魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

11 / 141
闇の女神フレイアと二人の願い

『キャアァーーーッ!』

 

 とてつもない勢いで吹っ飛んだ二人は空中で弧を描き、公園の中に落下し、噴火のように土煙が高々と噴き上がる。それを離れた場所で闇の結晶を探していたみらいが見ていた。

 

「なにが起こってるの?」

 

 みらいは公園に向かって走り出した。みらいの中に強い魔法の予感があった。もしかしたらリコに会えるかもしれない、そんな期待を胸に走り続けた。みらいの体の躍動に伴って、巾着鞄の中のモフルンも激しく揺さぶられていた。

 

 ヨクバールに吹っ飛ばされた二人は破壊されてクレーターのようにへこんだ地面の上に倒れていた。

 

「いったぁーい! お尻おもいっきりうったよぉ」

 お尻をさすっているウィッチの横でダークネスは立ち上がる。

 

「これだけの衝撃を受けても傷一つ付かないなんて、これがプリキュアの力なのね」

「感心してる場合じゃないよ! わたしたち大ピンチだよ!」

「要はブラックダイヤの力を使わずにヨクバールを倒せばいいのよ」

「じゃあどうやって倒すの?」

 

 ダークネスは少し考えてから拳を上げていった。

「殴って倒すとか」

「それは無理だと思うな~」

 

 その時、二人の頭上にヨクバールが現れる。

「ヨクバアァール!」

 

 甲高い叫び声と共に急降下してくるヨクバールは、長いかぎ爪の付いた前足でプリキュア達を踏みつぶそうとする。二人は左右に跳んでそれを避けた。

 

「肝心の魔法が効かないんじゃ打つ手がないわ……」

 ダークネスが厳しい表情で言うと、どこからともなく女の声が聞こえてきた。

 

(リンクルストーンを使いなさい)

 

「だれ!?」

「なんか声が聞こえる~」

 

 ウィッチにも同じ声が聞こえていた。

 

(考えている暇はありませんよ。あなた達の持つリンクルブレスレットでリンクルストーンの魔法の力を引き出すことができます。さあ、リンクルストーンに呼びかけるのです)

 

 ダークネスは謎の声が言った意味をすぐに理解した。

 

「そうか、ダイヤの他にもリンクルストーンがあったわ」

「わたしが集めたリンクルストーン!」

 

 ダークネスとウィッチは顔を見合わせて頷き、互いにブレスレットのある手を横に振った。

 

「リンクル・ローズクォーツ!」

 

 ダークネスの呼びかけに応じて、ブレスレットの中央に開花した薔薇(ばら)の形をした薄桃色の宝石が現れる。

 

「リンクル・オレンジサファイア!」

 

 ウィッチのブレスレットには夕日色に輝く宝石が現れた。二人は同時にジャンプして、地上のヨクバールに向かって宝石輝くブレスレットのある手をかざす。するとダークネスの手から切れ味鋭い水晶の花びらが無数に現れ花吹雪となり、ウィッチの手からは螺旋状の炎が吹き出す。そして、炎と花びらがヨクバールに降り注いだ。

 

「ヨ、ヨクバール!!」

 

 この時にボルクスがようやく姿を現した。彼は自分が召喚したヨクバールが二人の魔法を受けて動けなくなっているのを見て目をむいた。

 

「なんだなんだ!? 俺のヨクバールがやられてやがるぞ! あの黒い奴らは何なんだ!? さっきのガキどもはどこにいった!?」

 

 ボルクスの見てる前で二人は同時に着地する。そしてウィッチが言った。

「きいてるきいてる~」

「でも、ヨクバールを倒すには威力が足りないわ」

 

(大丈夫です。あなた達は闇の魔法に対抗する手段を持っています。二つの魔法を一つに合わせてより強力な魔法を創造する事ができるのです。それが宵の魔法つかいプリキュアの持つ力です)

 

「わかりました、やってみます」

 ダークネスが答える。するとまた声が聞こえてきた。

 

(相性の悪い魔法を組み合わせると威力が弱くなったり、最悪の場合は自分たちがダメージを受けたりするので気を付けて下さいね)

 

「あの~、いい魔法の組み合わせとかは教えてくれないの?」

 

 ウィッチが言うと、女の声が少し間をおいて答えた。

(それは自分たちで試しなさい)

 

「無茶ぶりすごいよ~」

「とにかくやるしかないわね。ローズクォーツとオレンジサファイアはいけそうな気がするわ」

「うん、わかった! ダークネスを信じるよ!」

「じゃあ気合入れていくわよ!」

 

 プリキュア達の魔法を受けて苦しんでいるヨクバールにボルクスが近づいていく。

 

「何してやがるヨクバール、さっさとあの黒いのを倒しちまえ!」

「ギョイーーーッ!」

 

 ボルクスの命令でヨクバールが二人に向かって走り出した。迫りくる敵を前に、ダークネスとウィッチは後ろで左手と右手を繋ぎ、ブレスレットを頭上で重ねた。

 

『二つの魔法を一つに!』

 

 ダークネスは上から右に、ウィッチは上から左に向かってブレスレットで半円を描いていく。二人の手が下で重なり合ったとき、赤く輝く半円と薄ピンクの輝きの半円が合わさって美しい円が現れていた。今度は円の中に赤と薄ピンクの正三角が現れて六芒星を作り、その中心に薄ピンクの三日月、六芒星と円の間隙に赤い星マークが次々と現れ、瞬く間に月と星のヘキサグラムが出来上がる。ダークネスとウィッチが魔法陣の前でブレスレットを重ねれば、赤と薄ピンクが織りなす六芒星が輝きを放つ。

 

『赤く燃え散る二人の魔法!』

 二人は繋がる手を更に固く握り合い、ブレスレットの輝く手を同時に前に出して叫んだ。

『プリキュア! クリムゾンローズフレア!』

 

 魔法陣から深紅に燃え上がる無数の花びらが吹き出し、赤い嵐となって迫っていたヨクバールにぶつかった。燃える花びらはヨクバールの周りに集まって凄まじい竜巻になる。そしてヨクバールは深紅に燃える花びらと一緒に上へと吹き飛ばされ、次の瞬間に漆黒の宇宙空間へ誘われた。

 

「ヨク……バール……」

 

 無数の燃える花びらはヨクバールの周りで一瞬動きを止め、一気にヨクバールに向かって集まり大爆発を起こした。そして太陽のように赤く燃え広がる炎の中から闇の結晶と子犬が白い光に包まれて飛び出してくる。

 

「やったやった、倒せたよ!」

 

 ウィッチは嬉しさのあまりその場で飛び跳ねていた。二人のプリキュアがヨクバールを浄化したこの時に、みらいがその場に駆けつけた。ダークネスは空から降ってきた闇の結晶を取り、ウィッチは子犬の方を受け止める。ヨクバールの浄化によって破壊の跡も元通りになっていった。

 

「よかった、子犬はぶじだよ」

「なんとか撃退できたわね……」

 

 ボルクスは地団駄を踏んで悔しがっていた。

「俺のヨクバールが倒されるとは!? あいつら何なんだ!? ええい、覚えてやがれ!」

 ボルクスが指を鳴らすと、彼はその場から忽然(こつぜん)と姿を消した。

 

 人々が逃げ出してしまった公園は静まり返っていた。春風が渡り満開の桜がざわめき、舞い散る花びらが周囲に鮮やかな色をそえる。その中でダークネスは後ろで見ていた少女に気づいた。みらいはラベンダー色の大きな瞳で黒いプリキュア達を見つめていた。

 

「およ?」

 ウィッチもみらいの姿に気づく。

 

「プリキュア……」

 みらいの声はささやくようだったが、ダークネスはしっかり聞いていた。

 

「どうもどうも」

 ウィッチがみらいに手を振る。ダークネスは(きびす)を返し、みらいに背を向けて言った。

 

「行くわよウィッチ」

「は~い」

 二人は公園の外に向かって大きく跳躍してみらいの前から姿を消した。

 

 

 

 二人は芝生公園の外れの方にある菜の花畑に着地した。黄色くて小さな花々が無限のように広がるこの場所では無数の白や黄色の蝶が舞い踊る。そこへ場違いに思える黒猫のぬいぐるみが上から降りてきた。リリンは黒い羽を動かして宙に浮きながら言った。

 

「二人ともよくやったデビ、リリンは二人を信じていたデビ」

 

 それを聞いたダークネスが苦虫を噛んだような顔になる。

「あんた、わたしたちをピンチに追い込んでおいてよくいうわね」

「そういうことは気にしちゃだめデビ」

 

 リリンは微笑を浮かべながら右手を前に出し、ピンクの星型の肉球を見せながら茶目っ気たっぷりに言った。その時、リリンのリボンの中央にある黒いダイヤが離れて、二人は一瞬で元の姿に戻る。

 

「あ、戻った!」

「プリキュアの力が必要なくなれば元に戻るみたいね」

 

 浮遊していた黒いダイヤのリンクルストーンが、ゆっくりとラナの手のひらに落ちてきた。小百合はリリンを胸に抱いてから言った。

 

「それにしても、どうなってるの? リリンがいきなりしゃべったり、わたしたちがプリキュアに変身したり……」

「リリンもわからないデビ、ダイヤが光ったらこうなっていたデビ」

 

「この黒いダイヤのリンクルストーンのせいなのかな?」

「そもそも、このリンクルストーンはどうして空からふってきたのよ」

 

 その時、二人の目の前の地面に月と星の六芒星が広がる。そして、その上に唐突に金の錫杖を持った黒いドレス姿の女が出現した。目を閉じて穏やかな笑顔を浮かべる長い紫銀の髪の女性が何者なのか、小百合もラナもなんとなくわかった。

 

「二人とも見事でした」

「その声は、無茶ぶりの人!」

「はい、無茶ぶりの声の主です」

 

 ラナの失礼とも思える発言に、女性は穏やかな笑顔のまま答える。彼女の持つ優しさが辺りの空気を何ともいえず心地の良いものに変えていた。小百合もラナもそれを感じていて、いきなり目の前に現れた女性に対して警戒もしなかった。小百合は女性に言った。

 

「あなたは何者なんですか?」

「わたくしの名はフレイア、闇の女神です」

 

「女神様!? すごいよ小百合、女神様だって、ファンタジックだね!」

「ラナの気持ちはわかるけど、ちょっと静かにしてて、色々聞きたいことがあるわ」

 

 小百合はラナからリンクルストーンを受け取り、それを女性に見せた。

「この黒いダイヤのリンクルストーンはあなたのものですか?」

 

「それは、わたくしがあなた達に与えたものです。今はもうあなた達のリンクルストーンです。あなた達にはプリキュアになる資格があった、だからブラックダイヤがあなた達を導いたのです。そのぬいぐるみが意思を持ったのも、ブラックダイヤの力によるものです」

 

「このブレスレットやラナの持っているリンクルストーンがあったから、わたしたちはプリキュアになれたっていうこと?」

 

「それは違います。あなた達にプリキュアになる資質があったからリンクルストーンがあなた達の元に集まり、リンクルブレスレットがその力を引き出したのです。プリキュアに最も必要なものは互いを思い合う相手がいることです。あなた達の心は強く結ばれています。故にプリキュアになることができたのです」

 

「はい、わたしも質問!」

 ラナが手をあげて一歩前に出た。

「はい、どうぞ」

 

「わたしたちのことよいの魔法つかいっていってなかった? 伝説の魔法つかいじゃないの?」

 

 フレイアは微笑のまま答える。

 

「あなた達は宵の魔法つかいプリキュアです。魔法界で語られている伝説の魔法つかいプリキュアとは別の存在です。プリキュアであることには変わりありませんが、宵の魔法つかいは魔法界の歴史から消されてしまった存在なのです。七つの支えのリンクルストーン、四つの護りのリンクルストーン、そしてリンクルストーンエメラルド。伝説の魔法つかいにまつわるアイテムは数多く語り継がれていますが、あなた方が持つリンクルブレスレットやリンクルストーンは、魔法界に存在するどのような書物を紐解いても見つけることはできません。宵の魔法つかいに関する手掛かりは、今の魔法界にはほとんど存在しないのです」

 

「何であなたはそんなことを知っているんですか?」

 小百合が聞くとフレイアは黙った。変わらぬ微笑の中に暗い陰が差したように見えた。

 

「わたしは闇の女神です。陰から連綿と続く魔法界の歴史を見てきました。その中には失われた歴史も含まれています」

 

「どうして宵の魔法つかいは魔法界から消えたんですか? その失われた歴史と関係あるんですか?」

 

「それはですね」

 フレイアが言うと、小百合とラナはうんうんと頷く。

「あまりに遠い昔のことなので忘れてしまいました」

 

「ええ~、ここまで引っ張っておいてそれはないよ~」

 ラナが不満いっぱいの顔で言うと、フレイアはやっぱり微笑しながら答える。

 

「そんなことよりも、あなた達にはわたくしのお手伝いをお願いしたいのです。でも、無理強いはしません。あなた達がわたくしを信用できると思うのなら力を貸して下さい」

 

 すると小百合は胸に手を置いてうやうやしい態度を取った。

「あなたはわたしたちの命の恩人です。ブラックダイヤがなければ、わたしたちはきっと助からなかった。わたしたちにできる事なら何でもやらせて頂きます」

 

「ありがとう、感謝いたします。あなた達には闇の結晶を集めてもらいたいのです」

 

 フレイアはラナの方に顔を向ける。フレイアは目を閉じているのに、ラナにははっきりと目で見られているような視線を感じた。

 

「すでにあなたは沢山の闇の結晶を持っているようですね」

 

「闇の結晶って、もしかしてこれ?」

 ラナがポシェットから黒い結晶を一つ取り出すとフレイアは頷いた。

 

「それは、人間が自ら生み出した闇の遺産です。放っておけばナシマホウ界を滅ぼすかもしれません」

「これって、そんなに危ないものだったの!?」

 

「闇の結晶は人間の闇の感情エネルギーが地中に染み込み、長い年月をかけて結晶化した闇のエネルギーの集合体なのです。人間の歴史には多くの悲しみ苦しみがありました。幾度となく戦争も行われ、数えきれない命が失われていった。その為に生まれた闇のエネルギーは膨大な量になります。今、ナシマホウ界に蓄積された闇エネルギーは飽和状態に達しています。その為に、闇の結晶が地上へと現れているのです。幸いなことに、闇の結晶の出現はこの町のみに集中しています。闇の結晶を集めて封印していけば、ナシマホウ界は助かるでしょう。それよりも問題なのは、闇の結晶を狙っている者たちの存在です」

 

「闇の結晶を狙っている奴って、さっき化物を呼び出した大男のことですね」小百合が言った。

 

「あのオーガは闇の王の手先にすぎません」

「闇の王?」

 

「王の名はロキ、強力な闇の魔法を操る男です。闇の結晶は闇の魔法の力を増幅させる媒体となります。あの男が全ての闇の結晶を手にすれば、ナシマホウ界はおろか魔法界まで滅ぼされてしまうでしょう」

 

「だったら、できるだけ早く闇の結晶を集めないといけないわね」

 

「闇の結晶を集めるのならば、必ずロキの部下と戦うことになります。十分にお気をつけなさい」

 

 そこでラナがフレイアの前に出てきてポシェットを手にもってカバーを開ける。

「じゃあこれはフレイア様にあげるね」

 

 フレイアは頷くとを高く掲げた。そうすると錫杖の先端に付いている赤い花の宝石から円が広がって小さな魔法陣となると、ラナのポシェットから次々と闇の結晶が浮き出て魔法陣に吸い込まれて消えていった。全ての闇の結晶を吸い上げた後にフレイアは言った。

 

「必要なだけの闇の結晶を集めてくれたあかつきには、願いを一つだけ叶えて差し上げましょう。何でもとはいきませんが、大抵のことは叶えてあげられますよ」

 

 それを聞いた小百合は視線を落としてしばらく考えていた。やがて小百合は意を決して言った。

「亡くなった人を生き返らせる事は可能ですか?」

 

「それは亡くなった時期によりますね。肉体を失った命は常にどこかの世界へ生まれ変わるものです。ですから、何年も前に亡くなった方を蘇らせることは出来ませんが、つい最近亡くなった方であれば可能です」

 

「それなら!」

 小百合はいいかけていた言葉を飲み込んで急に黙った。ラナが気になって小百合の顔を見つめる。

 

「どしたの、小百合?」

「……わたしだけお願いするわけにはいかないわ」

「だったら、わたしがお願いするよ」

 

 そして、ラナはフレイアに自分の願いを言った。

 

「小百合のお母さんを生き返らせて!」

「ラナ!?」

「小百合はとっても素敵で大好きなお友達だよ。そんな小百合のお母さんに、わたしは会ってみたい。だから、小百合のお願いがわたしのお願いだよ」

 小百合は瞳に涙を溜めてラナを強く抱きしめる。

 

「ラナ、ありがとう」

 小百合が目を閉じていうと涙がこぼれ落ちた。

 

「あなた達の願いを必ず叶えると約束しましょう。闇の結晶を集めたらこの場所に来て下さい」

 フレイアが錫杖で地面を突くと、そこから月と星の黒い魔法陣が現れて彼女の姿は消えた。

 

 プリキュアとなった少女二人、今は胸に大きな希望の光を抱いている。この先に、深い悲しみと激しい戦いが待っていることなど知るよしもなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。