていた。

 

 

 

けれど、私は進むことが出来た。

 

 

 

きっかけをくれたのは、とある天災研究の文献だった。

 

書かれている内容は鉱石病の危険性や、実体験を通した感染者たちが無害であることの証明。難しい言葉が使われておらず、少し読む気があれば、小さな子供でも読み進められる内容。

 

けれど、私はその内容を通して、確かに両親の文献と同じ熱意を感じ取っていた。

 

きっと、この人も、両親と同じように……誰かを救う研究をしている。

 

私は、この人の書いた文献を読み漁り、心の中で"先輩"と想い慕うようになっていった。

 

先輩の文の最後には……必ずこう綴られている。

 

 

 

"この世界で苦しむ、全ての人のために"

 

 

それこそがきっと……両親の、そして、私自身の……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宿舎にはなかった」

 

「食堂にも訓練所にもあらへんかったわ~」

 

「うーん、じゃあドクターの執務室とか!?」

 

「テキサスの部屋じゃないかなぁ!」

 

「……」

 

ペンギン急便の皆さんに、ライン生命や、ここ、ロドスの人々……。

起きた人たちが次々と通路を行き来し、気が付くと、とてもたくさんの方たちが私の探し物を探してくれているようでした。

あまり普段お話をしたことがない一般オペレーターの方まで…………思わず、少し泣いてしまいます。

 

「……私、助けられてばかりですね」

 

それだけ、君が愛されている証拠だ。

 

!?……う~っ!!!!!

こらえきれずに、ドクターへと抱き着くと。よしよしと背中をあやすように優しくドクターの手が背中を撫でる……。

 

「……たまに思うんです。ちびめーちゃんたちが突然いなくなるときがあるのは……もう僕たちは居なくていいよね……って、そう、言っているような気がして……」

 

ムースたちや、アーミヤさんたち、そして……いつも先輩が居てくれる……

 

「!居たぞ黒羊たちだ!」

 

「あぁ!先頭のが補聴器を咥えちゃってる~!」

 

遠くの様子が騒がしい。

ちびめーちゃんたちが補聴器と一緒に見つかったのかもしれない。

 

「先輩、私、もっと頑張ります。ですから……たまにでいいのでこうして……私のことを構ってくれますか?」 

 

どんな返事が返ってくるのかなんて、目を開けなくてもすぐにわかった。

 

先輩、私の両親は同じ研究をしていて惹かれあったらしいです。

だから、もしかしたら私と……先輩も……

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