魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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魔法界の消えた歴史とプリキュアの魔法

 少女たちが唇を引き結んで緊張すると、フレイアはおもむろに語り始めた。

 

「わたくしは魔法界の文明の始まりと同時に、マザー・ラパーパの命の欠片から妖精の姿となって生まれました。そして、光の女神と運命を共にする聖騎士ルークスの手によって育てられたのです」

 

「光の女神って? フレイア様は闇の女神さまでしょ~?」

 

 ラナが空気を読まないで割り込んでくる。フレイアはそんなラナに、母親が娘を見るような優しい眼差しを送る。

 

「わたくしは光の女神として生を受けたのです。その使命は、マザー・ラパーパを継ぐ者が現れるまで魔法界を見守る事と、いつか現れる伝説の魔法つかいプリキュアに力添えをすることでした。しかし、その使命を果たすことはできませんでした。わたくし自らの行いにより、マザー・ラパーパも想像していなかった恐ろしいことが起こってしまったからです」

 

 それからフレイアは少し俯き加減になって黙ってしまった。彼女はできるだけ心を落ち着けるように努めていた。そしてこれから話すことには勇気が必要だった。

 

「……わたくしは人々に光の女神として崇められ、魔法界に尽きぬ豊かさを与えました。世界がまだ一つであった時にマザー・ラパーパも同じことをしていたのです。わたくしはそれで良いと安易に考えていました。しかし、世界が二つに分かれた時に、人の本質は変化していました。世界が一つであった時には人が持っていなかった、怒りや欲望といった闇の部分が生まれていたのです。やがて魔法界の人間たちは、尽きぬ富と魔法の力で高度な魔法文明を築き上げていきました。この神殿にも、わたくしを称えるために巨大な建造物が建てられました」

 

「わたしたちがバッティさんと戦ったあの場所だね」

 

 そう言うみらいにフレイアが頷いた。

 

「そうです。伝説の魔法つかいのお二方が戦ったあの場所から、魔法文明の崩壊が始まっていきました。人々の光の女神への祈りが狂気じみたものへと変わっていったのです。そして、欲望にまみれた人間たちが女神への信仰を歪曲させ、尽きぬ豊かさと魔法の力で古代超魔法を生み出してしまいました」

 

 フレイアがためらうように息をつくと、その間に小百合が言った。

 

「フェンリルが古代超魔法という言葉を口にしていました。あの人はプリキュアのような姿に変身していました」

 

「彼女は閃光の魔法戦士の唯一の生き残りでしょう。古代超魔法は人が神に近づくために生み出された禁忌の魔法です。その実態は魔法兵器の開発とそれによる世界の支配でした。魔法の空飛ぶ要塞や魔法で動く鉄巨人、中でも最も恐ろしいのが閃光の魔法戦士でした。高度に発展した魔法はリンクルストーンまで模倣し、プリキュアに匹敵する魔法の戦士を生み出してしまったのです。正しき心を持つ人々は、古代超魔法に苦しめられ、支配されていきました。わたくしが気付いた時には、何もかも手遅れになっていました。そして宵の魔法つかいプリキュアを召喚せざるを得ない状況に追い込まれたのです」

 

「まるで宵の魔法つかいが現れたらいけないような言い方ですね」

 

 リコが鋭い言葉で、一瞬彼女に全員の視線が集まる。

 

「プリキュアは魔法界とナシマホウ界をつなぐ魔法であると同時に、その存在は宇宙を体現しています。光を示す伝説の魔法つかいプリキュアは混沌と戦う使命を帯びていましたが、宵の魔法つかいは伝説の魔法つかいの対となる存在として伝説でのみ語られ、この世界に現れることはないはずでした。しかし、わたくしがそれを狂わせてしまったのです。古代超魔法は閃光の魔法とも呼ばれ、狂気的な光の魔力を持っていました。ですから光を鎮める闇の力が必要だったのです。わたくしは宵の魔法つかいプリキュアになる資格を持つ二人の少女を探し出しました。わたくしも闇を取り込んで宵の魔法つかいとなり、3人で閃光の魔法に戦いを挑みました。そして、何十人といる閃光の魔法戦士や恐ろしい魔法兵器を倒していったのです。ようやく魔法界に平和が戻った時、人々は喜び、わたくしたちを称えました。元はと言えば、わたくしの過ちが原因だというのに……」

 

 みんなフレイアの過去を知っていくと胸が苦しくなったが、魔法界が平和になったと聞いて安心していた。

 

「本当に恐ろしいことが起こったのはここからです。闇の王ロキが現れたのです。彼は闇の魔法を広める機会を虎視眈々と狙っていました。そして、古代超魔法の滅びと同時に闇の教団なるものを作って人々を誘惑し、わずか一年でその勢力を爆発的に広げたのです。魔法界に闇の魔法が蔓延し、目も当てられない程に悲惨な状態になりました」

 

「……たった一年で、どうしてそんな事に……」

 

 声を発したリコだけではなく、他の3人からも急に悲愴感が漂い始めた。

 

「ロキはある方法で教団の信者を集め、瞬く間に闇の魔法の教団は魔法界を席巻しました。その方法とは教団のシンボルに3人の闇の女神を掲げることでした」

 

「3人の闇の女神って、まさか……」

 

 フレイアを見つめる小百合は奈落へと突き落とされるような悲愴感の中で、これ以上ない恐ろしい悲劇を予感した。他の少女たちも絶望するような暗い表情になっていた。

 

「3人の闇の女神とは宵の魔法つかいプリキュアです。ロキの卑劣な策略により、プリキュアが闇の魔法の象徴にされてしまったのです。人々の信仰は光の女神から闇の女神に代わり、プリキュアの名の下に深く浸透していきました。わたくしたちがいくら声をあげても、もはやどうすることもできませんでした。絶望的な状況の中で闇の魔法との戦いが始まりました。わたくしたちは新たな魔法の力、合成魔法を生み出し、次々と襲ってくる闇の魔法つかいに何とか対抗していました。けれど、プリキュアが闇の魔法の象徴にされてしまったことで、人々の希望が失われ、わたくしたちの力も日増しに衰退していきました」

 

「……闇の魔法が相手だったら、伝説の魔法つかいと一緒に戦ったんですよね?」

 

 みらいが言うとフレイアは首を横に振った。

 

「プリキュアの力が失われていく状況で伝説の魔法つかいプリキュアを召喚させる。それがロキの狙いであることは明白でした。あの男は全ての魔法つかいプリキュアを一網打尽に消し去ろうとしていたのです。宵の魔法つかいだけで対抗するしか術はありませんでした。そして、わたくしたちは追い詰められていくうちに、ロキの真の目的を知ります」

 

 重い静寂の間に風が吹き込んで祭壇に花びらが舞った。フレイアは目を閉じて苦しみを吐き出すように言った。

 

「ロキはマザー・ラパーパのかけたプリキュアの魔法を断絶しようとしていたのです。そしてあの時、プリキュアが闇の魔法の象徴にされたことで、マザー・ラパーパの魔法が現に失われつつあったのです。3人のプリキュアはそれを阻止するために、最後の魔法をかけました、この祭壇で」

 

 フレイアの瞳から涙が溢れた。

 

「フレイア様……」小百合は絶望的な気持ちだった。

 

 少女たちは悲愴に満ちた表情で涙を流すフレイアを見つめていた。

 

「魔法によって宵の魔法つかいプリキュアが関わった歴史は全て消え去り、わたくしたちの存在は人々から忘れ去られました。そして、3人のプリキュアのうち2人はその場で命を失って亡くなりました。わたくしの中にだけ消えた魔法界の歴史と宵の魔法つかいの戦いの記憶が残されたのです」

 

 少女たちは声を殺して泣いていた。ぬいぐるみたちも泣いていた。ロキの悪辣な罠に追い詰められた末に、一度に親友を二人も失ったフレイアの悲しみ、彼女らはそれを直に体験するように理解できた。もし目の前にいる親友がいなくなったらと考える程に、悲しくなって胸が張裂けそうだった。

 

「こんなの……酷すぎるよ……」みらいから息の詰まるような声が漏れて、

 

「フレイア様……かわいそう……」ラナが嗚咽混じりに言った。

 

 フレイアは決して癒えない悲しみを抱えながら、今まで何千年も生きてきた。その苦しみはとても想像できるものではなかった。

 

「決して忘れてはならないことがあります。全てはわたくしの愚かさが招いたことなのです。女神として称えられ、いい気になって、人々に寄り添おうとしなかった。宵の魔法つかいを召喚して過去の歴史を歪め、ロキに付け入る隙を与えてしまった。その挙句に闇の魔法の台頭を許し、全ての過ちを清算するために、友達の命を犠牲にした。それでもわたくしは、恥を忍んで今まで生きてまいりました。ロキとそれにかかわる闇の魔法の遺産を全て消し去るために。それだけが、今の魔法界でわたくしが生きる意味なのです」

 

「……違う」

 

 小百合が涙を流しながら敵に向かっていくような強い表情になっていた。

 

「いい気になってとか、人に寄り添わないとか、そんなの嘘! 本当はどうしようもなかったんでしょう? フレイア様は優しすぎるから、人間の悪いところがいつか無くなるって、信じていたんでしょう? 例え何千年も前のことだとしても、わたしとラナにはそれが分かるの!」

 

 小百合の声が神殿の中に響き渡る。

 

「うわぁん……フレイア様ぁ……」

 

 ラナが泣き声をあげながら近づくと、フレイアは金の錫杖を手放して小さな体を抱きしめた。倒れた錫杖が跳ねて石床に清らかな響きを与えた。

 

「悪いのはロキよ! あいつが何もかも全部滅茶苦茶にしたんじゃない! フレイア様は魔法界を守るために戦って! 戦って! 友達までなくして……」

 

 小百合の黒い瞳が揺れてとめどなく涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちていく。

 

「……わたしがその友達だったら……命を失っても後悔なんてしません! でも、フレイア様がずっとずっと苦しんでいたら、心配で天国になんて行けない……」

 

 小百合もフレイアに近づいて懐に入った。小百合とラナは女神に抱かれて泣き続ける。小百合の涙に震える声が女神の胸元から聞こえてきた。

 

「お願いです、もう自分を責めないで下さい……そんなに苦しまないで……」

 

「フレイア様はわるくないよぅ……」ラナの声も聞こえる。

 

 フレイアは宙に浮いて涙を浮かべているリリンにも手を差し伸べた。そして黒猫悪魔のぬいぐるみが小百合とラナの間に飛び込んでいく。

 

「ありがとう。あなたたちに出会えて、昔を取り戻したようでした。本当に嬉しかった」

 

 フレイアは二人を好きなだけ泣かせて、その間はずっと頭をなでてやっていた。そして小百合とラナが落ち着いてくると、二人の肩を触ってゆっくりと離れた。

 

 フレイアが右手を開くと倒れていた錫杖が浮き上がって彼女の手に納まる。フレイアの体にまだリリンが張り付いていたので、小百合がそっとそれを引きはがした。みらいとリコも涙を拭いて、濡れた瞳でフレイアを見つめる。

 

「これで全てお話ししました。ロキの残したヨルムガンドがもうじき復活するでしょう。強大な力を持つ魔竜ですが、あなたたち4人が力を合わせれば恐れる敵ではありません。後はよろしくお願いします」

 

 フレイアが錫杖を高く上げると、レッドエメラルドが元の位置に戻り、他のリンクルストーンも散り散りになって、持ち主のポシェットや巾着バッグの中に入る。エメラルドだけはすごい速さで神殿の出口に向かって飛んでいった。

 

「わたくしはここで最後の使命を果たします」

「フレイア様……最後の使命って……」

 

 小百合とラナが心配そうにフレイアの顔を見ていた。闇の女神は微笑をうかべて言った。

 

「あなたたちはもう聞いているのでしょう。わたくしの命の灯はまもなく消えます。その前に全ての闇の結晶を浄化します。これは闇の女神である、わたくしの役目です」

 

 フレイアは小百合とラナに背を向けた。

 

「ここで成すことはもうありません。魔法学校にお戻りなさい」

 

 小百合とラナはフレイアの背後で黒いドレスをつかんだ。そして小百合が囁くような声で言った。

 

「……お母さん……」

 

 フレイアは衝撃を受けて目を見開くと、振り向いて二人を見つめた。

 

「なんていうことでしょう。あなたたちは、わたくしに母親を見ていたのですね。そんな事にも気づいてあげられないなんて……本当に駄目な女神ですね……」

 

 フレイアはもう一度、小百合とラナをきつく抱きしめる。そして、二人の耳元で温かな声が聞こえた。

 

「二人とも心から愛しています。さようなら」

 

「……行くわよラナ」

「いやだ行かない! ラナはずっとここにいる! フレイア様と一緒がいいの!」

「わがまま言うんじゃないの!」

 

 小百合はラナの手をつかむと、無理やり引っ張って連れ出した。

 

「いやだぁ~っ! フレイア様ぁ~っ!」

 

 ラナの叫び声が響き渡った。小百合は涙を零しながらラナを連れて神殿の出口に向かっていく。

 

 みらいとリコは、古の魔法界を守ってくれたフレイアに深い感謝を込めて、礼儀正しく頭を下げてから小百合とラナの後を追って歩いていった。

 

 フレイアの名を呼ぶラナの声がまた響いてくる。必死に悲しみを堪えていた闇の女神の花咲く瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

 

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