魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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黒いヨクバール

 フェンリルが言うや否や、暗雲の中から黒い六芒星の魔法陣が浮き出てきた。その中央でアギトを開く竜の紋章の目が赤く光り、口から黒い炎が吐き出されて大きく広がっていく。そして四つの塊に分かれた黒い炎が形を変え、鳥、人、獣、蜥蜴、四つの姿になり、それぞれの顔に当たる部分に竜の骸骨の仮面が現れ、アイホールに赤い光りが灯る。

 

『ヨクバアァーーーールッ!!』

 

 甲高い獣のような咆哮の四重奏が黒い空に響き、魔法学校を震撼させた。

 

 渡り廊下から黒い怪物の集団を見るリズが恐怖心で固まり、校長先生は厳しい顔をしていた。

 

「なぜあのような怪物が!? 闇の魔法の脅威は去ったのではないのか!?」

 

 食堂の前にいる少女たちは突然のヨクバールの襲来に身構える。

 

「どうしてヨクバールが現れるの!? ロキはもういないっていうのに!」

「しかも四体も……」

 

 小百合が嫌な予感と共に声を荒げ、リコは真顔でヨクバールの集団を見つめた。

 

「変身しよう!」

 

 みらいが黒い集団を見つめて闘志を燃やと、小百合とリコ、そしてモフルンとリリンが頷く。ラナだけお腹を押さえてうつむいた。

 

「はう~、おなかすいたなぁ……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 

 小百合に怒鳴られて腹ペコのラナが切なそうな顔になる。

 

「朝飯ならたっぷり準備しておいてやるから、とにかくあれを片づけてこい。また食堂を壊されたらかなわないからな」

 

 フェンリルの言葉を聞いたラナが両手をグーにして可愛らしい顔を引き締めた。

 

「すご~くやる気でた!」

「ああ、そう……」あまりにも現金なラナに、小百合は苦笑いを浮かべる。

 

「改めて変身モフ!」

「デビ!」モフルンが手を上げるのにリリンも合わせた。

 

 4人の少女たちが向かい合って、『うん』と頷いて各々のパートナーと手を合わせ、4人の呪文が唱和された。

 

『キュアップ・ラパパ!』

 

 みらいとリコが輝きの衣をまとい、モフルンとも手をつないで輪になって回る。

『ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!』

 

 モフルンの体に白く輝くハートが点滅すると、ダイヤからあふれた光が全てを照らし、輝く星とハートが降り注ぐ。

 

 小百合とラナは光の衣を身にまとい、飛んできたリリンと手をつないで3人で輪になって回る。

『セイント・マジカル・ジュエリーレ!』

 

 リリンの体にライトブルーのハートが点滅すると、ブルーダイヤから放たれた光が宇宙の闇を照らし、二人の背後に白い月光を放つ大きな三日月が現れる。

 

 白きハートの五芒星と青白く輝く三日月と星の六芒星が並んで現れ、その上に伝説の魔法つかいと宵の魔法つかいが召喚された。

 

 魔法陣の上から跳んだ4人の魔法つかいプリキュアが着地して綺麗な横並びになり、

 

「二人の奇跡、キュアミラクル!」

「二人の魔法、キュアマジカル!」

 

「光りさす慈愛の聖女、キュアプリーステス!」

「メラメラの黄昏の魔法! キュアルーン!」

 

 ミラクルとマジカル、プリーステスとルーン、乙女たちは二人ずつで体を重ね、後ろ手をつなぎ、解放されている手は前で重ねて情愛溢るる麗しき姿を見せる。そして4人のプリキュアの声が一つになって凛と響き渡った。

 

『魔法つかい、プリキュア!』

 

 人型、獣型、蜥蜴型のヨクバールが校庭に降りて重音と振動を響かせ、鳥型ヨクバールは低空を飛行している。すべてのヨクバールが黒一色で全身から暗黒の炎を燃え上がらせていた。マジカルが迫りくるヨクバールの集団を見て難解そうに眉を寄せた。

 

「一人一体といきたいところだけれど」

「恐らくそれは厳しいわ」

 

 プリーステスの意見に同意してマジカルが頷くと、その隣のミラクルが言った。

 

「何とかして二人で一体ずつ倒したいね」

 

「わたしとルーンで3体を引き付けるから、その間に一体を倒してちょうだい」

 

 ミラクルとマジカルが頷くのを見て、プリーステスとルーンがヨクバールに向かって走り出す。

 

「ルーン、あんたは飛んでるやつの相手をお願い。地上の2体はわたしが引き受けるからね」

「りょうか~い! リンクル・スターサファイア!」

 

 ルーンは左のブレスレットにスターサファイアを呼び出し、漆黒の魔鳥に向かってジャンプした。プリーステスは右から回り込んで怪物たちの背後を取る。すると蜥蜴型だけがプリーステスの方を向いた。

 

「リンクル・オレンジサファイア!」

 

 夕日色のサファイアがプリーステスの右のブレスレットで輝く。彼女の右手から撃たれた数発の火の玉が、蜥蜴型ともう一体、背を向けている人型ヨクバールに命中して爆発する。ミラクルとマジカルに向かっていた人型が振り向いて、竜の骸骨の中で光る赤い双眸がプリーステスに向けられる。

 

「さあ、こっちにきなさい!」

 

 いきなり獣と人のヨクバールが跳躍し、ミラクルとマジカルに接近した。

 

「先に攻撃したわたしを無視してマジカルの方に!?」

 

 プリーステスは人型の予想外の行動に不意を突かれて隙を作った。そこに蜥蜴ヨクバールの尾が唸りをあげてプリーステスを襲う。

 

「キャァッ!?」

 

 プリーステスは瞬間的に校門を支える外壁に叩きつけられ、分厚い壁に亀裂が入った。

 

「プリーステス!?」

 

 空中にいるルーンが動きを止めると、背後から鳥型の突撃を受ける。

 

「うやぁ~っ!?」衝撃を受けたルーンは校舎の壁を破壊して建物内に突っ込んだ。

 

 ミラクルは獣型の踏みつけを後ろに跳んで回避し、マジカルは目の前に降りてきた人型が拳を振り下ろしてきて、それを片腕で防御した衝撃で後ろに下がり、立った状態で靴底を引きずった。

 

「確実に一人ずつ狙ってきてるし。まるで誰かが命令でも与えているみたいだわ」

 

 マジカルの視界の中でミラクルが獣型の突進を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「ふあぁっ!」

「ミラクル!?」

 

「ヨクバァール!」

 

 人型がマジカルに拳を叩き落してきて、ミラクルを助けに行くどころではなかった。マジカルが地上を蹴ると、その場所に黒く燃える拳がめり込んだ。

 

「はあーっ!」マジカルの蹴りが人型の左首に叩きこまれる。

 

「ヨッ、クッ!?」人型ヨクバールの黒い巨体が真横にぶっ倒れた。

 

「一体一体の強さはそれ程でもないみたいだけれど、それでも完全に倒すには二人で力をあわせないと」

 

 ミラクルの気合が飛んで、獣型の脳天に踵落としが入り、獣の前足が折れて前身が沈んだ。ルーンは鳥型と空中でぶつかり合い、プリーステスは叩きつけられていた壁を蹴って蜥蜴型に接近し、空中から連続攻撃を仕掛ける。

 

「はぁっ! たぁ! いやぁーっ!」

 

 顔面へのストレートから首への二段蹴りで、黒い炎をあげる蜥蜴の体がぐらついた。

 

「ヨク! バァール!」

 

 蜥蜴型が口から黒い炎がプリーステスに吐きかけられる。それを合図にするように、他の三体も黒い炎を吐き出して、プリキュアたちを苦しめた。みんな防御の形をとっていたが、闇の炎がが光のプリキュアの体力を確実に削っていた。

 

「まずいわ。分断されたまま戦い続けたら、こっちが先に消耗して負けるわ!」

 

 プリーステスに焦りが見え始める。

 

「このヨクバールたちは、わたしたちを分断すれば有利になるって理解しているみたい! 誰かが指示を与えているのかも!」

 

 マジカルの分析がプリキュアたちの間に暗い影を落とした。

 

 この膠着した状況を最初に打開したのはルーンだった。空中で黒い炎を受けていたルーンは、左手を横に振って叫んだ。

 

「リンクル・ブラックオパール!」

 

 手のひらから黒いバリアを出して炎を完全にシャットアウトする。ほかのプリキュアたちは上にジャンプして炎から逃れた。

 

「てやぁ~っ!」バリアを前に炎を打ち消して突き進んだルーンが、鳥型ヨクバールの横っ面を殴って打ち飛ばした。

 

 ほかのプリキュアたちの反撃も始まる。蹴って殴って善戦するが、個人では決定打を与えることができない。

 

「リンクルステッキ!」

 

 ミラクルがステッキを右手に魔法を発動する。

 

「リンクル・アクアマリン!」

 

 逆巻く冷気が獣型の四肢を凍り付かせて動きを封じた。その隙にマジカルの方に向かおうとすると、上から黒い火の玉が降ってきて、ミラクルはその爆発に巻き込まれた。

 

「うああぁっ!?」

「ミラクルッ!」

 

 マジカルが叫ぶと、人型が素早く移動してマジカルの視界を遮ってくる。火の玉を撃ったのはルーンと交戦していた鳥型ヨクバールだった。

 

 その状況を見たプリーステスの顔つきが一層厳しくなった。

 

「これは決まりね。こいつらは確実に誰かの意志に従って動いているわ。しかもそいつは、この戦いを見ながらヨクバールに指示を与えている。そんなことができる奴っていったら……」

 

 一番考えたくない名前がプリーステスの脳裏に浮かんできた。

 

「ヨクバァールッ!」蜥蜴型が鋭い爪のある手を叩きつけてくる。

 

 プリーステスは胸をひっかかれてその場に膝をついた。

 

「ぐうぅ……ヨクバールと一対一では消耗が激しい……」

 

「うわ~~~!?」ルーンが鳥型の体当たりを受けて墜落して土煙が昇った。

 

『ヨクバァールッ!』獣型と人型ヨクバールの叫び声が重なる。

 

 ミラクルは獣の前足の一撃を、マジカルは黒い拳の一撃を同時に喰らって吹っ飛んでいた。ミラクルは地面に叩きつけられ、マジカルは校舎の壁に打ちつけられて、別々の場所で同時に悲鳴が聞こえてくる。

 

 亀裂の入った校舎の壁からずり落ちたマジカルが苦しそうな表情を浮かべた。

 

「こ、このままじゃ……」

 

 渡り廊下から 見下ろしていた校長先生は両手の拳を指が充血するほど強く握って、隣のリズが怖くなるくらい険しい表情になっていた。可愛い生徒たちを助けてやりたいが、今の彼にその力はない。それに、今少しでも消耗すれば、自分の成すべきことができなくなるのだ。

 

「……あれは?」リズが不安に満たされた心のまま校門を見つめていた。

 

 校長先生もそれに目をやると、校門の巨大な扉が開いていく。そして、そこに現れた少女を見た時、見開かれた校長の瞳に希望の輝きが現れた。

 

「おお、あの子は!」

 

 魔法学校の制服姿のその少女が顔を上げると、とんがり帽子の鍔に隠れていたエメラルド色の瞳と桃色の髪が、はっきりと校長の目に見えた。

 

『はーちゃん!!?』少女の姿を見たミラクルとマジカルが同時に叫んだ。

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