左手の薬指 作:鯖缶
「…たす…けて……」
誰かの声が、世界に響く
その声は、どこにでも流れて
誰にも聞こえない
「……………」
円環の理は、誰にも助けてもらえない
「はぁ…眠い…」
「なぁに言ってんだよ、今は朝だぞ?」
「俺は夜勤明けなんだよ」
レンチをガチャガチャと鳴らしながら
隣の友人を突き放す
「眠いんだよ俺はぁ…はぁ…」
「そんなに眠いんなら顔洗ってこい」
「そーする」
話を打ち切って俺は
水道のある工場の片隅に向かう
そこで限界を超えた俺は
意識を落とすのだった
………………………………………………
「また、会えたね」
「…また、この夢か」
俺は、昔から同じ夢を見る
大抵は月に一度、多い時は週に一度程度
それでも、連日見ることはなかった
内容はほとんど同じ
桜色の髪の少女が現れる
そこから先は、
いくつかのパターンに分かれるが
それを逸脱することはなかった
「…今日はどのパターンだ?」
「もう、つれないなぁ…◾️◾️くんは」
「俺の名前を知って居るのはいつもの事だが、理由は教えてくれないんだな」
「それじゃあ今日は何をしようか」
何を聞いても、帰ってくる言葉は同じ
会話が成り立っていないのはわかるが
それだけの話だ
雰囲気で俺がこっちに来るのを嫌がって居るとも察していないようだし
この夢を二ヶ月以上見ない事も無かった
「そうだね、おはなしをしよう?
聞かせてあげる」
黒の髪を持つ少女の話、今日はどうやら『三番目』らしい、今日も覚えては居られそうにない
「ほむ…彼女は、とある中学校に二年生から転校してきたの、それ以前は心臓の病気でね?ずっと入院して居たんだ」
「内容そのものは完全にまどか☆マギカなんだが…どうせ忘れちゃうんだよなぁ…」
うろ覚えだが、彼女の語る内容は
『魔法少女まどか☆マギカ』の主人公『暁美ほむら』にしか思えない
さらに言えばどう見ても
俺の夢に出てくるヒトの外観は…アルティメットまどか、の髪が黒くなって、すこし成長したような外見だ
「でもそれを、なんでか夢の外じゃあ思い出せない、なんでだろうなぁ…」
「もう、聞いてるの?……
続きよ?金色のお姉さんが居なくなってしまったあと、彼女が飛び込んできて…」
やはり、それは過去に見たストーリーをなぞるような形で話が進む
…………………………………
「これで終わり…あ、
今日はそれだけじゃなくて
お願いがあって来たんだ」
「お願い?」
正直言って聴く気にはなれなかったが
とりあえず聞いてみよう
どうせ向こうのほうには俺の言葉は聞こえて居ないのだから
「私を…ううん、
過去の私たちを助けて!」
「…はぁ?」
「もちろん、無理をいう分は力添えさせてもらうけど、私は直接過去に干渉できないから、貴方の力を貸して欲しいの」
「…で?」
こういうパターンはなかった
五つのパターンのうちに存在しない
派生パターン、最初のうちはあったこともあるが、ここ5年間異常はなかったというのに
「珍しいな…だけど
まずは起きなきゃ、
今工場で寝落ちしてるんだから」
「今から貴方には転生してもらうの
お願いね」
「…出来るもんならしたいですよ全く」
こんなストレスフルな世界、
さっさと抜け出してしまいたい
「ただでさえ糖尿病検査とか筋繊維がどうとかめっちゃ引っかかってるんだから
いっぺん死んだ方が良いかもしれないけど」
「じゃあそうしよっか、体を作り直すんだね」
「は?」
「
「できれば前の方に転生したいんだけど」
適当に言ってみただけであって
そもそも今まで基本的に会話が成立することがなかったというのに、何故突然に?という疑問はさておき、偶然の一致かもしれないので
全く別の答えを返して試してみる
「
やはりだ、会話が成立している
何があったんだ、どういう事だ?
「転生時間的にも前に出来る?」
「
「五年くらい前で」
「じゃあ…15-5だから10歳に転生で、 それじゃあ行くね…諦めないで」
その言葉が聞こえた瞬間
俺は目覚めた
「…なんだったんだ?…」
その声はいつもより軽く、明るく
そして高く細かった
「…は?」
夢にしてはリアルすぎるその感覚
そもそも今まで見ていたのが夢だというのなら、目覚めた今は現実のはずだ
これはこれでおかしい
「…どうなってるんだ…」
さっきの世迷い言のように
転生したとでも言うつもりか?
(
「はっ!?」
(最初のうちだけだけど、ちょっとだけお手伝いできるの、それじゃあ情報の説明をするね)
頭の中、いや
心の内側から響く声に愕然とした
それは明らかに、夢で聞いていた声と同じ声だったのだから
「待て待て待て待て待ちなさい!」
(本当に最初のうちだけだから急ぎたいんだけど…)
「あぁ、わかったよはいはい降参だ転生した事実は認めてやる、そのお知らせとやらを聞かせてくれ」
(はい、それじゃあ最初に
今はワルプルギスの夜到来から定義時間的に五年前、転生は恙無く終了しました
体に、どこかおかしな所はある?)
「…いや、特にない」
今のところ、年齢が戻っている以外は
(それじゃあ次に進むね、転生した状況は、だいたいわかると思うけど
10歳だから、小学四年生だね
見滝原第一小学校に通ってるよ
身体的には問題なし、学校での評判も普通、ここまではいい?)
「うん、大丈夫」
(おお〜役になりきってるね
その調子でこれからも頑張ってね)
「説明」
(もー…つれないなぁ
まぁいいや、えっと、お金の話だけど
目の前のタンスの中段左に、通帳が入ってるよ、最初の資金が20万円、月々の家賃光熱費水道代天引きで10万円づつ支給です)
「なんか生々しい上にリアルだよ!?」
(貯めるのも使うのも自由です
けど、一応言っとくね?
《ご利用は計画的に!》)
「クレジットカードじゃないんだよ!」
(ナイスツッコミ、っと
まぁお金の話はこれで終わり、あとは家具とか、家の条件の説明だよ
立地は頑張りました!
中学にも小学にも近くて、マミさんの部屋にもすぐ行ける、そんな地点を探しました
何処にも徒歩10分圏内だよ
家具の方は…ベッド、タンス、テーブル、テレビ、以上…だよ?ごめんね?)
(いいよそんな気にしなくて
物がない方が汚れにくい、
俺は掃除苦手だからな)
軽く手を振りながら否定する
こんなことにいちいち気を使うあたり
やっぱりアルまど様なんだな
(最後に、転生のお願いを聞いてもらった分のお礼です…さぁ、あなたの願いを教えて)
「俺の願い…?」
(あなたの願いを実現するの
名誉でもお金でも良いけど、一つだけだから注意してね)
「まさかのQB式!?」
(えっと…結果的にそうなっちゃった)
「うぉぁ
頭を振って
「そうだな」
イメージは定まった
「俺は、正義の魔法使いになりたかったんだ、もしも願いが叶うのなら
俺に、その力をくれ」
(うふふっ…あなたの願いはエントロピーを凌駕した、なんてね
それじゃああなたに、あなたの器に収まるギリギリの力を上げる
どうか…過去の私達を…たす…けて)
雑音が入る
そして雑音は徐々に強まり
まどかの声は薄れていく
(あなたの因◾️◾️固◾️する
◾️憶は消◾️せてもらう◾️ら…◾️れじゃ◾️頑張って)
その声を最後に
ぷつんと糸が切れるように
初めからなかったように
声と記憶が消えていく
俺の記憶が消されていく…
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