ミラクルとマジカルは余りの疲労感と大きな安堵の中その場にペタンと座り込んだ。
「か、勝った……」
「勝てたのが不思議なくらいだわ……」
呆然としている二人の前にモフルンが走ってきてバンザイする。
「やった~モフ~! かった~モフ~!」
「モフルン、ありがとう」
ミラクルがモフルンを抱き寄せて顔を押し付けた。
「勝てたのはモフルンのおかげだよ」
「モフルンがあんな怖い顔で怒るのは初めて見たわね。おかげで気合が入ったわ」
マジカルが笑顔で言ったその時に、モフルンのブローチからダイヤが離れて二人の変身が解けた。さらにみらいの巾着バッグの中にあるリンクルストーンが勝手に飛び出していく。
「あっ!? リンクルストーンが!?」
「神殿の方に飛んでいくわ」
花園の中に動く気配と音があり、三人の視線がそちらに向いた。バッティが膝を付いて起き上がり、目の前にある髑髏の杖と白い羽根と黒い牙を拾っていた。
「君たちは試練を乗り越えました」
少女たちが近づいてくると、バッティは杖を持って立ち上がり、二人に向かって一礼した。そんな彼にリコがため息をついた後に言った。
「あなたには、わたしたちに止めを刺すチャンスがいくらでもあったのに、何もしないで見ていてくれた。どうしてなの?」
「情けをかけたわけではありませんよ。我が主の望みは、君たちを倒すことではなく試すことでしたからね」
バッティは花園を颯爽と歩き、神殿への階段の入り口を塞ぐ五芒星の前に立った。そして彼の後ろになった桃色の五芒星の輝きが薄くなって消えていく。
「神殿への道は開かれました」
「ということは!」
「小百合とラナも勝ったということね」
笑顔を浮かべるみらいとリコにバッティが言った。
「神殿に行く前に少し私の話を聞いて頂きましょう。私は当てもなく魔法界を彷徨ううちに、魔法の森でフレイア様に出会いました。あのお方は力尽きて倒れていらしたのです」
「……倒れてたって、どういうこと……?」
みらいが唖然としてしまう。バッティは淡々と話をつづけた。
「フレイア様は生命の花の光を求めていたのですが、自分の想像以上に消耗が激しく、途中で倒れてしまわれたのです。わたしが生命の花の下にお連れし、そこでフレイア様の話を聞き、御身を主と仰ぐことを許して頂きました」
それからバッティが話したことは、小百合とラナもルークスから聞くことになる。
小百合とラナも階段の入り口を塞ぐ魔法陣が消えたのを見て喜んでいた。
「神殿に行けるようになったデビ!」
「みらいとリコが勝ったんだ! やった~!」
「当然よ、わたしたちだって勝ったんだから」
小百合はそんなことを言いつつも、内心は二人が勝ったことに胸をなでおろしていた。
「神殿に行く前に一つ話を聞いてもらおう」
白騎士ルークスが言うと少女たちの笑いが消える。そしてルークスは何のためらいもなく機械的に声に出した。
「フレイア様の命はもう長くはない」
小百合が真顔のまま固まり、ラナは碧眼を見開いて固まった。そして寸秒の後に二人の表情が悲愴に染まり、悲しみのあまり歪んだ。
「今……なんていったの……?」
小百合がふらつく足取りでルークスにゆっくり近づいていくと、
「フレイア様の命はもう長くはないと言った」
小百合の顔がくわっときつくなって、ルークスの襟首につかみかかった。
「あなたはっ! それをずっと前から知っていたんでしょう!? どうして教えてくれなかったのよ!? どうしてっ!!?」
小百合は全身の力を込めてルークスを揺さぶった。彼はされるがままに体を揺らしていたが、やがて小百合の手をつかんで悲しい目で言った。
「お前たちがそれを知ったらどうなったと思う」
ルークスの落ち着いた声を聞いて小百合とラナの瞳から涙が零れた。リリンの瞳も潤みを帯びていた。
「もしお前たちがそれを知ってしまったなら、決してフレイア様から離れず、伝説の魔法つかいと戦い抜くことを決意してしまっただろう。それはフレイア様にとって最悪のシナリオだ。だから、お前たちに知られるわけにはいかなかった」
ルークスの襟をつかんでいた小百合の手から力が抜けて、ぶらりと垂れ下がった。
「フレイア様がわたしに冷たい態度をとったのは、そのせいだったのね……」
「そうだ」
「……あの時、光と闇がぶつかって大爆発したあの時の罠は……」
「あれはロキが仕掛けた罠だ。フレイア様はあえてその罪をかぶたのだ、お前たちの心を御身から
小百合が力なくその場に座り込んで両手で顔を覆うと、リリンを抱いたラナも隣にきて同じように座った。小百合はラナの頭を抱き、頬を寄せ合って二人の少女の涙が流れ落ちる。そんな少女たちを見下ろしていたルークスは、見たくない現実から目をそらすように両目を閉じた。
「ナシマホウ界と魔法界の間に道を開くため、フレイア様は残されていた魔力のほとんどを使われ、そのお命を縮められた。それからは、おのが使命を果たすために生命の花の光で命をつないできた。だが、それも限界にきている」
ルークスがゆっくりと目を開けると、少女たちはずっと同じ姿で寄り添って泣いている。
「私の話はこれで終わりだ。フレイア様のもとへ行くがいい」
小百合は涙を拭って立ち上がると、少し赤みの差した瞳で神殿を見上げる。
「ラナ、もう泣くんじゃない。フレイア様に会うときは笑顔よ」
「うん……」ラナが座ったまま指で目をこする。
「行きましょう、フレイア様が待ってる」
ラナも立ち上がり、二人で並んで手をつなぐと、二人で一緒に踏み出して階段の一段目に足をかける。そして少女たちは白い階段を一歩ずつ上がっていった。
二組の少女たちは同時に階段を上り切って、同時に白亜の神殿の前に来た。
「みらい、リコ~!」
ラナがいきな両手を振ると、抱かれていたリリンが落ちそうになって羽をばたつかせた。
「小百合、ラナ!」
みらいとリコが駆け寄ってきて4人の少女が再び一堂に会した。
「この先にフレイア様がいるわ」
小百合が先に歩き出して、他の少女たちが後に続く。広く口を開いている神殿の入り口に続く数段を階段を上がり中に入っていく。
神殿は全てが白亜の石造りで、壁というものが一切なくて明るかった。屋根だけが複数の石柱に支えられていて、生命力の強い草花が石畳の間から生えて花を咲かせる。石柱の中には沢山の花の付いた蔦が絡んでいるものもある。風が神殿内を吹き抜けると、外から花吹雪と花の香りが運ばれてきた。
しばらくは少女たちが石畳を踏む音が響いていた。やがて神殿の最奥にある祭壇の前に、黒いドレスを着た女性の後姿が見えてくる。小百合とラナの足は自然と速くなった。
フレイアの後ろに4人の少女たちが並んだ。モフルンはみらいに抱かれ、リリンは小百合のすぐ横で羽を動かして浮いていた。
フレイアが振り返り、少女たちにいつも変わらぬ微笑を見せる。
「あなたたちは必ずここにくると信じていました」
フレイアが右手に持つ金の錫杖で地面を突くと、上から輝きを放つ無数の宝石が降りてくる。宵の魔法つかいの七つの支えのリンクルストーンが大外に広がって円に並び、伝説の魔法つかいの七つの支えのリンクルストーンはその内側で円に並ぶ。そして伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいの合わせて六つの守護のリンクルストーンが三段目の円になって並んだ。最後にリンクルストーンエメラルドが三つの円に囲まれた中心にきて止まる。そしてフレイアが錫杖の先についている、チューリップの形の赤い宝石を外す。その赤い宝石は緑色に輝く台座の上に乗っていた。
「これがエメラルドの対となるリンクルストーン、レッドエメラルドです」
『赤いエメラルド!?』みらいとリコの声がぴたりと重なる。
フレイアがレッドエメラルドを手放すと、それはエメラルドの隣に寄り添うように並んで止まった。そして、三重の円に並んだリンクルストーンがゆっくりと歯車のように回転を始めた。
「これが、リンクルストーンの本来の姿なのです。エメラルドとレッドエメラルドは、どちらもあまねく命を示しますが、表現する命の状態が違います。エメラルドは生き行く命を、レッドエメラルドは命の誕生と終焉を、エメラルドとレッドエメラルドがそろって初めて命の全てが表現されるのです」
「リンクルストーンレッドエメラルド……それを持っているあなたは何者なんですか?」
リコが訊ねると、閉ざされていたフレイアの目がゆっくりと開いてゆく。
「その瞳は……」小百合が半ば呆然として開かれた瞳を見ていると、
『あああぁっ!!?』隣のみらいとリコがいきなり大声を出した。
小百合はびっくりした後に、迷惑そうに眉を寄せた。
「なんなのよ!」
「フェリーチェと同じだ……」
今度はみらいが細い声でもらした。少女たちが見つめるフレイアの緑の瞳の下の方に花が開いているような色彩が入っていた。その花びらは青く花の中央に当たる部分は赤い点になっている。
「そんなに似ていますか?」
「目を閉じている時は少し似ているくらいだったけれど、今のフレイア様はよく似ています」
リコが言っていることが小百合とラナには理解できない。
「なにが似ているの? ちゃんと説明して」
「はーちゃんがプリキュアに変身した姿とフレイア様が似てるんだよ」
みらいからそれを聞くと、小百合がフレイアの目を見つめて言った。
「……ことはがフレイア様は姉のようなものだと言っていましたね」
「そうですね。人間で例えるならば、姉妹という言葉を使うのが正しいでしょう」
フレイアは微笑を消して再び目を閉じた。そして空気が一気に重く沈み込んで、4人の少女たちにフレイアの苦悩が流れ込んできた。暫しの沈黙の後にフレイアは再び目を開けて言った。
「わたくしが知る全てをお話ししましょう」