左手の薬指   作:鯖缶

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5話

「でしょう」

 

得意げな表情になる巴さん

 

「でも、断らせてもらいます」

「えっ?」

 

「ですから、お断りさせていただきます」

「……なんで?」

 

途端に表情を弱くして

潤んだ瞳でこちらを見て来る巴さん

そんな巴さんに、はっきりと告げる

 

「僕は魔法を使えない、巴さんの話では使っていても、いざとなって僕が確実に使える証拠がない、生死のギリギリってラインでようやく思い出せるものだとしたら使えるのかもしれないけど

それが間に合うかどうかも分からない、他人の話一つを根拠に命をかけられる程、僕は身軽ではないんですよ」

 

臆病な僕にとっては、生命の喪失は恐怖の根源であり、それそのものを克服することはできない

 

そして、使えるかどうかもわからない効果不明の魔法なんて不確定な要素に命を預けられる程に僕は夢を見ていない

 

そう伝えてあげると

巴さんはとても悲しそうな顔をして引き下がった

 

「そう…よね

やっぱり、魔女と戦うのは怖いわよね」

 

その表情はなんとも言えない庇護欲を掻き立てるのだが…やはり僕は

僕自身の命を優先させてもらう

 

「使い魔程度ならモノによっては相手になるケースもあるけど、戦闘力の高いタイプとか接触が危険なタイプは無理です、そもそも魔女と戦うのは僕には役者不足だ」

「じゃあ使い魔だけでもいいわ!」

 

バカな…僕が条件を見せた瞬間に食いついてきた?!しかも根本的に否定ルートは変わってないのに!?

 

「そもそも結界に入ったらどこに飛ば(案内)されるかも分からないのに

使い魔の相手だけなんて無理ですよ

だからそもそも僕は」「私が一緒にいるから大丈夫よ!絶対守ってみせるから!」

 

そもそもモノがわかってない話し方なんだよなぁこれが

 

「まるで大丈夫だと思えないのは僕だけなんでしょうか…」

「あなただけ、そう、あなただけよ

今日から一緒に魔女狩りよ!」

 

「…えっ?」

「そうね、チーム名はおいおい考えるけど…二人だからそもそもチームにはならないわね…」

 

イタリア語らしい単語を呟きながら何かを考えているようだ…?

 

「あなたが使っていた魔法は緑色の矢と爆風の魔法、私が使うのは黄色のリボンの魔法だから…矢の魔法を『アルコ・フィレッツイア』として…それに合わせるなら私のす方が…」

 

「矢を打ち出すならもう普通にアローでいいんじゃないでしょうか」

「ダメよ、魔法少女たるもの

どんな時でもオシャレは忘れないのが鉄則なんだから」

 

そんな鉄則は僕には適用できないと思うんだけど…そもそも僕はなんで協力を前提にされてるのかな!?

 

「…はぁ…もういいですよ」

 

諦めるように呟いた直後

 

「幻影の魔法とかは使えるの?」

「だから僕は魔法そのものに対する記憶がないんですけど」

 

派手にツッコミを入れることになった

 

「僕の明日はどっちだ…」

 

どちらにあったとしても、とにかく昨日と同じ方向にはない事に違いはないだろう

 

「…矢を出すなら大技としては増殖した矢が天空から降り注ぐような技が一般的だけど、あなたには出来るのかしら…」

「知りませんよそんなの

そもそもそんなスタンダードがあるなんて知りませんでしたよ!」

 

「あなたがそういう技を開発したとしたら、名前はどうするの?」

噛み付くように返した僕に

平然とさらに返して来る巴さん

 

しかも僕の肩に手を載せている

さりげなくロックされた

答えるまでは離してくれないという気配が伝わってきたので、もともと向いていない分野に必死に頭を巡らせて

 

「あるとしたら『ソドム・ディザスト』か『シュート・ザ・ムーン』かな…」

 

「由来は!?」

 

食い気味で返してきたなぁ

 

もしかして中学二年生とかそういうタイプなのかなぁこの人…

 

「前者は聖書において、ソドムとゴモラの街に降り注いだ智天使(ケルビム)の放った矢、それは硫黄と火とともに街に災いをもたらした

なので『災害』ディザスターを名前に合わせて短縮して、地名を当てました

 

後者は…銃弾とか矢って、撃つ時に重力の補正を気にして射点を上に向けるじゃないですか、バラけるとか増殖するとかはよく分かりませんけど、数をまとめて撃つなら質量も大きいと思います…だから『()に向かって矢を撃つ』って意味でシュート・ザ・ムーンです」

 

本当は『夜逃げ』という意味も込めて、ここから逃げ出したい、と暗に言っているのだけれど、気づいている様子はない

 

「…はぁ……」

「英語、ギリシャ語も取り入れていくべきなのかしら…」

 

何を言っているのかは相変わらずまるで分からないのだけど

取り敢えず手だけは離してくれたので、離れて深呼吸する

 

…ん、この部屋なんかいい匂いするなぁ…

 

「…ねぇ、お腹すいた?」

「え?僕は別にそういう意味でいい匂いとか言っていたわけじゃ……あ」

 

まってこれじゃあ僕が女の子一人暮らしの家に上がり込んで急に深呼吸していい匂いとか言い出す変態じゃないか!

 

「…だいたい的確に現状を表してて泣けて来るよ…」

 

「やっぱり、もう夜だから軽めのになるけど、夕ご飯作るわね」

「え?(そっちの解釈で)いいの?!」

 

何か深刻な勘違いを犯している気がしてならないんだけど、いいんだろうか

 

「もちろんよ、ウチに泊まるんでしょ?」

 

有無を言わさない視線が僕を貫く!

これは今更に帰るとは言い出せない

 

「うん」

「よろしい、それじゃあちょっとまっててね」

 

僕が頷くと、途端に

突き刺さるような視線はふわりとほどけて花の咲くような笑顔を見せてくれた

 

これが魔法少女じゃなければなぁ…

 

真っ当な恋愛に恵まれただろうに

 

「何か言った?」

「いえなんでもありません」

 

薄ピンクのエプロンをつけた少女がこちらに視線を向けてきたが、即座に切り返して話を終了させる

 

今なら『日本しりとり強制終了大会』ベスト8狙えるくらいの話題切りが出来る

 

「…………」

することもなし、話すネタもなし

知らぬ厨房では手伝うこともできぬ

 

結局何一つせずに座っているだけだったけど、巴さんは最初からそれを想定していたのか笑顔のままだ

 

「はい、お待ちどおさま」

「…そんなに待ってないですな」

 

少なくとも僕の感覚としては30分も待っていない、

 

「ナポリタンとコーンスープ…?」

「ええ、一人暮らしだと手の込んだものを作ることは少ないから

自然とこういう簡単な料理の技術だけは上がるのよねぇ」

 

「だとしたらその彩りの良いサラダはなんなんですかねぇ」

 

カットトマトとキャベツを中心に歯応えを残すために厚めのスライス胡瓜(キュウリ)、辛過ぎない新玉葱などの添えられた、野菜単体では嫌われやすいそれを用いた見事な一皿をチラ見しながら呟く

 

「ドレッシングとか要らないなこれ」

「ウチにはドレッシング置いてないのよ、だからこうやって工夫するの」

 

微笑みを崩さずにトンデモ発言を繰り出す巴さん

 

「え?ドレッシング無いの

……いやでもこのサラダにはドレッシングはたしかに要らない、ほかの具材でも同じクラスの質を維持できるのなら不要でもあるか…?」

 

真面目に考え込んでしまった僕を、謎の感覚が襲う

 

「ほら、よそ見しないの」

巴さんが僕の頬をつついて来たのだった

「あ、いただきます!」

 

僕は慌ててフォークを取るのだった

「はい、召し上がれ…ふふっ…」

 

僕が一口食べ進めるたびに

巴さんの笑みが深まっていく気がするのは何故なんだろうか…致命的な失敗を犯している気がする

 

 




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R-TYPEのパイロットでアナザールートとなります

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