魔法つかいプリキュア!♦闇の輝石の物語♦   作:四季条

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第30話 ラストバトル!! 暗黒魔道竜ヨルムガンド!!
闇の魔法の結界


「わたしはみんなで一緒にご飯が食べたかったの、まだ時間があったから」

 

 ことはが振り返ってみんなを見つめる。背後に広がる暗雲と薄闇が降りている魔法界の景色を背景に、ことはの存在が煌めくように新鮮だった。

 

「ご飯を一緒に食べたら、みんな仲良しになれるし」

 

 ことはが満面の笑顔で言うと、他の子にも笑みが浮かんできた。

 

「みらいとリコとモフルンは、わたしのことを何も言わなくても分かってくれる。でも、小百合とラナとリリンとは、あんまりお話ししてないし、お互いに知らないことが多かったから」

 

「はーちゃんは友達だよ~」

 

「そうデビ。リリンは、はーちゃんを他人だなんて思えないデビ。すごーく親近感があるデビ」

 

 ラナとリリンの言葉で、ことはの笑顔の中にある瞳の輝きが強くなった。そんなことはに、微笑をうかべていた小百合が言った。

 

「あなたは不思議な子ね。ほとんど話したこともないのに、ずっと昔から知っている友達のように思える。そう、ラナに出会った時と同じ感覚だわ。わたしは、ことはと友達になりたい。心からそう思うわ」

 

「は~~~っ!」

 

 両腕をいっぱいに広げたことはが、小百合とラナとリリンを抱き込んだ。

 

「小百合もララもリリンもだ~い好き!」

 

 それからことはは、リコたちにも飛びついた。

 

「みらいもリコもモフルンもだ~い好き!」

 

 リコが心より嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「はーちゃん」

「モフルンもはーちゃん大好きモフ~」

「これでみんな友達だね!」

 

 みらいの元気な声で、少女たちの笑顔がより一層輝いた。

 

「戻ってきたら、またみんなでご飯食べたいな~」

 

 ことはがしみじみと言うと、小百合がウィンクして指を弾き、胸がすくような音を鳴らした。

 

「それだったら、食堂のコックにお願いしましょう。あの人は弱みがあるから、きっとごちそうを作ってくれるからね」

 

「は~! みんなでごちそう! ワクワクもんだし~」

 

 もうすぐ最後の戦いがあるというのに、ことはのおかげでみんなの気持ちが解れて和やかな雰囲気になった。そこにみんなの笑顔があって、全員の心がつながったという確かな感覚があった。

 

 ことはが振り返り、再び暗黒の空を見上げる。その瞬間には、みんな真剣な表情になった。

 

「くるよ」

 

 重々しい空気の唸り、ジェット機の音を重低音にしたような音が、少女たちを越えて魔法界の中心となっている魔法学校と大樹をも震えさせる。音だけにもかかわらず、地震と錯覚するような凄まじい轟音だった。

 

「あれは!?」

 

 小百合が叫ぶ。少女たちの見ている方向に途方もなく巨大なものが暗雲を突き抜けてくる。最初は逆さになっている山のように見えたが、すぐに全てが明らかになる。それを見た小百合とラナは特に衝撃を受けた。

 

「あれって最後の試練を受けた神殿!?」

 

 みらいが声をあげると、小百合は怒ればいいのか悲しめばいいのか分からない複雑な気持ちになった。

 

 かつて花々に満ち溢れていた巨大な浮遊島がゆっくりと落ちてゆく。白亜だった神殿から花の海まですべてが黒く染まり、花は一つ残らず枯れてしまっていた。

 

 切立った岩山のようになっている浮遊島の下部の先端から広大な魔法界の海へと徐々に沈んでいく。そして巨大な島の沈殿と共に、周囲に高波が広がって広大無辺の波紋となって広がっていく。そして島は完全に魔法界の海の一部となった。

 

 かつて光の女神フレイアを奉っていた神殿から闇が盛り上がった。それは内側から神殿を破壊して巨大化していく。瞬間、そこから周囲に闇が広がった。

 

 半球形の闇の壁が急速に広がり魔法界を覆っていく。それは少女たちにも迫っていた。その時、魔法界の礎となっている大樹の頂きに光が生まれて広がった。球になった光が大樹から魔法学校まで包み込み、さらに広がっていく。そして、巨大な光と闇が衝突し、お互いに広がる動きに歯止めがかかる。

 

「止まったわ……」

 

 闇の壁を目前に見てリコがほっとしていた。

 

「何が起こっているの?」

 

 後ろから小百合の声が聞こえて、ことはが言った。

 

「この世界に広がろうとしている闇を魔法界が嫌がって止めたの。長くはもたない。あの光が闇に壊されたら、もう誰にも止めることはできない。魔法界は闇に覆われて、やがてはナシマホウ界まで広がってしまう。そうなる前にわたしたちで止めなきゃ」

 

 少女たちは、ことはの呼びかけに頷く。そして魔法界とナシマホウ界の命運を背負った少女たちが魔法の箒に乗って校門から飛び立った。

 

「みんな、気合入れていくわよ!」

「えい、えい、お~!」

 

 小百合に答えて、ラナがのりのりで鬨の声を上げて拳を突き上げると、他の少女たちも手と声を上げた。少女たちの間にはこれから戦地に赴く者のような暗さはなく、みんな希望と勇気を胸に花の海の島を囲む闇の結界へと向かっていった。

 

 

 

 闇の壁が近づいてくると、少女たちの間に躊躇う気持ちが生まれてくる。しかし、ことはがどんどん先にいって、さらに闇の壁が迫ってきていた。

 

 リコが我慢できなくなって、ことはの後ろから声をかけた。

 

「ちょ、ちょっと、このままいって大丈夫なの!?」

「大丈夫! 心配しないでついてきて!」

 

 ことはがそう言うならと、みんな迷いを捨てて後についてゆく。すると、闇の壁をあっさりと通り抜けることができた。結界の中は黒い雲に覆われた魔法界よりもさらに暗かった。

 

 少女たちは黒い結界を通り抜けた後に空中で止まり、小百合は方向転換して向こう側が透けて見える暗い色の壁を見つめる。

 

「この結界は何のためにあるのかしらね?」

「見掛け倒しとはこのことね」

 

 リコが言うと小百合が闇の壁にむかってバカにするように笑う。

 

「この結界は大きな力にしか反応しないの」

「大きな力?」

 

 みらいが首を傾げると、彼女の巾着バッグから宝石が浮き出てくる。それはダイヤと似た輝きをもつ三つ子石のリンクルストーンだった。

 

「なにそれ~? リンクルストーン?」

 

 ラナが気づいて言うと、それがみらいの目の前まで浮いてくる。

 

「え? アレキサンドライト!?」

「モフーッ!」

 

 みらいの懐にいたモフルンがいきなり出てきたリンクルストーンに飛びつくが、リンクルストーンアレキサンドライトはぬいぐるみの手の中から飛び出し、闇の結界の外に弾き出されてしまった。

 

「ど、どういうことなの!!?」

 

 リコがひどく狼狽し、小百合が怪訝な顔になる。計算高いリコはアレキサンドライトの消失の痛手が誰よりも分かっていた。

 

「あのリンクルストーンは何だったの? 今までに見たことがなかったけれど」

 

「……あれは、わたしとリコとはーちゃんの三人で、すごい魔法が使えるリンクルストーンだったんだけど……」

 

 みらいもショックを受けて少し呆け気味になっていた。

 

「これが、ロキがデウスマストを倒すために生み出した闇の魔法の結界だよ。大きな力を持っているものは、この中には入れないの。もし無理やり中に入ろうとすれば、すごいダメージを受けて力の大半を失ってしまう」

 

「だから、ことはのマザーラパーパとしての力が使えないのね」

 

 ことはは、小百合に頷いて言った。

 

「ロキは自分よりも弱い人だけしかこの中にはいれないんだ」

 

「なるほどね。最低最悪の小汚い手だけれど、あの男らしいわね」

 

 小百合はロキのことを思うと胸がむかついた。そして、まだぼーっとしているリコとみらいの背中を強くたたいた。

 

「ほら! いつまでも呆けてんじゃないの!」

 

『ひぎっ!?』不意に衝撃を受けた、みらいとリコから変な声がもれる。

 

「そんなにショックを受けてるってことは、最初からアレキサンドライトを当てにして三人で片を付けるつもりだったのね」

 

 小百合はリコの鼻先に人差し指を突き付ける。

 

「プリキュアが5人いれば楽勝だって言ったのは、リコ! あんたでしょう! わたしとラナをのけ者にするつもりだったのね!」

 

「そ、そういうわけじゃないし! 攻め手は一つでも多い方がいいでしょう!」

 

「まあ、それは認めるけれども、アレキサンドライトはもうないんだから、5人で片を付ける計算をしなさいね」

 

「わ、わかってるわよ……」

 

 リコが煙たそうな顔をして小百合から目をそむける。小百合に喝を入れられて、リコはいつもの感じに戻っていた。

 

「大丈夫だよ。わたしたちにはアレキサンドライトにも負けないすごい魔法がある。フレイアが残していってくれた希望の魔法だよ」

 

 それを聞いたみんなが、ことはを見つめる。

 

「希望の魔法、それは合成魔法のことね。でも、この中じゃ大きな力は使えないんでしょう?」

 

 そう言う小百合に、ことはが満面の笑みで答えた。

 

「それはね、すぐに分かるよ。フレイアがどんなに聡明で素敵な人か、すぐに分かる。そして、ロキは思い知ることになるんだから」 

 

 後半の言葉と共に、ことはの表情が変わって、かつて神殿のあった場所を見つめていた。

 

「みんな行こう!」

 

 ことはが先行し、後にみんなが続いた。少女たちは箒に乗って枯れ果てた大地へと向かっていった。

 

 

 

 そこに足を着くと、少女たちの足元で生命を失った花々が砕けて乾いた音をたてた。

 

「ひどい……」

 

 有様を見たことはは、その場で泣きたいくらい悲しくなった。その悲しみを邪悪に対する正義の心にかえて、少女の瞳が怒りに燃えて強く輝く。もう一人、ことは以上に怒っている小百合が言った。

 

「これ全部あいつがやったの?」

 

「ロキが宿ったヨルムガンドの闇の魔力のせいだよ」

 

「同じことね。見つけたらただじゃおかない! こうよっ!」

 

 小百合が雑巾を絞る手真似をすると、その迫力に圧されてラナが一歩離れ、みらいとリコは苦笑いを浮かべていた。

 

 少女たちが枯れた花園を歩いていくと、薄暗いさみしい世界に、枯れ花を踏みしだくむなしい音だけが続いた。

 

 ことはが何かを感じたのか、立ち止まって神殿のあった場所を見上げた。他の少女たちも同じように顔を上げると、この薄暗さの中でも神殿のあった場所に黒い塊があって動いているのが見えた。

 

 神殿を食い尽くした塊になって動いている闇が広がっていく。それがすぐに少女たちの視界に入りきらない程の巨大な翼の形に開いた。二枚の闇の翼の中心にある黒い塊も急激に巨大化しながら変形していく。大樹の幹の如き太さの強靭な二本の足、後ろに伸びていく闇色の尻尾は魔法界に浮かぶ島の一つや二つ一撃で破壊しかねない程に長大だ。上半身に生えてきた両手は心臓でも握りつぶすように爪の付いた五本の指が手の平の内側に向いていた。そして、三俣に分かれた首が伸びてゆく。三つの竜の首は神殿のあった場所から、花の海の領域と神殿の領域を隔てる湖を優に超えた。その途方もない大きさの竜の全身から黒い炎が燃え上がり、尻尾の上部から背中の中央、三本の首の上部までさらに激しく炎が萌え上がり、黒い焔が長いとさかのように立ち上がった。

 

 かつて光り輝く神殿のあった場所が、途方もなく巨大な黒龍の自重に耐えきれずに崩壊していく。二つの中庭から神殿に続く階段も、それを囲う断崖もたちまち崩落した。崩壊が止まり闇の竜ヨルムガンドが一歩前に踏み出すと、かつてフレイアの為に築かれた巨大な神殿の遺跡の数々が、まるで壊れやすい玩具のように踏み砕かれた。そして三つの竜の頭がかっと目を開き、闇の中にある六つの真紅の瞳が5人の少女たちを睨みつけた。

 

 あまりにも異様、あまりにも巨大、あまりにも邪悪、そんな狂竜を前にしても少女たちは恐れはしなかった。ぬいぐるみたちも少女たちと同じ気持ちで言った。

 

「これが最後の戦いデビ!」

「みんな! 変身モフ!」

 

『うん!』全員の心と声が一つになった。

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