魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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第25話 理性と情熱で迎え撃て! 豪ヨクバール現る!
魔法商店街の感謝祭


 夏休みに入って十日ほど経った。みらいとラナは強制的に勉強に明け暮れる日々を過ごしていた。二人とも日に日に元気がなくなっていく。

 

「疲れたなぁ……」

「そろそろ休みましょうか」

 

 小百合とみらいがテーブルの方に移動して、みらいがテーブルに覆いかぶさるように寝込む。

 

「リコ~、もう無理~、お勉強止めていい?」

「いいわけないから。ラナは諦めるのが早すぎよ」

 

 だいたい休む時は二組とも同じタイミングだった。小百合が先にお茶を淹れて後から来た二人を迎える。

 

「お茶うけにドライアップルを持ってきたから食べてね」

 

 リリンとモフルンも並んでソファーに座って、小百合からドライアップルを受け取る。

 

「ありがとうモフ~」

「くるしゅうないデビ」

 

 そう言うリリンを小百合が何か言いたそうに見つめていると、ラナもみらいと同じようにテーブルの上に上半身を寝かせた。二人はつぶれたスライムみたいにぐでっとした姿になって、寝たままドライアップルを食べて一緒になって言った。

 

『おいちい……』

 

「あんたたち、いくら何でも元気なくなりすぎよ」

「だって、毎日勉強ばっかりなんだもん」

 

「受験勉強なんだから当たり前でしょう。まあ、みらいはだいぶ良くなっているわよ。この調子なら夏休みの間に数学は仕上げられそうね。みらいが志望している高校のレベルだと、数学以外が得意なことを考慮しても60点は欲しいわね。だから模擬テストで70点以上が目標ね」

 

「ええ、60点じゃダメなの?」

 

「苦手な教科は目標より点数が下がるから10点底上げするの。わたしも苦手な英語はいつも100点を目標にしているわよ」

 

 その一瞬、その場の空気が停滞して変な静けさがやってくる。

「……え? 小百合って英語のテストいつも何点くらいなの?」

 

 みらいが恐る恐る聞くと、小百合が頬に手を添えて言った。

 

「そうね、いつも90点前後ね」

「あなたが英語が苦手なんて以外ね」

 

 リコが普通にそんな会話をすると、みらいが不興気な顔で起き上がる。

 

「それ苦手って言わないよ! わたしより点数高いよ!」

「やだね~、二人して頭いいの自慢しちゃってさ~」

 

 まだつぶれたスライムみたいになっているラナが、ドライアップルを口にしてもごもごやりながら言った。

 

「別にそういうつもりじゃないのよ……」

 

 みらいの目が小百合に強く抗議する。それが小百合を黙らさせた。それからみらいは、リコの方に目をやって言った。

 

「そういえば、リコは受験勉強しなくていいの?」

「魔法学校には高等過程に進むのにテストなんてないのよ。ナシマホウ界で言うところのエスカレーター式ね」

 

 みらいは一瞬呆けた顔で固まった後に、くしゃっと表情を崩す。

「う、う~ら~や~ま~しぃ~っ!!」

 

「他人をうらやむ暇があったら、数学の公式の一つでも覚えなさい」

「うう、小百合は厳しいなぁ……」

 

 リコは本当に疲れてしまっているみらいとラナの為に何か良いものはないかと、お茶を飲みながら考えていた。

 

「そうだわ。明日から魔法商店街で感謝祭が始まるから、一日くらい休ませてあげたらどうかしら? あまり根を詰めすぎるのもよくないと思うし」

 

 それを聞いたみらいとラナの目がきらっきらの輝きを放つ。けれど小百合が何と言うか気が気ではなかった。

 

「そうね、リコの言う通り適度な休息も必要だわ。今日の勉強は早めに切り上げて、明日の遊びに備えましょうか」

 

『ほ、本当にいいの!?』

 

 みらいとラナが身を乗り出して、神がかった奇跡でもそこにあるように小百合を見つめる。小百合は軽く驚いて身を引いた。

 

「い、いいって言ってるでしょ」

 

『い~っ、やったぁ~っ!!』

 

 みらいとラナが二人で立ち上がって両手をあげた。

 

「感謝祭は出店なんかも多くて、見るだけでも楽しいわよ」

「魔法界の出店!? ワクワクもんだぁ!」

「ファンタジックだ~!」

 

「……勉強にもせめてその十分の一くらいのやる気は出してほしいわね」

リコの話に狂喜乱舞する二人に、小百合がため息交じりに零した。

 

「そんなの絶対むり、一生むり、世界がなくなってもむり~」

「いくら何でも否定しすぎよ……」

 

 小百合はラナに呆れ果ててしまうと同時に、ラナをリコに押し付けていことが心底悪いと思うのだった。

 

 

 

 魔法の箒で少女たちが空を行く。モフルンとリリンはいつものバッグとポシェットに入って顔を出して下に見える魔法商店街を星の宿る瞳で見つめていた。

 

「わあ、なんかいつもの魔法商店街と違うね!」

「きれいな光が浮いてるモフ」

「あれは魔法のランタンよ。ナシマホウ界の提灯(ちょうちん)みたいなものね」

 

 リコがみらいとモフルンに説明する。

 

「昼間でもこんなに輝いて見えるのね」

「夜になるとすっごくファンタジックにきれいなんだよ~」

 

 ラナが言うと小百合は夜が楽しみになった。商店街の通りに沿って無数の色彩の無数のランタンが宙に浮いて並んでいる。闇が訪れれば、それらが街をより美しく輝かせる。

 

 彼女らは期待を胸に魔法の箒を商店街に向かって降下させた。

 

 

 

 商店街にはリコのいった通りに様々な出店があった。肉、魚介、果物にお菓子から装飾品まで、ありとあらゆるものが売っていた。そして普段の商店街よりも数倍多い人がいて、どのお店も盛況で活気のある声が飛び交っていた。

 

「クラーケンの足焼きだよ! 柔らかくておいしいよ!」

 

『クラーケンの足焼き!? おいしそーっ!』

 

「ドラゴンの卵で作った鈴カステラーっ! ふわふわでおいしいわよ!」

 

『ドラゴンの卵で作った鈴カステラ!? おいしそーっ!』

 

 みらいとラナが二人で出店に目移りしながら興奮していた。リコがそんな二人を楽し気に見ていた。

 

「相変わらずね、あなたたちは」

「明日からまた勉強だから、今日はしっかり遊びなさいね。遊びも勉強も中途半端はだめだからね」

 

 小百合が後押しするようなことを言うと、二人のテンションがさらに上がる。二人で屋台に向かって走っていくと、リリンが小百合のポシェットから抜け出してラナの背中にとりついた。

 

 それから少し時間が経って戻ってきたみらいとラナを見て、リコと小百合は少し顔が引きつる。二人して両手にいろいろ持っていた。

 

「……あんたたち買いすぎよ、もう少し落ち着きなさい」

「そうよ。出店は逃げたりしないんだから」

 

「どれもこれも美味しそうでついつい」

 

 みらいがそう言ってクラーケンの足焼きにかぶりつくと、ラナも全く同じタイミングで同じことをする。リコと小百合は一緒に似た者同士だなと思った。

 

 それからみんなで猫の像がある中央の広場に移動すると、そこも人でにぎわっていた。空いているベンチを見つけてみんなで座る。いつもの魔法商店街にはない喧騒が、みんなの心をウキウキさせた。

 

「カステラ美味しいモフ~」

「むむ、なかなか良い仕事をしているデビ」

 

 ぬいぐるみたちと一緒にリコと小百合も袋に入ったドラゴンの卵入り鈴カステラをつまむ。みらいとラナはすでに両手に持っていたものをほとんど食べつくして、次に食べるものを探し始めていた。するとラナが知っている顔を見つける。

 

「あ~、エリーさんだ~」

 

 広場をぐるりと囲むようにある出店の一つにエリーがいた。みんなでそこに集まると、エリーが愛想のよい笑顔で迎えてくれる。

 

「あら、小百合ちゃんたちも来ていたのね」

 

 エリーの出店のケースには小さな果実にキャンディをコーティングしたものが沢山入っていた。

 

「これ、もしかしてりんご飴?」

 

 そう言うみらいに抱かれているモフルンがケースに手をついて見つめる。

 

「きれいモフ、宝石みたいモフ」

 

「新作のアップルキャンディーよ。みんなで食べてみて」

 

 エリーが魔法の杖を一振りすると、浮き上がった三角形の袋が開いて、そこへ小さなりんご飴が次々と入っていく。そしてキャンディーがいっぱいになった袋が飛んできて、モフルンの両手の間に静かに降りてきた。さっそくみんなで一つまみ、両手が塞がっているモフルンは、みらいが口に運んであげる。小百合がすぐに食べた感想を口にした。

 

「さわやかなミントのキャンディーにリンゴがよく合うわね。しかもこのリンゴ種も芯もないわ」

 

 それを聞いたみらいが、不思議そうな顔をする。

 

「あれ? わたしはリンゴとミカンの味がするけど」

「モフルンはリンゴとグレープモフ」

 

「クルクルキャンディーでコーティングしてあるのね!」

 

 リコが気付くとエリーがにっこりする。

 

「クルクルアップルキャンディーよ。リンゴといろんな味のコラボが楽しめるの」

 

「すてき!」みらいが二つ目に手を出すと、みんなも同じように袋に手を伸ばし、美味しく楽しく食べている間にどんどんエリーのお店に人が来て列ができはじめた。

 

「よう! リコたちも来てたんだな」

 

 その声に、アップルキャンディーに舌鼓を打っていた少女たちが顔をあげる。ジュンとケイとエミリーの姿がそこにあった。

 

 

 

 それから合流した少女たちは、ジュンの勧めで夜に感謝祭のメインイベントが開かれるという場所に向かった。

 

「なんでも、とつぜんそれが商店街の外に現れたって話でさ。すごくきれいなんで、観光名所にしようって商店街の人たちが息巻いてるらしいよ」

 

「どんなものなんだろう、楽しみ!」

 

 ケイが手を組んで乙女らしくしている横で小百合が言った。

 

「いきなりそんなものが現れるなんて、不思議なこともあるものね」

「いくら魔法界でも、いきなり物が現れるなんてただ事じゃないわ」

 

「本当に何があったんだろうね?」

 

 真剣に言うリコの横でエミリーが首をひねった。そして少女たちは商店街の外にでていく。浮いている魔法のランタンの列が、例のものにむかって道を作っていた。そこを歩いていくと、ふとみらいが言った。

 

「あれ? この辺り見たことあるような……」

 

 やがてそれが見えてくると、リコと小百合が総毛立つ。

 

『キヒッ!?』二人は思わず変な声をだして立ち止まってしまった。

 

 そんな二人をジュンたちが振り向いて怪訝な目で見る。そしてみらいは、それが何なのか理解した。

 

「あれって……」

「キラキラのツリーモフ~」

「永遠に溶けない氷のツリーデビ」

 

 リリンが意地悪っぽく微妙に核心を突く。

 

「ああ~、リコと小百合が喧嘩してできたやつだ~」

『ヒイイィッ!?』

 

 ラナが大声で言うと、リコと小百合がまた変な声を出して、二人で慌ててラナの口を塞ぐ。

 

「はぁ? リコと小百合が喧嘩してってどういうことだ?」

 

 わけのわからないという顔のジュンの前で、リコと小百合が冷汗を垂らしながら言った。

 

「い、いい、ちょっと、リコと、今朝意見の相違があってね! 喧嘩しちゃったのよね! ラナはそのことを言ってるのよ!」

 

「そ、そそ、そう! 魔法界とナシマホウ界のイデオロギーと生命観について話し合ってたら、つい熱くなっちゃってね!」

 

「そんな訳のわからんことでよく喧嘩できるなぁ……」

 

 リコが適当にでっち上げた難しそうな話でジュンは納得してくれた。しかし、ケイが遠くに見える氷のツリーを指さして言う。

 

「でも、ラナはあれができたっていってたよ」

 

「あんなもの、ただの人間がどうにかできるわけないでしょ! ラナの話はいい加減だから信用しないでね!」

 

「それもそうだね」

 

 みんな納得してくれると、リコと小百合はほっとした。それでラナの口をふさぐ手から力が抜けてしまう。

 

「わたし嘘なんてついてないよ! 本当に」

 

 またリコと小百合は慌ててラナの口に手を重ねるのだった。

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