魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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第3話 ラナのとっても素敵な魔法!
小百合の涙


 真夜中、ラナは一人窓辺に立って夜空を見上げていた。ベッドでは小百合がリリンを抱いて二人で穏やかな寝息と立てている。

 

 無数の綺羅星を瞳に映すラナは、一年前のことを思い出していた。病気のおばあちゃんがベッドの上で言ったことが忘れられなかった。おばあちゃんは氷漬けの冷凍みかんをだして優しい笑顔でラナにこう言うのだ。

 

「ラナや、このみかんを解凍してごらん」

「うん! いくよ~、キュアップ・ラパパ! 氷よ解けて~」

 

 ラナが魔法のステッキを振って冷凍みかんに向けると、それが突然宙に浮いて暴れだした。あっちへ行っては壁にぶつかって跳ね返り、こっちへ行っては天井にぶつかり跳ね返る。

 

「うわあ、どうしよう!?」

 ラナが慌てていると、おばあちゃんが魔法のステッキを一振り。

 

「キュアップ・ラパパ、冷凍みかんよ止まりなさい」

 空中で止まった冷凍ミカンが、ラナの頭の上に乗っかる。

 

「さすがおばあちゃん!」

「ふふ、お前は本当に魔法が下手だねぇ。でもね、お前はもう、だれにも真似できない素敵な魔法を持っているんだよ」

 

「本当? どんな魔法?」

「そうだねぇ。自分ではその魔法のすごさは、なかなか分からないかもしれないけれど、お前を必ず幸せに導いてくれる魔法だよ」

 

 そう笑顔で言ってくれたおばあちゃんは、それからひと月もしないうちに息を引き取った。

 

 ラナは星降る窓辺で小さくなっている箒を出して言った。

「わたしがちゃんと使える魔法って言ったら、空を飛ぶことくらいだよね。これで幸せになれるのかなぁ」

 

 ラナは急に眠くなってあくびをすると、小百合と一緒のベッドに入ってすぐに眠ってしまった。

 

 

 

 聖沢家の朝は掃除から始まる。メイドの巴や小百合と一緒に、ラナもメイドの服を着て掃除を手伝っていた。その華奢(きゃしゃ)な肩にはリリンがしがみ付いて掃除の様子を見つめていた。小百合は手伝わなくていいとラナに言ったが、ラナは手伝うと言ってきかなかった。結局は小百合の方が折れてラナにぴったり合うメイドの服まで持ってきてくれた。

 

「そりゃ~」

 ラナが猛ダッシュして廊下のモップ掛けをしていた。

「すごい速さデビ、ラナはモップがけの名人デビ」

「えへへ、そうかな~」

 

 リリンに褒められていい気分になっていたのは束の間で、立ち止まって見ると廊下は果てしなく続いていた。

「それにしても広いお家だな~。よし、こういう時は魔法で!」

 

 ラナは先端にひまわりの花のような形のクリスタルが付いている魔法のステッキを出すと呪文を唱えた。

「キュアップ・ラパパ! モップよ床をお掃除して~」

 

 ラナが杖を振ってモップに向けると手に持っているモップが小刻みに震えだす。何やら様子がおかしいので、リリンが首を傾げた。

 

「デビ?」

 唐突にモップは車が急発進するような勢いで爆走した。

「うわーっ!?」

「デビーっ!?」

 

 モップをしっかり握っていたラナは、風に翻弄(ほんろう)される旗のようになってモップの柄にくっ付いていた。ほとんど空中を飛んでいるような状態だ。

 

「ものすごい速さデビ、ジェットコースターみたいデビ~」

「やった、わたしの魔法成功した!」

 

 ラナとリリンが猛スピードで巴の目の前を通り過ぎる。暴風にさらされて髪が揺れる巴には何が通り過ぎたのか分からず口を開けたまま立ち尽くした。

 

 モップはラナとリリンを付けたまま、急に曲がったりその場で円を描いたりして爆走を続ける。もうラナもリリンも掃除のことなど忘れて、遊園地の絶叫マシンに勝るとも劣らないモップアトラクションを楽しんでいた。

 

「あはは、すごいよこれ~」

「楽しいデビ~」

 

 そして爆走するモップは先が行き止まりになっている袋小路に進入した。そこでは窓ふきを終えた小百合が水の入ったバケツをもって立ち上がったところだった。

 

「小百合、どいて! ぶつかっちゃう!」

「え?」

 

 小百合が声のした方の振り向くと、モップと一緒にラナが迫ってきていた。

「ええぇーっ!?」

 

 もうぶつかると思ったラナは、魔法のステッキを出して呪文を唱える。

「キュアップ・ラパパ! モップよ止まれーっ!」

 

 すると、モップはいきなり真横にぶっ飛んで、すぐ近くの窓ガラスを突き破った。

「うわぁ!」

「デビーっ!」

「きゃあっ!」

 ラナとリリンは小百合に激突、その拍子に水の入ったバケツが真上に弾け飛んだ。

「いたたー」

 ラナは尻餅をついた状態だった。そこにリリンが飛んできて何故か楽しそうに言う。

「びっくりしたデビ!」

 

 その近くでびしょ濡れの小百合が立ち上がった。その頭にはうまい具合にブリキのバケツが乗っかっていた。

「どうしたの小百合、バケツなんてかぶっちゃって!」

「小百合、おもしろいデビ!」

「おもしろいですって?」

 

 小百合の中で湧き上がってきた怒りがマグマのように沸々と煮え立つ。静かなる怒りがオーラとなって体中から燃え上がっていた。その姿にラナとリリンは震えあがった。

 

「ふざけんじゃないわよ!! あんた達のせいでこうなったんでしょ!!」

 小百合が怒りを爆発させると、ラナとリリンはごめんなさいと言いながら何度も平謝りした。

 

「小百合さん、どうしたんですか!? 今の音は何です!?」

 その場に駆けつけた巴は唖然とした。床も小百合もびしょ濡れで、割れた窓からは風が吹き込んでいた。

 

「こ、これは一体!? と、とにかく、まずは割れたガラスを片付けないといけませんわ!」

 巴がふと外を見ると、モップが岸に釣り上げたばかりの魚のように跳ね回っていた。

 

「モ、モップが!? モップが勝手に動いてるーっ!?」

 巴はリリンを抱いて立っているラナを見て動いてるモップを指さす。

 

「ラナ様、あのモップ確かに動いてますわよね!?」

 その時、リリンが顔を上げて巴に向かって右手を上げた。

「いやぁーっ、お嬢様のぬいぐるみが勝手に動いたーっ!?」

 

 小百合はラナからリリンを取り上げ、それを巴から見えないように隠すと、もうやけになって叫んだ。

「大変だわ、ポルターガイストよ! この屋敷には悪霊が住み着いているんだわ!」

 

「あ、悪霊!? まあ、どうしましょう! 霊媒師、いえ神父さんかしら!? は、早く連絡を!」

 

 巴は慌ててその場から走り去った。小百合はびしょ濡れのまま近くの窓を開けて窓枠を乗り越えて暴れているモップを捕獲すると、それを家の壁に押し付けてガムテープで動かないように固定した。そして窓枠から家に飛び込むとラナの手を掴んで自分の部屋に引っ張り込む。

 

「あんた達なんてことしてくれるのよ! とんでもない騒ぎになるわよ!」

「ごめんごめん、ちょっとだけ魔法失敗しちゃったよ」

「ごめんデビ、ちゃんと挨拶しないといけないと思ったデビ」

 小百合はため息と一緒に額を押さえる。本当に頭が痛くなってきた。

 

「もう、あんた達は! リリンはここから絶対に出ないで! ラナはもう掃除しなくていいから大人しくしていてちょうだい!」

 

 それから小百合が濡れた服を脱いで制服に着替え始めると、まだメイドの姿のラナがベッドに座って足をふらふら動かしながら見ていた。そして、急に立ち上がると言った。

 

「わたしも小百合の学校に行きたいな」

「無理だと思うわよ。うちの学校は私立の進学校だから編入試験とかあるわよ」

「試験は嫌だな~」

「じゃあ諦めなさい」

 

 小百合がぴしゃりと言うと、ラナは不満そうに頬を膨らませる。その後でラナは何かを思いついて笑顔になった。

 

「小百合のおじいちゃんにお願いしよう!」

「はあ? あんた何いってんのよ、そんなの無理に」

 

 小百合が言い終わらないうちにラナは忙しなく部屋を出ていく。小百合は開けっ放しにされたドアを唖然となって見ていた。

 小百合が制服で部屋を出る時になって、二階から駆け下りてくる足音がどんどん近づいてきた。そして、ラナが満面の笑みで部屋に走り込んでくる。

 

「学校行っていいって!」

「ええっ、嘘でしょ!?」

「すぐに学校行けるようになるって! 一緒に行こうね、小百合」

「あの学校に試験も受けずに入るなんてあり得ないわ……」

 

 小百合はいくら何でも冗談だろうと思ったが、同時にあの厳格な祖父がそんな嘘をつくとはとても思えなかったし、ラナの願いを聞いたことにも驚いていた。それは小百合が祖父を血も涙もない人のように考えていたからであった。

 

 小百合は胸に疑問の渦を巻きながら食堂に入っていった。私服に着替えたラナが小百合の後ろから駆け込んできて、小百合よりも先にテーブルの前に座る。するとラナはなぜか隣の椅子を気にして見ていた。小百合がテーブルの前までくると、料理を運んできた巴が急に青い顔になって言った。

 

「小百合さん、さっきそこにぬいぐるみってありましたっけ?」

 

 小百合がはっとして見ると、小百合の椅子にリリンが座っていた。小百合は慌てて言った

「い、嫌ねぇ、わたしがリリンを大切にしていることは知ってるでしょ、この子はいつでもわたしと一緒なのよ!」

 

 小百合はリリンを素早く抱いて巴に背を向ける。

「ちょっと失礼するわ」

 

 小百合は速足で廊下に出るとリリンを両手で持ち上げて見つめる。

「部屋から出ないでっていったでしょ!」

「リリンも朝ごはん食べたいデビ」

「後でもっていってあげるから、お願いだから部屋にいてちょうだい。誰かに見られたら大変なことになるんだからね」

 

 母の仏前に上げるという理由で巴にお願いしてもう一人前の食事を作ってもらうことになった。亡くなった母に申し訳ないやら、リリンが見つからないか心配やらで心労が絶えない小百合であった。

 

 その後、屋敷では本当に霊媒師を呼ぶ騒ぎとなっていた。小百合は学校があるので、その騒ぎを尻目に外に出ることになった。

 

 

 

 その夜、小百合は制服から私服に着替えると、くたくたになってベッドに倒れ込んだ。朝の一件ですっかり参ってしまっていた。小百合の机の上に座っていたリリンがベッドの上に飛んできて言った。

 

「小百合、大丈夫デビ?」

「ちょっと疲れただけ、大丈夫よ」

 

 そこへ小百合とは対照的に元気いっぱいなラナが部屋に入ってくる。

「小百合、見て、わたしの制服! 明日から一緒の学校だよ!」

 

 ラナはまだビニール袋に入っている新しい聖ユーディア学園の制服を見せつけた。小百合はベッドに倒れたまま顔だけラナの方に向けて言った。

 

「本当に来るのね……」

 小百合は起き上ってベッドの端に座り長い黒髪をかき上げた。

 

「お爺様、どうやって試験もなしにラナをあの学校に入れたのかしら……?」

「小百合のおじいちゃんはすごい人デビ!」

 

「明日から学校、これはもうファンタジックだよ~」

「学校に来るなら苗字がないとまずいわ」

 

「名前だけじゃだめなの?」

「こっちの世界ではどこの国でも苗字は必要よ。何か適当に考えなさい」

 

「小百合のみょうじはひじりさわなんだよね。小百合みたいにかっこいいのがいいなぁ」

 

 それからラナはベッドに座ってしばらく考え込んでいた。その間、疲れていた小百合はまたベッドに横になった。

 

「すっごいかっこいいの考えた! 前に小百合と一緒にファンタジックな夕日を見たでしょ、それを思い出してピンときたよ!」

 

「へぇ、それで?」

 疲れていた小百合が気のない返事をすると、ラナは両手を上げて得意げに言った。

 

「赤い夕陽のラナ!」

「かっこいいデビーっ!」

 リリンも感動のあまり万歳する。小百合は思わず起き上った。

 

「あんた達ちょっと待ちなさい、その名前はおかしいわよ」

「なんで? かっこいいでしょ?」

「それじゃ、まるでアニメか映画のタイトルよ。そんな名前を堂々と名乗ったら笑われるわ」

「むぅ、むずかしいなぁ」

 

 それからまたラナが真剣に考え込む。その時間は20分にも及び、小百合はまたベッドにダウンしてしまった。やがてラナは右手を上げて言った。

 

「すごくいいの考えたよ!」

「……今度はどんなの?」

 ほとんど眠りかけていた小百合が目をつぶったまま言う。

「小百合が考えて!」

「さんざん待たせておいて結局それ!?」

 小百合はまた思わず起き上っていた。

 

「だってむずかしいんだもん」

「仕方ないわね……」

 小百合は少し思考して言った。

 

「夕凪はどう? 夕方ごろに海に吹いてくる風を夕凪というのよ」

「ゆうなぎラナ! かっこいい!」

「素敵な名前デビ!」

「じゃあその名前で決まりね」

 

 小百合そう言いながらベッドの横に立ち上がる。

「ちょっと行ってくるわ」

「行くってどこに?」

「お母さんのところよ」

「リリンも行くデビ」

 

 リリンが飛んできて小百合の肩にしがみ付く。ラナも小百合の後について行くことにした。三人で二階にある一室へと足を運ぶ。その部屋はよく手入れされていて、床から部屋の隅々まで新築のように輝いていた。天蓋のあるベッドや大きな鏡の付いた化粧台、桐のタンスなどがあり、女性の部屋だということが良くわかる。その部屋の奥に仏壇が見えた。

 

「ここはお母さんが使っていた部屋よ」

 

 小百合とラナは仏壇の前に座った。仏壇の中には小百合によく似た長い黒髪の女性の写真が置いてある。小百合の母の百合江であった。小百合が仏壇の前で手を合わせると、ラナが首を傾げた。

 

「なんで頂きますするの?」

 

「頂きますじゃないわよ! 手を合わせるのは、感謝をしたり故人を悼んだり、特別な意味を込める時にすることなの」

 

 小百合が気を取り直してもう一度手を合わせると、ラナも同じように手を合わせて目を閉じた。その間、リリンは小百合の肩から仏壇の写真を見つめていた。

 

「リリンはこの部屋を知らないデビ。リリンは小百合とお母さんと過ごしたあの部屋を自由に歩いてみたかったデビ」

「リリン……」

 

 小百合はリリンを抱きしめた。リリンは小百合とお母さんが住んでいた六畳一間の古いアパートのことを言っていた。畳など擦り減っていて酷い部屋だったが、それでも二人にとっては思い出のある大切な場所だった。

 

「小百合、リリンはずっと謝りたかったデビ」

「謝る? リリンはわたしに謝るようなことなんてしていないわ」

 

「小百合が一人ぼっちになったとき、リリンは何もできなかったデビ。本当はリリンも一緒に泣いてあげたかったデビ」

「リリン、あなたもあれを見ていたものね……」

 

 小百合の中に恐ろしい記憶と音が蘇ってくる。迫りくる車のエンジン音、様々なものが壊され散り散りになる破壊音、人々の悲鳴と怒号が一塊になり、小百合はその中で立ち尽くしていた、何もできなかった。リリンはポシェットの中に入って穏やかな微笑を浮かべているだけだった。

 

 小百合の瞳から涙が伝った。止めどなくあふれてくる涙を小百合はどうしようもできなかった。リリンは右手で小百合の濡れた頬に触れた。

 

「ありがとう、リリン。お母さんが亡くなったのは悲しいけれど、あなたとこうしてお話しできるのが本当に嬉しい。この奇跡を与えてくれた魔法に心から感謝しているわ」

 

「大丈夫だよ、きっと取り戻せる」

 ラナが言うと、小百合は涙を拭いて頷く。

「リリンはお母さんとお話がしたいデビ」

「フレイア様はきっと願いを叶えて下さる。必ずお母さんを取り戻すわ」

 三人の思いは今一つになっていた。

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