左手の薬指 作:鯖缶
「……」
無音で目を覚ました僕は
取り敢えず視線を空中に彷徨わせて
路地裏では無いことを確認した上で心の中で呟いた
(知らない天井だぁ…)
どうやら、どこかのお宅にお邪魔しているらしいのだけど、前後関係が把握出来ない
そっと身を起こして
激痛に呻きそうになる口を押さえながら、立ち上がって、壁にかけてあった時計を見る
時刻は19:20
下校時刻…16:30頃から結界に入ったはずなので、三時間くらい寝ていたと見える
けど、そはの間の記憶がすっぽりと抜け落ちている、なんでこんなところにいるのかはまるで不明
「…」
そぉ〜っと部屋を去ろうとしたところで、ドアが開く
「あら?もう起きたの?」
そこに現れたのは
「起きましたよ…痛って…ここどこですか?」
僕は取り敢えず、(答えはわかりきっているけど)問うべき事を問う
「ここは私の家よ、別に何もないわよ?」
「先に言われるとは…で、帰って良いですか?」
「ダメ、絶対」
「そんな薬物みたいなセリフ…」
やめてくださいよ、と言う前に
少女は僕の言葉を遮る
「いい?腹部抉傷は治癒魔法で治せたけど、それもあくまで魔法で無理矢理治したに過ぎないの、現にもう傷は無いはずなのに痛いでしょ?」
「…それは認めざるを得ないけど」
「だから無理に動いてはいけないの、今日はウチに泊まっていって」
「それは断固として拒否させてもらう」
「拒否権はありません」
仮にも小学生の身である僕が
『人の家に上がり込んで一泊』とは、倫理的な問題を感じるから嫌だといっているんだけど
それは残念ながら理解されないらしい
「…ご両親は?」
「…………居ないわ」
その深刻げな表情から大体のことを察した俺は、取り敢えず
「…失礼だったね
その点については謝らせてもらう」
「いいえ、もう乗り越えた事だから」
両親がいない、と言うのに僕と同じくらいの歳の少女がが一人暮らし?僕も言えた身分ではないけど、それはあまりにおかしいと言わざるを得ない、法定的に責任能力がない
「…泊まっていって」
「………明日学校あるので」
「今日は金曜日よ?」
「ばれたか…そもそも無謀だったな」
相手が同じ学生だったのでは騙せないのも道理だろう
「…わかりました、今晩だけは泊めさせてもらいます」
苦渋の決断であった
「はぁ…」
「なに?」
「いえなんでもありませんよ」
そっとため息をついた僕は
狙いすましたようなセリフを問いを入れてきた少女に笑顔を向けて誤魔化しつつ
時刻を確認した
19:40、半額セールが近い
「スーパーの半額…今日は取り逃しちゃったなぁ」
結界に呑まれるのは不安だが
それでもそこそこ経験回数がある
最初の頃は魔法少女に出会えるか否かで生死が別れるようなこともあったが
3回目辺りからは慣れてきたのか、単独で逃走成功することも出来るようになっていた
「まぁ無理をするつもりも無かったんだけど」
「…そういえば、まだ聞いていなかったわね、あなたが使っていた魔法のこと」
そして、沈黙が続く
「………何もわからないんだけど?」
「どういうことですか?」
「そもそも魔法を僕が使ったってどういうこと?僕は至って普通の人間だよ?」
「そう、あくまでシラを切るつもりなのね、でも無駄よ…あなたの記憶を
見させてもらうわ」
「?」
熱を測る時のように手を当ててくる少女
「…っ!……嘘…プロテクト?」
「まだよ!………!」
「なんでこんなに…再構築される!?」
ブツブツと何事かを呟きながら僕のおでこに手を当てている少女(よく見たらかなりかわいい)
「で、なにやってんですか?」
「…見て分からない?あなたの記憶には何か、不自然に改竄された痕が…きゃっ!」
パッと身を離して
ようやく奇行の理由を語り出す少女
「…わたしにはプロテクトを解けなかったけど、あなたの記憶には
なんらかの改変を受けた痕があったわ、あなたは何かを失っている
それはきっと、あなたの行使した魔法についての記憶よ」
「…はぁ…」
と言われても全く記憶にない
記憶にないものは理解のしようもない
僕が魔法を使うなんてありえない
僕が混乱しているうちに
少女はさっさと部屋を出て行く
「ちょっと待ってて、いまグリーフシード持ってくるわ」
随分魔力使っちゃったから、ソウルジェム浄化しなきゃ
だそうだけど、ソウルジェムやらグリーフシードやらその辺のことはよく知らない
たぶん『魔法少女』特有の都合なんだろう、分かる気もしないが
「…おまたせ、見てみて、これが『グリーフシード』よ」
彼女が手のひらに乗せていたのは
黒い球体を貫通するピンのようなもの
「グリーフシードは魔女が落とすアイテムでね?こうやってソウルジェムに当てると
ソウルジェムの穢れを吸い取ってくれるのよ」
「あんまり知りたくない情報だぁ」
彼女が手のひらに乗せていたグリーフシードを、左手中指の指輪から出現させた指輪から出現させたソウルジェム に当てる
ソウルジェム というのは
魔法少女の変身アイテムらしい
詳しい話はこれも知らない
「えっと…まずは魔法少女について説明するわね」
いいえ、(説明はいら)ないです
「キュウべぇに願いを叶えてもらう代わりに、魔法少女として魔女を倒す使命を与えられる、それが魔法少女、その変身アイテムがこれ
ソウルジェムなのよ」
なるほど…それは知ってました
っていうかそんな中途半端な説明が説明になると思ってるんですかね
存在の根幹から解決しないと説明にならないんですが?
ソウルジェムの材質とかどう見てもただの宝石じゃないでしょうし
「時間経過とか魔力を使うと、ソウルジェムは濁って穢れが溜まって行くわ…だから
穢れが溜まる前にグリーフシードで浄化しなきゃいけないの」
「…はぁ…ソウルジェムって、なんで魔力使うと濁るんですか?」
「…それは…たしか、魔法少女の魔力はソウルジェムを源としているから
その魔力が減少すると、魔力で光ってるソウルジェム の光が薄れるのよ」
「…で、グリーフシードに穢れを移すとまた魔力が戻るから光が戻る?」
「詳しくは知らないけど、そういうことを聞いた覚えがあるわ」
少女の説明はやはり感覚的というか
抽象的であり、具体、定量的な証拠や理論を伴わないもので、やはり
なにか怪しいと思わせる
「…わかりました、それで
……僕、記憶ないんですよね?僕からはなにを話せばいいんでしょう」
こてん、と首を傾げてみると
少女は一瞬止まって、
それから優しく微笑んだ
「それじゃあ、まずは名前から」
「わかりました、名前はミカゲハルマ
御影石のミカゲに天候の晴れ、磨くと書いて『御影晴磨』です」
正直、小学四年生に晴れ以外はわからないと思うけど、僕はだいたいわかる
「分かったわ、晴磨くんね
…あ、私も名前言ってなかったわね、私は巴マミ、よろしくね」
「よろしくお願いします」
そっと手を合わせて
軽く触れ合わせる
「握手がわりに、と」
「んふふ…意外といいわねコレ」
笑みを深めた巴さんは
僕に声をかけてきた
「それじゃあ晴磨くん、私の魔法少女活動について、協力してくれないかしら?」
「…え?」
理解が追いつかない僕に
追い討ちをかけて来る巴さん
「私は『正義の魔法少女』をやっているの、魔女から一般人を守れるのは私たち魔法少女だけ、でも魔法少女のほとんどは自分のグリーフシードを確保するためだけに活動している
だから私は人を守るためにこの力を使うと決めたの」
「…なるほど、それはご立派な事だ」
「でしょう?」
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