魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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究極融合! 豪ヨクバール!

 商店街の感謝祭が行われていたこの日、妖精の里がある花と森のこのはな島に、今までにない災厄が襲い掛かった。

 

 妖精たちが住まう森をロキが上から見つめていた。彼は探し物を見つけると悪意で歪んだ笑みを浮かべながら、指を鳴らしてその姿を消す。

 

 次の瞬間に、花の蜜を集めている小さな妖精たちの前にロキが現れる。妖精たちは途方もない邪気を浴びて大混乱に陥り、ただ一人の除いてみんなそこから逃げ出した。彼はみんなよりもずっと勇気があったから、ロキと対峙することができた。

 

「だ、誰だ……」

 

 ロキに上からにらまれてチクルンは蜜の入ったポットを落とした。チクルンは目の前の男が放つ邪悪な空気を知っていた。以前にも似た空気を持った者たちに苦しめられたことがある。

 

「ようチビ助。お前は俺様のことを知らねぇだろうが、俺様はお前のことをよぉく知ってるぜ」

 

 ロキの円環と細い瞳孔のある瞳が細められ、チクルンは恐怖に襲われて震えた。

 

「てめぇはプリキュア共を何度も助けてこの俺様の邪魔をした。だからこそ消したりはしねぇ。滅びゆく妖精の里を見ながら絶望しろ。それが俺様の糧となろう」

 

「な、なんだって!? やめろ!」

 

 ロキは背中に大きな蝙蝠の翼を広げると上空へと至る。そして彼は森に住まう者たちに目星をつけて闇の結晶を上に放り投げ、指を弾いて闇色の音を響かせた。

 

 空に広がりし暗黒の魔法陣に次々と吸い込まれていく、巨大なトカゲ、大岩、大きなクワガタ、そして最後に闇の結晶が。

 

「究極融合! いでよ! 豪ヨクバールッ!!」

 

 魔法陣に刻まれた竜の骸骨が実体化して雄叫びをあげる。そして暗黒の魔法陣から漆黒の体が引き出され、全身があらわになると闇の魔法陣が閉じた。全身に闇をまとった怪物が背中に翅を開くと、闇の衣が消え去って真の姿が現れる。

 

「ゴウヨクバアァァーーールッ!!」

 その咆哮で妖精の里が震えた。

 

 トカゲの体の怪物は、全身に黒い岩の鎧をまとい、背中には虫の翅が生えている。頭には竜の骸骨をかぶり、竜の顎の虚空からは一組のクワガタのハサミが突き出していた。

 

「全てを破壊しつくせ、豪ヨクバール」

「ギョイイィーーーッ!!」

 

 ロキの命令を受けて、豪ヨクバールのアイホールに凶暴性を表す真紅の光を宿す。そして、黒い岩に覆われている巨大な尻尾の一振りで地面から草花を根こそぎ剥ぎ取り、大量の樹木を一気になぎ倒した。森の動物や妖精たちが悲鳴をあげて逃げ惑う。

 

「よせ! やめろーっ!」

 

 チクルンは故郷を傷つける破壊者が許せずに、何も考えずに突っ込んでいく。豪ヨクバールが虫の翅を開いて激しく動かすと、その時に起こった風圧はチクルンを遠くまで吹っ飛ばした。

 

「うわぁーーーっ!?」

 

 飛び上がった豪ヨクバールが空中で静止すると、ハサミが突き出す竜の口の奥に真紅の光が生まれて強く大きくなっていく。そして口の中から赤い光線が吐き出されて、それがこのはな島の大地を焼いて長大な線を描き、数瞬後にその線にそって炎が吹き上がり、灼熱の壁となった。それを目の当たりにしたチクルンは、絶望する前に自分のやるべきことをしっかりと見定めた。

 

「妖精の里からあいつらに助けを求めに行くのは無理だ。だったら、おいらが今できることをやるんだ」

 

 チクルンが向かったのは自分たちの住処になっている大樹だった。その樹の根元では妖精の女王が妖精の兵士たちに指示を出していた。

 

「森に残っている者を早く避難させるのです!」

「女王様、おいらにも手伝わせてくれ!」

 

「チクルンや、お前は安全な場所にお逃げなさい」

「いやだ! こんなことになったのは、おいらの責任なんだ! だから、おいらは逃げちゃいけないんだ!」

 

 女王はしばし無言でチクルンを見つめ、そして彼女はチクルンに強い決意を認めた。その時、遠くに火の玉が落ちて轟音と共に火柱が上がった。

 

「わかりました。森に残っている者をここに連れてきて下さい」

 

 そしてチクルンは炎が燃え広がる森の中を飛び、力の限り仲間を助けて回った。ただ必死に、がむしゃらに、自分の成すべきことをやり通した。そして妖精の女王は全ての妖精が避難するまで大樹の下に居続けた。彼女の元に最後にやってきたのはチクルンだった。

 

「女王様、もう大丈夫だ! 森にはもう誰もいない!」

「そうですか。ではわたしたちも避難しましょう」

 

 もう炎は妖精の家の大樹にまで迫り、熱風が二人の妖精に吹き付けてきていた。

 

「ヨクバァール!」ついに宙にいるヨクバールが大樹に向かって火炎弾を吐いた。火の玉は大樹の中腹に炸裂し、爆風が妖精の女王を襲って吹き飛ばした。

 

「女王様っ!?」

 

 チクルンは素早く飛んで女王に近づくと、彼女の後ろから腰に腕を回して飛び上がる。散々飛び回って体力の限界に近いチクルンは、女王の体重を支えて飛ぶと、急に降下して落ちそうになる。そうすると傷ついた女王がいった。

 

「チクルンや、わたしを置いてお前だけでも逃げなさい」

 

「それだけはできねぇ! だれも犠牲になんてしない! 何があっても全員助けるんだ! そうしなきゃ、おいらあいつらに顔向けできねぇ!」

 

「チクルン……」女王の瞳に涙がにじんだ。

 

 チクルンは力を振り絞って女王を抱いてそこから飛び去った。その直後に大樹が悲鳴をあげてへし折れ、さっきまで女王とチクルンがいた場所に重音をあげて倒れた。チクルンは燃え広がる炎を下に見ると目に涙が浮かんだ。

 

「おいらたちの家が……妖精の里が……」

 

 妖精たちは小高い岩山に避難して未だに燃え広がって森を焼いている炎を見つめていた。彼らの間にあるものは絶望と諦めと悲しみ。妖精の里の消失という唐突すぎる悲劇の前に、呆然自失となる者もいれば、涙を流す者もいる。その中でたった一人だけ落ち着いていたレジェンド女王が、可愛らしい丸い瞳を潤ませながら言った。

 

「まるで昔の悪夢を見ているようです。闇の魔法が支配したあの古の時代を……」

「おいらのせいだ、全部おいらが悪いんだ……」

 

 涙に暮れるチクルンの頭を妖精の女王が触る。

 

「チクルンや、お前のせいではありません。お前は立派に人のお役に立って大きく成長して帰ってきました。わたしはお前のことを誇りに思っているのですよ」

 

「……女王様……すまねぇ……」

 ぎゅっと閉じたチクルンの目からたくさんの涙が零れ落ちた。

 

 

 

 リコ達が氷の大樹の根元に近づくと、氷のツリーの周りには箒にのった魔法つかいが何人もいて、氷の枝に魔法のランタンを飾っていた。それを見上げる小百合とリコは憂鬱な気分だった。その二人に作業をしていたいかつい感じの箒屋の店主が近づく。

 

「リコじゃないか。隣にいるのは友達か?」

「グスタフさん、こんにちは」

「リコの友人の小百合と申します」

 

 リコの紹介を待たずに小百合が頭を下げると、グスタフさんは感心して顎を触った。

 

「礼儀正しいお嬢さんだな。よろしくな。魔法の箒の修理だったら、いつでもうちに来な」

「グスタフさんは、魔法の箒店の店主なのよ」

 

「昔はリコがよく箒で墜落してなあ。店にしょっちゅう修理に来ていたんだが、最近はめっきりこなくなって寂しいよ」

「ちょ、ちょっと、今そんなこと言わないで!?」

 

「ふ~ん、そこまで酷かったなんてね」

 小百合が意地悪してリコの耳元でささやく。

 

「なによ! 小百合だって箒に乗るのは苦手でしょう!」

「それは否定しないけれど、少なくとも墜落したことはないわね」

 

「くうううっ……」リコが声を詰まらせて悔しさをにじませる。

 

 小百合はリコをからかうのをその辺で止めておいて、自分がアウィンの力で出現させた氷の大樹を見上げた。

 

「なんて言ったらいいか、本当に申し訳ありません」

 

 小百合はどうにもしようがない気持ちを目の前のグスタフさんに向けて頭を下げた。

 

「なんでお嬢さんが謝るんだ? 何だかよくわからんが、こいつは魔法商店街の宝になるぞ! 永遠に溶けない氷のツリーなんて素晴らしいじゃないか! これは絶対に観光の目玉になる!」

 

「小百合、もう気にしなくてもいいんじゃない。みんな喜んでいるみたいだし……」

「これが魔法商店街の名所になると思うと複雑な気分ね……」

「それはわたしも同じよ……」

 

 ジュンたちが美しい氷のツリーの前で意気消沈気味のリコと小百合の背中を見て首を傾げていた。みらいとラナは何も考えずに、ただなんとなく立っていた。その二人が急に周囲を見始める。

 

「いまなんか声が聞こえなかった?」

「聞こえた~、なんだろう?」

 

(みんな聞いて!)

 

 今度はリコ達とぬいぐるみ二人にもはっきりと聞こえた。

 

「はーちゃんの声だわ」

 

「なにいってんだよリコ」

 

 ジュンがリコを奇態な目で見る。リコは何も答えずに頭に響いてきた、ことはの声に集中していた。

 

(妖精の里が襲われているの。チクルンが泣いてる。助けてあげて! わたしがみんなを連れていくから!)

 

 4人の少女たちの雰囲気が急に変わって、みんな怖いくらい真剣になった。

 

「みんなごめん! わたしたち用事を思い出したから!」

 

 みらいがモフルンを抱きながら森の方に向かって走り出すと、みんな後に続く。

 

「ジュン、ケイ、エミリー、あなたたちは先に商店街に戻っていて! わたしたちも夜までには戻るからね!」

 

 しんがりになった小百合がジュンたちに言い残して走り去る。その後ろからリリンが飛んでついていった。後に残された3人は訳が分からずに、しばらくその場に立って離れていくみらいたちを見ていた。

 

 

 

 頭の中に直接語り掛ける、ことはの指示に従って森の中に入っていくと、少女たちの前に魔法の扉が現れた。手を触れずとも扉が開き、少女たちが扉の向こうに飛び込んでいく。

 

 刹那的に彼女らの前に広がった光景は、焼き尽くされて黒く焦げた森と大地だった。周囲ではまだくすぶっている炎が小さな舌を出し、焼け焦げた臭いが鼻腔をを強く突く。

 

 遠くの方ではまだまだ炎が燃え上がっていて、空にいる恐ろしい怪物が炎を吐き出して咆哮した。

 

「ゴウヨクバアァァーーールッ!!」

 

 あまりの酷さにみらいとラナは呆然としてしまったが、リコと小百合は拳を強く握り、表情を険しくして怒りを爆発させた。

 

『絶対にっ! 許せない!!』

 

 二人の怒りに触れて、みらいとラナの炎も燃え上がる。妖精の里を焼き尽くし、親友のチクルンを苦しめる破壊者に、少女たちの怒りが頂点に達した。

 

 リコとみらいが右手と左手をつないで互いに痛みを感じるくらいに力を込める。二人が強くつながった手に、とんがり帽子に小さな星とハートをそえた金の刻印が現れる。その手を後ろに引いて、みらいは輝く桃色のローブ、リコは輝く紫のローブをまとい、もう片方の手を天をつかむように上げて高らかに唱る。

 

『キュアップ・ラパパ!!』

 

 二人の背後から真紅の閃光が放たれ、それが円を描き途中で焔をあげて、真紅の炎の中から真紅の宝石が現れる。

 

「モフ―ッ!」

 

 空中で宙返りしたモフルンのピンクのリボンブローチに真紅の輝石がはめ込まれた。

 

『ルビーッ!!』

 

 勢いよくジャンプしてから着地したモフルンが可愛い足音と一緒に疾走し、前に向かってジャンプ、みらいとリコが開いた手に飛び込むと、3にんでつながって円になる。

 

『ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!!』

 

 3人が高速で回転し、深紅の熱い衝撃が周囲に広がる。モフルンが速い回転で高く浮いて、その身に赤いハートが点滅すると、真紅の炎が広がって少女たちを包み込む。

 

 白きハートの五芒星が現れ、後方に飛び去った魔法陣より真紅の光が撃ちだされ、真紅の光が弾け飛んで焔に変わり、炎をまといし真紅のプリキュアたちとモフルンが召喚される。

 

 高い場所から降りてきたプリキュアたちが着地すると、その足元に炎が噴き出し、モフルンは前にジャンプして離脱していく。

 

 右側のミラクルが右の人差し指で天を突き、熱く燃えたぎる気持ちで前方を指し、闇を払うように右腕を力強く右上に振り抜く。

 

「二人の奇跡! キュアミラクル!」

 ミラクルの背後で友を思う熱き心の炎が燃え上がる。

 

 左側のマジカルが左の人差し指で天をさし、情熱的な強さを持って、しなやかな指で前方を射る。そして、闇を切り裂くように左腕を力強く横に振り、

 

「二人の魔法! キュアマジカル!」

 マジカルの背後で邪悪に対する怒りの炎が爆発する。

 

 ミラクルとマジカルは体を寄りそいあって、情熱と強さを込めた左手と右手を前へ。

 

『魔法つかい! プリキュアっ!!』

 二人の背後で真紅の炎が爆裂した。

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