みらいの左手とリコの右手がつながり、そこに小さなハートと星を添えたとんがり帽子の輝きが現れる。小百合の左手とラナの右手が結ばれ、そこへ赤い三日月に重なる黒いとんがり帽子が刻まれる。二組の少女たちがつないだ手を後ろに引くと、その身が光のローブに包まれていく。
同時に宙に浮かんだエメラルドが輝くと、ことはは金色のローブでその身をおおった。
みらいとリコ、小百合とラナがつないでいない手を高く上げ、ことはは右手にした小さな魔法の杖を頭上に天を仰ぎ、5人で魔法の呪文を唱えた。
『キュアップ・ラパパ!』
みらいとリコのダイヤのペンダントから銀の輝きが上へと放たれ、小百合とラナのブレスレットのブルーダイヤからは青銀の光が天上に撃たれる。そして四人の声が合一して輝石の魔法の力が解放される。
『ダイヤ!』
みらいとリコのペンダントから放たれた曲線を描く二条の光が二つのダイヤに変わり、モフルンの胸の上にあるピンクのリボンブローチの上で重なって一つになった。
小百合とラナのブレスレットから放たれた二条の光は、螺旋に走ってリリンの胸の上にある青いリボンブローチに撃ち込まれ、青い光が弾けて青銀の光を放つダイヤになる。
輝きのローブ姿のみらいとリコがモフルンと手をつないで輪になって回る。
『ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!』
モフルンのお腹に銀色に輝くハートが現れる。
光のローブ姿の小百合とラナがリリンと手と手と取って円になって回転する。
『セイント・マジカル・ジュエリーレ!』
リリンのお腹には青銀色に輝くハートが現れた。
そして、ことはのリンクルスマホンの表紙が開いてサークルにエメラルドがセットされると、その下のスクリーンに魔法界の文字でFが書かれる。Fの後ろに文字が浮かんでつながると、
「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」
ことはが、タッチペンのように先鋭な杖で大きく円を描くと、同じ軌道に若葉色の輝きの線が引かれて円陣になる。彼女がその中心を魔法の杖で指すと、無数の光が弾け飛んで円陣の中に模様が現れ、生命の輝きを宿す若葉色の輝きの魔法陣になった。その魔法陣が少し斜めに傾くと、中心から何本もの蔦のような青い光が萌え立ち、双葉が開いてさらに成長し、蔦がことはの姿を覆い隠していく。
蔦はさらに成長して桃色の大きな花の蕾を付ける。閉じていた蕾がゆっくりと開いていくと、その中からプリキュアとなった、ことはの姿が現れる。
結界の中に広がる闇を払い、銀色の輝きの五つのハートを宿す五芒星魔法陣と、青銀色の中央に三日月と周囲に六つの星を宿す六芒星魔法陣が現れ、その上に二人ずつのプリキュアが召喚される。四人のプリキュアは魔法陣の上から跳躍し、それぞれのパートナーと寄りそって着地した。
「二人の奇跡! キュアミラクル!」
「二人の魔法、キュアマジカル!」
「光さす慈愛の聖女、キュアプリーステス!」
「メラメラの黄昏の魔法! キュアルーン!」
「あまねく命に祝福を」
大輪の花の上に座るフェリーチェが右手の輝きに息を吹きかけると、それは旋風に巻かれた花びらのように宙を舞って、天空で美しく散って桃色に輝く花吹雪を降らせた。
「キュアフェリーチェ!」
二組のプリキュアは、つないだ手を後ろに寄りそい合う。
ミラクルとマジカルは二人で親指と人差し指を合わせて描いたハート熱い気持ちを込めて、後ろでつないだ手を前に重ねる。
プリーステスとルーンが体を触れ合わせながら、前で柔らかく手を合わせ指を絡めて、清純なる少女の色香を醸し、後ろにつないだ手を前に重ねる。
フェリーチェは大輪の花の上から飛翔して、二組のプリキュアの間に蝶のように優雅に舞い降りて、光の園に淑やかに座り、5人の乙女の声が闇の世界に清らかに響き渡った。
『魔法つかい! プリキュア!』
エメラルド、ダイヤ、ブルーダイヤ、生命と光を司るプリキュアたちは薄闇の中で鮮烈なる彩と存在感を示した。
フェリーチェを真ん中に横に並んだ5人のプリキュアが、三つの頭をもたげる暗黒竜に粛然とした姿で歩いて近づいていく。
真ん中にある竜の赤い目が笑っているように細くなり、その頭の上に黒いものが蠢いて上半身だけの人の形になった。全身が黒い炎に包まれているが、その姿は紛れもなく闇の王ロキだった。その顔に当たる部分に開かれた目は、暗黒竜と同じく真紅一色だった。
真ん中の巨竜の首が下がって、立ち止まったプリキュアたちをロキと竜の四つの赤い瞳がにらみつける。その竜の頭だけでもプリキュアたちが小人に見えるような大きさだった。
「きたか、プリキュア共! 長かった! 四千年だ! 宵の魔法つかいに邪魔され、俺様は世界の支配を四千年も待つ羽目になったのだ! 今ここに、全てのプリキュアを! マザーラパーパの意志を継ぐ者を! 全てを消し去り、俺様の闇の魔法が世界を覆う!」
「そんなこと絶対にさせないわ! この魔法界を、私の故郷を、あなたになんて汚させはしない!」
マジカルが乙女の胸に清き怒りを燃やして叫ぶ。
「魔法界にも、ナシマホウ界にも、大切な友達や家族がいるの。それを壊させはしない、絶対に守ってみせる!」
ミラクルが友を思い家族を思う愛情を闇に対する怒りに変えて叫ぶ。
「世界の支配だの何だのと、あんたのその言葉は聞き飽きたわ。わたしはただ、あんたが許せない! フレイア様の友達を奪い、傷つけて、最後の最後までを苦しめ続けた! だからフレイア様の仇を討つ!」
プリーステスがフレイアへの愛慕をロキに対する純粋な怒りに変えて叫ぶ。
「フレイア様、可愛そうだよ。わたしはフレイア様の為に何かしてあげたい! フレイア様が喜んでくれることをしたい! だから戦う!」
ルーンはフレイアの優し気な顔を思い出し、心のままに涙を浮かべて叫ぶ。
「闇の王ロキ、あなたを倒します。そして、魔法界の古より続いてきた悲劇の連鎖を断ち切り、わたくしがフレイアの思いを遂げます!」
フレイアと常に寄りそい、その心を誰よりも知っているフェリーチェが、フレイアの思いを胸に叫んだ。
ロキの暗黒そのものの顔面に、三日月の形にさらに深い闇が現れた。闇の王は異様極まる笑みを浮かべると叫んだ。
「いざ! 戦いの舞台へ!」
ヨルムガンドの巨体から邪悪な魔法の衝撃が広がり、吹き荒れる風がプリキュアたちのドレスをはためかせ、枯れた花々を飛散させ、同時に結界の闇が少し晴れて一段明るくなった。プリキュアたちに竜の頭に寄生するロキが言った。
「戦いやすくしてやったぜ。暗くちゃあ、お前らの苦しみもがく様がよく見えねぇからなぁ!」
ヨルムガンドの三つの頭が上に持ち上げられ、遠大なる漆黒の翼が大きく広がる。その羽ばたきによって生まれる風が、島全体に広がり、その風圧から身を守るようにプリキュアたちは片腕を盾にして神殿の領域から浮き上がる強大な闇の竜を見上げる。世界を覆うように巨大な竜の影に沈んだ五人の乙女たちは、危険を察知して左右と後ろに散った。乙女たちが消え去った後のその場所を闇のように深く黒い竜の両足が踏みつける。そこから地面がめくれ上がって広がり、外に向かって逃げるプリキュアたちに石や土塊が弾幕となってぶつかってきた。視界を遮られたミラクルとマジカル、プリーステスとルーンのペアに、横から黒く巨大なものが襲ってくる。それは地面を広く抉りながら4人のプリキュアたちを吹き飛ばした。
ミラクルとマジカル、プリーステスとルーンのペアは、それぞれ逆方向に島の外に向かって宙に高く舞い上がり、悲鳴と一緒に地面に衝突し、その後も相当な勢いで枯れ花の園を穿って進み、4人とも海に突っ込んで高い水しぶきが上がった。プリキュアたちを襲ったものは、ヨルムガンドの外側にある二本の首だった。ロキが下卑た笑い声をあげてから得意げに言った。
「おっとすまねぇ。俺様が制御できるのは真ん中の首一本だけなんだぜ。それ以外の部分は、ひたすら破壊衝動のままに動く。目に見えるものは全て破壊する! プリキュアだろうが何だろうがなぁ!」
最後の真ん中の首がまっすぐ後ろに逃げたフェリーチェに覆いかぶさった。
「消えろ! キュアフェリーチェ!」
フェリーチェに迫る影が濃くなり、竜の巨大な顎が地面に落とされる。
「もう終わりかよ、あっけねぇ」
ロキが口角を上げてにやりとすると、彼の背後に乙女が舞い降りる。
「なにっ!?」気配を感じて振り向いたロキは背筋が寒くなった。
「はああぁっ!」
「やべぇっ!?」
焦ったロキがヨルムガンドの中に溶け込むように消えて、その後に唸りを上げるフェリーチェの回し蹴りが通り過ぎた。フェリーチェはそこからヨルムガンドの長い首を伝って走り、途中で地上に降りて巨竜の懐に入った。フェリーチェの背中に妖精の翅が現れ飛翔する。
「たぁっ!」フェリーチェは黒い巨体の中心に拳を打ち込み、そのまま連打した。
「だあああぁっ!」
闇を払う生命の魔力が黒竜の巨体に衝撃を与える。攻撃のスケールから考えるとフェリーチェのパンチなど蟻の一穴に等しいが、竜の頭が苦しそうに呻き怯んでいた。鋭い爪の付いた竜の手が襲撃者を捕まえようと動き出す。フェリーチェは一旦離れて、迫りくる巨大な二つの手を巧みに避けていた。その時、巨竜の胸の辺りが盛り上がってロキの上半身が出てくる。
「無駄だ!」
ロキの予想外の場所からの攻撃にフェリーチェは対応しきれず、ロキが手から放った黒い火の玉の直撃を受けた。黒い炎が燃え上ってフェリーチェの動きが止まってしまう。その隙に迫ってきた竜の強靭な手のひらがフェリーチェを打ち飛ばした。
「キャアァーーーッ!?」
吹き飛んで大きく後退したフェリーチェが枯れた大地に打ち沈み、命を失った野の花や草が吹き上がった。
心臓を凍らせるような竜の咆哮が迫り、倒れていたフェリーチェが目を開けると、ヨルムガンドの左右の頭が巨大な顎を開いてその奥に存在する虚空の闇を見せつけていた。それが花の乙女を食しようと迫ってくる。さすがの彼女も恐怖心が芽生えた。
『たあぁーっ!!』
上空高くからきたミラクルとマジカルの踵落としが右の頭の脳天に炸裂して地面に叩き落す。
『でやぁーっ!!』
横から跳躍してきたプリーステスとルーンの跳び蹴りが左の竜頭の横っ面に入り、外側へと弾き飛ばす。4人のプリキュアがフェリーチェの左右に着地して綺麗に並んだ。
「みなさん!」フェリーチェの顔に希望と信頼が笑顔となって咲いた。
「チッ、もう戻ってきやがったか。もう少しでフェリーチェを血祭りにあげられたのによ!」
ロキの上半身が再び真ん中のヨルムガンドの頭の上に現れていた。その顔の中にあるブラックホールのように深い闇色の口が歪んだ。
「だがよ、お前たちに勝ち目はないぜぇ!」
「わたしたちは負けない!」
ミラクルが声を張り上げると、遠くで枯草の陰に隠れていたモフルンとリリンが姿を現す。
「そうモフ! プリキュアは負けないモフ!」
「お前なんか、ちょちょいのちょいの、くるくるぽんデビ!」
「ああん!?」ロキが睨みを効かせると、ぬいぐるみたちは思わず抱き合って震えた。
「負けないだと? ヨルムガンドと一体になった今の俺様に?」
ロキが爆笑する声がプリキュアたちの耳に嫌な余韻を残す。
「そこまで行くとバカを通り越して、奇跡的な楽観主義者だぜ。この俺様に勝つ気でいるなんてよぉ、めでてぇ奴らだ! 勝てるって言うんなら、ならかかってこいよ!」
一斉に起こったプリキュアたちの気合が空気を伝ってロキに届き、闇の王は体が痺れるような感覚を受ける。そして彼の顔から嫌らしい笑みが消えた。
三つの竜の頭をプリキュアたちが同時に攻撃する。ミラクルとマジカルが右の頭の眉間に同時に拳を打ち込み、プリーステスとルーンが左の頭の首の付け根に同時の蹴りで強襲する。フェリーチェは中央の頭の顎を下から蹴り上げた。それからプリキュアたちは猛烈に攻撃を仕掛けていく。プリキュアたちの凄まじい気合で少しビビッていたロキが、また嫌らしく笑った。
「すげぇ、すげぇぜこのパワーっ! プリキュア共の攻撃になどびくともしねぇ!」
空中にいるミラクルとマジカルに空気を引き裂く轟音と共に巨竜の頭が迫る。マジカルがリンクルステッキを手に呪文を唱えた。
「リンクル・ムーンストーン!」
二人の前に白い光が円形に広がって守りの盾となる。巨大な竜の頭のぶちかましが、それを薄氷のように粉々に砕き、ミラクルとマジカルは凄まじい衝撃を受けて上に吹き飛んだ。
『うああぁっ!?』
ゆっくりと落ちてきた二人に竜の巨大な頭が覆いかぶさる、そしてミラクルとマジカルは今度は上から顎の下の部分を叩きつけられ、その状態で地面に落とされて竜の巨大な頭と地面の痛烈な板挟みにあった。
「ミラクル、マジカル!!?」
フェリーチェの悲鳴のような声があがる。中央の頭が口を開けて獲物を呑み込もうと襲ってきて、フェリーチェはそれを素早く横に動いて避けた。ミラクルとマジカルを助けに行く隙など与えてはもらえなかった。
左側の頭と戦っていたプリーステスとルーンは、顎をいっぱいに開いた口の中の虚空を見ていた。
「まずいわ!」
プリーステスが素早く反応して右手を横に叫ぶ。
「リンクル・ブラックオパール!」
プリーステスが右の手のひらを上にかざし、そこに闇色の魔法の円盾が広がる。その時に黒龍の洞穴のように開いた口から黒い炎が吐き出された。ブラックオパールの守りの魔法は、ほんの一瞬だけ炎を止めただけで崩れ去り、二人の乙女が暗黒の業火に焼かれ悲鳴をあげて倒れる。
「プリーステス、ルーン!!?」
フェリーチェが悲痛な叫びをあげて隙をみせると、ロキは笑みを大きくして中央のヨルムガンドの頭が地面に突っ込んだ。そしてフェリーチェは、下から地面ごとヨルムガンドの頭に突き上げられて宙に投げ出される。
「なっ!?」
すぐさまフェリーチェは背後に妖精の翅を出してバランスを取るが、上から巨大な何かが迫ってくる。
「フラワーエコーワンド! リンクル・ピンクトルマリン!」
ワンドのサークルに桃色の輝きのトルマリンがセットされ、ワンドの先端から光り輝く桃色の花が開いて闇を阻む障壁となる。しかし、迫りしものがあまりにも強大強烈で、それを防ぐことは不可能だった。花の守りはあっさりと砕け散り、黒く長大な尾の鞭の一撃でフェリーチェは地面に撃ち込まれ、乙女のたおやかな体が地面を穿って巨大なクレーターになった。
「あ……ぐ……」
フェリーチェだけではなく、他のプリキュアたちも大きなダメージを受けて苦し気な声がもれる。
ミラクルとマジカルは蜘蛛の巣状に広がった亀裂の中に倒れ、プリーステスとルーンは体から煙を上げて倒れていた。
ロキは倒れているプリキュアたちを見下ろしていると、愉快でたまらない気持ちになった。
「すげぇ! すげぇぞ! プリキュアがゴミのようじゃねぇか! リンクルストーンの魔法など、今の俺様にとっちゃあ、ないも同じのクズ魔法だぜ! ギャハハハハハハッ!!」
ロキの痛快な笑い声が闇に囲われる寂れた島の隅々にまで広がった。