校長先生が机の前で黒い本のページをめくっていた。そしてとあるページで手を止めて、そこに記されてある穴の開いた文章を手でなぞって瞳を閉じる。
「遥か古の時代に闇の教団に奉られし3人の闇の女神、その名前だけが消えている」
校長先生は悪いものでも出すように長い息を吐いた後にそっと口にした。
「3人の闇の女神の名とは恐らく……」
小百合とラナ、みらいとリコは別々の場所で白くて長い階段を上がっいく。
小百合とラナは緊張の中で一言の言葉も交わさずに階段の中腹にある広場へと着いた。
「うわぁ、ここもすっごいお花だね~。なんかでっかい岩とかもあるけど~」
のんきなラナの横で、小百合は警戒して辺りを見ていた。草花で埋め尽くされる広大に開けた土地に、小山のように巨大な大岩がいくつか突き出ている。それにもたくさんの草花が根付いて、岩を着飾る鮮やかな衣装になっていた。
二人で並んで岩の間を歩いていくと、まるで場違いな漆黒の騎士が巨大な盾を地面に置いて立っていた。
「ダークナイトさん……」
「来たか」
黒い騎士の姿を見てラナが嫌そうな顔になる。
「はう~、二人で黒騎士さんと戦うの~?」
「そうに決まってるでしょう」
相変わらずのボケをかますラナに、小百合がいつものように突っ込みを入れると、黒騎士の兜の奥から含み笑いが漏れた。
「この闇の鎧は、私の持つ本来の力を封じるためのものだ」
ダークナイトの兜の向こうから穏やかな青年の声が小百合まで届く。
「ダークナイトさんの今の姿は、本来の姿ではないの?」
「見せてやろう」
ダークナイトが足元の大盾から黒い大剣を抜き取り、それをまっすぐに上の空に向かって突き立てた。すると、黒い剣から眩い光が放たれる。そして剣の表面にこびりついていた闇が切っ先から壊れていって白刃が現れていく。同時に黒い鎧にも変化が起こった。全身に亀裂が入っていって、一気に崩れていく。
純白の騎士が光り輝く剣を横に振り、周囲にまとわる闇の
「我が名はルークス! 究極の光の騎士なり!」
黒い鎧の下から想像外の美丈夫が現れて、小百合もラナも半ば呆然としてしまった。彼の金色の髪は少し長めのショートヘア、ツンと突き出る弦月型の前髪が整った鼻の辺りにかかって、それが妙に魅力的だった。強く輝く切り長の目はブルー、色白で女性だと言っても通るくらいに顔立ちが整っている。さっきまでの全身を覆っていた黒い鎧とは真逆に、胸と腹部、後は関節部を保護する純白のライトメイル、背中に広がるマントも純白で、左腕には円形のスモールシールドが装着してあった。
「それがあなたの本当の姿!? どうして闇の女神であるフレイア様の従者が光の騎士なの!?」
「それはフレイア様の話を聞けばわかる。その前に、この私を倒せるかどうかが問題だがな」
小百合とラナの表情は引き締まり、二人のフレイアへの尽きぬ思いが気持ちを奮い立たせる。
「わたしたちは必ず勝つ!」
「絶対にフレイア様のお話し聞くんだから~っ!」
騎士ルークスは微笑を交えながら剣を少女たちに向けた。
「光の騎士であるこの私を光のエレメントで倒すことはできん。お前たちの本来の姿でくるがいい!」
「二人とも、変身デビ!」
リリンが飛び上がり、小百合は右、ラナは左側で、二人は目を合わせて頷く。そして小百合の左手とラナの右手が重なると、そこに赤い三日月をバックグラウンドに黒いとんがり帽子の紋章が現れ、つないだ手を後ろに引いて、二人の体が星がきらめくような輝きを内包する黒いローブに包まれていく。
小百合とラナはリンクルブレスレットの付いている手を高くかざして魔法の呪文を唱えた。
『キュアップ・ラパパ!』
二人のブレスレットに現れた黒いダイヤから宇宙の闇の波動が撃ちだされて黒い曲線になり、リリンの胸のリボンのブローチに一つに集まって黒いダイヤのリンクルストーンになった。
『ブラックダイヤ!』
リリンが飛んできて小百合とラナと手をつなぎ、輪になって穏やかな宇宙の闇へと旅立つ。
『ブラック・リンクル・ジュエリーレ!』
輪になって花のように広がった三人は回転しながら深き宇宙の闇へと落ちていく。リリンの体に黒いハートが点滅すると、少女たちは星広がる暗黒の中に消えていった。
次の瞬間に赤い月と星の宿る黒い六芒星魔法陣が現れて、左側にダークネス、中央にリリン、右側にウィッチが召喚される。リリンが前に飛び出すと、二人は魔法陣の上から跳んで空中でクロスして降り立つ。
「穏やかなる深淵の闇、キュアダークネス!」
「可憐な黒の魔法! キュアウィッチ!」
ダークネスの左手とウィッチの右手が後ろ手重なり寄り添って、腕輪のある手を前で握り合って目を閉じれば、闇に愛されし少女たちの昏い魅力が漂う。それから二人は少し離れて後ろ手につないだ手を放し、前で重ね合わせる。
『魔法つかいプリキュア!』
リリンが飛び上がって二人のプリキュアを見下ろした。
「久々の黒いダイヤのプリキュアデビ」
ルークスは白銀の剣を両手で持ち目の前で斜に構える。
「行くわよウィッチ!」
「お~う!」ダークネスに答えたウィッチが右手を上げる。
二人は同時に走ってルークスに迫っていった。
「はああぁっ!」
「とぉ~!」
ダークネスとウィッチの息もつかせぬ連続攻撃、ルークスはそのすべてを紙一重でかわし、防御というものを一切しない。そして攻撃の回避と同時に身をひるがえして、白いマントでダークネスとウィッチの視界を遮った。ダークネスがウィッチの手をつかんで一緒に後ろに下がる。
「つあぁーっ!」
空気を震わせる声と同時に弧を描く白刃がダークネスとウィッチのドレスの一部を裂いた。ダークネスが下がらなければまともに食らうところだった。リリンが二人のプリキュアの頭上に飛んできて言った。
「す、すごく速いデビ。全然見えなかったデビ」
「ダークナイトだった時とは太刀筋がまるで違うわ。これは剣術よりも刀術に近い」
「とうじゅつって?」
「昔のお侍さんの刀を使った剣術よ。一撃必殺の素早い太刀筋を旨とする」
ウィッチに説明しながら、ダークネスは開手を前に構え、ルークスは中段の横一文字に白銀の剣をえた。
「強い……」
ダークネスの様子を見てウィッチが唾をのみこむ。刹那、ルークスの瞳が開眼した。
「はぁっ!」
「ウィッチ、防御!」
声を聴いてウィッチは本能的に防御の態勢へ、瞬間的に二人に衝撃が襲い、横一線の閃光を受けながら吹き飛ばされる。そして二人同時に突き出た岩に叩きつけられ、凹凸のある表面を大きく陥没させて破壊し、跳ね返って花園に倒れこんだ。
「あわわわわ……」二人がいきなり吹っ飛んでリリンは震えてしまった。
二人の体に鋭い痛みがあった。ダークネスが片手を付いて身を上げると、ルークスの中段の剣が右から左に移動して、振り抜いた形になっていた。
「はふぅ……」
「なんて速い太刀なの……」
ダークネスとウィッチは一緒に立ち上がると、ルークスは右上段に剣を立てる八双の構えになった。ダークネスの赤い目が鋭くなる。
「光と闇のエレメントは相反でダメージが倍加する。一方的に攻撃を受ける程不利になる」
ウィッチが左手を横に振ると、ダークネスも合わせて右手を横へ。
「リンクル・インディコライト~!」
「リンクル・オレンジサファイア!」
ウィッチとダークネスの手から発した電流と火炎の魔法が2方向から迫ってくると、ルークスは左腕に装着されているスモールシールドを胸の高さまで上げた。その円形の盾は小さすぎて盾として機能するかも怪しげなものだが、それから光が広がると、円盤型の光の盾へと変貌を遂げる。電気と炎の魔法は光の盾で防御されて拡散されていく。
「光の魔法の盾!?」驚いているダークネスの視界からルークスの姿が消えた。
「うおぉっ!」その声にダークネスが振り向くと、ルークスがウィッチに斬りかかっていた。
「うひゃぁっ!?」
ウィッチは変な声をあげてルークスの素早い太刀を2度まではよけたが、3度目の横薙ぎの斬撃を腹部に受けて後ろに弾かれた。
「あううぅ……」ウィッチが腹を押さえて前に倒れ込む。
「まずい!」ダークネスがルークス横っ面に跳び蹴りを打ち込むが、必要最低限の動きでよけられ、蹴りは彼の鼻先を掠めた。
ダークネスの着地するや、ルークスから身のすくむような唸り声があがり、上段から袈裟に斬る一刀を浴びせてくる。ダークネスはそれを避けるが、次々と撃ち込まれてくる素早い斬撃がダークネスに反撃を許さない。そしてついに避けきれなくなって、斜め下から斬り上げる一刀を防御する腕に撃ち込まれた。その衝撃でダークネスは少し後ろに下がり、片膝をついた。
「くっ、ぐうぅ……」
「相反エレメントの斬撃だ、防御の上からでも痛かろう」
そしてルークスは剣を地面に突き刺し、柄に両手を置いた。
「これで終わりなのか? ここでお前たちが負けるとなれば、フレイア様は悲しむだろうな」
それを聞いた瞬間に、ダークネスとウィッチの瞳が燃え上がるように煌めいて、二人で同時に立ち上がった。
「うん? 雰囲気が変わったか?」
「わたしたちは負けない! わたしたちはフレイア様に会いたい! 会ってお話がしたい!」
ダークネスの思いを聞き、二人の姿を見てルークスは気持ちの強さに気圧された。
「リンクル・スタールビーッ!」
ダークネスが上にかざしたブレスレットに真紅の宝石が輝き、赤い光がダークネスとウィッチの体に吸い込まれる。
「ウィッチ! 気合入れていくわよ!」
「気合いだ~っ!」
ダークネスがルークスに向かって突貫、その速度が聖騎士の予想を越えてくる。素早く懐に入ってきたダークネスのパンチを、ルークスは左腕に出現させた光の盾で防いだ。
「でやああぁっ!!」
ダークネスが光の盾に拳を当てたまま突出してルークスを押し込む。そこへムーンサルトで跳んできたウィッチの上からの飛び蹴り、
「やあぁ~っ!」
ルークスは横に寝かせた剣を盾代わりにして上からの攻撃を防いだ。そして彼に予想だにしない衝撃が加わって、足元から周囲が大きく陥没して無数の花びらが舞い上がった。
「ぬうぉっ!」
ルークスが二人の黒いプリキュアを押し返して後ろに跳ぶ。それをダークネスが追跡した。
「はっ! はっ! たぁっ!」
ストレートパンチから上段蹴り、さらにそこから変化しての踵落とし、ルークスはそれらの攻撃を当然のように紙一重で避けて反撃に転じる。ダークネスはその動きを読んでルークスの射程外まで下がっていた。そしてダークネスの背後からウィッチが飛び出してくる。
「なにっ!?」
ダークネスとウィッチの体が完全に重なっていて、ルークスはウィッチの接近を見逃していた。
「とりゃ~っ!」
ウィッチの上空からの踵落としをルークスが輝く魔法の盾で防御する。彼がまずいと思った時には、目の前にダークネスがいた。
「はぁっ! でやぁーっ!」
ダークネスは二つに合わせた開手を腰まで引いて力を溜め、爪を立てて合わせた、虎の顎のように見える双手をルークスの腹の中心に叩きつけた。
「ぐはあぁっ!!?」
まっすぐ礫のように吹き飛んだルークスは、上に繋がる階段の周囲に切立っている岸壁に打ちつけられた。落ちてきたルークスが片膝をついて剣でその身を支え、崩れてきた大きな石片が彼の背後に落ちて大きな音を立てた。
跳躍してきたダークネスとウィッチが白き騎士の前に立つ。
「階段が通せんぼされているデビ」
リリンが羽を動かして断崖に挟まれた神殿へと続く階段に近づいていく。階段の前に宵の魔法つかいの六芒星の魔法陣が立ち上がって壁になっていた。
「宵の魔法つかいと伝説の魔法つかいが試練を越えた時に神殿への扉は開かれる」
ルークスが立ち上がり、ダークネスとウィッチに剣の先を向ける。
「今の攻撃は見事だった。お前たちの全力を尽くせ! そうでなければ、この私を倒すことははできぬ!」