ロキが疲弊した表情でプリキュアたちと再び向かい合うと、凛々しき乙女たちの強い視線に射貫かれて体が震えた。そしてプリーステスが言った。
「わたちたちは確かに敵対して戦っていた。でもね、憎みあったことなんて一度もない」
ミラクルの瞳が揺れる。
「わたしお母さんのために一生懸命なプリーステスが好きだった」
プリーステスがミラクルから言葉を受け取る。
「わたしは友達を支え、たゆまぬ努力を続けるマジカルを心から尊敬していた」
プリーステスから言葉を受け取ったマジカルが微笑する。
「わたしはルーンのどこまでも友達を信じぬく姿に心を打たれたわ」
マジカルから送られた言葉にルーンは周囲を明るくするような満面の笑みを浮かべる。
「わたしは友達思いでとっても可愛いミラクルが大好きだったよ!」
そんなプリキュアたちの声を聞いたロキに憎悪の黒い炎が燃え上がった。
「くだらねぇーーーっ!! 目障りだ! てめぇら全員消えろーっ!!」
ロキが黒い竜の翼をいっぱいに開いて飛び上がる。そして全身に漆黒の闇の魔力をまとって、プリキュアたちに向かっていく。
ミラクルとマジカルがリンクルステッキを構える。そしてミラクルがみんなに言った。
「みんなの心と魔法を一つに合わせよう!」
ミラクルの一言で4人のプリキュアの心は一つになる。
「モフルン!」
「リリン!」
ミラクルとプリーステスの呼びかけに、ぬいぐるみたちが走ってくる。
「モフ~ッ」
「デビ~ッ」
二人ともプリキュアたちの中へと飛び込んでいった。ミラクルとモフルンとマジカルが手をつなぎ、プリーステスとリリンとルーンが手をつなぐと、モフルンとリリンのダイヤが輝きを広げて、周囲を聖なる光の世界にかえていく。そして二組のプリキュアたちが跳躍し、上昇中にマジカルとプリーステス、ミラクルとルーンが手をつないで、6人で輪になって回りながらさらに上昇していく。
ミラクルとマジカルの魔法を込めた声が輝きの世界に広がる。
『永遠の輝きよ!』
プリーステスとルーンの魔法を込めた声が光の世界に澄み渡る。
『聖心なる輝きよ!』
上昇が頂点に達したところで再びプリキュアたちは二組に分かれ、宙を舞いながら降下していく。そして、魔法を込めた4人の声が一つとなる。
『わたしたちの手に!』
ペアになったプリキュアたちが舞い降りると、白い輝きの波と青い光の波が同時に起こって混ざり合い、輝きの高波が波紋のように広がっていく。
ミラクルとマジカル、プリーステスとルーンが後ろに手をつなぐ。そしてミラクルとマジカルがリンクルステッキを頭上に構え、プリーステスとルーンは頭上で手を交差させ、リンクルブレスレッドを一つに合わせた。その瞬間に二組のプリキュアに間に立ったリリンとモフルンのダイヤが強く輝く。
『二つの魔法を一つに!』
プリーステスとルーンの手が外側に向かって半円を描いていくと、二人の腕輪にある青いダイヤの輝きが線になって残り、やがて線は一つに重なって円となる。円の内側に青い光が走って六芒星を描き、その中心に三日月、周囲に六つの星型が現れる。
ミラクルとマジカルはリンクルステッキの先端で光の線を引いていく。
『フル、フル、リンクルーッ!』
光の線で描かれた二つの三角形が白い輝きを放って具現化し、重なり合ってリンクルストーンダイヤと同じ形の光の結界になり、それが巨大化した瞬間に衝撃波が起こる。さらにダイヤの光の結界が白く輝くハートの五芒星に変化する。
プリーステスとルーンがブレスレットを天上にかざすと、二人が描いた月と星の六芒星が前に出て巨大に広がり、ハートの五芒星をその内に秘め、伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいの魔法が一つとなった。
「うおおおおおぉーーーっ!!」
ロキが闇の衝撃となって巨大な魔法陣に衝突すると、光と闇のせめぎあいで白く輝く魔法陣が震えて甲高い音が響き渡る。
ミラクルとマジカル、プリーステスとルーン、それぞれのペアが後ろ手に結んでいる手に強い力を込めて、互いの手袋がきしむような音をたてた。
『プリキュア!』
巨大な魔法陣の前にダイヤが召喚されてロキをその中に封じる。そのダイヤがあまりにも巨大で、中に入ったロキはまるで小人のようだ。
『ダイヤモンドーッ! エターナル・クロス!!』
ペアになったプリキュアたちが、後ろ手につないだ手を放し、目の前のダイヤを押し上げるかのように手を前に突き出した。
巨大なダイヤが回転し、凄まじい衝撃を伴って放たれ、魔法学校を覆っていた闇の結界を粉砕して、天空へと打ち上げられていく。
「バカなっ!!? この俺が! この俺様があぁーーーっ!!」
ダイヤの輝きの中にロキの断末魔が響く。ロキを運ぶダイヤは巨大な白い彗星となって宇宙の果てへと誘われ、眩いばかりに白い光の爆発が広がり、その中から数えきれない程の闇の結晶がが飛び出してきた。
ロキが消滅し、魔法学校に闇の結晶の雨が降る。フレイアが先端にチューリップを模った赤い宝石の付いた錫杖を上げて、赤い月と星の六芒星魔法陣を出現させる。その魔法陣に落ちてくる無数の闇の結晶が全て吸い込まれていく。
無残な程に破壊された魔法学校も修復されていき、最後に校庭に白い光の玉が落ちてきた。そしてシャボン玉が弾けるように光が消えてなくなると、布製の長いポンチョを着た浅黒い肌色の小さな男の子が現れた。
『え?』プリキュアたちは思いもしないものが落ちてきて面食らった。
「あれ? ここどこ? お父さん、お母さん、どこ!?」
名前も分からない男の子は混乱して泣き出してしまう。
「おとうさぁん! おかあさぁん! うわーん!」
プリキュアたちのすぐ近くにフレイアがふわりと降りてきて言った。
「この子は遥か昔にロキに体を乗っ取られた人間です。世界が二つに分かれる前の時代から、一万年近い時を超えてこの時代に……」
「そんな……」プリーステスが悲愴な表情になり、他のプリキュアたちは残酷で非常識な現実の前に呆然としてしまう。そこに一人の少女が割り込んできた。
フェンリルが幼い少年の前に膝をついて、少年の鼻先にチョコレートバーを突き出した。甘い匂いの魅力的なお菓子を前に少年の涙が止まる。
「食え。フェンリルさん特製のチョコレートバーだ」
チョコレートを一口食べた少年に笑顔が広がった。
「わあ、おいしい!」
フェンリルが少年の頭に手を置いて言った。
「わたしはお前の親から、お前の面倒をみるように頼まれているんだ」
「ほんとう? お姉ちゃん、お父さんとお母さんを知ってるの?」
「今すぐには無理だが、そのうちには会えるかもな」
フェンリルは立ち上がり、プリキュアたちを見つめていく。
「こいつは旧時代の遺児、わたしと同じ境遇さ。だからわたしが連れていくよ」
「ありがとうございます。どうか、よろしくお願いします」
フレイアが丁寧に頭を下げると、フェンリルは少年の手を取った。
「腹が減ってるんだろう。何か食わせてやるよ」
フェンリルは食堂に向かって歩きながら言った。
「わたしの名前はフェンリルだ。お前の名前を教えろ」
「僕の名前はハティ」
「ハティか、よろしくな」
そして二人は食堂の扉を開けて中に入っていった。
リリンとモフルンの胸から白と青のダイヤが離れて、プリキュアたちの姿が元の魔法学校制服姿の少女たちに戻る。
小百合とラナがフレイアの前に立って、抱きついていきたい衝動を抑えて黙っていた。
「二人とも……わたくしには、あなた達に言葉をかける資格はありません」
それを聞いたラナと小百合が悲し気に瞳を揺らす。そして小百合がフレイアをまっすぐ見つめていった。
「どうしてそんなことを言うんですか? もしかしてダークナイトさんの事を気に病んでいるんですか?」
「一歩間違えれば、あなたたちはダークナイトに討たれていました」
「フレイア様は小百合とラナを信じていたんでしょう」
そう言うみらいにフレイアの閉じている目が向いた。みらいの隣にいるリコも言った。
「わたしたちと小百合たちを戦わせた理由が今なら分かります。小百合とラナが光の力を手に入れるためには、その方法しかなかったんじゃないんですか?」
フレイアは暫しの沈黙の後に答えた。
「ロキを倒すのは伝説の魔法つかいだけでは不可能なことでした。そこでわたくしは宵の魔法つかいを復活させて光に転換する事を考えたのです。しかし、全ては可能性でしかありませんでした。プリキュアを生み出したマザー・ラパーパですら、そんな事は想定していなかったのです。ただ、表裏一体の存在ゆえに、宵の魔法つかいが伝説の魔法つかいと同じ光のエレメントを持てる可能性は高いと思っていました」
「その方法が、プリキュア同士で戦わせることだったんですね」
小百合が言うとフレイアが頷く。
「プリキュアは試練を乗り越える事にその力を高めてゆきます。宵の魔法つかいを闇から光へと導く為には、これ以上ない最大の試練を与える必要がありました。そして伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいを戦わせるという結論に至ったのです。しかし、プリキュア同士を戦わせるなど、わたくしには悪魔の所業としか思えず、それを実行する勇気もありませんでした。そんなわたくしの背中を押してくれた人がいたのです」
みらいのラベンダー色の瞳が輝く。
「それってもしかして!」
「そうです、あなた方二人が誰よりもよく知っている」
「はーちゃん!?」
まさか思ってリコが口にした名前にフレイアが頷いた。
「ことはは、あなたたちなら絶対に大丈夫だと、どんな辛い試練でも必ず乗り越えると、確信をもってわたくしに語りました。それで決心することができました。そして多くの力を失っているわたくしに代わり、ことはが様々な事を請け負ってくれています。そのせいで自由に動くことができないのです」
「ことはが裏で動いてくれていたから、わたしたちはここまで来られたのね」
小百合は、ことはとフレイアにつながりがあるのは知っていたが、ことはの存在の大きさは彼女の想像よりも遥かに大きかった。
「ことはは、あなた方が気づいていないところでも何度か手助けしています。彼女がいなければ魔法界は寸刻の間にロキに支配されていたでしょう」
「うう、なんか話が大きすぎて、はーちゃんが離れていく感じがするよ……」
「仕方がないわ。子供は親離れしていくものだもの」
ことはの見た目はみらいとリコと大して変わらないので、小百合とラナは親離れという言葉にすごい違和感があった。それは差し置いて、小百合にはどうしてもフレイアに伝えなければならないことがあった。
「フレイア様、わたしもラナも、あんな奴が言ったことなんて気にしてませんから」
「フレイア様が仲間をぎせいになんて~、どうかしてるよね~」
それを聞いたフレイアの顔から微笑みが消えた。小百合はそれを見た瞬間に、胸に氷柱でも刺されたように心がひやりとした。
「あなたたちに嘘は言えません。ロキが語ったことは真実なのです」
「うそぉ……」ラナは衝撃を受けすぎて固まってしまった。
「わたしは例えフレイア様のお言葉でも、それは信じません」
小百合がはっきりと言うと、フレイアの顔に微笑が戻る。
「わたくしには、まだやるべき事があります」
フレイアは校長のいる杖の樹の森を見上げると歩き出し、まるで空気に溶け込むように姿を消していった。みらいと小百合は予感があって先程のフレイアと同じように見上げると、杖の樹の近くに校長先生とフレイアが向かい合って立っている姿が見える。
「もうあんなところに!?」
「まさか、フレイア様……」
小百合とモフルンを抱いたみらいが走り出す。
「ちょっと、二人とも!」リコとラナとリリンも二人の後を追いかけた。
「あなたの持つ闇の結晶を渡して頂けませんか?」
校長先生の前に現れたフレイアが言うと、彼は地面に突き刺してある魔法の杖を手にしながら悠然とした態度で答える。
「闇の結晶を奪いにきたのかね?」
「いいえ。校長先生、わたくしの話を聞いて、あなたが納得したのなら譲って下さい」
フレイアの水を打つような清らかな声音が途切れると、校長のグリーンの瞳が見開かれ、大宇宙の真理でも見つけたかのように神秘性に打たれる驚きに満ちた。
「あなたは一体!?」
間をおいて、少女たちが現れて校長のそばまで走ってくる。
「校長先生!」先頭を走るみらいに、
「心配はいらぬ」校長先生が答えて少女たちを制した。
「フレイア様は?」
小百合が子供が母親でも探すようにせわしなく周囲を見始めると、校長先生が魔法の杖の先端にある卵型の宝珠で何もない空中を指した。フレイアが宙に浮いてみんなを見つめていた。
「今までに集めた闇の結晶は全て彼女に譲った」
「フレイア様……」
「フレイア様、いっちゃうの?」
小百合とラナが寂しそうな顔で闇の女神を見つめている。
「まだわたくしには語らなければならない真実があります。ですがその前に、あなたたちには最後の試練を受けてもらいます」
「最後の試練!?」驚いているリコにフレイアが即答する。
「そうです。この先にロキよりもさらに強大な敵が現れます。あなたたちにそれを倒せる力があるのか試します。最後の試練を乗り越えたその時には、全ての真実をお話ししましょう」
フレイアが空中を歩き出すと、先ほどと同じように姿が消えていく。そして後に耳に清く響く声だけが残された。
「明朝、魔法学校を支えるこの大樹の頂上においでなさい。場所は伝説の魔法つかいのお二人が知っています」