魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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このお話が書いてて一番楽しかったです。


第24話 受験勉強真っ最中!? ラナのテストとヨクバール!
数学の衝撃、再び


 リコの首席パーティーの翌日、みらいとモフルンが夏休みに入り誰もいない学校ないを探索していた。

 

「静かだねー」

「誰もいないモフ」

「なんか学校全体が、わたしたちだけの空間って感じでワクワクするね!」

 

 みらいは校舎から外に出て抱いていたモフルンを下におろした。

 

「モフ~!」

 

 モフルンが楽しそうにその辺りを駆け回る。その時にみらいの視界に触れるものがあって見上げる。すると箒に乗って学校に近づいてきている二人の姿が見えた。みらいはモフルンと一緒に校門の方に歩いていった。

 

 校門から入ってきた二人を見たみらいは、何だか不穏な空気を感じる。小百合がひどく怒っているようで、それに手を引かれているラナは怯えて震えていた。そして、小百合のもう片方の手には勉強道具の入ったカバンが握られていた。

 

「二人とも遊びに来た、わけじゃなさそうだね……」

「みらい助けて~っ! 小百合にころされちゃう~っ!」

 

「ええぇっ!?」

「人聞きの悪いこと言うんじゃないの! みらい、気にしないでね。リコはいるかしら?」

 

 小百合はラナを怒った後に、穏やかになって言った。どうもただ事ではなさそうだった。

 

「リコなら寮の部屋にいるよ。わたしもこれから戻るところだから一緒にいこう」

 

 みらいの後を小百合とラナが歩く。さゆりは逃がさないとでも言うように、ラナの手をしかり握っていた。

 

 みらいがキュアップ・ラパパの魔法でドアを開けると、リコは部屋の真ん中にあるテーブルの前でソファーに座ってお茶を一口飲んだところだった。

 

「ふぅ」彼女は誰もない学校の静けさと落ち着きを一人で楽しんでいたのだった。

「あら、二人ともどうしたの?」

 

 リコは小百合とラナの姿を見るなり言った。小百合がラナの手をきっちり握ったまま答える。

 

「何かあった時に4人一緒の方がいいから、わたしたちは毎日学校に来ることにしたからね」

 

「ちょうどよかったわ。わたしもそれを考えていたの。あなたたちに、わざわざここに来てもらうのは悪いとも思ったのだけれど」

 

「それはいいのよ。重要な要件はここからなんだけど」

「まだ何かあるの?」

「リコ、悪いんだけれど、この子に勉学を叩きこんで欲しいのよ」

 

 小百合がラナの手を引っ張って前に引き出す。

 

「もちろん、無理には頼めないわ。あなたさえ良ければでいいんだけれどね」

「そんなこといわれたって、リコめいわくだよねぇ。無理しないでいいから~」

 

「べつにかまわないわよ」

「はぐぅっ!!? そ、そんなあっさりぃ……」

 

 ラナはリコの答えがよほどショックだったのか、ナイフでも突き刺されたかのように胸を押さえた。しかし、ラナはあきらめなかった。

 

「わたし、ちょ~頭よくないから、すっごいすっごい大変だよ~。ぜったいやめたほうがいいよ~」

「見苦しい! いい加減諦めて勉強机へなおりなさい!」

「ふう~……」小百合に一喝されて、ラナが今にも泣きそうな顔になる。

 

「ラナは箒実技以外の教科は全部免除されていたはずよね?」

 

 リコが言うと、ラナはまるで目の前に救世主が現れたかのように瞳を輝かせ、今にも祈らんとするように両手を組む。

 

「そう、そうなんだよ~。だって、わたし箒で飛ぶ魔法しか使えないんだもん」

 

 そんなラナを怒りを秘めた瞳で小百合が後ろから見下ろす。

「それは誰よりもよく知っているわよ」

 

 ラナが振り向いて小百合と向かい合うと、許しを請うように両手を組んだまま言った。

 

「だから~、勉強なんかしても意味ないんだよぉ。だって、魔法がつかえないんだも~ん」

 

 すると小百合が満面の笑みを浮かべる。それをラナの後ろから見ていたリコは背筋が寒くなった。

 

「そう、そういう考えなのね」

「そう、そうなの! 小百合ならわかってくれるでしょ~」

 

「ラナは箒で飛ぶしか取り柄がないんだもの、仕方がないわね」

「よかった~、わかってくれたんだね」

 

 ラナが安心すると、満面の笑顔の小百合から部屋を瞬時に冷却するような異様な空気が広がる。

 

「なーんて言うと思ってんの!! たとえ魔法が使えなくても、生きていくのに必要最低限の教養は必要でしょ! あんたは人生をなめすぎよ!」

 

 いきなり激怒し人生まで引き出してきた小百合に、ラナは青くなって震え、みらいとリコは慄然としてしまい、モフルンとリリンはいつの間にかベッドの上で並んで座って穏やかに見守っていた。

 

「どうして今になってラナに勉強させようと思ったの?」

 

 リコが言うと小百合がカバンの中に手を突っ込む。そしてテーブルの上に数枚の用紙を叩きつけた。

 

「これを見なさい!」

 

 それは一学期の魔法学校の中間テストの答案用紙だった。みらいとリコがそれを上からのぞき込み、8教科の点数を見ていく。

 

『ひええぇ……』

 

 そのあまりの点数の酷さに驚愕した二人から奇声があがった。

 

「ラナの家でこれを見つけた時に、わたしは自分の甘さを痛感したわ。もっと早く勉強させるべきだった」

 

「いくら免除されているとはいえ、これは酷すぎるわね……」

 

 リコが言っている隣で、みらいが一枚の答案用紙を取り上げる。

 

「魔法界生物は55点だ。生物は得意なんだね」

「そうなの~。おばあちゃんが、いつもがんばったね~って、ほめてくれたんだ~」

 

 そう言うラナを見て、リコが呆れかえってしまう。

「得意っていう程の点数じゃないし……」

 

「ラナは、おばあちゃんに随分甘やかされて育ったようね。まあ、こういうわけだから、リコお願いね」

 

「わかったわ、任せておいて」

 

 リコと小百合の間でどんどん話が進み、ラナが世界が終わるような絶望感を漂わせる。

 

 リコが少し考え込んでから言った。

 

「勉強するにも目標が必要よね」

「まずは8教科平均点50点にしましょうか」

 

 小百合が目標を決定した瞬間に、ラナが小百合のスカートにすがりついて、お代官様に許しを請う罪人のような姿になる。

 

「ゆ、ゆるして~、わたし、し、し、しんじゃうぅっ……」

「なに言ってるの!? 平均点50点よ! 50点っ!」

 

 リコは本気で泣いているラナの姿を見て可哀そうになってきた。

 

「この点数から平均点50点は少しハードルが高いかしら。とりあえず赤点以上にしたらどう?」

 

 ラナがリコを女神でもあるかのように感謝して見上げ、小百合は顎に手を置いて考える。

 

「リコがそう言うなら、それでいいわ」

「リコ~、ありがと~っ!」

 

「今のラナの成績だと、平均点30点でも楽じゃないわよ。早速始めましょう」

「え~、もうやるの~? ラナ、ちょっとのど乾いたな~」

 

 そう言うラナを小百合が射殺すような目で見つめる。このままだと小百合の小言でラナの気力が砕かれそうで、リコは少し慌てて言った。

 

「丁度お茶を淹れてたところだから、みらいと小百合もどう?」

「のむのむ! リコの淹れたお茶おいしいんだよねー」

「わたしも頂くわ」

 

 みらいと小百合もテーブルの周りに座って、それでずっと厳しい顔をしていた小百合の表情が少しほぐれた。お茶を飲み終わると小百合は立ち上がって言った。

 

「わたしは図書館で自分の勉強をやらせてもらうわ。リコがラナを見てくれるなら、安心して勉強に打ち込める」

 

「小百合は本当に勉強熱心だね」

 

 みらいが感心して言うと、小百合は変人でも見るような目になった。

 

「なに言ってるの、当たり前でしょう。受験勉強なんだからね」

 

 瞬間、みらいの心が凍り付いた。

 

「……今、受験…勉強って…い…いました……?」

「みらい、あなたまさか……」

 

 みらいの顔に玉の汗がたらたらと流れ出し、そして頭を抱えていきなり叫んだ。

 

「うわあぁーーーっ! どうしよう!? 受験勉強忘れてたぁ……」

 

 みらいはふらつきながら自分の机の前に崩れるように座ると、バタンと机の上に倒れてしまった。ラナは何食わぬ顔でポッドからもう一杯お茶を注いで、小百合は呆れて、リコは気の毒そうな顔をしていた。

 

「お母さんが言ってた大変って、受験勉強のことだったんだね……」

「でも、ナシマホウ界の勉強もちゃんとやっていたじゃない。わたしも手伝ったし」

「あれは帰ってから勉強が遅れないようにっていう……」

 

 みらいは消え入りそうな声でリコに言った。

 

「必要最低限の勉強はしていたということね。ということは、3年生の教材は持っているのね」

「うん……」

「それがせめてもの救いね」

 

 小百合の容赦のない言葉が、みらいに打撃を与える。

 

「ふぐうっ、魔法学校の勉強が楽しすぎて、受験勉強のことなんてすっかり忘れてたよ……」

 

 みらいは少し元気を取り戻して顔を上げると、小百合に向かって言った。

 

「でもほら、この前の期末テストなんて頑張って10番以内に入ったんだよ!」

 

「その努力は素晴らしいけれど、ナシマホウ界の受験では何の役にも立たないわ」

 

「ぐふぅっ、ですよねぇ……」みらいは小百合の言葉で一刀両断にされて、また机の上に倒れてしまった。

 

「しょうがないわね、わたしと一緒に勉強しましょう」

「いいの!?」

 

「いいわよ。わたしは1年生から3年生までの教材を全部持ってきているし、参考書もあるしね」

「よろしくお願いしますーっ!」

 

 みらいが椅子の上で、土下座だったら地面に額が付くくらいに頭を下げて、その姿に小百合は少し引いてしまった。

 

 リコとラナは、みらいと小百合のやり取りを興味深そうに見つめていた。小百合がその二人を見て少し怖い顔になる。

 

「そっちも見てないで勉強っ!」

 

「そ、そうね。じゃあ始めましょうか」

「う、うん」

 

 小百合はラナに向かって言ったのだが、リコまで少し恐怖を感じてしまうのだった。

 

 

 

 同じ寮の部屋でみらいとラナの勉強が始まる。リコの方は最初から全部教えるので考える必要もないが、みらいの方は受験勉強なのでそうもいかない。

 

「まず、みらいが苦手な科目を教えて」

「数学以外は好きだよ」

 

「数学ね」小百合は鞄から一枚のテスト用紙を出して、みらいの前に置く。

「模擬テストをやってちょうだい」

 

「え!? いきなりテスト!?」

「そうよ。今のみらいの実力と傾向が分からないと勉強する範囲が決められないからね」

 

「ううぅ、数学のテストかぁ……」

「60分よ。はい、今からね」

 

 小百合は鞄から出した懐中時計を見ると、物怖じするみらいに容赦せずスタートを宣言した。それからみらいは、「う~」とか「あ~」とか言って悩みながらテストと向かい合っていた。60分はあっという間に過ぎた。

 

「はい、そこまで。じゃあ、採点するからちょっと待っててね」

「うう、だいぶ忘れちゃってる……」

 

 小百合が採点をしている間、みらいはまるで先生が目の前にいるように緊張する。小百合は足を組んで大人びた魅力を交えながらテストに丸とバツを付けていく。それをリリンがモフルンを抱えて飛びながら、上から二人で見下ろした。

 

「むむ、これは丸とバツのせめぎあいデビ。いい勝負デビ」

「バツの方が多いモフ~」

 

「うあ~」みらいが頭を抱えた。

 

 みらいはテストを受けた感触から予想はしていたものの、ぬいぐるみ達に言われるとショックだった。そして唐突に小百合がテストをひっくり返して、みらいに残酷な現実を見せつける。

 

「42点」

 

「みらい、わたしと一緒に勉強している時は80点以上は取れてたのに……」

 

 リコが悲し気な目でみらいを見つめていた。慌てたみらいが両手をわたわた動かして言い訳する。

 

「あ、こ、これは違うんだよ!」

「なにも違わないでしょう。これが現実よ」

 

 小百合の一言がみらいの胸にぐさりと突き刺さる。

 

「ううっ、何と言いますか。リコと一緒に勉強しないと数学はワクワクしないんだよね……」

 

「受験勉強にワクワクなんて必要ありません」

「はうぅ……小百合は厳しいなぁ……」

 

「でも、わたしと勉強し始めた時は数学26点だったし、それに比べればはるかに希望があるわ!」

 

 リコがみらいを元気づけようとして言ったことが逆効果になった。

 

「それは言わないで~」

 

 それを聞いた小百合は前途多難な道のりが見えてため息をついてしまうのであった。

 

 

 

 小百合はみらいと本格的に勉強を始める前に、どこから調達してきたのか縄の束を寮の部屋の片隅に置いた。みらいはそれが気になる。

 

「小百合、そのロープって……」

「絶対に切れない魔法のロープよ」

「いや、そうじゃなくて、なんで魔法のロープをそこに置くのかなって」

「それはすぐに分かるわよ。こんなの気にしないで勉強に集中しましょう」

「気になるなぁ……」

 

「むぅ、こんなのわかんない~っ!」

 ラナの声が寮の部屋に響く。

 

「あなた最初から考える気ないでしょう! ちゃんと問題に向き合って!」

「ちゃんと向き合ってるよ、ほら~」

 

 ラナが開いてある教科書に顔を近づける。

 

「屁理屈いってないで、ちゃんと考えなさいよ!」

 

 リコが怒るとラナは口を尖らせてそっぽを向く。その姿を見たリコがさらに苛々を募らせた。

 

 その時だった。足音もなく近づいてきた彼女がラナの両肩に手を置いて少し痛いくらいの力を入れてくる。怖気を感じたラナが見上げると、満面の笑顔の小百合が見下ろしていた。

 

「リコ先生を困らせたらダメでしょう」

 

 小百合が普段は絶対に出さない猫なで声が、噴火寸前の火山を連想ささる。

 

「ひいいぃ!!? ご、ごめんなさいぃっ! ちゃんとやりますぅ~っ!」

 

 ラナが大魔王に睨まれるような恐怖の中で必死に叫んだ。そして小百合がみらいの机に戻っていく後姿を見送るリコが唖然としながら言った。

 

「あの笑顔は本当に恐ろしいわ……」


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