校門に、ことはが姿を現すと、フェンリルの後ろに隠れていたモフルンとリリンが前に出ていく。その姿をフェンリルの足にしがみついて震えている少年ハティが目で追った。
「とっても、と~っても甘い匂いするモフ!」
「命が萌えて広がるのを感じるデビ!」
ことはが胸の辺りで右手を広げると、腰に付いているホルダーからピンク色の本、リンクルスマホンがひとりでに動いて、ことはの右手の上に縦に立った状態で浮いて止まった。その表紙の上部にはリンクルストーンをはめ込める空白のサークルがあり、下の方には伝説の魔法つかいを表す五つのハートを内包する五芒星が描かれる。さらにその下部に小さな赤い花のつぼみと横に広がる若葉の装飾があった。
ことはが顔の辺りに上げた左手の指の間に、輝く桃色の台座に嵌め込まれた緑色の宝石が癒しの光を放つ。
命の輝石エメラルドが放った癒しの光によって、世界が緑光に満ちると同時に、ことはの身が金色の衣に包まれた。
リンクルスマホンの表紙が開き、上の方にある蔓草のような模様に囲われたサークルと、下の方にはマートフォンの液晶のように光沢のある長方形の鏡面が現れる。
ことはは、右手の指先に赤い花の蕾の付いたタッチペンのような姿の魔法の杖を持ち、それを額の辺りに掲げる。そして、小さな魔法の杖で外に向かって大きく円を描き、天を仰ぎ杖の小さな花の蕾を天上に捧げて呪文を唱えた。
「キュアップ・ラパパ! エメラルド!」
宙を舞うリンクルストーンエメラルドから命の輝きが萌え上がり、リンクルスマホンの上部のサークルにセットされた。
ことはが、魔法の杖のペンのように尖った先端で、スマホンの鏡面に緑色の線で魔法界でFを表す文字を書き込む。そしてF後ろに新たな文字が現れて、フェリーチェという言葉が浮かんだ。
「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」
ことはが魔法の杖で大きな円を描き、緑光の軌跡が円陣となる。そしてことはが、魔法の杖の先端で円陣の中心を指すと、緑色の光が弾けて円陣の中に模様が浮かんで魔法陣になった。
魔法陣の中心にはFを表す文字、その外側に蔓草が絡み合う円陣があり、そこか伸びる蔓の線が四つのハートを描く。魔法陣の中に十字に配置された四つのハートの間には、双葉を広げるマーガレットのような四つの花文様があった。
その緑色の輝きを放つ魔法陣が傾斜すると、魔法陣の中心から複数の若芽が生まれ、その中の一つが成長して可愛らしい双葉を広げた。そして他の若芽も次々と成長して蔦になり、ことはの姿を覆い隠した。
金の衣に身を包んだことはが、膝を抱えてうつむき加減に目を閉じている。彼女は長く成長した無数の蔦に囲まれながら徐々に大人びていく。そして瑞々しいしなやかさに溢れた少女の肢体を緑の輝きの中に泳がせて、長くなった桃色の髪が広がった。
ことはの金色のローブのそよぐスカートが丸く膨らむと、花の蕾の飾りのあるピンクのレースに包まれた白いバルーンカートが現れ、ウエストの中央に緑色の輝きが萌えて、そこから輝く緑葉が芽吹いて成長し、ことはの胸に赤い花の蕾を付ける。さらに花の蕾から伸びる光の蔓草が肩から手へと巻き付いて、それが弾けて緑色の光を散らすと、胸部から胴部が若葉色で肩から袖口までがゆったりとした白のドレスが現れる。二の腕を緑色のバンドで留めて、その上が大き目のランタンスリーブ、下は水芭蕉の花のような形に下に向かって大きく開いていた。そして緑のリストバンド、中指にホットピンク小さな花の指輪が咲いた。
光の蔦は足の方にも伸びて弾けて、大きな白い花飾りのある緑のハイヒールと足首からひざ下へと編み込まれた若葉色のリボンの上に牡丹の葉に似た二枚の緑葉が開いて白い花の蕾が付いた。
彼女のドレスに付いた花の蕾が開いていく。ひざ下から牡丹のように大きな白い花、バルーンスカートには赤とオレンジの小さな花々、胸の赤き蕾は大輪の花と開き、その中央には緑色の玉の宝石が輝いた。
背中に流れる淡く光る桃色の髪が二つに分かれて先端に小さな白花の髪留めの付いた三つ編みのツインテール、同時に前で垂れる後れ髪の中ほどに黄色の蝶を模した髪留めが現れる。そして後頭部に二つのサクランボを付けた双葉の髪飾りが姿を現し、双葉から光の蔓が頭部に沿って前に伸びていく。光の蔓が消えると額には中央にエメラルドの小玉を付けたイチョウの意匠のある金のチェーンサークレット、側頭は透き通る薄緑色のレースを下げる緑のリボン、サークレットのリボンの間にある桃色の後れ毛の上に合わせて二つの白い花の蕾が芽吹いた。そしてその花の蕾が開き、両耳に小さな葉の飾りを下げる真珠のイヤリング、右側の横髪のリボンの上に二枚の葉を付ける大輪の白花が咲いた。
優しく美しい姿となった少女がバレリーナのように回って踊ると、桜の花吹雪を思わせるような無数の淡い光がはじけた。そして彼女のスカートの左上に蔓草の如き緑の光が渦巻きになり弾けて光の木の葉が無数に舞うと、リンクルスマホンを収納するピンクの蝶結びのリボンの付いたポーチが現れた。
七色に輝く大きな蝶が飛んできて、少女の左の横髪のリボンと下にひらめくレースの間に止まって黄色い蝶の意匠となる。彼女がゆっくりと開いたグリーンの瞳の中にきらめきが現れ、そこから桃色の花が咲いた。そして彼女は舞いながら、かけがえのない命を抱くように胸に両手を置くと、鶴の片足立ちで肢体を反らす極美の姿になった。そして天井が放射状に割れて日の光が射しこんで、それを浴びて輝きに満ちる少女は閉じた瞳をゆっくりと開いていく。
大きな大きな桃色の花が徐々に開いていき、その中からプリキュアとなった、ことはの姿が現れ、反った体の背後に現れた四枚の翅が陽光の中で透き通った。
乙女らしいたおやかなる姿で大輪の花の上に座したるプリキュアが右手の上に花の輝きを宿して言った。
「あまねく命に祝福を」
右手の花の輝きが彼女の甘やかな吐息で舞い上がり、天上で無数に散って光の花びらが降りしきる。その中で高く上げられた命のプリキュアの両手が、花びらが舞うように緩やかに動き、顔の前で合わせて花のように開いた手から、ゆったりと二の腕まで交差させて、最後に全ての命を受け入れるように両手を大きく開いた。
「キュアフェリーチェ!」
新たなプリキュアが地上に舞い降りる。
『フェリーチェ!』
その姿にミラクルとマジカルは希望が満ち溢れる。
「あれが、ことはのプリキュアとしての姿! エメラルドのプリキュア!」
プリーステスとルーンは驚きと希望に満ち溢れていた。
「ヨクッバァールッ!」
プリーステスとルーンに向かって鳥型ヨクバールが急降下すると、フェリーチェが背中に妖精の翅を開いて飛ぶ。
電光石火の速さでヨクバールの目の前に飛び込んだフェリーチェは、竜の骸骨の鼻ずらに片手をそえると敵の勢いを利用して軽々と振り回し、下に向かって放り投げた。
「はぁっ!」
豪速で投げ飛ばされた鳥型が地上の蜥蜴型に激突し、二つの黒い巨体が丸く固まって転がった。
「すごい!」プリーステスが素直に感嘆する。ルーンはその隣で驚きのあまり口をあけっぱなしにしていた。
フェリーチェが舞い降り、プリーステスとルーンはその顔を間近に見て少し切なげに息をついた。
「なるほど、本当に似ているわね、フレイア様に」
二人の気持ちを感じたフェリーチェは、瞳の輝きを一瞬だけ悲し気に揺らした。
「あの二体は、わたしに任せて下さい」
「一人で二体のヨクバールを相手にする気なの!?」
「むちゃだよぉ~」
驚くプリーステスと心配するルーンに、フェリーチェが微笑する。
「大丈夫です。わたしを信じて下さい」
その声と姿が二人の心に深く染み透る。まるでフレイアにそう言われたように感じた。
「わかったわ。じゃあわたしとルーンは、ミラクルとマジカルに協力してあの二体を!」
「よろしくお願いします」
プリーステスとルーンがフェリーチェに頷くと、風を切って走りミラクルとマジカルの戦闘に入っていく。
「やぁーっ!」
「とおりゃ~!」
プリーステスが人型に、ルーンが獣型のヨクバールに向かって跳んで蹴り付ける。両方のヨクバールが同時に横倒しになった。
フェリーチェの方では立ち上がった蜥蜴型が尻尾をしならせて攻撃する。フェリーチェがそれを上空に飛んでかわすと、背後から燃え上がる黒鳥が迫る。
「ヨクバァル!」
「はぁっ!」
鳥型の全身に痛烈な衝撃が走って急に止まった。後ろを向いたままのフェリーチェの肘鉄が骸骨の眉間にクリーンヒットしていた。
「ヨックッ!!?」
凄まじい衝撃で鳥型ヨクバールは目を回し、骸骨の目を固く閉じていた。フェリーチェはその場でスピンして花びらを散らし、回し蹴りで鳥型を上空に吹き飛ばした。更に妖精の翅を開いて追撃する。そして拳を固く握りしめると、全てを滅茶苦茶に壊した闇の存在に対する無量の怒りを込めた。
「はあああぁっ!!」
正義の鉄槌が鳥型ヨクバールの腹にめり込むと、生命の魔力を込めた強烈な衝撃波が起こり、黒く燃え上がる魔鳥が空に向かって吹き飛び、同時に大量の白い花びらが舞い狂う。
「ヨクバァールゥーーーッ!!?」
鳥型ヨクバールは断末魔の声を上げると、地上から目に見えなくなるような高度で粉々に砕けて無数の黒い破片となって消えていった。
それを目の当たりにしたプリーステスは度肝を抜かれた。
「魔法も使わずに素手でヨクバールを!!?」
「フェリーチェ、すごく怒ってるみたい……」
プリーステスの近くでミラクルが、不安げに空中にいるフェリーチェを見つめていた。
フェリーチェに向かって蜥蜴型が黒い火の玉を吐き出す。エメラルドのプリキュアは、無言のまま火の玉を軽く手で弾き飛ばした。そして数瞬、急降下したフェリーチェの足が蜥蜴型の骸骨の眉間にめり込んでいた。
「ヨクーッ!?」吹っ飛んだ巨体が地面に落ちて転げまわった。
地上へと降り立ったフェリーチェの右手に、リンクルスマホンの小さな魔法の杖が高速回転しながら落ちてくる。フェリーチェはそれを握り込んでから右と左の親指と人差し指でつまみ上げると、杖の下の方をつまんでいる左の指を小さな花の蕾のある右にむかって這わせる。するとタッチペンのような杖が桃色の光を放ち、下から可愛らしい小さな葉の付いた蔓草が螺旋に巻き付いていくと、杖が大きくなり、巻き付いている蔓草に色とりどりの小さな花々が咲いていった。
蔓草に無数の花が付いて満開になると、大きくなった魔法の杖を包んでいた桃色の輝きが弾けて、その姿が露わとなる。ワンドの先端は蕾が開きかけている赤いチューリップの形をしていて、持ち手の柄の部分は純白、少しふくらみのある中央上部には翅を開く黄金の蝶の中に白いサークルが存在していた。フェリーチェはそれを右手に持つと、左手をそっと添えるような形に構えた。
「フラワーエコーワンド!」
リンクルスマホンのエメラルドから放たれた光がエコーワンドの金色の蝶に撃ち込まれると、輝きを伴って生を得たかのよう一つはばたき、翅が広がると蝶の中にあるサークルにエメラルドが顕現した。
「エメラルド!」
フェリーチェはエメラルドの宿ったワンドを両手で優しく包み込むと、
「キュアーアップ!」
ワンドの花から生命の魔力が放たれ、その広がりとともに世界が光を放ち始める。フェリーチェがワンドを下から少しずつ上げる都度に生命の力が広がり渡る。それを受けた光の地に眠りし無数の種が次々と芽吹いて幼き双葉を広げていく。さらに生命の魔力の波が広がり、双葉が急成長して一本一本に無数の花が咲き誇り、光の大地に花の海が広がった。
無限とも思える色鮮やかな海より、全ての花々から放たれた生命の輝きが天空で一つに集まり、ワンドの赤い花に向かって無限の生命の流れが生まれる。無限の花々の生命がワンドの蕾の花に無限の魔法の力を与えた。
ワンドの赤い花が大きく開き、中の蕾の形をしたクリスタルが現れる。フェリーチェは無限の生命の輝きを放つワンドのクリスタルで桃色の線を描いていくと、リングを二つ合わせた形の無限を表す文字になった。さらに無限を表す文字が二つにわかれて、フェリーチェの左右で桃色の光のリングとなり、光りが取り払われていくと、鮮やかな緑の蔦で編み込まれた無数の花を付ける二つのリングに生まれ変わる。
「プリキュア、エメラルドリンカネーション!」
フェリーチェがワンドを前に出すと、赤き大輪の花より桃色に輝く生命の閃光が放たれ、一緒に無数の花びらが舞い上がる。それに合わせて左右の花のリングが高速に回転し、命の閃光を間に挟んでヨクバールに向かって駆けていく。花のリングはやがて生命の輝きを受けて緑光を放った。
花びらを伴って桃色の閃光がヨクバールを包み込む。そして二つのリングがヨクバールの周囲で車輪のように転がり舞うと、下から伸びてきた双葉が開き、成長してヨクバールの周囲を這うように何本もの蔓が伸びてきて、小さな蕾から寸秒に大きくなって成長した赤い花の蕾がヨクバールの姿を隠す。そして蕾の中に優しい光が灯り、花が開くと命の輝きが現れて、その輝きを囲むように二つのリングが重なった。そして満開の花の上で緑光のリングが左右に転がると、ヨクバールはどす黒い闇の塊と漆黒の結晶体に分離されて消え去った。