魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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第27話 プリキュアの最後の試練! 聖なる騎士の審判!
花の海の少女


 久遠の昔の時代、空に浮かぶ白亜の神殿の祭壇に3人の黒いプリキュアが寄り添っていた。

 

「申し訳ありません。世界を救うにはもうこの方法しか……」

 

 彼女に気にするなと言うように、共に戦い続てきた二人のプリキュアが頷いた。そして、先に青い花の付いたワンドと二つの腕輪が重なって、二つの腕輪の黒いダイヤとワンドの赤い輝石が眩い輝きを放つ。その輝きは深く傷ついた魔法界に降りそそぎ、平和のために必死に戦いを続けてきたプリキュアたちの記憶は魔法界から消失した。

 

 祭壇にいた3人のプリキュアのうち二人はその場で命を失い倒れ、最後に残った一人はいつまでも涙を流し、永遠に消えない悲しみを胸に刻んだ。

 

 

 

「なになになになに!!? 何なのよあれ!?」

「うわ~ん!! こわいよ~っ!!」

 

 小百合は冷静さを失い、ラナはマジ泣きしながら逃げていた。

 

「だから嫌なのよ、ここを登るのは!」

「前も思ったけど、さすがにあのサイズはないよね!」

 

 リコの声は震えていて、みらいは他の3人より少し余裕がありそうだ。みんなで巨大な毛虫に追いかけられていた。

 

「あんなのいるって知ってるなら教えなさいよね!」

「ごめんなさい! 教えてたら怖がるかと思って、あえて黙っていたのよ!」

 

「こっちにだって、心の準備っていうものがあるんだからね!」

「だから、謝ってるでしょう!」

 

 逃げながらリコと小百合の言い合いが始まる。リリンはモフルンを抱えながら空を飛んでいて、上から見ているこの二人は余裕だった。

 

「この悪魔の罠にかかった哀れな小娘どもデビ、せいぜいがんばって逃げるがいいデビ」

 

 リリンが調子にのっていると、怖い顔の小百合が振り向く。

 

「そんな冗談もう一度言ったらクッキー禁止にするからね!」

 

「ごめんなさいデビ。もう二度としないデビ」

「クッキー禁止はいやモフ。許してほしいモフ……」

 

 小百合に剣幕にモフルンまで震えあがてしまう。リリンは自分がすごく悪いことをした気分になった。

 

「モフルンには言っていないから大丈夫デビ」

 

 ラナが魔法の箒を出してジャンプして空中で箒にまたがる。

 

「もうむりぃ~!」

「あっ、ダメだよラナ!」

 

 みらいの警告も聞かずに箒に乗って先の方に飛んで行ってしまったラナは、みんなが見ている先でビュンと飛んできた木の枝に叩かれて、どっかに飛んで行ってしまった。

 

「うわぁ~っ!?」

 

 その後、ようやっとの思いで3人が巨大毛虫を振り切った先の草むらで、ラナは横になって気持ちよさそうに眠っていた。

 

「あんたは何をしている……」

「あっ、小百合~、みんなくるの遅いから寝ちゃったよ」

 

 巨大な大樹の頂上に続く幹や枝を駆け上がってきたみらいとリコは、ぜいぜいと荒い息をしていた。

 

 ラナが起き上がって欠伸をしてから自分の箒を肩にかける。

 

「箒に乗ったら枝がビューンってきてここまで運んでくれて~。みんなもそれでくればよかったのに」

 

 それを聞いた小百合の怒りが瞬間的に爆発した。

 

「運んだんじゃない! たまたまここに飛ばされたの! 一歩間違ったら外に飛ばされて大変なことになってたんだからね! だいたい、最初にリコが説明してくれたでしょ! 箒で飛んだら樹に邪魔されるってね! もう忘れてるの!?」

 

「あう~、なんでそんなに怒るの~?」

「怒るに決まってるでしょーっ!」

 

 まくし立てる小百合の前でラナがたまらず耳を塞いだ。

 

「まあまあ、無事だったんだし、もうそれくらいでいいじゃない」

 

 リコが見かねて止めると、小百合はまだ何か言いたそうな顔をしていた。そんな小百合の気持ちをみらいが代弁して優しくラナに言う。

 

「小百合はラナのことが心配だから怒ってるんだよ」

 

「ごめんなさい……」

 

「わかってくれればいいわよ」

 

 小百合はずれたとんがり帽子を深くかぶり、ラナの背中を優しく押した。そしたらラナがすり寄ってくっついてきた。

 

「さあ、もう少しで頂上につくわよ」

 

 リコが先に立って歩き、他の少女たちが後を追う。小百合がリコの後ろから言った。

 

「ある意味、今までで最大の試練だったわね……」

「魔法界では毛虫はあの大きさが普通なのよ」

「ちょっと、やめてよ……」

 

 リコは冗談なんて言わないので、小百合は青ざめた顔になって周囲を警戒した。

 

 やがて開けた場所に出た。短い下草の生える空き地でそこまで広くはない。周囲には灌木が茂っていて、それが途切れている頂上の端からは魔法界を一望することができた。全員でそこに立って景色を見つめた。そして、みらいはラベンダー色の瞳を輝かせた。

 

「うわあ!」

「すごい……」

 

 小百合はほとんど無意識に言った。

 

 魔法学校は遥か下にあり、この場所から見るのは難しい。壮大な範囲に海の上の島々や宙の浮遊島が見えて、遥か遠くの水平線まで波立つ海の輝きが続いていた。時々強い風が届いて少女たちの瑞々しい髪や制服をはためかせ、青空に浮かぶ雲はゆっくりと形を変えながら泳いでいく。

 

「前に来たときは、こんなふうにゆっくり景色を見る余裕なんてなかったわね」

「きれいだね~」

 

 魔法界に住んでいるリコとラナでも、この場所から見える景色には心を打たれた。

 

 その景色の中に、雲を貫いて一筋の白い光が現れる。その光が頂上の広場に照射されると、白い魔法陣が浮かんだ。

 

「リコとみらいの魔法陣モフ」

 

 モフルンがみらいに抱かれながら言った。少女たちの前に五つのハートを抱く五芒星が現れたのだった。

 

「みんなで行くデビ」

 

 リリンが先に魔法陣の中に入ると、少女たちも向かい合って頷いてから、魔法陣に足を踏み入れた。すると少女たちを乗せた魔法陣が浮き上がって、雲間から続く光の線にそって移動していく。それは言うなれば、周囲の景色を害する仕切りのないエレベーターというところだ。

 

「どこまで上がっていくのかしら?」

 

 一つの雲を越えたところで小百合が言った。

 

「まだまだありそうね」

 

 リコのその言葉通り、魔法陣の上昇はしばらく続いた。そして分厚い雲の層に入り、そこを抜けると見えてくる。

 

「あれ、なにか見えるよ!」

「おっきな島モフ~」

 

 モフルンを抱きながら、みらいが指をさす方向に浮遊島が見えた。下から見る空の島は山をひっくり返したような形で、ごつごつした岩肌しか見えない。リコが近づいてくる島を目の当たりに言った。

 

「あんな大きな島が魔法界の空にあったなんて……」

 

「最果て島の数倍はあるわね。誰もあの島の存在には気づかなかったのかしらね?」

 

「この高さだとペガサスの翼でも届かないと思うわ。それにこの辺りは雲が多いみたいだから、きっと島の姿が雲に隠されて見ることもできなかったのよ」

 

 リコの考察に小百合が納得して頷く。

 

 その島がいつからそこにあって、何のために作られたのか、今の魔法界にそれを知る人間はいない。

 

 やがて少女たちを乗せた魔法陣は浮遊島の平地と同じ高度で止まった。同時に少女たちの前で島の全容がつまびらかになった。

 

「花の海……」

 

 みらいが瞳を大きく見開いて感銘のあまり口にすると、島に風渡り少女たちに花吹雪を運んだ。その言葉は決して大げさではなかった。色とりどり、種々の草花の園が海原のように広がっていた。その終わりがどこにあるのか、目で見ただけでは分からなかった。

 

 花の海の向こうには、ずっと高い場所に白い神殿が見える。神殿に至る道は二つに分かれていて左右の二本の階段が下から神殿まで続いていた。

 

 少女たちは魔法陣の上から島の南端に降りた。そこからもう豊かに咲き乱れる花々が出迎えてくれる。小百合が飛んでいるリリンを抱くと、先頭にたって神殿の見える北へと歩き始めた。フレイアに会いたいという気持ちが強くなって、歩調が速くなっていた。

 

 少女たちが歩き続けると、前に見える神殿の姿が大きくなっていく。神殿、神殿に至る階段の周囲、階段の途中に開けた広場、そういった場所全てにも草花が咲き乱れていて鮮やかな色彩を放っていた。

 

 神殿の威容が近づくのと一緒に、花園と神殿の領域を隔絶する湖が現れる。その前に誰かの姿が見えた。みらいとリコがその人に引かれるように小走りになる。

 

 金色のローブをまといし少女が湖を見つめていた。彼女のピンクの髪にグリーンのカチューシャが映えている。そして肩の下まで垂れる髪の先が、植物の蔓を思わせるような巻き髪になっていた。

 

 少女の背中に向かってみらいとリコが同時に声をかけた。

 

『はーちゃん?』

 

 彼女は振り向くと緑色の綺麗な瞳でみんなを見つめた。

 

「は~、こんにちは!」

 

 ことはが学校で会ったみたいなに気軽な挨拶をして、試練を前にして和やかな雰囲気に包まれる。みらいとリコとラナは笑顔になった。

 

「はーちゃん、こんにちは~」

 

 そう言うラナに、ことはが笑顔で答える。ただ一人、真剣な表情を崩さない小百合が、ことはに近づいて言った。

 

「ことは、あなたはフレイア様とどういう関係なの?」

 

「フレイアは、わたしのお姉さんみたいなものだよ」

 

『はーちゃんのお姉さん!?』みらいとリコが同時に驚愕する。

 

「フレイアは、わたしよりもずっと早く生まれて、この世界を見守っていたの。けれど、いろんな悪いことがあって、マザー・ラパーパも知らなかった敵と戦わなければならなくなったの。そして闇の王が現れるまでの長い時間をがんばって生きてきた」

 

 ことはの話を聞き、小百合は湖の向こうにある神殿を見上げる。

 

「フレイア様はあの神殿にいるのね?」

 

 ことはが大きく頷き、友達の一人一人の顔を見ていく。

 

「フレイアに会うためには試練を越えなければいけないの。とても、とても、大きな試練だけれど、力を合わせれば必ず越えられる」

 

 少女たちの顔から笑顔が消えて緊張が高まっていく。ことはだけが、みんなの心を癒す笑顔を浮かべていた。

 

「試練を越えて、みんなでフレイアのお話を聞いてあげて。それは、とても、とても、悲しいお話しだけれど、わたしたちが知らなければいけないことなの」

 

 その瞬間、その場にいる全員の心に痛みが走った。ことはが瞼を下げて悲しい目をしたからだ。みらいとリコですら、ことはのそんな顔を見るのは初めてだった。

 

「最後の試練への扉が開くよ」

 

 ことはが笑顔に戻って両手と両腕を開く。それは愛する人を迎え入れるかのようで、黄金のローブ姿も相まって神々しくもあった。

 

 ことはの左右の手が示す方向に二つの魔法陣が現れる。左手の方には中心に赤く輝く三日月と周囲に六つの星が宿る黒き六芒星魔法陣。右手の方には周囲に五つのハートが並ぶ桃色の五芒星魔法陣。それが、それぞれの行く道を示していた。

 

「フレイア様のもとで会いましょう」

 

 小百合の言葉にリコとみらいとラナが頷く。

 

「行くわよ、ラナ!」

「うん!」

 

 小百合とラナとリリンが黒い六芒星の上に乗って姿を消す。

 

「みらい!」

「リコ!」

 

 みらいとリコが名前を呼び合って頷いてから、桃色に輝く五芒星の上に乗ると姿が消えて、ことはだけが、その場所に残った。彼女は振り返って神殿を仰ぐと、手のひらにリンクルストーンエメラルドを出現させ、神殿に向かって高くその手を上げる。するとエメラルドが浮いて神殿へ向かって飛んでいった。

 

「みんな、がんばって」

 

 ことはの友達を思う声が、花吹雪に乗って湖の方向へと流れていった。

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