左手の薬指   作:鯖缶

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8話

………ぁぁあ……筋肉痛…

 

でも動かなきゃ…動かなきゃ…

 

「東棟一階での英語の授業の直後に技術科の授業で西棟三階に行くのは遠いよ…」

 

そもそも筋肉痛がひどいのに移動教室とはなにを考えているのか…いや

カリキュラムだから仕方ないんだけど

 

長い長い階段をゆっくりゆっくり登っていくその姿は、まるで戦場にでも

出征する兵士のように見えたと言う

 

 

 


 

あれから一週間ほど過ぎた

 

一日おきごとに身体訓練と魔法の習熟訓練を繰り返しているのだけど

あまり成果は出ていない

魔法使用の回数も5回が限界のままだ

 

「まぁ、そう簡単にポンポンは出来るようにならないよね」

 

魔法の指輪に対しての知見こそ深まれど、肝心の魔法威力や発動速度の向上、無音での発動なんかはできていない

 

ちなみに魔法威力は川の水面に向かってアローを打ち込んだ時の移動距離から目測しているのだが、今までみたところ、射程や威力がかわっている様子はない

 

「今日も今日とて…疲れる…」

 

魔力は十分だが、疲労が激しい

昨日の夜に『訓練』をしてから

今日体育の持久走で走っているので、脚が本当に辛い

 

のだが、夜の買い出しは怠らない

(怠ったら死ぬからです)

 

「…はぁ…」

「あら?」

 

知らず識らずのうちに

気を抜いてしまっていたのだろう

 

そしてそれは不幸と不運、たまたまタイミングが被ってしまったのだろう、それと遭遇してしまったからには

 

「御影くん?」

「…巴さん…」

 

絶望あるのみ

 

「御影くん!」

カゴを片手に持ったまま小走りでやってくる巴さん、完全に捕捉されている

 

マズイ…捕まった

「御影くんもお買い物?奇遇ね」

「そうですね」

 

完全に無の表情になった僕はら

最終奥義、受け流しの姿勢にはいる

 

「もう、釣れないわね」

「そうですね」

 

何を言われても同じ単語で返すつもりなのだが、それは巴さん相手には、あまりにも悪手だと言わざるを得ない手だった

 

「ちょうどよかったわ、この後私の家に行きましょ?夕食はご馳走するわ」

「そうですね」

 

「ところで、前に携帯電話持ってないって言ってたから、私の方で用意させてもらったわ、やっぱり連絡手段(これ)が無いと不便でしょう?」

「そうですね」

 

普通に差し出された携帯を受け取ってしまってから、ようやく気づいた(手遅れ)

 

「それじゃあ会計済ませちゃうから、適当にまってて」

「アッハイ…」

 

結局、夕食は巴さん家で食べることが確定してしまったのだった

 

「…どうしよう…しくじった」

 

嘆いても現実は変わったりしない

 


 

というわけで

「はい、お待たせ」

 

現在の僕は巴家(マンション)に上がり込んで夕食をご馳走になっていた

 

「味はちょっとした自信があるの、どうぞ召し上がれ」

「……いただきます…」

 

今日の夕食はラザーニャ・アル・フォルノをメインとしたイタリア料理

…というか、なぜレストランくらいでしか見ないような代物を家で作れるのかが謎で仕方がない

 

「初めて食べるけど、これ(ラザニア)美味しい…」

「ありがとう♪」

 

随分と気合が入っているが

マミの感覚として普通らしい

特に喜ぶでもなく賞賛を受けている

 

「美味しい…んだけど、まずは」

「これね」

 

なぜ突然家にあげたのか、と言った話を仕掛けようとしたタイミングで

パッと携帯を出されて一瞬戸惑うも、すぐに電話番号の登録だと気付き

 

「そういうのって、渡す時点で登録しているものじゃない?」

 

「えっと…」

 

「つまり、やり方がわからなかった?」

「………」

 

若干赤面しているのを見る限り

そういうことなのだろう

 

「だいたいわかったよ、オーケーだ、とりあえず番号交換しちゃおうか」

 

巴さんの携帯の電話番号だけ表示してもらい、それを自分の方の携帯に登録、同時にその番号に電話をかけて、巴さん側の携帯電話でその着信履歴の番号を登録しておく

 

「これでよし、登録できたよ」

 

さりげなくメールアドレスの方は無視して電話番号だけ登録しているあたり

なかなか頑張っているつもりなのだけど、着拒とかしないあたり、根本的に人を捨てられない僕の情けなさが見える

 

「まぁ、昨今の携帯電話は機能も複雑化してるし、仕様書とかでも理解しきれないことも多いからね、機能を使いこなすってのも難しいだろう」

 

そもそも自分の携帯電話のスペックを完全に使いこなすような人はほぼいない

限定された一部機能をばかり

使っている人の方が圧倒的に多いだろう

 

それもそれで仕方ないのだが

マミの場合は行き過ぎていた

 

なにせ登録している電話番号の数がたったの4個、それも両親と学級連絡網の前と後だけであるらしい

そして当然連絡網などそうそう使うようなものではなく、両親の電話に出るものはいないので、実質ゼロ

 

そしてそこに、ついに新しく番号が追加されたのだ

 

「あ、ありがとう」

「いいよこれくらい、別に構うほどでもないし、むしろ美味しい夕食ご馳走になってる僕の方がお礼言うべきだと思うくらいだよ」

 

携帯電話を返して、

すでに食べきっていた皿を流し台の方に持っていく、調理待ち中に

間取りの方はだいたい把握させてもらったので、その足取りに迷いはない

 

「…」

 

ちなみに、マミは無言で登録された番号を見つめていて、動く様子がない

 

「…どうしたの?」

 

晴磨はしかたなく声をかける

「なんでもないの、ただ…」

 

「ただ?」

「嬉しくて、つい」

 

こちらに向けられたのは、

輝かんばかりの笑顔

 

彼女自身がまれに見るほどの美少女であるため、並の男なら一撃轟沈であるが

僕はなんとか耐えることに成功

緩みそうになる表情を押し殺して、あくまで無表情、平静を装いきるのだった

 


 

「で、どうしてこうなった?」

 

次の土曜日、僕は

 

魔女狩りに付き合わされていました

 

「ほらいくわよ、御影くん」

「あ、はい…」

とりあえずこれには一言くらい言わせてほしい

 

「どうしてこうなった?」

 

どうやら巴さんはどうあっても僕を結界に放り込みたいらしい、今まで一カ月にニ回以上魔女の結界に入ったことは無かったというのに…

 

「…とりあえず最初に言っておく

僕の魔法は使用可能な回数が少ない!期待しないでね!」

「え?」

 

すごく驚いた顔をされるが

「僕は魔法少女じゃないから魂を削って魔法を使うんだ、だから僕が魔法を使うってのはつまり命と魂を消費するってこと」

 

取ってつけたような嘘の設定をぶち上げて、驚愕している巴さんの方に寄ってきた使い魔を物理パンチ連発で仕留める

 

「…さぁ、魔女の方に行ってくれ

できるだけ速く仕留めてね、僕はここで使い魔を引き寄せて時間を稼ぐから」

 

「で、でも…」

「構わないで!むしろ早く行ってくれないとどんどん危険になるんだから!僕を助ける為にも早くここの魔女を討伐して!」

 

「行ってくるわ!」

 

笑顔で巴さんを送り出して

早速魔法を発動する

 

コモン(コネクト)=ナウ』

 

出現した魔法陣から鉤爪を召喚し

それを握って…ひたすら格闘

 

見たところ、というか殴ったところ、例の近接無理なタイプじゃないので

僕としても加減なく、呵責なく

そして一切の容赦なく

 

近接オンリーで仕留めさせてもらう

 

「はぁぁあっ!」

 

最初は全力で、次にどの程度が必要なのかを確認するための調整を行う

 

最初から手を抜いていたら

どのくらいのパワーがとかいう前に詰む可能性が高いので、まず一発全力で当てる

 

これは魔法を得る以前からやっていた戦法でもある、近接無理な奴は見た目でわかるから、そういうの相手には逃げる一択だけど、倒せる奴はどれくらい必要なのかを測りつつ

最低限の消耗で逃げるのが良い

 

「これなら普通に倒せるな」

 

しかし、爪の威力は十分

これなら戦うことも出来る

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